古魔族、放漫のトラオムの羽ばたき   作:リッチ

47 / 66
財宝を作る魔法

 

 

 

 吾輩は魔族である。名は放漫のトラオム。または大賢者フェイスレスだよーん。

 

 まあ、俺の家族たちは無理に笑わせるまでもなく笑顔に満ちているし、変にこじらせてもいないので比較的に邪悪ではない魔法使いだと思う。

 

 さて、実は俺やアルちゃんは変身して割とよく人間社会に遊びに行っている。

 

 まあ、飯も娯楽もなかなか当たりを引けない何と言うか持っていない旅人なんだが。

 

 家で食う飯が一番うまいのは幸せな事だとは思うけど、たまには外食で当たりが引きたいものである。

 

 

 

 今日はアルちゃんと一緒に人間の大都市の本屋で大人買いしたぜ。

 

 本ってまだまだめっちゃ貴重品。

 

 魔導書でなくても目が飛び出るような値段がする。

 

 

 しかし、俺たちは変な客だったな。

 

 だって、売れ筋である巡業団の書籍を一切買わないんだもの。

 

 もう持ってるからな。しかし無料配布品を高額転売してるのを見ると、これでこそ人間だよなと思ってしまう。

 

 それに店主は俺たちが魔法使いということすら分からなかったかもしれない。

 

 大体の魔導書すら、俺にとって外れだしな。

 

 発想さえもらえれば『魔法を作る魔法』で大体作れるので、俺が本当に読む価値のある魔導書ってなかなか無いんだ。

 

 ほぼ著者の魔法使いの思想に触れるためのツールになってしまっている。

 

 

 

「たくさん買ったわねー、トラオム。『解読の魔法』がなかったら読めないような本も多いけど」

 

「人間の文字ってわりと移り変わり早いよなー」

 

「まあ、私たちには問題無いし、面白ければいいわよ。でも……」

 

「そもそも字が汚過ぎて読めないのが割とあるのはなあ。ああ、せっかくだから、そこらへんの食事処に入ろうぜ。前回の雪辱をこの都市で果たすのだ!」

 

 

 旅行にも同行者がいるとやっぱり賑やかになるなあ。

 

 俺とアルちゃんの後ろからは荷物持ちに連れてきたゴーレムのラドリーがふらふらしながらも付いてきている。

 

 他にも連れて来るべきだったなあ。転ばないよな? 

 

 ああ、俺も彼女たちも人間に変身しているよ。角を隠しただけの雑な変装ではなく、ちゃんとバレない様に結構変えている。

 

 アルちゃんは特に手配書が出回っているからな。

 

 

 でも、割と注目される。あと、謎の因縁を付けられる事がある。

 

 この前もチャラい連中にアルちゃんが絡まれたので、全員を車田飛びさせてしまった。

 

 美人揃いだとそれはそれで問題があるな。特に他の便利屋三人と違ってアルちゃんは絡まれやすい。オフだと大魔族のオーラとか皆無だよね。

 

 でも、俺だけで旅行に来ると、淡々と観光して、無言で買い物と食事済ませて、結果として無言のまま帰って来るとかあるからな。

 

 だって、一人で知らない人と話すの怖いし……

 

 魔族相手だとまったくそういうことは無いんだが、人間相手だと緊張する。何故だ。

 

 

 

 それはそうと、そろそろ食事時だ。

 

 ……前回の昼食は酷かったからな。

 

 パンには石がゴロゴロ入ってるし、スープは雑草汁みたいな味がするし、それでいて結構なお値段がしたし。

 

 まあ、金は良いんだよ。金ならあるからな。

 

 俺の『財宝を作る魔法』にかかれば、金銀財宝が元手無しでザックザクだ。

 

 市場破壊とかはしてませんよ、ええ。やろうと思えば物々交換しか成立しない社会をもたらせるだろうけど。

 

 しかし、貴重かつ楽しいものであるべき食事の時間を最悪なひと時にしてくれたのは許せない。

 

 低評価爆撃してやりたくても口コミしか手段が無いけど。

 

 

 さて、今回こそはグルメ漫画みたいな反応をさせてくれる店が見つかれば良いんだが……

 

 

 

 そんなことを考えながらみんなと駄弁りつつ歩いていると、都市の鐘が打ち鳴らされた。

 

 『オー・シャンゼリゼ』を口ずさみながらスキップしていたアルちゃんが驚いて転びそうになる。

 

 

「ひゃっ!? な、何かしら。火事でもあったのかしらね。驚かせないで欲しいわ」

 

「いや……これは……」

 

 

 アルちゃん、オフだからって魔力探知くらい切らさないでよ。

 

 そりゃ、俺より早く君が察知できるということは無いだろうけど。リラックスしすぎでしょ。

 

 ラドリーはアルちゃんの隣に来て油断なく魔力を練り始めたぞ。

 

 

 いや、ラドリーは非常事態とは言え、容赦なく荷物投げ捨てるじゃん……悲しみ。

 

 ちなみに俺の護衛には来ない。彼女の役目ではないし。そもそも邪魔だし。

 

 

 しかし、かなり距離があるな? よく見つけたもんだ。眼の良い空を見上げるのが好きな人間でも居たのかな? 

 

 有能な事だ。できれば死んでほしくないが……あー、燃える石が尾を引いて大量に落ちてきてるな。

 

 数秒後にはこの区画は瓦礫の山だな、こりゃあ。

 

 

 

 

 

 まあ、食前の運動にはなるか。

 

 

「アルちゃん、荷物頼むわ。落ちてる奴もな」

 

「わっ! ちょっと、急に渡さないでよ!」

 

 

 慌てるアルちゃんから視線を切り、天空を見つめる。

 

 ラドリーは俺が対処する気になったので、一気に力を抜いた。では、その信頼に応えんとな。

 

 あと、ちゃんと汚れた荷物は拾い集めて後で洗ってね。洗剤は使うなよ。

 

 

 

 ────『虚実転換の魔法』、発動。ムフォーフォーフォー。

 

 これにより、この都市の誰も俺を認識できないし、これから起こる事を覚えても居られない。

 

 更に、指揮者のように手を振るって高密度の魔力で作られた隕石を迎える。

 

 

「だめだ。だめだ。それもだめだ」

 

 

 圧倒的な破壊をもたらすはずだった力の化身たちが幻の様に霧散していく。

 

 正面から素直に俺に攻撃魔法を撃っても通るとは思わないでいただこう。

 

 見上げると、雲の高さほどに舞う美しい天使が動揺を露わにしていた。

 

 ああ、『無限回廊の魔法』を使ったから逃げられんぞ。無限ループって怖くね? 

 

 

 動作なく遥か天空へと転移して、背後から話しかける。

 

 

「良いセンスだ。……ちょっと遊ぼうか、お嬢ちゃん」

 

 

 

 さて、貴様はどれほどの魔法使いなのかな? 

 

 もっとそのロマンあふれる魔法を見せてくれ。

 

 遠慮するな。どれだけ大盤振舞いしても被害は出ない。

 

 サービスしてくれるなら、『本物』の力と無法ぶりを見せてもいいぞ。

 

 さあ、天使とダンスだ!

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 勇者ヒンメルの死より1週間ほど前。

 

 王都にある一番大きな酒場にて、二人の赤い髪の女性が隅の小さなテーブルに座って食事をとりながら詩人が奏で歌う曲を聞いていた。

 

 詩人が歌っているのは、『流星ミラクル』。

 

 もうすぐ50年に一度のエーラ流星の時期だからだろう。

 

 星に関する曲はこの曲に限らず定番になっていた。

 

 酒場で騒いでいる人間たちにとっては人生に一度か二度くるかといったブームだが、赤髪の女性たちにとってはもう何度目か分からない流行だ。

 

 

 人間に扮する女性──最も恐ろしい魔族の一人として恐れられている『赤魔公』アルは、仲間である『魔勇者』エリザベートと駄弁っていた。

 

 

「昔に比べれば人間のご飯も本当に美味しくなったわ。エリちゃんもそう思うわよね?」

 

「そうね。と言っても、まだまだ我が家の味には及ばないけどね。時間の積み重ねが違うわよ」

 

 

 二人は変身だけでなく『認識阻害の魔法』も使って人間たちの中に溶け込んでいた。怪物と同じくらい美人も目立つから仕方ないのだ。

 

 そろそろ主な魔王軍の残党も減ってきて、自分たちの代わりに魔族社会で情報収集する者たちも生まれたので、ようやく『赤魔公』の名ともおさらばできそうでアルは安心していた。

 

 昔は悪ぶりたかった時期もあったが、もうお腹いっぱいであり心地よい解放感を感じている。

 

 同じく大魔族をやっていたエリザベートは料理や歌い手の技量に文句を付けながらも、いつもと変わらずに休暇を楽しんでいた。

 

 二人はその後も何度か曲が変わるまで駄弁っていたが、しばらくしてトイレに行っていたもう一人の仲間が席に戻って来る。

 

 

「すいません。二人とも。ちょっとまだ人混みは慣れなくて……」

 

「いいのよ、カフェ。昔に比べれば本当に元気になってくれて嬉しいわ」

 

「廃人状態が長かったものね、アンタ。よくここまで持ち直したものだわ」

 

 

 遅れてきたのは真っ黒なブレザーとチェスターコートに金色のネクタイをシックに決めた黒髪の美女だ。

 

 実力ではアルにも勝っているのだが、新参者かつずっと介護をしてもらっていた立場故に過剰に丁寧だった。

 

 アルは彼女を気遣って言う。

 

 

「本当に大丈夫? 辛くなったらすぐに言ってね?」

 

「はい、ありがとうございます。もう大丈夫です」

 

 

 アルが気に掛けているのは彼女の苦しみがよく分かるからだ。――同じく、記憶を保持したまま魔人化した者であるが故。

 

 主人もアルも全力で止めたのだが、本人の強い希望によって生体ゴーレム化ではなく魔人化を行ったのだ。

 

 結果、50年ほど要介護状態になった。その末に名前も姿も変えて前世と決別することで、ようやくここまで持ち直した経緯がある。

 

 エリザベートはそんな彼女にちょっとした確認の為に言ってみる。

 

 

「本当に大丈夫なんでしょうね? ……もし、帰って来た時に私たちがいなくても平気だった?」

 

「ふふふ、心配し過ぎですよエリザベートさん。そんなの大丈夫に決まってアババババ!」

 

「ちょっとエリちゃん!? 何てことしてくれてるの!? カフェはまだ病み上がりなのよ!」

 

「やっぱりダメじゃない。……これなら最初から生体ゴーレム化で良かったんじゃない? どうせ『完全なる変身の魔法』を使うなら魔人化と大差ないじゃない」

 

 

 白目を剥いて泡を噴き出したカフェを、アルが自分も白目を剥きながら何とか介抱する。

 

 そんな有様をエリザベートは呆れた風に見ていた。

 

 

 生まれ持った肉体を尊ぶか。生きてきた記憶を尊ぶか。

 

 その選択によって魔人化か生体ゴーレム化で分けられるが、近年は魔人化はカフェ以外では行われていない。

 

 

 

 理由は三つ。

 

 第一に、記憶消去をしない場合はアルやカフェの様に精神崩壊の危険があるから。魔王軍時代が長かったカフェはアルよりもずっと酷いことになった。

 

 第二に、魂の存在が確認されているこの世界だとほぼ全員が肉体よりも記憶を尊び生体ゴーレム化を選ぶから。それに生体ゴーレムは生身よりずっと強靭だし、実は子作りだって可能なのだ。

 

 第三に、主人がもう孫を求めていないから。……魔人の二世代目はまだ誕生していないが、何故か耳の長い血縁が増殖しているバグによってそこまで求められなくなった。

 

 

 

 アルは割と必死に「良お~~~~しよしよしよし!」とカフェの頭を撫でて落ち着かせようとしている。

 

 それによってカフェは「なでぇ……」と捨てたはずの過去に少し退行しながらも息を整えつつあった。

 

 

 カフェが落ち着いてきたのを見計らって、エリザベートは気になっていたことをアルに尋ねる。

 

 

「そういえば、マスターは生体ゴーレム化にあまり積極的じゃないのかしら?」

 

 

 それにアルはカフェを撫でつつも律儀に答える。

 

 

「……いえ。ある程度の基準はあるけど、魔法使いとして気に入った者はゴーレム化して記憶を残すことが多いわよ」

 

「まあ、そうよね。でも私、ずっと気になってたことがあるのよ。マスターはどうして『破壊の魔天使』を逃がしてるの? 私が知ってるだけでも何度か出会った記憶だけ消して放流してるわよね?」

 

 

 エリザベートの疑問に、アルは少し困ったような顔をしながらも答える。

 

 

「気に入っているからでしょうね」

 

「いや、それは知ってるけど。……ソリテールも魔法使いとしてべた褒めされて評価されてたけど、危険だからゴーレム化だったじゃない。ミカも危険な魔族よ」

 

 

 納得していない様子のエリザベートに、アルは腕と足を組み、少し言葉を探すと言う。

 

 

「特別に気に入られているってことよ。だから無理矢理生体ゴーレムにもしたくないんでしょ。現にカフェから申し出があった時は反対しながらもちょっと嬉しそうだったわ。……でも、私よりずっと魔族らしく生きてきたミカは魔人化したら間違いなく廃人になるでしょう。それは強制できない。でも、処分するのも惜しい。そういうことよ」

 

「相変わらず優秀な魔法使いにはダダ甘ね。あの子の生まれもあるのかもしれないけど」

 

「『好きに魔法を使って生きて、好きに死ねばいい』。そう言ってたわ。……ミカはあの人と違って心無い本当の魔族だけど、それ以外は本当に自分に似てるからというのもあるのかもね」

 

「あー、確かに。でも、それを聞いたらソリテールは無理にでもミカをゴーレム化しそうね? 魔族時代から複雑な人間心理への理解が深かったし」

 

 

 言外にお気に入りの座を取られるかもしれないがそれでもいいのか、とアルに問うエリザベートだが、その点はアルは本当に気にしてなかった。

 

 実際、腕の中で目を細めて気持ち良さそうにしているカフェによって自分の唯一性が失われる時でさえ、全く気にしなかったのだ。

 

 

「少しでもあの人が喜ぶなら別にいいわよ。でも、本当に喜ぶかしら? あの人、意外と繊細だから……傷つかないか心配だわ」

 

「……ミクがどうして他の誰でもなく貴女を推しているのか分かるわー」

 

「??? どういうこと?」

 

 

 それきりエリザベートは話を打ち切って、ステーキを飲み込む作業に戻る。

 

 アルはしばらく困惑していたが、立ち直ったカフェと一緒に自分も料理と曲を楽しむことに戻った。

 

 その後、多くの酒場の客と同様に彼女たちは朝までゆっくりする気だったが、詩人が締めに『蛍の光』を演奏したので、何となく満足して帰宅してしまうのだった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。