古魔族、放漫のトラオムの羽ばたき   作:リッチ

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ゴーレムを作る魔法

 

 

 

「流石だよな、俺」

 

「ああ、トラオムは大成するよ。それは間違いない」

 

「次はどんな魔法作る?」

 

 

 吾輩たちは魔族。名は、放漫のトラオム。

 

 今日は800歳の誕生日パーティー。

 

 立派な御屋敷になった隠れ家の長大なテーブルに並ぶのは、色とりどりのフルーツがタップリ使用された誕生ケーキに、8メートルはある強そうな七面鳥っぽい何かを代表する豪華な料理の数々。

 

 誕生日にお決まりの歌を声を合わせて歌う、大勢の出席者。

 

 ああ、ずっとぼっちだった俺の隠れ家も随分と賑やかになったものだ……

 

 

 まあ、クラッカー持って歌ってるのは全員俺の分身なんですけどね。

 

 やはり最後に信じられるのは自分だけだよ。

 

 この前の修羅場でそのことが良くわかった。

 

 ゼーリエちゃんマジ感謝。できれば二度と会いたくないです。

 

 

「ようやくちょっと余裕ができたよな」

 

「ああ、これまでずっと生き残りのためにリソース全振りだったからな」

 

「だよな。そろそろ完全に趣味で魔法を作っても良いのでは?」

 

 

 分身それぞれが思い思いの料理に手を付けながらワイワイ話している。

 

 1人遊びじゃないよ。『並列思考の魔法』で出力した考えを声に出すことでまとめてるんだよ。

 

 

 しかし、ようやく俺の大魔法使い化計画が山場を超えた事は喜ばしい。

 

 まさか800年近く掛かるとか思わんでしょ……

 

 

 超効率的な魔法開発法の完成(多人数化でのチーム研究)。

 

 基礎的な魔力操作技術鍛錬の効率化(影分身修行ってやっぱチートだわ)。

 

 魔族社会で超重要な総魔力量の増加鍛錬の効率化(植物から元気玉みたいに魔力を貰う魔法を代表に、色々と開発した)。

 

 

 誠に素晴らしい。

 

 俺はまだ800歳の魔族でありながら、既に1000歳の魔族を超える魔力量。

 

 実戦闘力に於いても、呪いの域に達した魔法を複数所持している。

 

 魔法の相性によっては多少の魔力差なら勝敗をひっくり返せるのがこの世界の魔法使いの戦い。

 

 札を沢山持っているというのは大きな強みのはずだ。

 

 

「生き残るのは、最も強い者ではなく、最も賢い者でもなく、環境の変化に適応できる者だ」

 

「そうそう、実際俺は努力してきた。分身同士で実戦経験も積んでるし、ダイジョブダッテ!」

 

「まあ、ゼーリエちゃんみたいな規格外に出会ったらガン逃げするしかないんですけどね」

 

「あと、カードゲームみたいに魔法法則そのものに制限改訂が来たらヤバいよな。できるとしたら創世の女神だけだろうけど、ファンタジーだと古代魔法がそういうので廃れたとかいう設定が割とあるし」

 

 

「ごめん、ちょっと不安になって来たから止めてくんない?」

 

 

 なんだよ、どんな時でもポジティブハートが合言葉のはずだろ。

 

 俺の思考のネガティブ率ちょっと高くない? 

 

 全てが順調なはずなのに、物凄い落とし穴を見落としてる気がしてきたじゃない。

 

 

 気持ちを落ち着けるために屋敷の外を眺める。

 

 今の季節は冬だが、イルルの飛んでいる高度的に雪は積もっていない。

 

 というかイルルの背中のスペースくらいなら、刻んだ魔法陣で気温や湿度を弄れる。

 

 屋敷の外の湖畔では、マンタの魔物のティファが優雅に水面を滑っている。

 

 ……リースは死んでしまった。

 

 死因は共食い。魔物の生態についての無知が招いた事故だった。

 

 世話係をやっていた分身の落ち込みようといったら、見てられなかったなあ。

 

 俺のアホな部分が強く出たらしい分身が、「これも一つの百合の形だったのかも」とか訳の分からない慰めをしたせいで大乱闘になった。

 

 いや、隠れ家で『消えない黒炎の魔法』とか使うなや。

 

 関係者は鎮圧後、薩摩のぼっけもんの如くカイシャクしてやった。

 

 そういえば、効率化で木分身のコストも改善したせいで、どうにも扱いが軽くなったな。

 

 

『植物を操る魔法』だが、順調に開発が進んで成果が上がっている。

 

 ……いや、順調すぎてちょっと困ってる。まさか『樹海降誕の魔法』が成功してしまうとは。

 

 人類に有用な植物もたくさん誕生したが、ヤベー植物系モンスターも増えてしまった。

 

 転移魔法で直接体内に木の実を植え付けてくるバケモントレントとかな。

 

 ウィスピーウッズと命名した。銀河レベルの英雄と何度も戦った伝説的な樹の名前だ。

 

 でも木の実はいい素材になるんだよ。美味いし(捕獲レベル100超)。

 

 俺の装備はあの樹海で取れた素材で作った物で、それまでとは比較にならないほど向上したからな。

 

 美味しい物をたくさん作ったのだから、もし宇宙から星野さんが遊びに来ても俺は大丈夫だろう。

 

 だって、マホロアが許されるんだぜ? 俺のカルマ値なら余裕だろ。

 

 

 よし、落ち着いた。さあ、どんな魔法を作ろうかな? 

 

 

「ゴーレム作ろうぜ! ビグザムみたいなやつ!」

 

「えっ、何でビグザム? そこはT260Gだろ」

 

「戦闘ゴーレムはまだいいだろ。いや、ロボのロマンを否定する訳じゃないが」

 

「だよな。もっと文化的で……癒しをくれるような……」

 

「自分以外の話し相手ができるならもう何でもいいよ」

 

「ちくわ大明神」

 

「じゃあ、やっぱり女性型のゴーレムだな」

 

「難易度高そうだ。だが、それがいい」

 

「なんだ、今の」

 

「あのう、銀髪で目隠ししてて、臀部が大きめのアンドロイドっぽいのとかどうですかね」

 

 

 自分のことながら欲望に忠実で清々しい。

 

 ……しかしゴーレムか。

 

 ファンタジーでは定番だよな。イイかもしれない。

 

 

「よし、ゴーレム採用。それじゃあ、分身の三割はゴーレム班な。メテオ班と樹海管理班の入れ替えも行うから、クジ引きだ。みんな集まれー!」

 

 

「「「ヨロコンデー!!!」」」

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 勇者ヒンメルの死から10数年後。

 

 南部諸国のとある「まだ」平和な町にて。

 

 

 

「さあ、二人とも。早く出るよ。巡業団が来るなんて滅多に無いんだから」

 

「そんなに急がなくても大丈夫よ、あなた。……でも、本当に久しぶりね。前にやって来たのは私たちが子供のころだったから」

 

 

 仲睦まじい夫婦と幼い女の子の幸せな家族が、大急ぎで街の広場へと向かって行く。

 

 街の人々は道行くごとに増えて行くようだった。

 

 人々の熱気は年に一度の収穫祭でもこれほどではない。女の子は不思議に思って両親に尋ねる。

 

 

「そんなに凄いの?」

 

 

 女の子の無知故の無垢な問いに、両親は目を大きくした後、微笑み答える。

 

 

「凄いなんてものじゃないさ! 彼女たちは世界中の詩人や劇団の王様、いや、女王様さ!」

 

「宝物の『音楽の箱』、持っているでしょう? あれは巡業団が作っているのよ。そうね、巡業団は何事も無ければ最低3日は滞在するはずだから、貴女の大好きな曲や物語もきっと公演されるわよ」

 

 

 楽しみで仕方ないという両親の声音に引きずられ、女の子も気持ちが高揚してくる。

 

 

「お話もできるかな?」

 

「子供たちには優先して時間を割いてくれるはずさ。僕たちが子供の頃もそうだった。……ああ、見えて来たね。……懐かしい、相変わらずだなあ」

 

「ゴーレムなんだから当然でしょ。でも、不思議よね。本当に人間にしか見えないわ」

 

 

 人が多すぎたため、女の子を父親が肩車してくれる。

 

 女の子の綺麗な紫がかった紺色の髪が、人々の波より一段高くなる。

 

 そうして、女の子は巡業団の歌姫を初めて目撃する。

 

 

 

 巡業団の土くれの歌姫。

 

 最も有名なゴーレムにして、最も愛されたゴーレム。

 

 現存する古代のゴーレムの中で論ずるまでもなく最高のゴーレムであり、古今東西の権力者に魔法使いたちが欲してやまなかった歌姫。

 

 彼女と彼女の音楽に恋をして、巡業団を追いかけて旅をする者だって珍しくない。

 

 巡業団のもたらす幾つかの娯楽の中でも、彼女の音楽こそが最高だと信じる者が最も多い。

 

 貧者であっても分け隔てなく、彼女の音楽は王者の如き幸せな時間をくれるのだから。

 

 

 

 彼女は仲間たちが魔法で拵えてくれたステージに立ち、観客に話しかける。

 

 1000年以上の昔から、同じ様に。

 

 

「皆さん! 本日は私たちの公演に集まって頂き、誠に感謝いたします!」

 

 

 透き通る様な声と共に、彼女の『音楽の魔法』が展開される。

 

 

「魔王が倒され、平和な時代が訪れたとはいえ、まだまだ世の中は辛い事、悲しい事だらけです!」

 

 

 魔法の力で彼女の声は、観客の一人一人にとって最も聞き取り易くなる。

 

 

「それでも、今日という日が楽しい日であるように。明日が良い日であるように。私は祈りを込めて歌います!」

 

 

 魔法は立体的で美しい幻の像を作る。街の広場がまるで天国の一角の様な、花畑と金色の風に包まれた世界に変わる。

 

 

「今日のライブの最初の曲は……皆さんご存知、偉大なる南の勇者が最後の戦いに単身赴く時に、彼の唯一の仲間であったと言う女性が彼に送った歌です」

 

 

 歌姫は全く人間と変わらない、誰もが見惚れるであろう美貌にとびきりの笑顔を浮かべる。

 

 

「それでは聞いてください。曲名は、──どんなときでも、ひとりじゃない──」

 

 

 観客から歓声が上がる中、何故か歌姫は長ネギを高く掲げ、歌い出した。

 

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