古魔族、放漫のトラオムの羽ばたき   作:リッチ

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霊体化の魔法

 

 

 

 吾輩は魔族である。名は放漫のトラオムである。

 

 月面より母なる惑星を眺めながらこんにちは。

 

 もちろん危険かもしれなかったから分身だよ。でも、月が魔物だらけということもなかったので、拠点を建てるつもりです。

 

 とりあえずはゴーレムたちの保管庫がわりにするけど、いずれはみんなを連れてきて驚かせたいな。

 

 地上から観測されないような対策に、隕石対策も必要だな。

 

 未来的な宇宙基地めいたフォルムと、中世的な城塞めいた要素を上手い感じに練り合わせた基地にしたいと思っております。

 

 周辺宙域探索では降り注ぐ隕石をいちいち受け止めてたらキリがないので、『霊体化の魔法』でスルーする。

 

 この魔法はゼーレに隠した魔道具にも仕込んでいるから、いつかは誰かが見つけ出すだろう。

 

 

 

 地上での話だが、娘がいよいよ独り立ちしたのでいつものルーチンに戻った。

 

 まあ、いつでも指輪を通して念話できるのだが、娘はゼーリエちゃんからの鬼電がうざったくて着信拒否したようだ。そのせいで俺の方へゼーリエちゃんからの八つ当たりがきてるんですが……。

 

 能力も装備も超一級なんだから、そんなに心配しなくても大丈夫だよ、ゼーリエちゃん。

 

 俺は信頼しているので週一でアルちゃんたちの誰かを接触させるくらいしかしてないぞ。

 

 

 

 ああ、アルちゃん以外の便利屋の面々への労いも欠かせない。

 

 まあ、彼女たちは元魔族ではなく生粋のゴーレムなのだが、俺の家族には変わりないからな。

 

 今日は比較的に控え目であまり自己主張しない零余子と話している。

 

 

「魔族は魔法使いより武闘派の方がまだ話がし易い印象なんだが、お前はどうだ?」

 

「いえ、全然そんなことありませんよ。魔族の将軍の頑固さは魔法使いタイプに輪をかけて酷いです。まあ、肉体言語で黙らせられるからそこは楽ですが」

 

 

 そう言う零余子も、魔王軍でも有数の大将軍である。

 

 将軍とは魔族では熟達の戦士のことを言うのだが、割と武人然としている者も多い。

 

 零余子は赤魔公の配下であることもあって尊敬を集めているはずだ。逆に零余子が将軍たちとの手合わせで無敗であることがアルちゃんの名声になってもいる。

 

 ……邪神ちゃんとか、相性の悪そうな相手を避けさせてるからこそ無敗という所もあるんだがな。

 

 

 それでも、圧倒的フィジカルと再生能力、そして俺の仕込んだ人外専用拳法の組み合わせでシンプルに分かりやすい強さを見せつけている。

 

 ああ。彼女の拳法とは、関節の回転とか、四肢の伸縮とか、触手とか、再生能力ありきのものだ。

 

 人間の格闘術を魔族がそのままラーニングしても、そこまで強くないからね。

 

 よくフィジカルに優れる人外を人間が技量で圧倒する描写があるけど、そもそも人間の肉体構造はそんなに戦い向きじゃない。

 

 そして、肉体を戦闘用に異形化させられる人外がその肉体を十分に活かせる専用の格闘術を開発したら、そりゃまあ強い。

 

 接近戦で唐突に顎を尖らせて相手を貫けたりしたら、初見では予想不能回避不可能じゃん? 

 

 ……零余子と戦った将軍が強くなったりもしてるかもだが、時々は事故を装って殺害してるからいいよね? 

 

 

「何度も挑んできてぶん殴られるたびに嬉しそうにする奴とかいるんですよ」

 

「脳筋は人間でも魔族でもあまり変わらないよな。ある意味、将軍の方が魔法使いタイプより人間に近いのかもしれん」

 

「無駄にタフだから相手するのも時間がかかって大変なんです」

 

「……それ、相手もお前にだけは言われたくないだろうな」

 

 

 実際、邪神ちゃんのような即死攻撃か封印系の魔法を持ってないと、まず倒せないからな。

 

 

「……どの分野でも極まってくると、変態の割合って増えますよね」

 

「お? それってもしかして俺のこと言ってる?」

 

「い、いえ、そんなことは……(ま、不味い)」

 

「……何が不味い? 言ってみろ」

 

「!?」

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 勇者ヒンメルの死より30年後。

 

 北部高原、ルーフェン地方の村にて。

 

 大陸魔法協会が使い魔で届けてきた討伐依頼により、フリーレン一行は村を襲う魔族の討伐に急行してきた。

 

 だが、既に村は壊滅状態であり、逃げ遅れていた魔族の一人も既に始末されていた。

 

 先に駆けつけていたのは一級魔法使いのゲナウとメトーデ。

 

 彼らとフリーレン一行は、村を守っていたノルム騎士団の遺体を検死することで魔族の戦力を明かそうとしていた。

 

 

「うわあ。どんなやり方したらこんなことになるんだよ。ミンチよりひでぇや」

 

「ううっ。すいません、皆さん。ちょっと外してもいいでしょうか」

 

「ああ。辛いようなら外に出てても良いよ。近くには敵はいないみたいだしね」

 

「念の為に私が付いて行きましょう。フェルン、背中をさすってあげますから、少し休みましょう」

 

 

 騎士団の遺体は酷い有様だった。その惨状に気分が悪くなったフェルンとその付き添いでハイターが席を外す。

 

 フリーレンは眉間にしわを寄せて黙り込むゲナウに問いかける。

 

 

「その様子だと、これをやった魔族に心当たりがあるみたいだね」

 

「……ああ、これは間違えようがない。……この村を襲ったのは魔族の将軍、『千剣のレヴォルテ』だな」

 

 

 重苦しいゲナウの声には、事情を知らない者にも因縁を感じさせるものがあった。

 

 

「奴の持つ魔剣、『セイウンケン』は一振りで大量の斬撃を生み出す。それを奴は魔法で一時的に複製し、四刀流で振り回すのだ」

 

「それって、とんでもないことになりませんか?」

 

 

 少し緊張感に欠けるようなメトーデの問いにも、ゲナウは重苦しい雰囲気のままで答える。

 

 

「……斬撃の嵐だよ、あれは。奴の間合いでは回避は絶対に不可能だ。ここの騎士団もこんな村にはもったいないくらいの精鋭だったが、このざまだ。恐らくはほとんど抵抗らしい抵抗もできなかったのだろう」

 

「確かあの魔剣は一振りで十は斬撃を出せたはず。四刀で四十か。みじん切りだね」

 

「ええ……そんなのどうすんだよ……」

 

 

 シュタルクは敵の反則ぶりにうめき声をあげるが、フリーレンとゲナウは戦意をまるで失っていない。

 

 

「何言ってるの、シュタルク? 巡業団の魔人たちとも手合わせしたでしょ。『角折り』にも認められたんだから、シュタルクだってやりようによっては戦えない相手じゃないよ。……魔道具の力を借りられるのは向こうだけじゃないしね。私のコレクションを貸してあげる」

 

「……私もかつてとは違う。奴への対策となる魔道具を手に入れている」

 

 

 その後、フェルンがメトーデの集めた可愛い動物画集で復活。

 

 フェルンはメトーデが世にも珍しい金色のポリンを飼っていることを明かされて驚き、その名前がゼーリエだったことに「この人、良い人だけどヤバイ人だ」と確信した。

 

 

 

 彼らはゲナウを除いた飛んで身軽に動ける魔法使い組で魔族が居そうな場所に探りを入れることにする。

 

 ゲナウとハイターとシュタルクは遺体を守るために村に残って番だ。

 

 だが、それは敵の魔族の狙い通りの行動だった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 村に残っていた男組は敵の接近を察知する。

 

 実は女性組も時をほとんど同じくして魔族との交戦に入っていたが、それを知る由は無い。

 

 敵の奇襲を見破り初撃は完全に回避するが、反撃は至難を極めた。

 

 

 後衛にまわったハイターが二人に女神様の魔法をかけて守りを強化するが、相手の斬撃の余波を防ぐだけでも精一杯だ。いや、この場合は無数の斬撃を余波とは言え防いでいるハイターが凄いのだが。

 

 

「うかつに近寄ってはいけません! 一瞬でバラバラにされてしまいますよ!」

 

「……分かっている」

 

「でも、このままじゃジリ貧だぜ!」

 

 

 防戦一方の三人へ、魔族の将軍レヴォルテが斬撃の嵐を見舞いながら問う。

 

 

「……驚いた。この私を正面から相手にしてこれほど持つとは。お前たちは何者だ?」

 

 

 これにゲナウは答えず、代わりに仲間たちへと確認する。

 

 

「シュタルク、お前が借りた札はアレを突破できるか?」

 

「ああ! タイミングをミスったらみじん切りだけどな。行けるぜ!」

 

「……よし。では、ハイター様。頼む」

 

「良いですよ! ……昔を思い出す無茶ぶりですねえ!」

 

 

 徐々に守りを破られ傷を負いながらも戦意の落ちない彼らだが、己の技に自信を持つレヴォルテも怯まない。

 

 彼は剣戟を繰り出すスピードを更に上げながら宣う。

 

 

「どんな手があるか知らんが、この私の剣の結界を抜けられんのでは勝負にもならんぞ」

 

 

 しかし、歴戦の僧侶ハイターは不敵に笑って言い返す。

 

 

「その魔族の驕りこそ、私たちの最大の勝ち筋ですよ!」

 

 

 そしてハイターは突如として防御魔法の行使をやめ、全力での魔法攻撃に移る。

 

 しかし、レヴォルテは追撃の足を止められつつもその全てを斬撃の嵐で迎撃してのける。

 

 

「小癪な!」

 

 

 その瞬間、今まで引く一方であったシュタルクとゲナウは全力でレヴォルテへと突進する。

 

 

「我が剣は攻防一体。抜けられると思うな!」

 

「いいや、そうでもない。──『黒金の翼を操る魔法(ディガドナハト)』」

 

「おう! 行くぜ!」

 

 

 ────そして、二人の姿が掻き消える。

 

 まるでこの世界から姿を突如として消してしまったかのようにだ。

 

 だが、直後にレヴォルテが驚く間もなく、二人は何と剣の結界の内側へと出現する。

 

 

 種は古代魔道具。

 

 ゲナウは『霊体化の魔法』が付与された腕輪で、シュタルクはフリーレンから借りた『三歩だけ縮地が出来る魔法』が付与されたアンクレットで、それぞれ斬撃をやり過ごして間合いの内側に飛び込んだのだ。

 

 

「な、ん──」

 

「悪いが後悔する時間はやらねえよ!」

 

「終わりだ。これまでのツケを払え、レヴォルテ」

 

 

 一瞬の足止めで剣の結界の範囲を限定されたことが致命的だった。

 

 シュタルクの閃天撃とゲナウの黒鉄の翼が十文字にレヴォルテを斬り飛ばす。

 

 こうして、村を滅ぼした魔族の将軍は打倒されたのだった。

 

 

 

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