古魔族、放漫のトラオムの羽ばたき   作:リッチ

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魔法をコピーする魔法

 

 

 

 吾輩は魔族である。名は放漫のトラオム。

 

 この世界だと苗字持ちは貴族の証。いや、前世でも元はそうだったんだろうけど。

 

 なので俺もただのトラオムであり、『放漫』の二つ名が苗字みたいなものかな。

 

 まあ、有名な奴は二つ名なんて複数持ってるのが当たり前なところあるけど。

 

 俺も昔は別の二つ名を幾つか持ってたよ。

 

 

『腰抜け』、『無貌』、『武器係』、『古寂びた魔』……まあそんなところかな。

 

 

 やっぱ魔族ってクソっすね。

 

 昔は弱かったから仕方ないんだけどさ。

 

 何というか、魔力があっても俺は特別に舐められてたような気がする。アルちゃんくらいかな、俺のこと尊敬の眼差しで見てくれてたの。

 

 

 

 でも、身内の魔人では密かに俺のトラオムという名を苗字みたいに扱ってる文化がある。

 

 恥ずかしいから人前で名乗るのは止めるよう厳命してる。身を隠してる意味がなくなるし。

 

 

 

 ああ、最近は嬉しいことがあったよ。

 

 ようやくゼーリエちゃんと長期的に魔法開発ができるようになったんだよ。平和的なものに限るけど。

 

 ……俺の努力が実を結んだ訳では無いですね。単にゼーリエちゃんが二重の意味で戦える状態でなくなったからです。

 

 流石に腹膨らませた状態で戦おうとするほど戦闘狂ではなくて良かった。

 

 ギリギリまで別のバトルは挑んできたけど、全勝記録更新中です。……何か毎回、自信と意気込みが凄い割には勝つ気を感じないんだけど。

 

 

 本日はそんなゼーリエちゃんとお家で魔法談義しながら過ごしている。

 

 季節は冬なので、魔法のコタツを作って半纏を着てぬくぬくしているよ。

 

 魔法の力なら部屋の温度と湿度を一瞬にして調整することも可能だが、それは流石に趣が無いじゃん。

 

 冬は寒さを楽しむものだと思う。

 

 

 ゼーリエちゃんは俺が魔法でカットした動くリンゴの兎たちを魔法で捕まえて捕食しながら話しかけて来る。

 

 ハリポタで見た動くチョコカエルとか正気を疑ったけど、実際に魔法を使えるとやりたくなっちゃう。

 

 

「……やはり、お前の魔法の一部は私でも使えないようだな。魔族という種族の魔法への適性は少しばかり羨ましいものがある」

 

「いや、エルフがそんなこと言ってたら人間の魔法使いに怒られるぞ? それに、魔族でこの適性を存分に活かせている奴なんて一握りだし、宝の持ち腐れだよ」

 

「だが、いわゆる『呪い』が魔法の極みに近い技術であることは事実だ。……証拠に、昔はともかく今はもう全力を出して奇襲をかけたとしても、お前を仕留めることは難しいだろう」

 

「定期的に怖いこと言うのやめよう?」

 

 

 ゼーリエちゃんは度々に俺に釘を刺しにくる。そんな保険まで抱えたのにまだ不安なんですか。

 

 どんだけ信用無いんだよ、俺。

 

 ……まあ、俺がゼーリエちゃんでも完全には信用しないと思うが。

 

 

 それはそうと、絶対に『呪い』が魔族の専売特許であるということはない。

 

 

「眠りの魔法とかなら俺が君にコピーして渡せば使うことは可能だと思うがな。まあ、どうしても魔族や魔人が使うよりも劣化してしまうだろうが」

 

「待て、魔法のコピーだと? サラッととんでもないことを言うな。譲渡なら私もできるが」

 

「ああ。流石だね、ゼーリエちゃん。まあ、俺のコピーは魔力コストがとんでもないんだよ。俺や君の基準でも相当重い」

 

「代償はそれだけか?」

 

「うん」

 

「なんでお前みたいなのが一番魔法の極みに近いんだろうな……」

 

「酷くない?」

 

 

 凄いジト目で言葉のナイフ刺してくるじゃん。

 

 逆の立場なら俺も羨ましかっただろうけどさあ。

 

 

 とりあえず、ご機嫌を取るために料理でもお出ししよう。もちろん魔法で作る。

 

 今日は炊き込みご飯にしよう。前にアルちゃんと釣りに行った時に逆にアルちゃんを釣って海に引きずり込んだ魚が残っている。

 

 もちろん鮮度は魔法で完璧に保ってある。

 

 ……このドチャクソデカい魚、マジで美味いんだよ。

 

 麻薬的な成分がないか思わず確かめた程度には美味い。デカいから身も多いし、ファンタジーグルメ万歳だ。

 

 ……ちょっ、料理中に頭を押し付けてくるのやめて。危ないから。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 勇者ヒンメルの死より29年後。

 

 三年に一度の一級魔法使い試験は終わりを迎えた。

 

 二次試験では死人こそ出なかったものの、トラウマを負った受験者が複数でる惨事が引き起こされたが、突破できた者には例外なく一級魔法使いの資格が与えられることになる。

 

 

 

 まあ、色々とあった。

 

 

 多様な簡易ゴーレムを無限に吐き出す魔法炉をカンネとラヴィーネがコンビネーションで丸ごと凍らせて封印したり。

 

 坂道を転がって来る魔法爆弾を車輪で挟んだ形の暴走ゴーレム(機関車の顔つき)の群れを北部魔法部隊の隊長ヴィアベルとリヒターの魔法で足止めしつつ、総力戦で接近されないように掃討したり。

 

 魔法のほとんど通じないミスリルゴーレムをデンケンの奥の手でバラバラにしたり。

 

 蜃気楼に混じって近寄って来るアイアンメイデンみたいな侵入者処刑トラップを、エーレとフェルンで協力して破壊したり。

 

 分身の魔法が使えるラントがいなければ突破できない悪辣な罠もあった。あえてアイアンメイデンに捕まらないと進めない場所などだ。

 

 

 幸いにも大魔法使いゼーリエは試験の結果をそのまま認めた。

 

 試験中は特別な魔法の水晶玉で試験をリアルタイムで覗き見していたのだ。

 

 一度行ったことがある場所に限るが、遠方を覗き見ることのできるこの魔道具はゼーリエの秘蔵の品だ。

 

 まあ、欺く方法もあるらしいので本人は過信していなかったが、今回は丁度いいので使った。

 

 試験官のマルシルと共に、ボロボロになっていく受験者を見て冷静に魔法や魔法使いとしての評価をしたり、時には思わず助けに入りそうになりながらも試験を終えた。

 

 なお、万が一に受験者たちが言いつけを破って最下層に突入しようとしたら、懐に忍ばせていた迷宮崩壊の魔道具を起動させるつもりだった模様。起動させられた場合は、迷宮内に脱出を促す放送と『オールヒロユキ』という謎の声が響き渡り、一定時間で爆発していた。救出はするが、その場合はもちろん全員失格だ。

 

 合格者には特に文句は付けなかった。一級魔法使いに相応しくない者は全て不合格だったので。

 

 

 

 宝箱に釣られてミミックLv.99みたいなのに脳味噌を引っこ抜かれそうになって見事に途中リタイアすることになったフリーレンは、合格したフェルンが特権を与えられて出て来るのを仲間たちと待っていた。

 

 

「……これからは宝箱を開けるのは慎重にやることにするよ。まさかあんなに恐ろしいミミックがいるとは思わなかった」

 

「そもそも、ミミックと分かっている物を開けないで欲しい」

 

「フリーレンのそれは治りませんよ。……しかし、フェルンはどんな魔法を貰ってくるでしょうね?」

 

 

 シュタルクは冷静にツッコミを入れるが、ハイターはもう諦めているようだった。

 

 ハイターはフェルンが一級魔法使いになったことに満足しているので、一時的におおらかになっていたということもあるだろう。

 

 というか、試験期間中は同じく仲間が試験にやって来たので待たされていたかつての弟子と再会し、旧交を温めていたので最近はずっと上機嫌だ。

 

 噂をしていると、待ち人であったフェルンが帰って来る。

 

 

「お待たせしました」

 

「お帰り、フェルン。ゼーリエは何か言ってた?」

 

「フリーレン様が試験で晒した醜態について、かなりのお小言を」

 

「……見てたのか。意地の悪い」

 

「いや、ミミックに引っ掛かるのはフォローできないって」

 

「それで、フェルンはどんな魔法を貰ってきたのですか?」

 

 

 ハイターの問いにフェルンは一瞬だけ戸惑い、それからジッとシュタルクの方を見る。

 

 思わずシュタルクはその無言の視線に怯む。

 

 

「な、なんだよ」

 

「……いえ、何でもありません。貰った魔法についてはまだ秘密です。民間魔法なので、その内に披露できると思います」

 

 

 それきりフェルンは話を打ち切った。

 

 フリーレンは少し閃くものがあったが、「まさかね?」と思い直し、そのまま忘れたのだった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「まったく、どうして孫からの合格者がお前だけなんだろうな?」

 

「それはもちろん私が優秀だからですよ。あと、スイは少し惜しかったですね。でも運も実力の内です」

 

「お前が魔物を擦り付けたんだろうが……」

 

 

 大魔法使いゼーリエは全ての合格者への特権の受け渡しを終えた後、一族で今回唯一の合格者であるカーラと話していた。

 

 普段なら力強く叱るところだが、今年の一級魔法使い試験が豊作だった分だけ魔法のコピーに消耗させられていた。

 

 まあ、常時その指にはめている魔法の指輪のおかげで急速に回復中なのだが。

 

 

 

 この時ゼーリエの頭の中にあったのは孫ではなく、少し前に監視員経由で届いた『黄金郷からの手紙』に関係する老魔法使いであった。

 

 ……愛弟子レルネンの強い後押しと手紙を受け取った本人の意志もあって、一級魔法使いになることを条件に、最終的には手紙の提案通りの『一騎打ち』の許可を出したが……正直、分の悪い賭けだと思っている。

 

 だが、ゼーリエから見ても勝ち筋がないわけではない。そうでなければ許可を出さない。

 

 あの世間では最強と言われる呪いといえども、侵食できない物質があるのだ。……より強力な呪いの産物だが。デンケンはそこに勝算を見出しているはず。

 

 

 (……あの聖油が同封されていたから間違いなくあの馬鹿が関わっている。デンケンが勝てばゴーレムとなって呪いを解く約束だが……負けた場合はアイツに責任を取らせて解呪させるか)

 

 

 もちろん勝利して欲しいと願っている。そのために特権だけでなく、別の力添えもしたのだ。

 

 

 (ロマンチストもいい加減にして欲しいものだが。……許可を出した時点で私も毒されているか。そういえば、あの馬鹿とフリーレンは魔法に対する思想では似ているな。……「魔法は自由であるべき」、か)

 

 

 ゼーリエはフリーレンがアレと出会えばどういう反応をするだろうかと想像するが、どうにも思い浮かばない。

 

 

 

 何だかんだで全て記憶している孫の中でも屈指の問題児のはしゃぐ声で、ゼーリエは思考の海から浮かび上がる。

 

 『マジカルエステの魔法』を貰ってご満悦のカーラは「これで楽勝人生が約束された!」とか言ってるので、できる限りキツイ任務を押し付けてやろうとゼーリエは考えていた。

 

 立場とはそれなりの義務と引き換えなのである。

 

 そんな上司の内心を知らないカーラは、調子に乗ったままに尋ねる。

 

 

「そういえば、こんな魔法があるならどうしてもっと配って大陸魔法協会の影響力と所属魔法使いを強くしないんですか?」

 

「……フランメが魔法を普及させたが、昔は魔法というのは限られた才ある者たちの物だった。それに、何の苦労もなく魔法を与えられて満足するような魔法使いは私の目が黒い内は認めん。お前に魔法を与えたのも、相応しい実力を示したからだ」

 

「ふーん、古臭いですねえ。まあ、完全に独占しないだけ開明的と言えるんでしょうか?」

 

「お前は私の全力の魔力を間近で浴びたのに全く態度が変わらんな……。だからこそ認めたということもあるが……アイツもそうだったな」

 

 

 肩を僅かに落とすゼーリエが誰について言及したのか気付いたカーラは、良い機会だからと物怖じせずに尋ねる。

 

 

「ああ、母のことですね。……実際、どうしてあんなになったんですか? 優しくて子供には一見良い母でしたが、流石に私も思うところがありますよ」

 

「……何でだろうなあ。小さい頃はあんなに優秀で可愛かったのに……」

 

「おっ。昔話は聞きたいですね。今度、母に会った時にそれで揶揄いまくってやりますから、教えてください」

 

 

 ──カーラは悪い笑顔でそう言ったが、そのことを直ぐに後悔することになる。

 

 ゼーリエは少しばかりの沈黙の後、堰を切ったように話し始めたからだ。

 

 

「そうだな。昔のアイツは本当に優秀で────」

 

 

 年寄りの話は長いと言われるが、これから始まるのはその中でもとびっきりの長い長い昔話だ。

 

 カーラはぶっ倒れそうになっても魔法で覚醒させられて、解放されるのは明日の朝になる。

 

 

 

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