古魔族、放漫のトラオムの羽ばたき   作:リッチ

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水銀を操る魔法

 

 

 

 吾輩は魔族である。我が名は放漫のトラオム。

 

 ゼーリエちゃんにはまだ娘がヤバイ覚醒をしたことはバレてません。

 

 でも、遅かれ早かれだよなあ。

 

 ……何で俺の家族や友達の強い女はみんなヤバくなるんや。

 

 ゼーリエちゃんは俺のことを自分の所有物だと思っている節があるし。

 

 アムの奴は帰って来る度に俺の下着類を行方不明にしやがるし。

 

 エルフのバカ娘は俺の『固有時制御の魔法(ヘイスト)』を改良して『半分の時間で妊娠出産できる魔法』を作ろうとしてるし。

 

 まともなのはリーダーとコッコロとアルちゃんだけだったよ……。

 

 

 ちょっとした心配事があったので、『完全な避妊の魔法』を作りました。

 

 ゼーリエちゃんの例の魔法に対する対抗策ですね。

 

 ダビスタみてーに無邪気に最強魔法使い血統で交配するとヤベー奴が誕生すると判明したからね。しょうがないね。

 

 

 いや、普通の子供なら責任は取れるんだ。

 

 魔法の力でいくらでも養えるし分身で構ってもやれるんだよ。

 

 でも色々と超越しちゃう子がこれ以上に増えると手に負えません。

 

 俺は今回の件で自分の手に負えない存在を生み出す可能性の恐ろしさを身に染みて分からされたよ。

 

 

 

 魔法一筋に見えてたゼーリエちゃんも色々と印象変わったんだよなあ。

 

 最初は単に俺を縛るためかと思ってたんだけど、最近は明確に強めの重力を感じる。

 

『消臭の魔法』と『服の汚れを落とす魔法』を使ってから会うように注意しなくちゃいけない。

 

 服に付いてたアルちゃんの髪の毛は長毛種の猫の毛だって誤魔化したけど、あれはまだ疑われてるな。

 

 

 だって、探知系の魔法がアルちゃんに飛んできたもん。

 

 まあ、指輪の力で俺以外はアルちゃんの魔法的観測はできないんですけどね。

 

 ……普通の共同研究者や友達としての繋がりを期待してたんだけどな。

 

 なんか想像してたのと違う。……そんな今の関係。

 

 

 

 

 

 でも、どんなにこんがらがった関係が増えようとも俺のライフスタイルは変わらない。

 

 魔法万歳。魔法開発こそライフワーク。俺のオリジン。

 

 それにさ、昔のボッチ時代や、分身で孤独を誤魔化してた時代を思えば、やっぱり今の方が良い。

 

 それは間違いないよ。だから後悔してないったらないのだ。

 

 

 

 そういうわけで、魔法の練習。

 

 俺も常に新しい魔法ばかり作ってる訳じゃない。

 

 昔に作った魔法の鍛錬もしている。作った当初は満足な効力がでなくても、練習と改良を重ねることで解決することは多い。

 

 何度も言うが、この世界の魔法はイメージが大事だからね。

 

 それと、呪いと呼ばれる状態変化の魔法は魔族しか使えないと言われているが、俺が手掛けた魔道具を使えば人間だって使えるんだぜ。

 

 ……どうしたって効力は落ちるけどな。

 

 やっぱり人間では呪いを自在に操るイメージが出来ないんだと思う。

 

 それでも、こういった魔道具は間違いなく人類の力になるはずだ。

 

 及ばない分は、愛とか勇気とか絆の力でなんとかしてくれ。そういうのは人間の専売特許だろ? 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 勇者ヒンメルの死より30年後。

 

 黄金郷となった城塞都市ヴァイゼ。

 

 全てが黄金色に染まった冷たく硬質なこの都市にて、対峙する人影がある。

 

 片方は、人間の老魔法使いデンケン。平民出身の軍人だったが、血みどろの権力闘争を勝ち抜き国をも動かせる地位まで辿り着いた傑物である。

 

 もう片方は、最後にして最強の七崩賢、黄金郷のマハト。魔族と人間の共存を夢見て人間に仕え、そして全てを台無しにした大魔族。

 

 

 少し前に、マハトにはかつての同胞からある『解決策』が提示されていたが、それに頼るのはもっと試行錯誤を繰り返してからだという認識だった。

 

 彼が夢見たのは、あくまで魔族が魔族として人間と共存する世界だったからだ。

 

 

 ちょっとした『確認』を終え、ついにその戦いの幕が上がろうとしていた。

 

 

「お見事です。デンケン様。私の魔法に対抗する手段を持ってこられたようですね」

 

「でなければ、同じ勝負の土台にも上がれまい」

 

 

 デンケンはマハトの『万物を黄金に変える魔法(デイーアゴルゼ)』を一級魔法使いの特権として貰った『呪い返しの魔法(ミステイルジーラ)』で跳ね返してみせた。

 

 しかし、マハトはこれに然程驚かなかった。

 

 魔王軍時代の戦いで、古代魔道具を使えばそういうことも有り得ると学習していたからだ。

 

 故に、滅多にできない戦いが成立することに高揚感から薄い笑みを浮かべる余裕さえある。

 

 ちょっとした小道具程度では、己の魔法を完全に破ることなどできないという魔族らしい誇りと自信が彼にもあった。

 

 

 マハトは外套を脱ぐとそのまま黄金の刃へと変貌させる。

 

 対するデンケンは厳しい表情を崩さないまま、魔法で大ぶりな壷を足元に召喚する。

 

 

 マハトは思わず尋ねた。

 

 

「……それは?」

 

「すぐに分かる」

 

 

 はたして、デンケンの言葉は真実であった。

 

 次の瞬間、周囲の黄金の輝きに対抗するような銀の輝きが溢れる。

 

 そしてマハトが次の言葉を発するより早く、明らかに壷の体積を超えた銀の奔流がマハトに向かって迸る。

 

 

「!? ……これは!」

 

 

 城壁さえ穿てそうな巨槍となって銀の輝きは高速でマハトを貫かんとする。

 

 それに対し、マハトは咄嗟に防御魔法を展開すると同時に武器に変えていた外套を盾に変えて防がんとする。

 

 

 

 ──激突。そして、周辺に無数の銀の飛沫が飛び散る。

 

 

 

 マハトの防御魔法は何の抵抗もなく破られていたが、黄金の盾は多少マハトを衝撃で退かせたものの──無傷。

 

 

 それを見届けたデンケンは「やはり突破は無理か」と落胆した風もなく、冷静に分析する。

 

 一級魔法使い試験では頑丈な巨大ゴーレムすらバラバラにした奥の手も、マハトの黄金は傷つけられない。

 

 マハトはデンケンの周囲に戻っていく液状の銀色の物体を見送りつつ、体勢を整えながら話しかける。

 

 

「……なるほど。水銀ですか。それも、普通の水銀ではない。私の黄金と同じく呪いの産物ですね」

 

「その通り。これの名は『月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)』。古の大魔族の呪いを加工して生み出されたゼーレの秘宝の一つだ。しかし、やはり黄金の守りは貫けんか」

 

「当然です。その呪いを生み出した大魔族本人ならまだしも、使い手が人間のデンケン様では真の威力は発揮できません。……それでは、お返しさせていただきましょう」

 

「むっ!」

 

 

 マハトは盾にしていた外套を黄金の大槍へと形状変化させると、勢いよく黄金の地面へと突き立てる。

 

 決して傷つかない呪いの黄金も使い手にとっては話は別。

 

 ひび割れ、砕け散った大地から無数の黄金の金片が濁流の如く吹き出し、世にも美しい地獄を生み出す。

 

 

「久しぶりに楽しい戦いになりそうだ。────魔王軍、七崩賢、黄金郷のマハト。──参る」

 

 

 マハトが名乗りをあげると、すぐさま無数の金片がデンケンへと殺到する。

 

 既にデンケンの周囲に集まっていた水銀は一塊となると、対するように奔流となって迎え撃つ。

 

 先程の攻防を立場を変えて再現した形。

 

 だが、結果は違った。

 

 

「ダメか。……いや、充分だ」

 

 

 拮抗は僅か一瞬。

 

 金片の濁流は水銀の奔流を蹴散らしてデンケンへと迫る。

 

 だが、その一瞬の間に、デンケンは飛行魔法を使って悠々と回避する。

 

 そして、戦いは本格的に始まったのだった。

 

 

 

 

 

(威力では俺の黄金が勝っている。だが、水銀のスピードは黄金に勝っているな。さて、どう追い詰めるか)

 

 

 金色と銀色がぶつかり合い、交錯する戦場で、両者は隙を見て別の攻撃魔法を撃ち合いながら分析を進めていた。

 

 マハトは今の所は水銀も魔法攻撃も完全に黄金で防いでいて、余裕がある。

 

 しかし、弟子であったデンケンはかつてとは比べ物にならないほどに熟達した魔法使いとなっていて、どうにも攻めきれない。

 

 それと、マハトはもう一つのデンケンの手札に気が付いていた。

 

 

(この魔力の異常な揺らめき……特別な魔力回復薬を過剰摂取しているな。確か、あれはしばらくは尽きる事の無い魔力をもたらすが、常に全力で消費していなければ体が内側から破裂して死にかねない物。それに魔力切れこそ心配いらなくなるが、隠蔽は不可能になる上に細かい魔力操作もできなくなるはず)

 

 

 強大な力をもたらす魔道具には相応の代償か、使いこなす難易度の高さが付き物。

 

 だが、マハトから見てもデンケンは見事に水銀を操っているし、飛行魔法や攻撃魔法もとても洗練されていて乱れは見当たらない。

 

 

(百年足らずの僅かな時間で、よくぞここまで……)

 

 

 感嘆しかない。弟子は人間でも上限に近い魔法使いになっている。

 

 

 ──だが、それを打ち負かせるからこその大魔族。

 

 

「素晴らしい。──だが、呪いの扱いで魔族に敵うと思ってもらっては困ります。それに、その水銀の質量は精々が小さな小屋程度。これを防げますか?」

 

「ぐうッ!」

 

 

 マハトが大きく黄金の槍を振るうと、金片は更にその質量を増してデンケンに襲い掛かる。

 

 そして、遂にデンケンは躱しきれずに手傷を負う。着ている魔装服は当然最上級の物だったが、金片はその竜の如き頑丈さを持つ防具をいとも容易く削り取ったのだ。

 

 直撃すれば原形すら残らないであろう、圧倒的な攻撃力。

 

 しかし、デンケンの戦意は衰えることはなく、すぐさま反撃の『裁きの光を放つ魔法(カタストラーヴィア)』を放ち戦闘を継続する。

 

 マハトは金片でそれを受け止めつつ、更に攻めたてる。

 

 

(水銀を全て守りに振り分けたか。移動の補助にも使えるとなると、厄介だな。それに、思った以上に対応が早い。……いや、違うな。これは、俺の動きを思い出しているのか)

 

 

 しかし、デンケンは防戦一方になるどころか少しずつ戦いを対等へと押し戻しつつあった。

 

 信じ難いことだったが、高速で動く水銀に自分を運ばせて縦横無尽に動きながら、確かにマハトの黄金をやり過ごして攻撃してくる。

 

 その頻度と狙いの正確さが徐々に上がっていっている。

 

 

 そして遂に、初めての有効打がマハトに直撃。僅かな間、戦闘が止まる。

 

 

「これは『人を殺す魔法(ゾルトラーク)』……。なんだこの速度は」

 

 

 デンケンは答えず、攻撃魔法を全て『人を殺す魔法(ゾルトラーク)』に切り替えて戦闘を再開する。

 

 実力差は間違いなくあるにも関わらず、デンケンの攻撃はその後も少しずつマハトへ当たるようになる。

 

 マハトはデンケンの『人を殺す魔法(ゾルトラーク)』が自分の知る物ではないと気が付くも、対応ができない。

 

 それを見て、デンケンは言う。

 

 

「一般攻撃魔法とはよく言ったものだな。そして、黄金の守りに自信を持つが故に魔装服を着ていないのは驕りだったな、マハト。……そろそろ、決着をつけよう」

 

「なるほど。私の相手は人類の歴史そのものという訳ですか。……ですが、私は貴方の師であり、倒すべき敵。……ここからは全力でお相手致しましょう」

 

 

 二人の戦いは更に激化していく。

 

 マハトは操る金片の濁流の数をさらに増やした。それぞれの金片の筋は少し細くなったが、より素早く、全方位からデンケンへと襲い掛かるようになる。

 

 デンケンは少しずつ傷を負いつつも致命傷だけはしっかりと避け、マハトに『人を殺す魔法(ゾルトラーク)』を撃ち込んでいく。

 

 二人は少し前から近くでそれぞれの知り合いの魔法使いたちが戦っていることに気が付いていたが、もはやそちらに割く思考力は残していなかった。

 

 

 永遠に思える金と銀の攻防は実際には僅かな時間であり、マハトが勝負に出たことで終局へと更に加速する。

 

 

「さあ……これを躱せますか?」

 

「!?」

 

 

 二人が戦っていた城塞都市ヴァイゼの通りの両端にあった建物が不穏な振動を見せたのだ。

 

 もちろん都市ヴァイゼの全ては黄金に支配されており、これらの建物も黄金である。

 

 ──デンケンは極大の死の予感に、咄嗟に水銀に自分を全力で空中へと放り投げさせる。

 

 

 

 次の瞬間、通りの空間は両端から凄まじい勢いで滑ってきた建物に押し潰されて消えた。

 

 

 絶死の攻撃だったが、デンケンは何とか上空へと逃れていた。

 

 だが、水銀は全て黄金の中に封じられ、デンケン自身も凄まじい勢いで投げさせたために動きが鈍っている。

 

 そこを見逃さず、マハトは黄金の槍を投擲する。

 

 

「おさらばです。デンケン様」

 

 

 建物がぶつかり合った衝撃で金粉が舞い散る世界で、マハトは別れの言葉を口にする。

 

 ──放たれた槍は、狙いたがわずデンケンの身体の中心を貫いていた。

 

 

 

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