古魔族、放漫のトラオムの羽ばたき   作:リッチ

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未来視の魔法

「ぐっはははは! 弱敵! どうしたどうした! お前たちの力はそんなものか?」

 

 

 無数の武器が宙を舞い、天より地上へと降り注ぐ。 

 そればかりか同時に隙を見て足元を這うように飛んでくる武器! 

 そして、油断なく大魔族『念力』のエレメールの周囲で的確に攻撃をインターセプトする盾! 

 

 もちろん自動的にそんな動作を組んでいるわけではない! 全てはエレメールの驚異的な思考力と魔法操作技術によるものである。人間たちは最初は何とか対応しようとしていたが、武器を受ければ自分の武具が裏切るのだ。今は必死に回避するのが精一杯! 

 

 しかし、その中にも辛うじてエレメールへと反撃する英雄もいる。だが、ごく僅かだ。

 その暴虐を止めることは出来ていなかった。ゆっくりと押され、次々に倒れ伏し、周囲の要塞は破壊されて行く。安全な場所など何処にもない! 

 

 このままでは徐々に不利(ジリー・プアー)だ! 

 

 

「くそっ……! このままでは我々も長くは持たんぞ! どうする、兄様」

 

「うるさい、気が散る。一瞬の油断が命取り」

 

 

 騎士の次兄は必死に武器の雨から妹と仲間たちを守る。

 

 凄まじい鉄壁ぶりにエレメールは業を煮やし始めていたが、より焦燥感が強いのは人間たちの方だった。守っているばかりでは勝てない。

 

 広範囲を薙ぎ払える魔法で剣や槍に斧を叩き落していたリヴェリアだったが、どうしても浮かび上がって行く武器の方が多い。武器に纏わりつく朱色の魔力を睨むが、数は増えるばかり。

 

 リヴェリアは意を決して、兄と仲間たちに言う。

 

 

「……大技を使う。しばらく無防備になるから、守ってくれ」

 

「……問題無い。仲間を守るのではなく、守ってしまうのが騎士だ」

 

 

 兄は力強く安心させるように応えた。周囲の生き残りも彼女を中心に集まり、防備を固める。

 

 しかし、リヴェリアの練り上げる魔力を見逃す大魔族ではない! 

 

 

「ほほう! それが貴様の切り札か! 愚か者め! この俺が見逃すと思ったか!」

 

 

 エレメールが手を天へと翳す。すると、大量の武器群が集まり、組み合わさって行く。

 

 おお……何と言う恐ろしい光景だろうか。無数の武器が空中にて束ねられ、巨大なスネークの如き形状を取る! 武器群が纏う朱色の魔力も濃さを増し、まるで深紅の大蛇だ! 

 

 

「おお! 素晴らしいぞ! ぐっはははは! 我が魔法は更なる次元へと到達した!」

 

 

 戦闘の中での成長。エレメールは実戦でこそ、その実力を伸ばすことができる魔族なのだ。

 

 しかし、ここまで生き残っている実力者たちは怯まない。

 

 

「お前それで良いのか?」

 

「あん?」

 

「……その程度の魔法で本当に勝てると思っているのかと言っている。調子に乗っていると裏世界でひっそり幕を閉じる」

 

「ぬかせ!」

 

 

 朱色の大蛇は武器が擦れ合う音を禍々しい咆哮代わりにして濁流の如く突貫した! 

 

 迎え撃つ騎士たちも咆哮を上げて全力を振り絞る。

 

 謙虚な騎士は腹の底から響くような声で叫びながら、魔剣『グラットンソード』を振りかざす! 

 

 

「ダークパワー!」

 

 

 魔剣から黒い光の奔流が立ち昇り、深紅の大蛇と……ぶつかった! 

 

 

「ぐっははははははは!!!」

 

「ぬっぐ……! ぐぅおおおおおお──!!!」

 

 

 深紅の大蛇の頭部が爆発四散! だが、この蛇は生物ではなく、無数の武器が組み合わさった怪物だ。大量の武器が次から次へと叩きつけられる。

 

 騎士とその仲間たちは目を閉じて集中するリヴェリアを必死に庇いながら、無心に防ぐ。

 

 だが、ゆっくりと押し込まれ、均衡が崩れようとしていた……。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「あははははは! よく頑張ったねえ。ひょっとして、勝てると思ってた? 残念でした! まあ、せいぜいあの世で誇ると良いよ。私にかすり傷を負わせたことをね!」

 

 

 浮かび上がった『破壊の魔天使』の笑い声が廃墟と化した一帯に響く。

 

 何ということだろうか。その満身創痍であったはずの身体には、傷がほとんど残っていない。

 多少の火傷や打撲は残っているが、元の傷を思えば細やか過ぎる。ほとんど全快しているといっていいだろう。

 

 

「馬鹿な……!」

 

「まったく……流石にこれは予想外だったわね……」

 

 

『葬送』と『煉獄』の魔族狩りコンビもこれには動揺を隠せない。

 当然であろう。死闘の末に古魔族に勝利を収めたと思っていたら、その全てが振出しに戻ったのだから。フリーレンは太眉を歪めて歯を食いしばり、『煉獄』は大きくため息をついてゆっくりと立ち上がった。

 

 

 ……しかし、二人を見下す『破壊の魔天使』ミカも、内心では大いに驚いていた。

 

 

 …………まさか、ここまで追いつめられるとは、と。

 

 

 彼女の古魔族としての圧倒的な実力を構成している要素は三つ。

 

 第一に、圧倒的と言える基礎能力。肉体的、魔力的に彼女ほど恵まれた魔族は数少ない。魔法使いと戦士、その両方を極めるのは魔族の寿命とスペックでも普通は不可能に近い。だが、ミカは生来の能力でそれを可能としていた。

 

 第二に、魔族で最高の、つまり地上で最高とも呼ばれる破壊力と射程距離を誇る『流星の魔法』を手に入れたこと。これこそが己の唯一の魔法(アイデンティティ)に相応しいと磨き上げ、今現在も高め続けている。この魔法はミカの魔族としての努力の結晶でもある。

 

 第三に、自分の魔法だけでなく他者の魔法も少し『理解』しただけで、短期間である程度の模倣が出来てしまう特異な頭脳。これはミカを見出してくれた魔王からも絶賛された、異能ともいうべき能力であり、ミカの強さに圧倒的な厚みを与えてくれている源泉だ。

 

 もっとも、流石に見様見真似では完全な模倣は出来ない。あくまでミカの解釈によってオリジナルに似せて作られた別物の魔法だからだ。現に、『適応する魔法(マコーラ)』は『赤魔公』アルが使っているのを見て真似てみたのだが、本来の性能と比べてかなり落ちている。

 

 適応の光輪を維持する魔力は増大しているし、一度魔法の行使を止めれば付いた耐性もリセットされてしまう。適応までに掛かる時間や、適応後の耐性の強さも落ちている。それでも、スペックの高いミカにとっては充分過ぎる魔法だが。

 

 

(やっぱり、アルちゃんの魔法は凄いね。助かったよ。()()()()()()()()

 

 

 ミカは頭上の光輪を撫でながらそう思った。なお、魔法を盗まれた当人は白目を剥いて、魔法を教えてくれた主人に謝り倒していた。主人は自分の魔法を模倣されたことに喜んでいたが。

 

 ……ともかく、これらが三位一体(トリニティ)としてあることで、無敵の古魔族『破壊の魔天使』ミカは完成する。

 

 そんな彼女がここまで追いつめられることなどこれまでなかった。

 故に、強気を見せながらも慎重に行動する。

 そのためにまず、()()()()()()()()()()()()『未来視の魔法』に相談する。

 

 

(ねえ、今度は目つぶしの類をやってきそうだったら、もっと早めに教えてよね)

 

 

 すると、彼女の視界の端に居る半透明の、彼女にしか見えないセクシーな狐が返答した。

 

 

(分かっているよ、ミカ。でも、視界で確認できない物や、速過ぎる物はやはり対処が間に合わないね。これが終わったら改良しておくれよ)

 

(うん、そうするね。……一体、シュラハトはどうやってそんなに膨大な情報の処理をしてるのかなあ?)

 

(それは分からないな。はっきり言ってあれはおかしいよ。普通の魔法じゃない)

 

 

 ミカは自分にしか見えない狐に思念で尋ねるが、狐は首を横に振るばかり。

 

 これは仕方がない事だ。狐の正体は、魔法でミカの人格をイマジナリーフレンドとして分離させたものなのだから。ミカが考えつかない事はまず教えてくれない。

 

 戦闘中に自分が未来視をすればその情報処理の為に集中力を割かねばならず、どう考えても活用は現実的ではなかったので、こういう形に落ち着かざるを得なかった。

 

 とはいえ、かなり良く出来た魔法だとミカは思っている。

 気に入っているので、改良して自動で防御魔法を使ってくれるようにできないか試行錯誤中だ。

 気が付いていないが、さみしがりやなミカにとっては精神を落ち着ける効果もある魔法だった。

 

 

 

 ────ともかく、危ない所ではあったが、ミカは勝利を確信していた。

 

 あとは念のために接近は許さない様にして、『流星の魔法』で押し潰せば終いだ。

 

 悔し気に睨んで来るエルフたちを、最後に煽ってやることにする。

 

 

「生物としての格差を理解しなよ。捕食者と、被捕食者。支配者と、被支配者の意味をね。魔族こそがこの世界を統べるのに相応しい支配者種族なんだよ。ちょっと魔法が使えるようになったからって、エルフ風情が調子に乗り過ぎじゃんね?」

 

 

 ミカはフリーレンたちの心を折るために、力の差と己の戦う意味の正当性を、威圧的かつ確信的に、しかしどこか自分に言い聞かせるように説いた。それは魔王によって説かれた思想であった。

 

 

 ……だが────それでも、フリーレンたちは殺意と共に戦意を燃やした。

 

 

「笑わせるな。強いだけの怪物が、支配者だと? 寝言は寝ていいなよ」

 

「そういうのは勝ってから言いなさい。ご自慢の魔法で私たちを殺せていないんだから、滑稽だわ」

 

 

 フリーレンたちの目に絶望は無い。圧倒的にミカが優位なはずなのに。

 ミカはその迫力に、一瞬だが飲まれた。

 それが気に入らなくてしょうがなかった。なぜ、こいつらの目は死なない? 圧倒的に不利なのに。

 

 ミカは特別な存在である。他ならぬ魔王がそう言ってくれたのだ。それが彼女の誇りであった。

 

 思わず声にも怒りが強く出る。

 

 

「……魔族が、私たちが、支配してあげなきゃいけないんだよ! 邪魔な長耳め! お前たちが幾ら長生きできようとも、魔法の深奥に至れるのは私たち魔族だけなんだよ! ……私は支配者種族の、尊敬を集めるお姫様として永遠に君臨するの! 偉大なる魔王様の治める、栄光に満ちた新世界でね!」

 

 

 それはミカの夢。幸せに満ちた未来予想図。達成されなければならない目標。

 

 しかし、そんな素晴らしい宣言も、フリーレンたちには何の感銘も与えなかった。

 

 それどころか、フリーレンは怒りに口を尖らせ、吐き捨てる様に言う。

 

 

「世迷言も極まれりだね……何が新世界だ。……人はそれを、地獄と呼ぶんだよ!」

 

 

 その相棒の『煉獄』はフリーレンとは対照的に冷静に、しかし、ミカにとっては更に受け入れられないことを言う。

 

 

「…………それ、自分がチヤホヤされたいだけでしょ? 貴女、本当に……()()()()()()()()()。……哀れだわ」

 

 

 二人の言葉によって、遂に戦いは再開される。

 

 

「!!!!!!!! …………分かったよ。そんなに早く死にたいなら、潰してあげるよ!」

 

 

『破壊の魔天使』の叫びと共に、頭上に大量の大隕石が出現する! 

 既に周辺は瓦礫の山と化しているが、これが降り注げば瓦礫すら残らないだろう。

 流石に受けきれないと、二人は瞬時に判断する。そして、傷ついた体に鞭打って動き出す。

 

『煉獄』は『白炎の衣の魔法』によって白い炎の翼を出すと、そのジェットパックめいた火力で高速飛行しながらフリーレンを掻っ攫う! 

 

 

「フリーレン! 私は回避に徹するわ! 攻撃と作戦は任せたわよ!」

 

「ぐえっ! もっと優しく掴んでよ……。まあ、そうするしかないよね」

 

 

 後を追うように大量の流星が尾を引いて迫る! そして豪速で瞬時に背後に着弾していく! 

 爆音に次ぐ爆音! 凄まじい衝撃波に半ば吹き飛ばされるようにして二人は飛ぶ! 

 抱えられて飛ぶフリーレンは、先程まで自分たちが居た場所がクレーターまみれになったのに冷や汗をかきながらも思考を回す。

 

 

(牽制にこちらからも……いや、無意味だね。あいつは生半可な魔法じゃ殺せない。でも、私にはあれ以上の火力は無いし……。悔しいけど、増援を待つしかないかな)

 

 

 フリーレンは先程に有効だった『閃光玉の魔法』を主体に、足止め系の魔法で時間を稼ぐ。

 

 それは実際、この場でフリーレンが取れる最善手であった。……しかし、最善手が勝利につながるかといえば、そうではない。

 悔しいが、まだ若く未熟なフリーレンと『破壊の魔天使』ではそれだけ隔絶した差があった。

 

 それでも、少しでも『破壊の魔天使』を拘束しておけば、この戦場なら他への援護になるし、逆に他から助けが来る可能性もある。

 

 

「この下手くそめ。あててみなよ」

 

「鬱陶しいなあ、もう! 私は魔王軍の大幹部なの! みんなに尊敬されるお姫様なの! だから……あなた達長耳は、私に潰されるべきなんだよ!」

 

 

 フリーレンの挑発によって『破壊の魔天使』は更に激昂し、途切れなく『流星の魔法』を放って来る。

 

 

(大丈夫だ。まだ、耐えられる。しかし、足止めの効果が薄くなってきたな。やはり、あの光輪の効果か? ……情報を少しでも集めないと)

 

 

 直撃すれば相棒はともかくフリーレンは一撃で死ぬだろう。そんな爆撃を受けながらも、フリーレンは思考を回す。それが教えだ。相棒の母親に紹介された、第二の胡乱なセンセイの。

 

 

『思考を止めるな。無敵の魔法も、無敵の魔法使いも存在しない。全ての魔法は必ず別の魔法によって破ることができる。生き残り続ける限り、必ずチャンスはやってくる』

 

 

 轟音と熱と衝撃波を伴って押し寄せる死を見つめながら、フリーレンは緑髪のエルフから授けられたインストラクションを思い出していた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「ヴェアァァァァァァ!?!?!?」

 

「……ついに追い詰めたわよ」

 

 

 きったねぇ悲鳴とともにその蛇体が宙に舞い、無駄に長い滞空時間を経て、車田落ちする。

 

 血塗れで地上に落ちた下半身蛇の怪物は、哀れに痙攣しつつも転がって無様に距離を取る。

 

 しかし、その代名詞とも言う魔法武器の鞭は粉々に砕け、その身も満身創痍に見えた。

 

 

 周囲の人間たちからは大きな歓声が、魔族たちからは動揺した声が聞こえる。

 

 この戦場で最も重要な戦いに決着が付こうとしていた。

 魔族の有様を見てみれば、勝敗は明らか。

 ついに、長きに渡って人類を蹂躙してきた怪物が沈もうとしていた。

 

 しかし、往生際が悪くも怪物は震えながら体を起こし、吠えた。

 

 

「ふ、ふざけるなァァァァ! こ、この至高の大魔族であり古魔族でもある私に対して! よくもやってくれたなァ!!」

 

 

 それに対し、怪物────『滅亡の鞭』を追い詰めた女戦士は落ち着いた声で冷徹に答えた。

 

 

「勝負ありね……。先祖の無念を晴らさせてもらうわよ」

 

 

 その手には先代の『伝承の戦士』が勝ち取った、『災厄』のバルバトスの魔斧が握られている。 

 今代の『伝承の戦士』であり、歴代でも最強と言われる女戦士は、意外にも小柄な体格で眼帯をつけていた。

 彼女は巨大な魔斧を軽々と担ぎ上げると、最後の一撃を見舞うべく構えを取る。

 

 それに対し、古魔族ロックブーケはあくまで不遜であった。

 

 

「クソ忌々しい一族め! 潰しても潰しても湧いてきやがって! あまりこの私を舐めるなよ! 武器が無くなった程度で勝ち誇るんじゃないですの!」

 

「……それが最後の言葉でいいのかしら?」

 

 

 唾を飛ばしてやかましく話す『滅亡の鞭』に対して、女戦士は静かだった。

 戦い方はまったく静かではなく、火が付いたようなラッシュで一気に追い詰めたのだが。

 

 ともかく、『滅亡の鞭』の攻撃は、一族の積み重ねた『見切り』の前にことごとく攻略され、その末に悲願が結実しようとしている。

 

 

『滅亡の鞭』はそれでも敗北を認めようとせず、最後の力を振り絞って攻撃を放とうと、蛇体をバネの様に使って大きく跳躍する!

 

 

「やられる前にやってやる! これで私の大逆転勝利ですの! この陰キャ貧乳暴力女! くらえ! かつて伝説の魔神すら怯ませた、我が必殺のドロップキーーック!!!」

 

 

 それは巨大な岩すら砕き、呪いの追加効果によって砂に変えてしまう文字通りの必殺の一撃! 

 

 矮小な人間など、直撃すれば一瞬にしてクズ肉に変わり、その後に灰に還るであろう! 

 

 ……当たればの話だが。

 

 

「…………さよなら」

 

 

 大戦士ユリネは渾身の飛び蹴りをあっさり回避しながら、無慈悲に魔斧を振り下ろした。

 

 その瞬間────空間が割れた。

 

 

「──────あがっ」

 

 

 邪悪な魔族はあっけなく縦に真っ二つに────最後の一撃は、切なかった。

 

 

 そして、この戦場で最強の魔族が倒れたことで、魔法使いでなくとも分かるほどの強大な魔力の圧力が失われたことが、戦場全体へと伝わる。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 緊張を高めつつ拳を構え合う、美しきエルフの姉妹。

 実の姉妹では無かったが、そんなことは関係がないほどに強い絆で結ばれていた。

 熟練の戦士としての気迫と、古き魔法使いとしての魔力がぶつかり合い、大気が張り詰めている。

 二人は幾らかの間合いを保ったまま、円を描くようにして横歩きした。

 

 

「義姉さん。……貴女には多くのことを教えてもらったわ。でも、だからこそ言わせてもらうわよ。……私に勝てると、本気で思っているの?」

 

「……義妹よ、確かに貴女はとんでもない早さで強くなって行きました。……まさか、ゼーリエ様やナルメアと張り合うようになるとは、昔は思ってもいませんでした……ですが、私にも貴女や巡業団の魔人たちの先達としての、……そして、お父様の最初の子としての意地があります」

 

 

 真剣勝負に臨む二人だが、その間にはやはり深い親愛の情が感じられる。

 しかし、両者が認識している通りに、その実力には今では大きな隔たりが出来ていた。

 

 

『天翼の慈母』コッコロは万能の英雄である。

 魔法使いとして、戦士として、僧侶として、一流の実力を持つ、武芸百般にして才色兼備のエルフの英雄として有名だった。……だが、その名声もこの義妹の前では霞んでしまう。

 

 痴女のような恰好をしているというか、実際そうなのだが……義妹は間違いなく天才を超えた天才にして、女神に愛されたエルフだった。

 

 コッコロは様々な分野で一流だったが、義妹はそれら全てで超一流。……僧侶として、女神の魔法を使うことはなくなったが、使えない訳では無い。

 

 実際に積み上げた戦果でも、桁違いの差が存在する。

 

 そう、これは勝ち目の無い戦い。どれだけコッコロが粘れるかという戦いでしかない。

 

 

 だが、義妹は全く油断などしていなかった。

 それが義姉に対して失礼に当たるからではない。『勝ち目の無い戦いはするな』というのが父の教えであり、それが自分の一族の、そして義姉の戦闘哲学として刻み込まれていることを知っていたからである。

 

 

 (──さあ、どんな手で来る? コッコロ義姉さんなら、天狼の群れくらい呼び出しても不思議じゃないけれど……)

 

 

 義妹が更に緊張を高める中、コッコロは表情を変えずに言った。

 

 

「申し訳ありませんが、最初からまともに戦う気はありません。──せいぜい悪く思ってください」

 

「それは、どういう──」

 

 

 

 どういう意味だと言おうとしたその時、脈絡なく彼女は横合いから凄まじい衝撃を受けた! 

 

 

「──んなっ!?」

 

 

 アンブッシュだ! しかし、警戒を高めていた大英雄に対してそれを成立させられる存在がどれほど居るだろう? 

 

 答えは直ぐに出た。突き出されしは、青々しい長ネギ! 

 

 

「この放蕩娘! ちょっとは自重しなさいよ!」

 

「げぇっ! ミクさん! ちょっと義姉さん! この助っ人は反則でしょ!?」

 

 

 エルフ娘が頭が上がらない相手のもう片方。それがミクさんである! 

 ダブルネギソードを双剣の如く乱舞し、最強のゴーレムのスペックで容赦なく襲い掛かる! 

 並の戦士なら初撃で決着がついていたであろう破壊力! 

 

 だが、エルフ娘は断じて並ではない。何とか立て直し、両手を使って神速の連撃を捌いて行く。

 

 そこへコッコロが踏み込む! 全力のカラテでミクを援護! 

 

 

「お父様とゼーリエ様に代わって貴女を窘めるのが我らの役目! 参ります!」

 

 

 流石の大英雄もこれには一気に押し込まれ、何度も痛打を浴びる! 

 

 

「くうっ! ちょっとこれ洒落にならないわよ!」

 

「一回思いっきりへこまされなさい! ……『ゼンメツ・アクション・モード』起動!」

 

「おいこら! それって対魔族専用モードでしょ! 私、エルフなんだけど!?」

 

「ミクさんは賢いから騙されない。ボディはエルフでもソウルの半分くらいが魔族の気配がする」

 

「それはあんたのマスターの成分でしょーが!!」

 

 

 いきなり変形しつつパイルバンカーを繰り出してきたミクさんを何とか抑えるエルフ娘。

 

 だが、幾ら何でもこのままでは押し負けてしまう。

 よって不本意ではあったが、戦場での鉄則、『弱い方から狙う』を実践することにする。

 

 

「ごめんなさい! 義姉さん!」

 

 

 そして遂に、一瞬で距離を取り義姉に向かって禁断のピンクの光線を発射! 

 

 流石のエルフ娘も敬愛する義姉に対してはこの魔法を使いたくはなかった。母には遠慮なくぶっぱなしたが。だが、もはやそんな余裕は無い。娘たちにやった完璧な手加減など、この状況でやれるはずもない。よって、非殺傷魔法であるこの攻撃に頼ったのだ。

 

 しかし、この瞬間にコッコロは彼女の予想を超えた! 

 

 

「激流を制するは静水……」

 

「うっそ、マジで!? それパパの曲芸じゃない!」

 

 

 コッコロは身体を捻りつつ跳躍! そして同時にその体表で高速回転する魔力流を纏う! 

 ピンクの光線はコッコロの身体に触れることなく、その周囲を()()()

 これはかつて父親が披露していた、防御魔法さえ使えれば要らない超技術だが、絶対に受けられない魔法に対しては実用性があることをコッコロは見抜いていたのだ! 

 

 

 コッコロは激しく回転しながら、そのまま再びミクさんと打ち合う義妹の元へ! 

 

 エルフ娘はミクさんの猛攻を凌ぎながら、難しい状況判断を迫られる。

 

 

(マズイわ! ぶっちゃけミクさんだけでも普通に厳しい。その上に義姉さんも想像以上に鍛えてる。嬉しいけどホントにキツイ! どうする? いつまでもは堪えられない。てか、ネギめっちゃ痛い! いや、絶対アレはネギじゃないでしょ! ていうか、昔から思ってたけど何でネギなのよ! いや、今はそんな事はどうでもよくて、とにかく義姉さんにも対処しないといけない。でも、タイミングを間違えたらミクさんが一気に決めに来る可能性がある。何時対処する? いや、そもそもどの手札を切って────)

 

 

 

 ────パ ァ ン! 

 

 

 

 奇妙な破裂音が響き渡った。コッコロはエルフ娘を飛び越し、両手を十字に広げて上空にいた。そしてそのままクルクルと回転し、エルフ娘の背後、ネギを収めるミクさんの隣に着地した。

 

 ……右足首に蹴り。脇腹に拳。跳びながら肩に肘。側頭部に蹴り。打撃は一瞬のうちに四度。奥義。アラシノケン。

 

 

「アバーッ!」

 

 

 一瞬にして同時に必殺の四連撃を叩きこまれたエルフ娘が崩れ落ち、地面で激しく痙攣する。

 四つの衝撃が体内で激しくスパークしている。完全な殺し技だったが、コッコロの攻撃力でこの無駄に頑丈な義妹を打ち倒すにはこの技くらいしかなかったのだ。

 

 

 コッコロは残心しつつ、背後の義妹に言い捨てた。

 

 

「……貴女がサガを捨てる方法がもう一つあります。…………赤ちゃんからやり直す事です」

 

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