古魔族、放漫のトラオムの羽ばたき   作:リッチ

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ゴーレムの枷を外す魔法

 炎上する大要塞、遂に最大の護りであった都市結界も破られ、魔物の群れと魔族が濁流の如く流れ込んでくる。

 

 異形の群れが殺意をみなぎらせて殺到する様は、精神の弱い者なら見ただけで卒倒するほどのおぞましさだ。

 

 だが、ここは人類最高の戦力が集う要塞である。

 そんな心の弱い者はそもそも居ないし、それどころか誰もが凄まじい修羅場を切り抜けた戦歴を持っている。

 

 

「ひゅー、やばいっすねぇ。人間さんはもっと下がって下さいね~。ダメそうなら逃げてもかまわないっすよ!」

 

 

 崩れかかった城壁の上でそんな軽口が叩かれるが、誰も逃げ出したりはしない。むしろ大声で笑って、「ここでダメならどこに逃げても一緒だよ!」などと無数の野次が飛ばされるくらいだ。

 

 最初に発言した者。黒い翼を持った糸目の指揮官級ゴーレムは、「ちょっとは緊張を解せたかな?」と考えながら、ボーリングのピンめいて整然と整列した配下の下位個体たちに対して命令を下す。

 

 

「地上は他に任せるっす。上を飛んでる連中を撃ち落とすっすよ。集中一斉射撃、用意!」

 

 

 命令が下ると弾かれる様に一斉にゴーレムたちが全く同じ動作で杖を構える。

 簡易ゴーレムは多彩な魔法を使うことはできないが、それでも古代の戦闘用ゴーレムであり、強力な魔弾を放つ機能を持っている。それも、速射弾、散弾、大火力ビーム弾を使い分けられるのだ。

 

 今回使用するのは単発の威力を求めてビーム弾。

『血染めの翼』相手で高位魔族で構成されていると分かり切っているからだ。

 ゴーレムたちの魔力炉は熟練の魔法使いにも匹敵し、火力だけなら一部越える。それでも、生半可な魔法攻撃では『血染めの翼』を落とすことは叶わない。防御魔法の訓練に加えて、人間から略奪した魔装服などで守りを固めているからだ。

 

 故に、指揮官級ゴーレムが採用したのは単体への一斉射による確実な撃墜だった。

 

 

「さあ、行くっすよ! 目標ロックオンっす! うち~↑かた~↓はじめ! ↑」

 

 

 単体でも強力な古代ゴーレムたちだが、数が揃うことで更に強力な戦闘力を発揮する。

 特に指揮官級が居る場合、その配下の個体への情報共有能力により、連携、反応速度、判断能力が激増し、部隊で一つの生き物となったかのような力を発揮する。

 

 

「「「「「ざっけんなこらー!」」」」」

 

 

 舌足らずな少女声のシャウトと共に、ゴーレムたちが一斉射! 誤差ゼロコンマ数秒!

 赤い光線が暗雲を切り裂くように空へ向かって突き刺さる!

 

 

「グワーッ!」

 

 

 不用意に降下してきた魔族に数十の太い光線が直撃! 全身が一瞬にして融解し、爆発四散!

 

 

「「「「「すっぞこらー!」」」」」

 

 

 編隊を組んで地上へと魔法攻撃していた魔族たちの小隊長と思わしき存在を狙撃!

 

 

「グワーッ!」

 

 

 実力者だけあって数発の直撃なら防御魔法で耐えられたであろう。だが、許容値の何倍もの飽和攻撃を受けて生き残れる道理は無し! 爆発四散!

 

 

「「「「「わどるなっけんぐらー!」」」」」

 

 

 残った混乱する小隊員に対し、瞬時に火力を均等に配分して射撃!

 

 

「「「グワーッ!」」」

 

 

 哀れ魔族たちは揃って爆発四散! 一小隊全滅!

 多くの都市を堕とし、無数の人間を殺してきたエリート魔族を次々に討滅していく!

 

 指揮官型に率いられているからこその非人間的統率力だ!

 

 彼女たちは主人への強固な忠誠心と高い戦闘力を合わせ持つ。断じてカワイイだけのお人形さんではないのだ。

 

 ……もっとも、戦時下にもかかわらず、勝手に持って帰ったり、青少年のなんかが危ない行為に使用しようとする不埒者が絶えないのだが。

 だが、度が過ぎた不埒者は謎の暗殺者、ユキ・ニンジャ(ホワイトカル)によって生殖機能をケジメされるという噂もある。控えよう。

 

 

 その後もしばらく、順調に魔族を撃破していく。

 混乱から立ち直りつつある人間の魔法使いや弓兵の射撃も始まり、少しずつ状況が改善しつつあるときだった。

 

 

「さーて、できればフリーレン様たちの援護に行きたいっすね。もしものことがあれば、フランメ様が悲しむっす」

 

 

 大魔法使いフランメが幼い頃に師によって譲り受けて以来、その傍にずっと在ったのがこの指揮官級ゴーレムだ。フリーレンとも絆の繋がりは強い。

 

 だが、一方的にトンボ取りをさせてくれるほど、『血染めの翼』は甘くは無かった。

 

 突如、凄まじい速度で低空を強力な魔力反応が突っ込んで来る!

 

 

「!? まずいっす! 総員、防御魔法を!」

 

 

 指揮官級の判断は遅くはなかった。だが、同時に間違っていなかった訳では無かった。

 

 ──世にも美しい斬撃音が響き渡る。

 

 直後、彼女たちの立っていた城壁がまるでトーフか何かの如く、乱切りにされてしまった!

 この要塞は石だけではなく金属の部分も多い。それがまるで用をなさなかった。

 近くに居た人間の射手やゴーレムたちも、運の悪い者は同じようにバラバラになってしまう。

 

 

「ッッッッツ!!!? まじっすか……」

 

 

 指揮官級は辛うじて脚部の軽傷に抑え、崩れ行く城壁の合間に着地。

 だが、この周辺の被害は目を覆うばかりだ。

 

 怒りと悲しみをギリギリで抑え、彼女は襲撃者を見やる。

 

 

「困りますなあ。そんなに簡単に仲間を撃ち落としてもらっては。新人とはいえ、ミカ様によって見出された者たちなのです。若い芽を摘むのは止めていただきましょう」

 

 

 ゆるりと土埃の中から姿を現したのは、白髪の老人の魔族であった。

 奇しくも指揮官級と同じく糸目で、物腰は柔らかく見えるが、全身から殺気が漲っていた。

 ふてぶてしいたたずまいからは長く生きた魔族特有の余裕を感じさせる。

 

 その手には奇妙な『杖』をついている。

 

 

「……『星杖剣』のヴィザ」

 

 

 指揮官級は薄目をゆっくりと見開きながら、その名を呟いた。

 魔王軍でも古株の、将軍の大魔族の名を。

 

 

「おや、私のことをご存じですか。まあ、私もそちらを知っていますよ。大魔法使いフランメの侍従ゴーレムですな。……主人はどちらで?」

 

「言う訳無いって、分かって言ってるっすね?」

 

「ええ。ですが、何事も試してみなければ分かりませんから」

 

 

 指揮官級は生き残った仲間と敵対者、彼我の戦力差を冷静に確認する。

 

 ……厳しい。正直な話、相性が悪い。

 配下のゴーレム、セイジツモブたちは基本的に遠距離戦仕様であり、指揮官級も接近戦が出来ない訳では無いが得意ではない。

『星杖剣』の持つ魔法武器の性能を考えると、時間稼ぎも難しいだろう。

 

 しかし、絶対にやってやれないほど絶望的な戦力差ではない。

 彼女は普段は穏やかな表情を少しずつ獰猛なそれに変えながら、生き残った部下を集めた。

 

 

「おや、逃げないのですな。一時撤退も許されると思いますが?」

 

「ええ。そうっすね。……でも、試してみないと分かんないっすよ?」

 

「なるほど。これは一本取られましたな」

 

 

 戦場とは思えない緩い掛け合いを続けながら、しかし彼らの合間にある空気は徐々に殺気と魔力で軋み始めていた。

 

 指揮官級は接近戦用の構えを取りつつ黒翼を広げると、翼から赤い霧を散布する。

 

 広がった赤い霧は敵ではなく生き残った味方のセイジツモブたちに降りかかり、その目を赤く発光させ、魔力炉と機体のリミッターを解除する。

 

 指揮官用個体が持つ特殊魔法、『ゴーレムの枷を緩める魔法(ゲキカラスプレー)』である。

 

 

「ほう……それは初めてみますな。古代ゴーレムなど幾ら切り伏せたか分かりませんが、此度は期待できそうです」

 

「あんまり舐めない方がいいっすよ……私も皆も、そんなに容易くは無いっすから。……当機にも実装されている『古代ゼーレカラテ』は魔技。その身で味わわせてやるっす!」

 

「それはそれは…………楽しみですな!」

 

 

 両者は同時に飛び、凄絶なるイクサの幕が上がった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「ドーモ! くだらない下等生物の皆さん! 皆さんを救済に来ました! ぶっ潰します!」

 

 

『滅亡の鞭』によって要塞に開けられた大穴から攻め込んできた魔族たち。

 彼らは思い思いに要塞内に散らばって行ったが、武器庫を急襲するハイテンションな大魔族が一人。

 

 その傍らには従者のように浮かび付き従う、身の丈ほどもある幅広の大剣。

 そしてその頭上には百近い武器群が、同じ様に浮かびながらメビウスの輪を描く。

 

 いずれの武器も朱色の魔力光を纏っており、これが彼──大魔族、『念力』のエレメールの魔法の影響下にある物質の証であった。

 

 

「さあ! 我が魔法、『触れた物体を操る魔法』の糧となるがいい!」

 

 

 死こそが救済とでも言うつもりであろうか?

 叫ぶような宣言とともに、頭上の武器群が五月雨の如く周囲に降り注いだ!

 

 武器庫を守る重装備の騎士には巨大ハンマー。大盾と鎧ごと吹き飛ばす!

 迎撃の為に走って向かってきていた剣士には回転する大鉈、横一文字両断!

 防御魔法で陣地を固める魔法使いと後方支援要員には、無数の槍。多少防ぐも、尽く串刺し!

 

 

「ぐっはははは! どうしたどうした、我が魔法はまだまだこんなものではないぞ! ……そう、こんなものではないはずなのだ!!」

 

 

 狂ったように笑いながらも、判断力はしっかりしている。

 背後から迫っていた手練れの魔物討伐隊の戦士を、背後を見ずに大剣で迎撃。

 動きを止めた直後に、周辺の地上にあえて浮かばせずに置いておいた武器群でハリネズミに!

 弾切れと見せかけるトラップだったのだ! 魔族は騙し討ちに長けている。

 

 

「ぬぅ──! まだまだだ……。まだまだあの高みには足らぬぅ!」

 

 

 大魔族は身悶えしながら武器庫へと弾を追加するために向かう。

 放たれた武器群は再び浮かび、彼の周囲へと戻って来た。

 

 

 エレメールの目に現実の光景と被って映るのは、彼が若き日に参戦した戦場だった。

 

 あの時、未だ自分は高めるべき魔法を見出していない若輩の身であったが、偶然に高位の魔族に見つかって強制的に徴兵されたのだ。

 自身より遥かに強力な魔族たちが振るう『唯一の魔法(アイデンティティ)』。

 必死に逃げ惑い生き残った彼の眼には、その内の一つが焼け付くように印象に残っていた。

 

 そう、あの一瞬にして大地を練り上げ、巨大な砦を生み出した強大なる『念動の魔法』が。

 

 それに比べれば、自身の魔法はまだまだ高める余地がある。

 改良することができる。──もっともっともっと!

 

 かつて一つの戦場で千を超える敵を尽く殺し尽くしたエレメールだったが、その時は大きく前進を感じられた。

 戦場は良い。彼にとっては実戦こそが最高の修行であった。

 

 

 しかし、何時までも魔族の暴虐を許すほど、この要塞の英雄たちは温くはない。

 

 

「そこまでだ! 『冬の吐息の魔法(フォ・コラー・ディーン)』!」

 

「むっ!? 新手か!」

 

 

 駆けつけた一族の次女、リヴェリアが氷嵐の奔流を放つ。

 大気が軋み声を上げ、射線上の全てが凍り付き白色に染まって行く。

 浮かぶ無数の武器群も冷気の奔流にのまれ、朱色の輝きを失い地に落ちる。

 

 しかし、大魔族エレメールはこの程度ではやられぬ。即座に対応する。

 

 

「小娘が、舐めるな!」

 

 

 先程に殺められた要塞の戦士たちに朱色の輝きが灯り、浮遊。

 彼を守るように展開し、冷気の暴虐を止める。

 彼の支配する物体への呪いは、触れることで伝染するのだ!

 

 そして、防御だけは終わらない。離れた位置に保険として放置していた更なる武器群を起動。

 リヴェリアの側面より一斉に襲い掛からせる。危ない!

 

 

「んなっ!?」

 

「ぐっはははは! 死ね! エルフよ! 死ねい!」

 

 

 あわやエルフの少女はネギトロめいてナミアムダブツ……そのギリギリで、インターセプトする存在あり!

 

 おお、それは美しい白色の鎧を纏った精悍な騎士であった。

 彼は手に持った盾と剣で全ての武器群を叩き落す。目にも止まらぬ早業だ!

 そして、その胸元には銀色に輝く『二等星』が付いている。

 

 危ういところを救われたリヴェリアは礼を言う。

 

 

「助かった、終わったと思ったよ。……ありがとう、兄様」

 

「それほどでもない。……まだお前が単独で大魔族を相手にするのは無理だ。先走るなよ、リヴェリア」

 

 

 騎士は振り返らず、油断なく大魔族と相対する。

 

 だが、『二等星』の戦士ともなると人類の大英雄である。

 言葉少なくとも、周囲に残っていた生き残りの戦士たちからは喝采が上がり、士気も回復する。

 実際、「もうついたのか!」「はやい!」「きた! 盾きた!」「メイン盾きた!」「これで勝つる!」と大歓迎状態だった。

 

 

「ふん! 少しは歯ごたえのある敵のようだな!」

 

 

 見下しながらも、大魔族エレメールは警戒を強めた。

 

 彼の操る武器群と接触したにもかかわらず、騎士の剣と盾を操ることができない。

 どんな相手でもこの接触による呪いの伝染によって、己の武器に貫かせ倒せるのだが……。

 騎士が持つのは何らかの高度な魔法の武具であろう。それならば、まだ彼には操れないからだ。

 

 妹を庇った騎士──例の一族の次男は、威圧的に言った。

 

 

「お前の魔法は大体わかった。見破れないとでも思った浅はかさは愚かしい。直ぐにでも俺の魔剣でバラバラに引き裂いてやろうか?」

 

「俺の魔法を見破っただと!? ぐっはははは! 冗談も休み休み言え! ……では、これは見破っていたか?」

 

 

 エレメールの笑い声と共に、武器庫が内側から粉砕され崩壊!

 武器庫に収められていた無数の武器群が飛翔し、彼らの頭上で巨大な円を描く。

 

 そう、彼の呪いは伝染する。援軍の到来を確認した時点で彼は小さなダガーを武器庫へと忍び込ませており、そこからネズミ算的に全ての武器を汚染して支配下に置いたのだ!

 

 

「おい、兄様! これは大丈夫なのか?」

 

「お、俺はこのまま、タイムアップでも良いんだが?」

 

「おいィ!?」

 

 

 流石に予想外の物量に、謙虚な騎士の額にも冷たい汗が流れる。

 

 だが、大魔族は待ってはくれない!

 

 

「ぐっはははは! 貴様ら全員、モスキート・ダイビング・トゥ・ベイルファイアだ! まとめて女神の御許とやらへ行くがいい!」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 魔法都市オイサーストの大陸魔法協会本部はざわついていた。

 

 先日、いきなり連絡もなく姿を消した魔法協会の長が帰って来たからである。

 

 その傍らに、詳細は不明ながら不仲で有名だった一人娘を伴って。

 

 

 他ならぬ大魔法使いゼーリエの私室にて、妙な空気が流れていた。

 

 孫たちが見守る前で、大魔法使いゼーリエが娘に髪を結われていたからだ。

 

 髪を結われるゼーリエはショボショボ顔でされるがままである。

 

 一応、千年ちょっとの親子喧嘩は終わったことは伝えられていて、これは仲直りの証であるが、ゼーリエとしては孫たちの前では勘弁して欲しかった。

 

 

「ママったら、ちゃんと私の記録を集めてくれてたんだ」

 

「……巡業団の連中が勝手に届けて来ていただけだ」

 

 

 ゼーリエの私室には秘密の地下室があったのだが、何故かバレてあっさり暴かれていた。

 

 中にあったのは無数の一族の成した事績の記録。

 そして一際しっかりと保護魔法を掛けられ大切に保管されていたのが娘の記録であった。

 ゼーリエは誰にも知らせるつもりは無かったのだが、よりにもよって娘にバレてしまった。

 

 口を一文字に結んで意地を張ってみても、娘にはまったく堪えない。

 

 実際、孫たちから見てもかわいいだけのツンデレおばあちゃんだった。

 

 

 娘はニコニコとして母の肩に手を置き、後ろから話しかける。

 

 

「手合わせするのも千年以上ぶりだったけど、やっぱりママにはまだ敵わないわね。もうちょっと食い下がれると思ったのだけど」

 

「……お前が戦士としての力も振るえば、分からなかっただろう」

 

 

 親子の手合わせはゼーリエの勝利に終わった。だが、それは決して楽勝だった訳では無い。

 

 ゼーリエは自身の中で娘がどれくらい成長しているか具体的な予想をしていたが、娘はその想像を遥かに超えてきた。

 

 それも、あくまで魔法使いとしての戦い方でだ。切るつもりの無かった札を幾つも切らされ、何度も追い詰められたほどだ。

 

 

「それじゃあ、約束が違うじゃない。言ったでしょ。ママとパパを超える魔法使いになるって」

 

「……フン。それならまだまだだ。あまり思い上がるなよ」

 

 

 冷たく釘を刺しながらも、ゼーリエの中には不思議な満足感があった。

 

 ……多分、自分が完全に超えられる未来は、もうそう遠くない。

 一番望みをかけていたのが自分の娘だったが、ここまで成長が早いとは思わなかった。

 

 当然の話ではあるが、熟練すればするほどに成長は遅くなり、壁にぶち当たることも多くなるのだ。環境、才能、モチベーションのいずれかが欠けても、歩みは遅くなる。

 

 だからゼーリエは娘の成長を才能が故の当たり前とは思わない。

 誰よりも魔法を知っているからこそ、半端な努力で到達できる領域ではないと分かる。

 文字通り、血の滲むような修練の賜物を、戦いの最中で感じ取っていた。

 

 ……本気で、自分を超えようとしていたのだ。千年間、一度も褒めてすらやらなかったのに。

 

 いざという時に魔神を止めるため、ずっと温めていた切り札すら幾つか切らされた。

 

 それが、ゼーリエに「もういいか」という思いを浮かばせる。

 

 だが────

 

 

「ママ、長生きしてよね」

 

 

 不意に、背後から抱きしめられる。

 

 

「……なんだ、藪から棒に」

 

 

 思わず一瞬だが息が止まった。そこへ、揺るがぬ強い意志を感じさせる言葉がかかる。

 

 

「絶対、私がパパも超えて見せるから。ちゃんと見届けてよね。……約束でしょ?」

 

「……ああ、そうか。……そうだったな」

 

 

 後ろから覗き込んで来る娘から逃れる様に顔を背けた。

 自分でもくだらない意地だと思ったが、今の表情だけは見られたくなかった。

 

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