吾輩はねこですよろしくおねがいします。ねこはいます。
……失礼、ちょっと精神的に不安定になっていました。
では改めて……吾輩は魔族である。名は放漫のトラオムと申します。
昔から監視してる、とある古い邪教団が勢力を増してます……。
あのバカ娘。なんばしよっと!?!?!?
これまで色々な魔法的怪現象に遭遇してきたトラオム君をして、ちょっと耐えきれない衝撃でした。
ゼーリエちゃんには絶対に言えないよ。マジヤバくね?
俺に報告を持って来てくれたアルちゃんが土下座してるよ。いや、君は全然悪くないから。
便利屋のみんなもそんなに世界の終わりが来たような顔しなくていいから。
俺、全然キレてないから。
もう呼んだメテオは全部反転させて追い払ったから大丈夫だよ。
……やはり魔性菩薩のガワを借りたのが失敗だったか。
と言うか、考えたくない事だけど、間違いなくアレの正体は娘には割れたんだよね。
熟達の魔法使いは魔法を見れば作成者がどんなやつかを見抜くことができる。
例の教団に残った僅かな文献からあの魔法を復活させた時、才気溢れるバカ娘には誰が作った魔法か理解できたはずなのである。
今度会うのが怖くてたまらなくなってきましたよ……。今生救無。
芋づる式にアルちゃんにもバレてしまったな。いや、俺が過剰反応したせいだけど。
もちろん口止めするが、ショックだわ。ライナーしちゃいそう。
でも、アルちゃんはまったく気にしてないように接してくれる。
有難すぎて涙がちょちょぎれるわ。
この悲しみはアルちゃんセラピーで癒しつつ、魔法開発で吹き飛ばそう。そうしよう(現実逃避)
はい、そういうわけで、今日はロマン全振りの魔法を作りました。
『搭乗型ゴーレムの魔法』です。
作れるのは今のところ、サイズはパワードスーツくらいから、鉄人28号くらいまでですね。勢いで色々と作ったよ。
体格とか角とか関係無しにオートアジャストしてくれる機能も付けた。
今、アルちゃんに精巧な皇獄竜型のゴーレムに乗って遊んでもらってみている。割と楽しそうだ。
ブレスを吐いたり、大きな爪や尾で周囲の岩を砕いたり、爽快感が凄そう。
……まあ、アルちゃんレベルなら防御力以外は生身の方が強いと思うけどね。
……割と魔力効率とか操縦性の悪い失敗魔法だが、今はロマンさえあればいいんだよ上等だろ。
やり場のない感情を込めながら作っていたせいか、呪いの装備めいたゴーレムもできてしまった。本当に申し訳ない。
具体的には、一度着ると脱げません。肉体と一体化しちゃいます。
栄養補給は首のコネクタから非常に不味い緑色の液体を摂取してもらうことになる。
砂糖水にクソを混ぜたような味がするよ。
女神様の魔法でも絶対に解呪できないからな。
あと、やたらと神経を逆撫でしてくるサポート精霊を付けておいた。
誰が手に入れることになるかは分からんが、まあそれなりに強いから上手く使ってみてくれ(ゲス顔)
……ちょっとスッキリしたかな。
ヨシ、アルちゃん。一緒に月面旅行にでも行こうか。
◆
勇者ヒンメルの死より30年後。
フリーレン一行が北部高原のヴァイゼ地方で野営をしていると、一級魔法使いのレルネンから依頼の郵便が届いた。
それは前にゲナウとメトーデで共闘した大陸魔法協会からの依頼ではなく、一級魔法使いレルネンからの個人的な依頼だった。
フリーレンは最初こそ渋ったものの、報酬の魔導書に釣られてあっさりと快諾。
──だが、その内容は尋常ならざるものだった。
指定された場所、50年前に七崩賢の黄金郷のマハトに一瞬で黄金に変えられた城塞都市ヴァイゼにたどり着いた一行は、ある人物と合流する。
その人物とは、少し前に一級魔法使い試験で縁ができていた老魔法使いデンケン。
依頼というのは、彼の戦いの見届け人をしてくれというものだったのだ。
出会うなり、フリーレンは思わず溜息と共に否定的なことを言ってしまう。
「はあ。……今からでも考え直すべきだと思うけどね。……止まらなさそうだね」
「そうだな。馬鹿なことをしていると自分でも思う。だが……止まれんな」
フリーレンのみならず、ほかの仲間たちにもちょっと信じがたい挑戦である。
大魔族に、それも七崩賢最強の『黄金郷のマハト』に単身で挑むなど。
既にフェルンとシュタルクも軽くだがその恐ろしさを聞き及んでいるため、何とか止めた方がいいのではないかと考えていた。
しかし、覚悟の決まったデンケンを前に何も言えなくなってしまう。
黄金郷の監視員の為の小屋に移動すると、デンケンは自分とマハトの因縁について説明した。
ヴァイゼには黄金郷に飲み込まれた故郷がある事。
かつてはヴァイゼを治めるグリュック伯爵家の娘婿であり、マハトに師事して魔法を学んだこと。
数年前に、他ならぬマハトから呪いを解く手段と、その条件として『一騎打ち』を求める手紙がやって来たことなどだ。
フリーレンは信じられないと冷静に首を横に振って言う。
「……まさか魔族が約束を守ると思っているわけじゃないよね」
「分かっている。だが、今回は勝利者となって強制的に約束を履行させられればいいのだ。約束を守らせる『手段』については、間違いなく有効だとゼーリエ様に確認していただけた」
「……つまり、ゼーリエも許可を出したんだね。らしくない……それで、私たちがやるのは本当に見届けだけでいいの?」
「本当に見届けだけでいい。こちらから結界の内部に入って対決する。と言っても、もう何度も顔合わせは済ませてあるがな。向こうもこちらの準備が整うのを待ってくれている」
「……分かったよ。でも、ちょっと相談させてね」
フリーレンはそう言うと、仲間たちだけで集まって相談を始めることにする。
フェルンは少し体調が悪そうだった。
「フェルン大丈夫か? 黄金郷を見てからずっと気分が悪そうだけど……」
「……すみません、でも大丈夫です」
「やっぱり初めて見るとそうなるか。気持ちが悪いよね。魔法なのに魔法だと認識できないのは。ちょっと休んでなよ」
「正直、私も少し気持ち悪いです。……二日酔いを思い出す辛さですね」
ハイターはまだ余裕がありそうだが、フェルンは慣れるまでに少しかかりそうだった。
フリーレンはマハトの魔法『
その凶悪さは有名だが、おさらいも含めて。
シュタルクは思わずハイターの方を見ながら尋ねる。
「呪いなら、女神様の魔法で解呪できないのか?」
「普通の呪いなら私が何とかできますが、これは少し手に余りますね」
「魔王軍との長い戦乱の時代にマハトに黄金に変えられた英傑達は北側諸国だけでも数え切れない程いる。でも、誰一人として助かってないんだよ。未だにみんな黄金の像のままだ」
しかし、ハイターとフリーレンは揃ってシュタルクの期待にはそぐわない返答を返した。
その後にフリーレンは、現代の人間の魔法では回避も防御も不能で、黄金郷のマハトが七崩賢最強と言われる由縁だと続けて『
絶望的な情報だが、フェルンはフリーレンの話に光明を見出す。
「現代の人間の魔法では、ですか?」
「そうだね。古代の先人たちの力を借りれば、全く対応できない訳じゃない。それでも分が悪いのは変わらないけど、私は昔にマハトに負けて以来、対抗するための魔道具を探し続けているんだ」
「デンケンさんもフリーレンと同じで何かしらの古代魔道具を持っているのでしょう。実際、強力な物は本当に強力です。私もかつての旅路で何度かフリーレンのコレクションには助けられました」
フリーレンの魔道具集めの趣味はちゃんと実益を兼ねている。
まあ、そう簡単には大魔族との戦いに使えるような物は見つからないので、大半がガラクタと言えばその通りなのだが。
話がひと段落すると、ハイターはフリーレンに向き直ってある確認をする。
「それで、フリーレン。……本当に一騎打ちの見届け人をするつもりがあるのですか?」
「……そんなわけ無いじゃん。もちろん、隙を見て介入するよ」
当然の様に答えるフリーレンに、フェルンとシュタルクは驚愕する。
「ええっ! 良いんですか? それでは約束が……」
「そうだぜ。一騎打ちっていうなら、そういうのは……」
だが、フリーレンは二人の言葉を甘えだと切って捨てる。
「何言ってるの。魔族相手に正々堂々なんてナンセンスだよ。デンケンだって、最大の目的は呪いを解くことなんだから許してはくれるだろうし。どうせ約束の履行時にはマハトは悪足掻きするに決まってるから、構うことはないよ」
「まあ、フリーレンならそうしますよね。と言う事は、あなたも対抗手段を見つけてはいるんですね」
「もちろん。でなければそもそもこんな危険な仕事は引き受けないよ。仲間の命もかかってるんだからね」
フリーレンはむふーっと自信あり気に胸を張った。
彼女にとってもリベンジの良い機会だ。
そんなフリーレンの様子に仲間たちの緊張も少しは解れたのだった。
◇
「ふふふふ、そうよね。魔族が持ってきた話なんて、歴戦の魔法使いであるフリーレンが信用するわけが無いわよね」
ヴァイゼ近郊の地下にある隠れ家にて、水晶玉の魔道具でフリーレンたちを監視している小さな影。
「ありがとう、フリーレン。これで私たちも介入する大義名分が手に入ったわ……」
可愛らしく両指を絡ませて手遊びしながら、その女性────無名の大魔族ソリテールは嬉しそうに呟いた。
そうして、対面で水晶玉を見ているもう一つの影に優し気に声を掛ける。
「貴女も嬉しいでしょう? これでリベンジを果たし、手柄も手に入るわよ。……マハトを迎える準備、カフェさんたち元魔王軍のみんなにお願いしておかないとだわ」
クスクスと微笑むソリテールと対照的に、ここに居るもう一つの影は闘志を燃やしていた。
紫色の異形の甲冑の様な搭乗型ゴーレムに身を包み、腕を組んで仁王立ちし、彼女も笑う。
「ええ。……今度こそ、フリーレンに思い知らせてやるわ。この私との力の差と……所詮、貴女はヒンメルのオマケに過ぎないってことをね……!」
浅からぬフリーレンとの因縁を感情ににじませる、謎の角付き女性。
この女の正体は……!?