吾輩は魔族である。名は放漫のトラオム。
もうすっかりこの異名に慣れ親しんでしまった。元は蔑称なのだが。
年は1000歳を超えたが、老いている感じは全くしない。
魔族の寿命ってどのくらいなんだろうな?
寿命で死んだという魔族の噂を聞かないから、この年になって初めて気になったぞ。
最近はロマンをこの世界に広められて、とっても良い気分の俺です。
毎朝ファミマの入店音を聞いて目を覚ます。
ミクの歌声はやっぱり良いなあ。
屋敷の何処に居ても聞こえるのは魔法の力なんだが。
昼と夕の時報もミクにお願いしている。
そっちはランダムで適当な音楽を流してもらっているのだが、今日は何が来るのかと毎日楽しみになった。
ちょっとした工夫で日常に幸せを増やしていきたいね。
でも、食事中に大銀河ボディービルコンテストを10連覇した男の戦闘曲とかは勘弁していただきたい。
いや、ランダムだから仕方ないんだけどね。ミクは悪くないよ。
分身どもが吹き出して食堂が阿鼻叫喚だったわ。
まあ、それも良い思い出になって行くんだろうな。
おっ、今日は竜言語でドラゴンボーンを讃える歌か。
勇ましい歌声を聞きながら、屋敷を出てイルルの頭部を目指す。
そういえば、6重の隠蔽結界を張り巡らせたので、もはやイルルが飛んでいる事は地上からでは分からないだろう。
道中、実験中の分身や、ひっくり返ってお腹を日干ししているティファに遭遇する。
分身たちは、原初より憧れだった魔法の一つ、メドローアの開発をしているな。
残念ながら、まだ納得できる出来ではない。
様々な魔法と相殺させたりして出来を確認するのだが、全てを消滅させるイメージは難しい。
この世界の魔法はイメージが何よりも重要。
想像できないことは実現できない。当たり前の事だが、魔法使いにとっては大事な大原則だ。
魔族はどうやら魔法開発については強力なアドバンテージがあるらしいのだが、それでも伝説に名を連ねるレベルの魔法を作るのは並大抵の事では無い。
現状のメドローアは、封魔鉱を消滅させられないのは仕方が無いが、ずんだ餅に変えられるのはいただけない。
……いや、なんなんだよ、あの魔法。
東北怖いなあ。もっと隠れ家の戸締りは厳重にしとこ。第二、第三の隠れ家も整備しないと。
大事を取って、例の三姉妹の製造も後に回さなければなるまい。
すまんな、きりたん。君は良い子だが、君の姉上がいけないのだよ。
事故ってこの星がずんだの惑星になったら、女神の神罰が下るからね。
そうこうしているうちに、イルルの頭部にたどり着く。
そういえば、イルルもミクの歌が好きなようだ。精神系の魔法で感情を何となく読み取って調べた。
……ティファは何とも思ってないようだが。
俺が俺自身のために作った専用の杖を取り出す。
……まだまだ未完成と言わざるを得ないな。
これからも逐次改良を続けて行かなければなるまい。
果たしてバージョンナンバーはどれくらいまで行くかな?
白状しよう。
実を言うと、世界に広めた魔法の武器の数々も、結構な数が納得のいかない物だ。
ぶっちゃけ、かなりの割合で名前負けしている。
世界法則の壁は分厚かったよ……
『流刃若火』を例にしようか。
まず、どうあっても火力は魔力量の制限を受けます。当たり前だね。
どれだけ効率化しても、どれほど術式を工夫して特殊な効果を利用しても、使い手がヘボなら大した火力は出せません!
というか、俺自身ですら現状では、バフマシマシにしても山爺の火力には及びません!
これでは、天に立つことはできませんね。頼まれてもごめんだけど。
ゼーリエちゃんに渡したら、あの圧倒的火力を完全再現してくれるかな?
その火力で最初に灰になるのが誰なのか簡単に想像できるから妄想で終わるけど。
……それと、斬魄刀系は肝心の卍解が未実装です。
それ以外の系統の武器も、何らかの再現が不完全だったりします。
鎧の魔剣とか、形態の切り替えに30秒掛かるよ。魔法耐性も絶対的な物じゃないし。
まあ、しゃーない。製作期間がそもそも突貫だったし。
5年であれだけ作れた事を誇りたい。人間の時間感覚でも研究内容によっては成果を出せるかは怪しい年月だぞ。
魔法武器を広めるという目的は達成されたから余は満足じゃ。
もちろん、これからも『武器を作る魔法』の改良は続けるが。
以後は誰かにホイホイ渡したりはしません。
そもそも俺にとって本当に脅威な武器はばら撒いてないし。
アカメのとか、月島さんのとか、完全再現でなくてもアカンですわ。
というか、精神系に至っては一つもばら撒いてない。
……それに、ばら撒いた武器にも一応、セーフティは仕込んである。
ともかく、俺の『魔法を作る魔法』の研鑽もまだまだということだ。
望んだ魔法をあっさりと作れない以上、そういうことになってしまう。
嬉しいじゃないか。
先がどれほどあるか分からない今世。熱中している魔法に、果てが無いほどの奥行きがあるのはありがたいことでしかない。
こう考えられるのは、俺が魔族だからなのか。それとも俺個人のサガなのか。
まあどっちでもいい。今、不安なのは……
寿命より先に、才能と元ネタが枯れる事かな!
イルルの頭部の上で跪き、杖を掲げ、天に向かって祈る!
もっと俺に豊かな想像力を! 常人とは異なる発想を! 上位者の思考を!
我が愛杖にして、現状の最高傑作、幻想実現杖アマハラよ!
俺にこれからも面白い魔法を作らせ続けてくれェ──ッッ!
◆
勇者ヒンメルの死より24年後。
戦士アイゼンは、喧嘩別れしてしまった弟子のことを思わない日は無かった。
知らなかったとはいえ、迂闊に弟子の思い悩んでいる部分に触れてしまったのは痛恨だった。
「まさかシュタルクの村が、伝説の『伝承の魔法』を継ぐ戦士の村だったとは……」
どうりで時折、見習いとは思えない、凄まじい技を見せる訳だ。
『伝承の魔法』とは、古の時代に大賢者フェイスレスによって編み出された伝説の魔法である。
その効果は、一族で最強の戦士の技を、次代の最強の素質を持つ者に伝承し続けるというもの。
魔族の呪いの領域にあると言われ、戦士の間では知らぬ者が居ないほどだ。
この大魔法を掛けられた戦士の一族は数多の偉業を成してきた。
一族に討ち滅ぼされてきたのは、最強の名を冠する大魔族たち。
古代より戦場に生き、滅ぼした国は数知れぬ将軍の中の将軍、戦場鬼カイドウ。
あらゆる魔法を砕く魔法と鎧の魔斧で無敵と呼ばれた、災厄のバルバトス。
最速の魔剣で、名のある勇者たちを狙い撃ちで討ち取り続けた、星杖剣のヴィザ。
そして、一族と初代より因縁を持ち、同時にかの大魔法使いフランメの片腕を奪った事でも有名な、忌まわしき蛇、滅亡の鞭ロックブーケ。
輝かしくも血生臭い戦績だ。
一族は世代をかけて大魔族たちの技を見切り、屍の山を築いて勝利してきたのだから。
それでも、彼らが人類でも屈指の英雄の一族であり、戦士たちの憧れの存在であることは間違いない。
アイゼンも若い頃は素直に彼らを尊敬し、憧れていたものだ。
だが……
「その歴史が、あんな小さな背中にのしかかっていたのか……」
なんて残酷な話なのだろう。
伝承が起こった時は、シュタルクが村の人間たちの全滅を確信させられた時であったに違いない。
同時に、本来は優秀な兄が受け継ぐべき物という認識であり、万が一にも自分が一族の歴史そのものを伝承するとは思っていなかったはずだ。
「だが、それは少しおかしい」
村がシュタルクを残して全滅したとはいえ、伝説の一族の血が絶えたとはアイゼンには思えなかった。
巡業団の配布する『英雄大全』によれば、世界各地に分かたれた血族と思わしき英雄がいるのだ。
つまり、伝承者候補はまだまだ残っている。
「……それでも、『伝承の魔法』はシュタルクを選んだ、か」
アイゼンは再び弟子の事を思った。
今はまだ何者でもない。何も成しえていない。しかし誰よりも偉大な戦士になれるはずの男を。