古魔族、放漫のトラオムの羽ばたき   作:リッチ

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温泉の魔法

 

 

 

 吾輩は魔族である。名は放漫のトラオムです。

 

 ウチの娘は天才かもしれん。

 

 ……これ、前にも言った気がするな。まあ、アムもとんでもない才女だった。

 

 新しい子は純粋な魔法使いとしての才能はアムには及ばないかもしれない。

 

 

 だが、この子は戦士としてもナルメア級の才を秘めているようだ。

 

 砂漠が水を吸収するよりも貪欲にあらゆる物事を超高速で学んでいる。

 

 この調子でどんどん色々な分野のことを学んで欲しい。

 

 知識は重荷にならない財産だ。生きていく力になる。……誰の名言だったっけ?

 

 

 おかげでゼーリエちゃんが俺が霞むレベルの親バカぶりを発揮しているよ。

 

 まあ、最初の子が望外なほどに優秀で、しかも自分のような魔法使いになりたいと言ってくれるくらいに懐いていてくれたら、可愛くてたまらないわな。

 

 何とか威厳ある母として振る舞おうとしているが、傍目にはもう完全に手遅れなレベルで失敗しているようにしか見えない。

 

 

 とにかく自慢したいのか、コッコロを捕まえて『あの子は私を超えるぞ』と自慢しまくったり、ミクやアンジェラに高頻度でそんな内容の手紙を送っては困らせている。

 

 もちろん動画付きの手紙だよ。ゼーリエちゃんもこの魔法は気にいってくれたみたいだ。

 

 大天使コッコロとミクさんはともかく、アンジェラはかなりイラッときているみたいだが耐えてくれている。

 

 

 

 すまんな。多分、娘が独り立ちしたら治まると思うから。

 

 ……何百年後の話だって? 

 

 ……かなり早熟だから、エルフとしては圧倒的に早い独り立ちになることは間違いないと思う。

 

 でも、ゼーリエちゃんは一見冷たいようでとても愛情深いからなあ。

 

 魔王軍とかを理由にしていつまでも手元に置いておこうとするかも。

 

 

 育成方針についてはちょっとした食い違いが俺とゼーリエちゃんの間にはある。

 

 ゼーリエちゃんはとにかく魔法使いとして強くしたいみたいだが、俺は魔法以外にも色々なことを仕込もうとしている。武術もその一つだ。

 

 まあ、魔法好きなのは俺も嬉しいけどね。

 

 でも、人生は魔法だけじゃないから。俺はそれをゼーレの仲間たちやゼーリエちゃんから教わった。

 

 長命なら多趣味であるべきだという確信が俺にはある。

 

 

『……魔族の人生は密度が薄い……人間の何倍も生きられるもんだからダラダラ生きてるヤツが多い。何百年生きてたってカラッポの人生もある……!』

 

 

 偉大なる鍛冶師の言葉だが、俺も身に染みて理解させられています。エルフはそれ以上だろう。虚無ってるエルフ見たことあるし。

 

 ただ、最終的にどう生きるかは娘自身に決めさせるという点では、ゼーリエちゃんと意見が一致している。

 

 強制されてやっても意味は無いし、それでは魔法も人生も楽しくないからな。

 

 

 ゼーリエちゃんの娘なんだから、万が一にも道を踏み外すようなことはあるまい。

 

 

 

 

 

 ゼーリエちゃんばかりに構っていると魔人たちが拗ねるので、今日は巡業団のみんなと温泉にやって来た。

 

 普段はみんな身を清めるのは『浄化の魔法』で済ませてるけど、ちゃんと風呂に入る文化は魔人にもあるよ。娯楽としてだけど。

 

『転移門の魔法』を使えば、自宅に源泉を直接引っ張ってくることだってできるぜ。

 

 まあ、それは面倒くさいので普段は『温泉の魔法』でお湯を出してるけど。

 

 今回はせっかくの家族の集まりでそれは風情がないと思ったので、ちゃんと温泉にやってきたけど。

 

 

 

 男衆とみんなでワイワイ騒ぎながら入る。もうそれだけで楽しい。

 

 後で限界サウナバトルとかしようかなと思っていると、何故か男湯の方に当然のように混じるバカ娘が一人。

 

 兄弟たちが甲高い悲鳴をあげて体を隠す中、男らしく仁王立ちである。……身内しか居ないとはいえ、バスタオルくらい纏えよ。いや、そもそも男湯にくるな、アム。

 

 

「アム、いい加減にしろ。度が過ぎるぞ」

 

「そうだよ~。俺なんか情けないのとキモイのでもう吐きそうだよ。どうしてそんなことするのかな?」

 

 

 上記の発言をした長男と次男は、容赦の無い金的攻撃により速攻で母なる大地に転がった。

 

 暴君過ぎるだろ、この姉。

 

 報告ではみんな仲良くやっていますとか言ってるけどさあ。それなら何で毎回、俺の所に兄弟から直訴が来るんです? 

 

 圧倒的な体格を誇る三男もビビり散らかしてますよ。

 

 そしてその三男も「あ、悪魔だぁ…」と呟いたのを聞かれて、兄二人の後を追った。

 

 もう弟たちは息を潜めて見守るだけとなったよ。

 

 それでもアムは全く悪びれずに話しかけてくる。

 

 

「せっかくだから、親子水入らずで背中の流しっこでも……」

 

「在るべき所に帰りなさいね」

 

 

 口が上手いアムに話させると不味い可能性があるので、問答無用で女湯の方へ転移させる。

 

 しばらくして、「がああああ!」という悲鳴が遠くから聞こえてきた。どうやら全てを察したナルメアかくるみがアームロックを掛けたらしい。

 

 悪は滅んだ。どうせ蘇るだろうけど。

 

 

 ……あれでもみんなに頼りにされてる団長なんです。本当なんです。

 

 悪辣な魔族とも人間ともバリバリやり合って巡業団を立派に維持しているんです。

 

 だから定期的に奇行で自分から信頼リセットするの、やめてもろて……。

 

 

「賑やかなのは良いことだがなあ。……いつかは全員揃って仲良く遊べる日がくれば良いんだが」

 

 

 お湯に浮かぶ野生のポリンを転がしながら、天を仰いだ。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 勇者ヒンメルの死より29年後。

 

 北側諸国、エトヴァス山地は火山地帯で、北側諸国でも温暖な地域である。

 

 そのために温泉でも有名であり、フリーレンとフェルンは特にワクワクしながらこの地域に入った。

 

 しかし、温泉そのものは健在だったが、温泉付近が魔力回復薬の材料となるポリンの生息地になっていたため、人でごった返してとても温泉を楽しめる状況ではなくなってしまっていた。

 

 かつてあった温泉村そのものは発展して街になっていたが、肝心の温泉産業が廃れてしまっていて、フリーレンはしょんぼりしてしまう。

 

 

「ポリン狩りかあ。路銀はまだあるし、温泉に入れた方が良かったな」

 

「残念ですね。フリーレン様。でも、ポリンは可愛いですよ」

 

「貴族じゃあるまいし、魔法使いにとってポリンは魔法薬の材料だよ。……私は何度か丸かじりしたことがあるけど、美味しいんだよね」

 

「……フリーレン様、明日は三つ編みです」

 

「何でぇ?」

 

 

 フリーレンは魔法使いとしては常識的なことを言ったはずなのに弟子が頬を膨らませて怒ったので、この世の理不尽を感じていた。

 

 ハイターも旅の途中で黒パンのポリンがけには世話になったので、フォローはできない。

 

 だが、シュタルクはフェルンに共感を示した。

 

 

「いいよな、ポリン。なんつーか、いっぱいいると平和な光景って感じがして癒されるし」

 

「そうですよね! まったく、フリーレン様はここの冒険者たちと同じで欲に目がくらんでいます。反省してください」

 

「そんなぁ」

 

「まあまあ。フェルン、過酷な冒険の旅では仕方がないこともあります」

 

 

 その後、不機嫌になったフェルンをみんなで宥めた。

 

 その中でハイターは、かつての勇者ヒンメル一行の旅路でもポリンは美味しい獲物だったと話す。……まあ、魔力回復薬にすることはほとんどなく、その場で食べてしまっていたのだが。

 

 フェルンが美味しいポリンの見分け方に詳しくなってきたころに、シュタルクは師匠から聞いた話を思い出す。

 

 

「そういえば、エトヴァス山の秘湯っていうのを師匠から聞いたことがある。行ってみたいんだが、いいかな?」

 

「シュタルク、あそこは秘湯と言っても……」

 

「いえ、フリーレン。私も賛成です。少し大変ですが、またあの景色を見ておきませんか?」

 

「……そうだね。行ってみようか」

 

 

 シュタルクの提案にハイターが賛成したことにより、一行はエトヴァス山の秘湯を目指すことになる。

 

 だが、道中は厄介な魔物の縄張りがあり、それなりに危険な道のりとなった。

 

 それでも大陸でも有数の実力者揃いのパーティであるので、難なく目的地へとたどり着く。

 

 だが……

 

 

「……ここもポリン塗れだね」

 

「うわあ。あんなに色とりどりのポリンがいますよ! シュタルク様!」

 

「いや、ちょっといすぎて怖いかも……」

 

「何でですか! 可愛いですよ!」

 

 

 秘湯の近辺もポリンの生息地になってしまっていた。幸いにもあまり知られていないようで、先客は四人組が一組だけだ。

 

 ハイターが先んじて敵意がないことを示すためにも挨拶をする。

 

 

「どうも。皆さんはポリン狩りですか?」

 

「あら。珍しい。……私たちは温泉が目当てよ。ここはこの足湯だけだけどね」

 

 

 意外なことに先客も秘湯が目当てだったようで、返事をした赤い髪の人間の女性はポリンを押しのけてお湯に入れるようにしようとしていた。

 

 フリーレンは物好きが他にもいたことが何だか不思議と嬉しくなって、手伝いを申し出る。

 

 

「手伝うよ。私たちも温泉が目当てだからね」

 

「あら、物好きね。まあ、私たちも人のことは言えないけれど。……ここの湯は浅いけれど、景色は最高でしょう?」

 

「うん。そうだね。……前にも来たことがあるの?」

 

「ええ。ちょっとした思い出の場所ってやつでね。近くに来たら寄るようにしてるの」

 

 

 フリーレン一行は何となくこの先客たちと気が合い、その後は一緒にポリンをつつきながら足湯に入り、しばらく一緒に景色を楽しんだ。

 

 

 フリーレンたちはかつて訪れた時の話をし、彼女たちも昔にもう一人の仲間と一緒にやって来た時の話をする。

 

 全く見知らぬ者同士だったが、不思議と安らぐひと時を過ごした。

 

 

 帰り際、彼女らと忘れていた名乗りを交わして別れる。

 

 

「私はフリーレンだよ。またどこかで」

 

「ええ。縁があったらまた会いましょう。私はベリアルよ。また会うまで忘れないでね!」

 

 

 

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