古魔族、放漫のトラオムの羽ばたき   作:リッチ

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武器を作る魔法

 

 

 

 吾輩は魔族である。名を放漫のトラオムという。

 

 最近、ようやく放漫の異名が正しい魔族になってきたと思う今日この頃。

 

 ついさっき年齢は950歳になったばかりだ。いよいよ大台が見えてきたな。

 

 あっ、誕生日は毎年ちゃんと祝っているよ。時間感覚の維持の為にね。

 

 俺は3年間待ってやろうとか言っちゃうルーズなドラゴン時間の持ち主では無いのだ。

 

 ポップの様に、閃光のような命の輝きを発しているつもりです。

 

 

 

 魔力量的に、魔族仲間からマウントとられて理不尽な仕事をさせられる可能性はグッと低くなっていると言えよう。

 

 ……長かったな。これで俺も、押しも押されもせぬ大魔族か。

 

 

 

 あんま嬉しくねぇわ。

 

 大魔族に尊敬できる立派な知り合い一人もいねぇからな。

 

 世の中には美味い物があふれかえってるって言うのに、何でカニバるんだろうな、あいつら。

 

 まあ、それはどうだっていい。重要なことじゃない。

 

 俺が気になって仕方ないのは、欠片も信頼できない自己中詐欺師かつ、誇りにしているはずの魔法への意識が低すぎることだ。

 

 本質的に自分の魔法以外は無価値と決めつけてる奴が多すぎる。

 

 流石に年を経た大魔族になるとそういうのは少ないけどさ。

 

 そっちはそっちで強い分、他者の迷惑とか全く考えなくなるからな。

 

 ああは成りたくないと思う。

 

 あと、あいつら見てると、年を重ねたからって人格が育つわけじゃ無いなとも思う。

 

 常に謙虚に、それでいて少年のような若い情熱を持って生きていたいね。

 

 

 

『ゴーレムを作る魔法』の開発だけどね、めっちゃ難航してる。

 

 もう150年目だからね。

 

 いや、そんじょそこらのゴーレムより上等な奴は直ぐに作れたよ。

 

 家の研究所より上等な魔法研究施設はなかなか無いと思うし。

 

 だが、俺は単純な事を忘れていた。プラモですら凝ろうと思ったら無限に凝れるということを。

 

 

 最初に目標を書き出した後、あまりにも理想が有頂天すぎて分身全員が無言になったもん。

 

 ミクダヨーでお茶を濁すことを真剣に考えたのは、一度や二度では無かった。

 

 いや、開発の過程でミクダヨーっぽい邪神像はいっぱいできた。

 

 ある土地の地下深くに封印している。武器世界のラストバトルの地下みたいな絵面になったが、別に動き出したりはしないハズ。

 

 最大の問題は、先が遠すぎて見えない開発に、幾人もの分身が精神に異常をきたしてしまった事だ。

 

 

 ミクにきりたん砲を搭載しようとしたアホは休養させた。

 

 ミクを俺様キャラにしようとしたボケは静かになるまで殴った。

 

 ミクから歌唱機能をオミットしようとしたバカはずんだ餅に変えた。

 

 

 怒りで意図せず『全てをずんだ餅に変える矢の魔法』ができてしまった。

 

 まあ、長期に渡る開発だと副産物が生まれるのは珍しい事じゃない。

 

 この世界の魔法はイメージが重要だから、混迷の果てにヤケクソで謎の新魔法ができてしまうのはあるあるだ。

 

 てか、この魔法……ヤバくない? 

 

 着弾点を焼却しなければ、隠れ家どころかイルルまでずんだ餅になった可能性がある。

 

 うん、禁呪を超えた禁呪だと思われる。封印で。

 

 

 まあ、大荒れして遭難状態だったゴーレム開発もようやく終わりが見えてきている。

 

 でも、だからこそ問題は発生する。

 

 大詰めだからこそミスれないので、みんな神経質になってるんだろうな。

 

 バカみたいにヒットした頭の分身たちの議論を冷静に裁定するのが、本体たる俺の役目だ。

 

 

 今日も一日、頑張るぞい! 

 

 

「被告人、木分身トラオム18号。なぜここに呼び出されたのかお分かりですか?」

 

「……はい」

 

「では被告に質問します。……何故、ミクに盛ったのですかクソボケ。ハイクを詠め」

 

「盛った覚えは無い! てか何でギロチンにセット済みなんだよ! 俺は悪くねえ! 俺は悪くねえ!」

 

「ザッケンナコラー! 親善大使と違ってお前は明確に悪いんだよ! ミクに余計な物つけんな!」

 

 

 自分同士なのに何故、解釈違いが発生するんだろうな。

 

 本体の俺としては不思議に思いながらも沈黙を保つ。

 

 

「多少ならともかく、どう考えても盛りすぎだろうが! 一瞬、雛形見てルカかと思ったぞテメー! 言い逃れすんな!」

 

「トラオム17号も、そうだそうだと言っています。実測したらGもあったぞ」

 

「G!? うせやろ!? これは流石に18号=サンのケジメ案件なのでは?」

 

「う、俺が悪いのではない! 俺の中の盛るペコが悪いのだ! 盛るペコが勝手に!」

 

「通るかっ……! そんなもん……!」

 

 

 一歩引いた目線から見てると醜いなあ。冷静なら論ずるまでも無い案件だろうに。

 

 

「いや、聞いてくれよ。俺の中の盛るペコが言ってたんだ。『確かにミクは貧キャラ。でも、世間一般的にはGまでは貧に属する。つまりミクはGで良いんだ。Gが良いんだ』って。一理あるだろ?」

 

「アイエエエ!? 狂人!!」

 

「俺の知ってる世間と違うんですが」

 

「どうしてこんなになるまで放っておいたんだ!?」

 

「そうやって、ゆかりさんにも盛るつもりなんだろ! それだけは絶対に許さんからな!」

 

 

 そろそろ止めよう。全員俺の顔だから嫌になって来た。いや、俺に顔無いけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私はいいと思う」

 

 

 

 

 

 議論は終わった。

 

 あの後、更にひと悶着あったが、最終的にみんな「そうかな……そうかも……」ってなった。

 

 ふう、猿でも分かる真理を忘却するとは、俺の分身らしくもない。

 

 まあ、これで一件落着だ。ウチのミクさんはG。いいね? 

 

 異論は受け付けない。

 

 

 

 そんなことより、ゴーレムがいち段落したのだから新しい魔法を作ろうと思う。

 

 この前、『視界を飛ばす魔法』で地上を眺めていると、インスピレーションを得たんだ。

 

 

 創生の女神が作ったという、勇者の剣。

 

 

 

 実に素晴らしい。

 

 結界があったので外から眺めただけだが……何てロマンあふれる存在なんだ。

 

 

 ……そこでふと気づいた。

 

 この世界。魔法はあるけど、魔法の武器とかあんまり見ないよな、と。

 

 魔族は魔法で特殊能力のある武器を出したりするけど、あれは自分専用だし、実質は魔法剣だ。

 

 分類で言えばライデインストラッシュであって、鎧の魔剣では無い。

 

 魔法武器がメジャーでないなんて悲しいなと思ったが、脳内に英国紳士が降臨した。

 

 

『逆に考えるんだ。無いと言う事は、自分で作れば第一人者になれるはずだと』

 

 

 天啓だった。

 

 ありがとう、英国紳士。

 

 俺にアドバイスをくれたって事は、俺には黄金の精神が宿っているという事で良いですよね! 

 

 思い立ったら、その日が吉日! 

 

 俺は俺の特別な魔法である『魔法を作る魔法』を展開した。

 

 

 

 

 

 5年と掛からず試作品の山ができたので、世に広めるために木分身に配りに行かせる。

 

 対象はもちろん魔族。

 

 だって、人間に配って裏切り者だって噂されたら、恥ずかしい以前に死ぬし。

 

 有名な大魔族に使ってもらえれば箔が付くだろうと、まずラミアっぽいやつ(推定800歳)に声をかける。

 

 実は前世含めても初めての営業だ。

 

 めっちゃ緊張しているが、気持ちだけでも有能セールスマンになって臨む。

 

 

「どうでしょう。この鞭は岩をも砕けるばかりか、30mまで伸縮自在で動きを思考制御できます。その上に、貴女の魔法の媒介とすることもできますよ!」

 

「ふむ……」

 

 

 金髪ラミアが軽く鞭を振るうと、グンと一瞬にして伸びて高速でしなり、目の前の林を纏めてなぎ倒した。

 

 素晴らしい。少し魔力を込めただけで、この威力! 

 

 そして幸いにも顧客の印象も悪く無い様だ。

 

 

「良いですわね。この消費でこの威力なら、自信をもって勧めるのも分かりますわ。……しかし、『武器を作る魔法』ねえ。まあ、良い魔法なんじゃないの?」

 

 

 ナチュラルに上から目線。

 

 まあ、大魔族なら自分の魔法に相当な自負があるからな。当然の反応だ。

 

 しかし、反応に安堵したら一つヤバい事に気が付いてしまった。

 

 コイツの名前を聞いていない。

 

 どうしよう。今更聞けねえ。いやだって、最初から知ってる前提だったしさ。

 

 この魔力なら有名魔族なのは間違いない。でも、全世界に知れ渡ってる訳ねえだろ。

 

 もちろんそんなこと言える訳が無い。

 

 まあ、別に名前を呼ばなくてもいい感じにヨイショできるでしょ。

 

 仮にだが、内心では邪神ちゃんと呼ぼう。似てるし。

 

 

「それじゃあ、私の魔法を込めて試してみますわ。……壊れても文句言うんじゃありませんよ」

 

 

 宣言すると、返事を待たずに邪神ちゃんは鞭をもう一振り。

 

 さっきとは別の方向の林がまた風通しが良くなる。

 

 だが、先ほどとは違う! 

 

 吹き飛んだ木が、残った切り株が、凄まじい勢いで萎れて行く。

 

 

「あら! 良いじゃない! 私の魔法は離れた場所に影響を与え難いのが課題だったのですわ。これなら充分に役に立つわ」

 

「これは……水分を失わせる魔法でしょうか?」

 

「あら、ご存知無かったの? 私の魔法はそんな程度の低い物じゃありませんの。『万物に急速な老いを与える魔法』ですのよ!」

 

「つよい」

 

 

 邪神ちゃんはバラガン・ルイゼンバーンだった……? 

 

 いや、老いのスピードと範囲はあれ程では無いが、それでも強いな。

 

 というか、俺が結構な強化をしてしまった。

 

 やっぱ怖いスね。大魔族の魔法は。侮れないわ。

 

 

 その後、ちょっとお願いしてドロップキックを見せてもらった。

 

 矢の様に飛んで行って、蛇体で大岩に風穴を開けたよ。

 

 フィジカルも強い。

 

 ……この邪神ちゃんなら、あるいはゆりねにも勝て……勝てるか? 無理そう。

 

 なぜ、都市を壊滅させられるレベルの大魔族が勝てるイメージが湧かないんだ。

 

 ゆりねとはいったい……うごごご! 

 

 

 邪神ちゃんとの取引を円満に終えて別れる。

 

 初めての営業を成功させてしまったぞ! 

 

 この調子でドンドン魔法の武器をメジャーにして行こう。

 

 

 あっ、その後に知ったことだが、邪神ちゃんの名前はロックブーケというらしい。

 

 ロマンシング! 何かサービスしてあげるべきだったかな? 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 勇者ヒンメルの死より20年後。

 

 かつての勇者ヒンメルの仲間、戦士アイゼンは人間の弟子をとっていた。

 

 不器用ながらも、弟子は素晴らしい才能を持っていると信じて鍛えている。

 

 戦士の修行というのはただ体と技を鍛えるだけではない。

 

 敵や脅威についての知識を学ぶのも大事なことだ。

 

 この日、アイゼンはまだ幼さの残る弟子シュタルクに、魔法の武器について教えていた。

 

 

「ほれ、これは俺たちが昔に倒した魔族の将軍が持っていた魔剣だ。……他にも持ってたんだが、みんな旅の間に換金しちまったからな」

 

 アイゼンは一振りの異形の剣を手に持って見せる。

 

 戦士は魔力には鈍感な者が多いが、魔力など感じ取れなくともその異形の刃からは数多の血を吸ったであろう不吉な気配がにじみ出ていた。

 

 

「うわ。怖い。……でも、めっちゃ変な形だな。切り難くないか?」

 

「魔剣は異常に頑丈で寒気がするほどの切れ味を持つ。だが、真価はそれじゃない。そこへ立て。体験させてやろう」

 

「ええ!? やだ! めっちゃ怖い!」

 

「大丈夫だ。これは痛みを与える類じゃない。……そら」

 

 

 怯える弟子の身体を軽く2度、魔剣でつつく。

 

 全く力を入れていないので、この程度では未熟なシュタルクにも傷は付かない。

 

 だが、それでも魔剣はその名の由来を遺憾なく発揮した。

 

 

「……うわっ! なんだ、これ……めっちゃ、体が、重い……」

 

「この魔剣の名は『ワビスケ』。切り付けられた物の重さを倍にする。……そうか、2度で膝もつかんか」

 

 

 アイゼンは声色に僅かに喜色を含ませたが、異常事態にうろたえる弟子には分からない。

 

 

「これ元に戻るんだよな!? ずっとこのままじゃ無いよね!?」

 

「使い手の俺が魔力を扱えないからな。すぐに効果は失われる。魔法武器は使い手が魔力の扱いに長けていない限り、最高の性能は発揮できないんだ。魔族の武器らしいだろう。だが、魔物の血を充分に吸わせれば、戦士の俺でもこうやって短時間は何とか特殊な能力を使える。覚えておけ」

 

 

 基礎的な知識を教えた後、有名な魔法の武器について話していく。

 

 

 暗い輝きを放ち、その光を見た者の視界を闇に閉ざす黒檀のメイス。

 

 火の魔法に消え難く異常に燃え広がる性質を付与する、油の魔杖。

 

 天に向かって矢を放てば、矢の雨となって敵に降り注ぐ魔弓。

 

 

 これらは人間が勝ち取った物だが、南側諸国の戦争でも使われた。

 

 魔族との戦争の時代から、戦士にとっても、魔法使いにとっても、権力者にとってもお宝だ。

 

 人間と戦う際にも気を付けておかねばならない。

 

 

 その他にも知っておかなければ致命的な物についても教えていく。

 

 知っていれば少なくとも覚悟はできるからだ。

 

 

 重量が元に戻ったシュタルクは、特に身体を痛めた風も無く、師匠に気になった事を尋ねる。

 

 

「なあ、師匠。最強の武器って何なんだ?」

 

「お前も気になるか。遥か昔から戦士たちの間で大人気の話題だぞ、それは。そうだな、勇者の剣が別格にして最強の武器だと言われているが……」

 

 

 アイゼンは少し頭をひねって、また幾つかの魔法の武器の名を挙げる。

 

 

「古代の大英雄が魔族から奪い、今は聖都に安置されている魔剣にして狂剣、ドラゴン殺し。行方不明だが、かつて魔炎将アウナスが振るい、数多の人間の英雄を灰に変えたというリュウジンジャッカ。それと、巡業団の『角折り』が持つ最強の魔族殺し、アサナギあたりか」

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