古魔族、放漫のトラオムの羽ばたき   作:リッチ

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適応する魔法

 激しい雷撃にのみ込まれた敵集団を前に、フリーレンと『煉獄』は合流して立ち位置を調整する。

 

 相手は伝説の大魔族。魔王軍でも五指に入る古魔族である。この程度で終わるはずが無い。

 

 二人は油断なく雷撃が巻き上げた土埃を睨みながら話した。

 

 

「ちょっと。もし私が間に合ってなかったら、どうするつもりだったんだ」

 

「あら? フリーレンがこんな絶好の機会に間に合わないわけないでしょ?」

 

「そうだけど。かなり焦ったよ。『血染めの翼』は強敵揃いだ。大魔族級を複数相手にすることになったら勝ち目はなかったよ」

 

「しょうがないじゃない。奴らが地上に降りてくることなんて滅多に無いわよ? その中でも、あいつ……『破壊の魔天使』はね」

 

「……あいつ、明らかに反応が早かった。噂には聞いてたけど、おそらく『流星の魔法』だけじゃないよ」

 

「ええ。古魔族だもの。普通の魔族の定義には収まらないわ。だからこそ……」

 

「ああ。この絶好の機会に仕留めなければならない」

 

 

 復讐者たちは話し合いながらも魔力感知を切らさない。

 実際、最も強力な魔力反応は健在だった。これからは真っ向勝負。……間違いなく、これまでで最も激しい死闘となるだろう。

 

 

 

 古魔族の定義は諸説あるが、普通の大魔族とは違い、単に長く生きた魔族が全てそうなれる訳ではない。

 

 一部の特殊な性質の魔法を持つ魔族だけが到ることができる。

 

 共通している特徴は、普通の魔族の習性からは乖離した行動をするようになることと、特殊な魔法を極め過ぎて魔族の寿命すら超越して強くなり続けることだ。

 

 ある者は、圧倒的な力で社会性の薄い魔族の常識を覆し、大規模な軍勢を組織した。

 

 ある者は、『急速な老いを与える魔法』の応用で、永遠の若さを得た。

 

 ある者は、個人主義の魔族で高度に組織化された部隊を編成し、教育さえしてみせた。

 

 ある者は、無限に溢れる善性を抑え込むために、己に一日一惡のノルマを課していた。

 

 そして、ある者は、歴史の闇で人々の夢の世界に潜り、手に負えなくなった。

 

 

 ──放置していれば、いずれ人間は勝てなくなる。

 だからこそ、古魔族は一日も早く倒さなければならないのだ。

 

 

 不意に、凄まじい風が巻き起こり土埃が晴れる。

 

 魔法が使われた形跡は無し。

 見れば、少しばかり焼け焦げた『破壊の魔天使』が腕を振り上げていた。

 

 彼女は魔族の練達の戦士である将軍ではない。

 だが、そこらの将軍など及ばない身体能力の持ち主ではある。

 巻き起こった風は、ただ思いっきり振るわれたその美しい細腕が発生元だった。

 

 人間が殴られれば、一発で骨を折られるだろう。かつての修道院のモンク(鬼龍)の如く。

 

 身体能力は高くないフリーレンは流石に冷汗が背を伝う。だが、強い殺意が籠った視線は揺るがなかった。

 

 

(防がれたか……。渾身の一撃だったんだけどな。どんな防御魔法だ。化け物め。だが、無傷ではない。傷つけられるなら殺せるはず)

 

 

 倒れるまでぶち込めばいい。そう決意を固めるフリーレンの前で、『破壊の魔天使』は、ゆらりと顔を上げ、二人を睨んだ。

 

 その表情は天使とは程遠く、魔女の如き禍々しさが宿っていたが、冷静に見えた。

 どうやら激しい怒りが一周して逆に冷静になったようだった。

 

 

「……『葬送』と『煉獄』だね? せっかくだし、自己紹介しようか。……私は魔王軍が大幹部。『血染めの翼』の指揮官にして三魔将。偉大なる魔王様の腹心。『破壊の魔天使』ミカだよ。貴方たちはこの要塞に救援に来たんだね。……でも、一足遅かったよ。もう内部には複数の大魔族が攻め込んだからね」

 

 

 慇懃無礼に嘲るように言う『破壊の魔天使』に対して、フリーレンと『煉獄』は怯まず言う。

 

 

「遅い? 何が遅いものか。魔王軍の大幹部。お前のことは直ぐに殺して、みんなの救援に向かうだけだ」

 

「私の兄弟も、ママも貴女の太鼓持ちより強いわよ。命乞いの準備でもしなさいな」

 

 

 ミカは少しずつ殺気と魔力を高めながら、ゆっくりと進み出ながら言い放つ。

 

 

「噂通り、無慈悲な奴らだね」

 

 

 そして軽く指を鳴らす。すると、その周囲に大量の燃え盛る小隕石、そして頭上には馬車ほどもある大隕石が出現する。

 魔王軍の魔族の中でも最強の威力と射程を誇る、『流星の魔法』。

 

 

「貴方たちの魔法のワザマエはある程度理解したよ。なるほど、数々の私のお友達、大魔族を破って来たのは嘘ではないみたいだね」

 

 

 対するフリーレンは杖を構えて魔力を練り、『煉獄』は白炎を再び身に纏う。

『煉獄』とフリーレンは順に言い返す。

 

 

「そして次はお前の番よ、ミカ」

 

「魔族は全て殺す。魔王軍も解体して、お前たちの居場所をこの大陸から無くす」

 

 

 ミカは耐えきれなくなり、「ぷっ」と吹き出して言い捨てた。

 

 

「夢見がちを通り過ぎて、夢見過ぎじゃんね?」

 

 

「「魔族、殺すべし!」」

 

 

 二人は同時に仕掛けた。

 具体的にはとにかく接近し、近接戦を挑む。ミカが接近戦でも油断ならぬ実力の持ち主であることは分かっているが、遠距離戦では勝ち目が無い。『流星の魔法』は凄まじい質量と速度を持つが、異常な破壊力に関してはそれだけでは説明が付かない。

 

 魔法は使い手のイメージによって同じ魔法でも質に大きな差が出る。

 おそらく、『流星の魔法』はミカという特別な魔族が使うことによって、『破壊の概念』とでも言うべき理外の力が宿っている。

 そうでなければ、フランメの都市結界がああも容易く破られるはずが無い。

 

 つまり、攻撃を防御魔法で受け止めることは絶対にできないということ。

 

 凄まじい難行だが、フリーレンとその『煉獄』は、全ての流星を躱すかこちらから破壊することで凌がなければならないのだ!

 

 

「あははは! 思い上がったエルフめ! 真の魔族の魔法を見せてあげるよ!」

 

 

 撃ち込まれる白炎が化けた光の矢を、流星が尾を引いて迎撃する。

 

 そして魔法同士が直撃。威力の差は如実に結果に表れた。

 

 流星は多少表面を削られて勢いを殺されただけ。光の矢は掻き消えた。

 

 しかし、フリーレンの前衛も務める『煉獄』にはそれで充分。

 

 

「邪魔よ!」

 

 

 白炎を纏った両腕を決断的に繰り出し、勢いの落ちた流星をカラテで迎撃する。

 

 だが、凄まじい威力とその余波である衝撃波で彼女の白炎の衣が貫かれ、次々と傷を負う。

 

 その頭上より、更に大隕石が迫る! これは防げない!

 

 

「逸れろ……!」

 

「充分よ、フリーレン!」

 

「チッ、これは……磁力だね!」

 

 

 フリーレンがすかさず背後から援護する。『磁力を操る魔法』だ。

 

 流星は金属質故に頑丈だが、磁力の影響を強く受ける。だが、その速度は圧倒的だ。

 フリーレンでも僅かに逸らすのが精一杯。

 

 直後に凄まじい轟音を上げて大隕石が地上に衝突!

 フリーレンは防御魔法を捨てて『磁力を操る魔法』を使っていたため、その衝撃波で内臓を打ち付けられる様な痛みを感じた。

 

 されど、その程度ではフリーレンは止まらぬ!

 

 即座に体勢を立て直して、様々な攻撃魔法で『煉獄』を援護する。

 

 

「距離を詰めればどうにかなるとでも? お前たちの様な愚か者は今までにも何人も居たよ!」

 

 

 眼前に迫ったエルフのカラテと、その背後から魔法攻撃してくるエルフ。

 ミカはその両方を完璧にさばいてみせた!

 その動きは淀みなく流麗で、未来が見えているかのようにあらゆる角度からの攻撃を躱し、いなし、反撃する。拳と流星で!

 

 

「思った以上に馬鹿力ね!」

 

 

 喉元への渾身の突き。足元への回し蹴り。息をもつかせぬチョップの乱撃。

 全てが白炎を纏った攻撃であり、並みの魔族なら防御しただけで防御ごと焼き切られて死ぬだろう。

 だが、ミカは僅かに火傷を負うだけで、ほとんど眉も動かさない。その剛腕で目の前のエルフを破壊しようと逆に殴りかかり、それは辛うじて回避される。

 

 そして同時にフリーレンの援護射撃にも全て対応するばかりか、小隕石でフリーレンを狙い撃ちにしようとすらする。

 

 フリーレンは必死に回避しつつも、流星の衝撃波と炎で負傷していく。

 

 だが、攻撃は絶やさない。思考も止めない。

 

 

「……やはり見えているね。……それがどこまでなのか、確かめてみようか」

 

 

 フリーレンは攻撃魔法ではなく、小さな光の玉を上空に放つ。

 

 これは賭けになる。だが、博打を打たずして倒せる相手でもない。

 

 フリーレンの一見無害な魔法を見たミカは一瞬悩み……次の瞬間、表情を歪ませた。

 

 

 ──りぃん。

 

 ……そんな鈴の音のようなものの後に、光の玉は破裂! 辺り一面は眩い閃光に照らされる! とても目を開けていられない!

 

 

「鬱陶しいなあ、もう! ……ぐうっ!?」

 

 

 その時である。初めてミカに『煉獄』のストレートが突き刺さる!

 

 重々しい打撃音と、肉が焼ける音。初めてミカが怯んだ。

 

『煉獄』は光の中でも一切行動を止めること無く行動を続ける。

 

 

「勝機! 決めるわよ、フリーレン!」

 

「分かった。やっぱり、予知できていたのは視覚だけだったね」

 

 

 異常なまでの回避の種は、宰相シュラハトの模倣とも言える『未来視の魔法』だった。

 だが、本来の使い手に比べれば、ミカのそれは酷く限定的だ。

 実際、フリーレンが読んだ通り、少し先の未来を見るだけ。

 音、匂い、魔力感知などの情報は得られないし、それほど先も見られない。

 それでも恐ろしい魔法だ。不意を打つことはほぼ不可能であり、ほとんどの攻撃に初見で完璧に対応できるのだから。

 

 

「さっさと砕け散ってよ!」

 

 

 ミカは顔を歪めながらも大ぶりのフックを放つ。

 

 極度の集中でゾーンに入った『煉獄』には、それがスローモーションに見えていた。

 

 身を深く沈めて回避。そして両足に全霊の力を込める。

 

 直後に跳躍! 彼女の世界は急加速する!

 

 

「今まで殺してきた分だけ、泣き叫んで散りなさい!」

 

 

『煉獄』は目にも止まらぬ速度で空中で横回転しながら、連続キックを繰り出した!

 

 気配を頼りに、魔法の障壁と右腕で咄嗟にガードを試みるミカ!

 

 だが白炎の宿るキックが押し寄せ、障壁を容赦なく叩き割る! そして腕を連続強打!

 

 まるで、地獄の火災旋風だ。白炎は渦を巻き、勢いを増しながら打ち続けられる!

 

 

「ああああああ────!!!!」

 

 

 ミカは怒りを解放して叫んだ。そして目にも止まらぬ腕捌きで、タイミングを合わせ神業的なブロッキングで連続キックに対応して行く。

 

 何と言うワザマエと底力か! まさかこのまま凌ぎ切ってしまうのでは?

 

 

 だが、それはフリーレンが許さない!

 

 

「『足元をぬかるませる魔法』」

 

「あっ……」

 

 

 分かっていてもどうしようもない状況に追い込まれれば、未来視は意味をなさない。

 

 ミカは足を掬われ、遂に地獄の如き火炎車のガードに失敗した。

 

 そして顔面に連続で強烈な蹴りが炸裂する!

 

 

「ンアーッ!!」

 

 

 錐もみ回転しながら吹き飛ばされるミカ。だが、未だに健在。凄まじい耐久力だ。

 

 隕石によって状況をひっくり返されないため、『煉獄』は決断的に組み付く。

 

 そして『白炎の衣の魔法』を全開! エンチャント・ファイア!

 至近距離で締め上げつつ、イカの如くあぶる!

 

 

「な、め、る、なアアアア────!!!!!!」

 

 

 だが、それでもミカは耐え、ゴリラめいた力で振りほどこうとする。

 

 ────そこで、彼女は信じられない未来を見た。

 

 

「私の稼ぎの数年分だよ。受け取るがいい」

 

 

 気が付けば磁界の砲塔が一直線に伸びていた。

 

 未来視によってそれの威力を予知したミカは正気を疑う。どうやっても仲間を巻き込むからだ。

 

 だが、フリーレンは一瞬の迷いもなくそれを放った。

 

 相棒を見限った訳では無く、諦めた訳でもない。信じたのだ!

 

 

 放たれた弾丸は正確に羽交い絞めにされたミカを捉えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「生きてる?」

 

「……ええ、問題無いわ」

 

「こわ……なんであれで大丈夫なの……。人間の頑丈さじゃないよ……ホントに同じエルフ?」

 

「自分でぶっぱなしておいて酷いわね。まあ、おかしいのは私よりもアイツよ」

 

 

 二人はボロボロだったが、それでも生きていた。既に限界など、とうに超えていたが。

 

 しかし、生き残っていたのは二人だけではない。

 

『破壊の魔天使』もまた、生き延びていた。

 

 とはいっても二人以上にボロボロで、既に戦闘可能では無さそうに見える。

 

 彼女は地面に大の字になって倒れ伏していた。

 

 

「止めを刺す」

 

「譲るわ。……流石に堪えたもの」

 

 

 勝利はしたが、他へ援護には行けそうにない。死力を振り絞った。

 

 そう考えながらミカへ止めを刺そうとしたフリーレンだったが────

 

 

 

 

 

「…………あはは。────ちょっと油断しちゃったじゃんね」

 

 

 

 魔法の産物である、天使の不思議な輪っか(ヘイロー)が、眩いピンク色の輝きを発する。

 

 

 

 そして、ゆっくりと……回転した。──────()()()

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「いやー、みんな元気でやっているようでママは安心したわ!」

 

 

 魔法都市オイサーストの郊外にある森にて。

 母親と仲直りした娘は、ついでに大陸魔法協会に参加している自分の子供たちを集めて交流していた。

 

 ちなみに、ここに居るだけで数は三十を超えている。

 

 ゼーリエはこれ以上に威厳を損ねないために不在だ。手遅れ感はあるが。

 

 エルフの大英雄は、恥ずかしがる子供たち一人一人を抱きしめると、言葉を掛けて行く。

 

 

「マルシル。貴女はまだまだ若いわ。おばあちゃんが上の兄弟と比較して色々言ってきているでしょうけど、無視して良いわよ。生きた時間も時代も違うんだから。大丈夫、貴女は充分に優秀よ。私が言えた義理じゃないけど、今の時代におばあちゃんが求めるような魔法使いを目指すのは色々不合理だから」

 

「ママ…………嘘でしょ……真面なこと言ってる……」

 

 

 この場では一番若い娘を励ますと、思った以上に余裕があったようなので、軽く拳骨を落としてその場に蹲らせ、次へ向かう。

 

 

「エルダリエ。……貴女、里を出ても引きこもり気質が治らなかったのね……。あー、どう生きるのも貴女の自由だけど、自分の食い扶持くらいは稼げるようになりなさいな。まあ、その辺はおばあちゃんにも言われてるでしょうけど。でも、古代ゴーレムのハイエンドに手を出すのだけはやめなさい。アレはニート製造機だからね」

 

「お母さん…………里に帰れないかな……。やっぱり私には世間は厳しすぎて……」

 

 

 甘えんなこの場では一番の年長でしょうと、頭を強引に撫でまわす。

 ……それでも離れ際に、本当にどうしようもなくなったら自分の所(邪教団)へ来なさいと言っておく。

 

 

「カーラ……。貴女に言う事は特にないわ」

 

「おい」

 

「いや、マジでない。あんたは家の一族のふてぶてしさと、しぶとさを煮詰めたような女よ。調子に乗りすぎて兄弟や友達に見捨てられない様にだけ気を付けなさい」

 

「何言ってるんですか! 世界一、華憐でか弱い愛されガールである私に言うことじゃありませんよ!」

 

 

 母は、「そのクソみたいなポジティブさ……おじいちゃん(最凶の変態)にそっくりよ」と言いそうになったが、辛うじて堪えた。

 

 

 そして、ある娘の姿を探したが、見つからないことに残念そうにする。

 

 

「スイの奴は居ないのね。一番、色々と言っておきたい子だったのに」

 

「スイ姉さんはパーティの仲間と一緒に、大陸の北の方に古代魔道具発掘の旅に行ってるわ。……ちょっと厳しいけど、しっかり者で頼りになる姉さんなんだけど、何が心配なの?」

 

 

 マルシルが頭をさすりながら涙目で母に問う。

 

 エルフの大英雄は、「あの子はおばあちゃんの一番マズイ部分(恋愛クソ雑魚ナメクジ)を継いでるみたいだから……」とだけ言って、その後は言葉を濁す。

 

 あんまり面倒くさいツンデレをやり過ぎると、幸せを逃すぞと言ってやりたかった母だった。

 

 

「まあ、人生なんて分からない物だからね。絶対、売れ残ると思ってた一番上の娘が、まさかの恋愛結婚したし」

 

「ああ、あの伝説の……。上の兄さんや姉さんがすっごく恐れてるんだけど、そんなに怖い人だったの?」

 

「フリーレンと二人で魔族撃破数の最高記録を持ってるからね。しかもぶっちぎりで。……あの二人、相性が良すぎて一緒に蝋燭みたいに燃え尽きるまで戦うんじゃないかと気が気じゃなかったわ」

 

 

 母は当時を思い出して頭痛がして、眉間を手で揉み解す。

 

 しかし、当時を知らないマルシルたちには実感が湧かない。

 

 

「フリーレン様にはお会いしたけれど、そんなに怖そうな人じゃなかったんだけど……」

 

「あれも相当丸くなってるからね。……だからこそ、あのヘタレ勇者には複雑な思いが……。どうせならお子様を成長させた責任取りなさいよ……。いや、フリーレンが悪い所もあるけど……。家の長女も似たようなものだったのに、どこで差が付いたのかしら……?」

 

 

 ちなみに長女は旦那を捕まえると、あっさり魔族狩りは引退して田舎でのんびり主婦を始めたらしい。子宝にも恵まれ、一家で宿屋をやって幸せに暮らしたとか。

 

 唐突な相棒の離脱をフリーレンは特に恨まず、師匠から受け継いでいたハイエンドゴーレムと淡々と魔族狩りを続け、その内に勇者ヒンメルに勧誘されたという経緯だ。

 

 運命の不可思議さを感じざるをえないエルフの大英雄だった。

 

 

 その後も少々過剰なスキンシップをとっていた親子だったが、親に見えないところで目くばせが行われていた。

 

 子供たちの中にはこの後にある予定があった。

 

 それにはゼーリエがこの場に居ない事は好条件であったのだ。

 

 

 交流が一段落した後、一級魔法使いとなったカーラが母の前に歩み出る。

 

 

「母さん。ちょっとお願いがあるんです。こっちに来てもらえますか?」

 

「うん? どうしたの?」 

 

「その…………できれば、私も久しぶりに頭を撫でてもらいたくて……」

 

「あら! 珍しいわね。貴女は滅多に素直に甘えて来なかったのに。しょうがないわね、いらっしゃい」

 

 

 母は快く了承する。

 

 そして、近づいてきたカーラの頭に手を伸ばした所で──

 

 

 

 

 

「あざーす(ガシッ」

 

「なにっ」

 

「しゃあっ」

 

 

 自分が母に下剋上するということは、娘に下剋上されることもあるということである。

 

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