古魔族、放漫のトラオムの羽ばたき   作:リッチ

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重力の魔法

「……こいつらだけでも!」

 

 

『破壊の魔天使』は周囲に浮かぶ流星をフリーレンたちに叩きこむ!

 

 

 

 ……その時である! 突如として()()未来をイマジナリーキツネに教えられたミカは、近くにいた配下の大魔族のヴィザを突き飛ばす!

 

 

 

「なっ!? ミカ様!」

 

「部隊を集めて逃げて! ……ぐっ!?」

 

 

 そのミカの肩を遠方より放たれた魔力の光線が貫く!

 

 助けに入っていなければヴィザはトドメを刺されただろう。それだけの威力だった。

 

 ミカだからこそ、腕も吹き飛ばない程度で済んだのだ。しかし、当たり所によっては危ないかもしれない程の一撃ではあった。

 

 

 ミカは光線の飛んできた方向を睨む。

 

 

 かなり離れた屋根の上に、先程まで大魔族『星杖剣』のヴィザと交戦していたフランメの侍従ゴーレムの姿があった。

 

 その姿はまたも変形しており、長身で食いしん坊そうな顔をした遠距離特化型の形態を取っていた。この形態の胸部装甲はヤバイ級に豊満であった。

 

 

 

 そう──『星杖剣』と彼女の戦いは、中断したものの彼女が優勢であったのだ。

 

 

 

 近距離戦を制した指揮官級ゴーレムは撤退する敵を追撃し、ここまでやって来ていた。

 

 そしてフリーレンたちを援護するために更なる追撃の魔法攻撃を魔族たちに浴びせる。

 

 

(マズイよ、ミカ。本格的に良い未来が見えなくなってきた。早く引こう)

 

「……もうっ! どうしてこうなるのかなあ!」

 

 

 射撃を躱しながら苛立ちと共に『流星の魔法』を周囲にばら撒き、追撃を受ける周辺の仲間たちを援護する『破壊の魔天使』。

 

 自身の『未来視の魔法』からの助言を受け入れ、遂に彼女は撤退を決心した。

 

 この戦いに参加した魔王軍の二巨頭の両方が居なくなる以上、勝敗は決したと言えるだろう。

 

 だが、まだ戦争が終わった訳では無い。

 

 

 ただでは帰さないと言わんばかりに、満身創痍の魔族狩りコンビが行動を再開する。

 

 

「フリーレン。あいつと『血染めの翼』の配下たち、どっちを優先する?」

 

「もちろんミカだよ」

 

「でしょうね!」

 

 

 死にかけにも関わらず、彼女たちは爽やかささえ感じる言葉を交わして魔法を使う。

 

 フリーレンが砕けかけた杖をかざすと、凄まじい無形の力が『破壊の魔天使』の頭上から降りかかる!

 

 

「なっ!」

 

(いけない! 落とされるよ! 防御を固めるんだ。これは──――重力だ!)

 

 

 魔族でも最上位の飛行魔法の名手としての実力で振り切ろうとしたが、逃れられない。

 

『適応する魔法』も間に合わない。本家の『赤魔公』の魔法なら既に無効化したかもしれないが、ミカのそれでは即座に耐性を得るまでには至らないのだ。

 

 フリーレンは冷たい視線で敵を射抜きながら、残り少ない魔力を振り絞る。

 

 

「私の手札もこれで最後だよ。────さあ、堕ちろ」

 

 

 単純な魔法使いとしての実力なら未熟な今のフリーレンを超える者たちは大勢居る。

 

 だが、魔族狩りの為に集めに集めた手札の豊富さでフリーレン以上の者はほとんど居ない。

 

 

 なお、稼いだ金は全て魔導書や魔道具に注ぎ込む計画性ゼロのやり方をしているせいで、『葬送』と『煉獄』のコンビは万年金欠で苦しんでいる。本人たちは、どうして稼いでいるのに生活が楽にならないのか、真剣に悩んでいる模様。

 

 

 しかし、生活を犠牲にしたフリーレンの魔法は古魔族を遂に引き摺り下ろした。

 

 

「────むぅっ! 舐めるな!」

 

 

 地に落ちながらも大量の小隕石を降り注がせる。

 

 周囲は破壊に次ぐ破壊でもはや月面の如き有様である。

 

 

「今度こそ仕留めるわ!」

 

 

 白い炎を再び立ち昇らせて『煉獄』が突貫。

 

 

 

 ――何としても、この絶好の機会に難攻不落の『破壊の魔天使』を倒さなければならない。

 

 

 

 空は魔族の領域。特に『破壊の魔天使』に空高く飛ばれると、真面な勝負にすら持ち込めない。

 

 これは千年以上も先の未来であっても同様である。

 

 『流星の魔法』は破壊力も凄まじいが、射程距離がなにより無法。

 

 ミカがその気になれば、後のフリーレンの愛弟子の狙撃さえ届かない距離から、一方的に流星を堕とし続けられるのだ。

 

 魔族特有の()()()()()()()()()()()で降りてきてくれなければ、人間側からは戦いの土俵に上がる事すら叶わない。

 

 

 

 故に、これがラストチャンスだと、死の気配を掻い潜って攻める。

 

 

「いい加減に燃え尽きなさい!」

 

「そっちこそ、さっさと潰れなよ!」

 

 

 尋常ならざる頑丈さと白炎の衣で『流星の魔法』を突破し、再び全力で殴りつける!

 

 だが、『白炎の衣の魔法』には既に適応が進んでいた。

 

 ミカは重力で動きを著しく制限されながらもガード。耐性とその生来の頑強さで耐える。

 

 

「ちょっと往生際が悪すぎるわよ……!」

 

「あはは……悪くない魔法だったけど、もうこれじゃあ私は殺せないよ!」

 

 

 

 ──押し切れない。その事実を強く認識しても、フリーレンと相棒は苦しみながらも追撃を止めない。

 

 

 実際、二人には既にミカを倒し切るだけの力と手札は残っていない。

 

 だが、この追撃が無意味かと言えばそうではない。相手を押しとどめていれば援軍が来るからだ。

 

 それに、先程から別の邪魔が入らないように指揮官級ゴーレムは間断なく魔法による狙撃で援護してくれている。

 

 

 そしてそれは、ミカがフリーレンの重力魔法に適応した瞬間に間に合った。

 

 重力の縛りを破り、『煉獄』を殴り飛ばそうとしたミカを矢が射抜く!

 

 

「このっ! 離れ──うっ!?」

 

 

 思わずフリーレンとその相棒である一族の長女は安堵の笑みをこぼした。

 

 彼女たちは現れた魔力をよく知っている。その強さも。

 

 

「おう! 二人とも、よく持ち堪えたな!」

 

「兄さん! 遅いわよ!」

 

「ぎりぎりだったよ、ゼル」

 

 

 現れたのはエルフの一族の長男ゼル。大陸一の弓使いにして、魔法使いでもある。

 

 『煉獄』にとっては家族であり、唯一の年上であり、他の兄弟姉妹と違って自分を怖がらない頼れる兄である。

 

 フリーレンにとっては昔から同族を集めた魔物討伐隊で何度も助けてくれた恩人だ。

 

 そしてこの時点では間違いなく二人よりも強力で、実際にこの戦場で母と共に多くの魔族を倒してきた男だった。

 

 

「お転婆が過ぎたな、お嬢さん。アンタの配下の『血染めの翼』も半分は地獄へ送ったぜ」

 

「次から次へと……!」

 

 

 連続で弓矢が放たれ、正確無比にミカへと撃ち込まれる。

 

 もちろんミカも回避や迎撃をしようとしているのだが、フリーレンたちが妨害する。

 

 それでも撤退しようと再び飛び上がれるタイミングを図っていたミカだったが、ふと、自分の身体に違和感を感じる。

 

 

(ミカ! 呪いを受けているよ! それも複数だ!)

 

 

 時間差で発動する物だったために未来視も遅きに失したが、イマジナリー・セクシーフォックスが警告を発する。

 

 

 すると、その未来は一呼吸おいて直ぐに訪れる。

 

 ミカの片足が徐々に石化し、酩酊したような感覚が襲い、魔力感知ができなくなった。

 

 

 ミカは思わず信じられないとばかりに叫ぶ。

 

 

「あなた、魔族の魔法を操れるの!?」

 

「女より扱いは楽さ……。まあ、流石に小道具ありきだけどな」

 

 

 

 人間やエルフにとっては魔族の高度な魔法は手が出ない物とされているが、絶対とは限らない。

 

 物によっては長く研究解析することで解呪できるようになるし、高価な魔剣や魔道具を使えば扱うこともできる。

 

 とはいえ、決して容易くはない。

 

 それに僅かな間でミカの異常な先読みに気が付き、即座に対処してみせたのは流石は大魔法使いゼーリエ自慢の孫と言えるであろう。

 

 

「兄さん! 早くトドメを! そいつは直ぐに無効化してくるわよ!」

 

「私たちの切り札じゃ火力が足りないんだよ。お願い」

 

 

 妹とフリーレンの急かす声に答えつつ、一族の長男はとっておきの矢をつがえる。

 

 

「任せろ。こいつは特別性だぜ。古い魔族の呪いが込めてあるヤツだ。……あばよ、生まれ変わったら違う形で巡り合おうぜ」

 

「──こ、んのっ!」

 

(黒い炎? ロクな魔法じゃなさそうだ。防御魔法を全開にして────いや、これは?)

 

 

 

 動きの鈍った『破壊の魔天使』へと、風を切り裂いて黒炎の矢が飛ぶ!

 

 

 ……だが、彼女の『未来視の魔法』は破滅とは別の未来を見た。

 

 

 

 

 

「……おやおや。随分と追い詰められましたね……。我らが姫よ……」

 

 

 突如としてミカの足元にオレンジのポータルが開く!

 

 ポータルからは開放と同時に闇色の糸が伸びてきて、あっという間にミカを絡め捕ると引き込んでしまう。

 

 トドメの一射はギリギリのところで外されてしまった。

 

 

「んなっ!? 空間魔法か?」

 

「チッ! あと一歩だったのに」

 

「これだから魔族の魔法は……」

 

 

 歯がみしつつもエルフたちは新手へと最大級の警戒を向ける。

 

 空間系の魔法の恐ろしさは巡業団の魔人たちとの手合わせでよく知っているからだ。

 

 

 対応を誤ればあっという間に詰まされかねない恐るべき魔法であり、それでいて初見では完璧な対処は不可能。

 

 例を挙げると、確かに躱したはずのタックルに吹き飛ばされたり、明らかに遠い間合いから届かない夢を追うように伸ばされた手に吸い込まれるように捕まってしまったりする。

 

 こういった魔族や魔人でしか扱えない高度な魔法が理不尽すぎて、どんなに戦力で上回ろうが油断できないのだ。

 

 ……少し前の話だが、魔族狩りで自信を付けていたフリーレンとその相棒は、師匠の紹介で手合わせした巡業団の団長に『転移の魔法』による暗黒物質引き撃ちで軽く捻られたために、空間魔法が軽いトラウマになっていた。

 

 上位の魔人は単体でも古魔族に迫る怪物なのだが、その上に魔族特有の油断も無く、仲間との連携も完璧なのだから本当に手に負えない。

 

 

 

 そして、緊張を高めるエルフ達を窘めるようにオレンジのポータルから戦意の無い声が掛かる。

 

 

「申し訳ありませんが、今宵の宴はここまでになります……。続きはまた次の機会にお願い致します……」

 

 

 人を小ばかにしたような慇懃無礼な声に、フリーレンは眦を鋭く尖らせて言う。

 

 

「どこのどいつか知らないが、随分と無礼じゃないか。代わりに首を置いていってくれてもいいんだよ?」

 

「死にかけでも口は回るようですね……。まあ、欲しければ取りに来てもよいですよ……? ()()()()()()()()()……。それに、ポータルはまだ開いていますから……」

 

「……」

 

 

 流石に追いかけられるはずが無い。

 

 戻り道は無くなるだろうし、向こう側から感じる強大な魔力を考えれば確実に死地であろう。

 

 フリーレンは不機嫌そうに黙った。

 

 

「ふふふ……生き残ったからには、せいぜい魔法の腕を磨いておいてください……。それでは、()()

 

 

 姿無き声の不吉な捨て台詞と共にポータルが消滅し、辺りに静寂が戻る。

 

 気が付けば戦場の音は要塞の外にまで移動していた。既に要塞内の戦いは終結したのだろう。

 

 この半壊した要塞の状態で本格的な追撃は不可能であり、生き残りの救助の方が優先であろう。

 

 

「……私たちもまだまだだね。もっと修行しないと」

 

「そうね。でも、古魔族相手にあそこまで戦えたんだもの。きっと私とあなたなら、魔王も倒せるわ」

 

 

 ボロボロにもかかわらず、フリーレンと相棒は既に次へと思いを馳せていた。

 

 そんな苛烈過ぎる二人に、流石に長兄ゼルは呆れ声を出す。

 

 

「……いや、お前ら重傷なんだからさっさと治療に行けよ……。血塗れで殺る気満々なのは身内でもドン引きだよもう。……ったく、こいつら組ませたの絶対間違いだったろ、母さん。…………男でもできたら落ち着くかな? いや、無理か……こいつら貰ってくれるような勇者が誕生したら、魔王でもなんでも倒せそうなんだがな……」

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 魔王討伐が成されてから一年後。

 

 山深い辺境も辺境にある小さな町。そこへ魔王を討伐したパーティの一員である魔法使いフリーレンが訪れていた。

 

 仲間たちと別れた後、その足でそのまま真っ直ぐこの小さな町へとやってきたのだ。

 

 その旅路そのものは寄り道しながらのゆったりとしたものだったが、目的地と定めてこの何もない町に来たのには当然理由がある。

 

 

 フリーレンは人に会いに来たのだ。自分にとって人生で最も長く同じ時を過ごした相棒に。

 

 

 魔王が倒されたことはこの辺境の町にも当然のように伝わっており、ヒンメルと巡業団の熱心な宣伝によってフリーレンも有名人だ。

 

 この町でも歓迎の宴をさせてほしいと言われたが、それは後日にお願いした。

 

 フリーレンが町を訪れた理由を知っていた町の人々も、流石に邪魔するまいと了承してくれた。

 

 

 

 ────そうして、フリーレンは古びた宿屋の入り口の前に立った。

 

 

(ノックしようかな? いや、要らないか。どうせ私が来たことは伝わってるだろうし)

 

 

 一瞬だけ戸惑ったが、扉に手を掛けようとする────その前に、先に扉が開いた。

 

 

「おかえりなさいませっす! フリーレン様! 魔王討伐おめでとうございます。きっとフランメ様も喜んでいるはずっすよ!」

 

「わあ、びっくりした。……久しぶりだね、イチカ」

 

 

 扉を開けて歓迎のハグをしてきたのはかつて師匠から受け継いだゴーレムだった。

 

 彼女はフリーレンを感無量といった有様で抱きしめると、しきりに頭を撫でてくる。

 

 子ども扱いされているようで居心地の悪いフリーレンだったが、振り払うことができなかった。

 

 実際、昔から家族同然の相手であり、何より本気で祝ってくれていることが分かったからだ。

 

 

 相手が落ち着くのを待って抱擁から解放されると、フリーレンは尋ねる。

 

 

「ありがとうね。それで、あいつは元気にしてる?」

 

「もちろんっすよ。旦那様に先立たれて、息子さんも旅に出てしまったっすけど、本人はとっても元気っす。宿屋は閑古鳥が鳴いてるっすけどね。宿屋の女将のおかげで周辺に魔物が出ても安心だってことで、この町は治安が良いんっすよ」

 

「それ、宿屋としてはどうなの……?」

 

 

 微妙な顔で首をかしげて言うフリーレンに、糸目のゴーレムは「あはは」と笑って誤魔化して中へと誘う。

 

 宿屋の中は閑散としていたが掃除は行き届いており、フリーレンとしては好みのゆったりとした空気が流れているように感じた。

 

 エントランスには、窓際に置いてある音楽の箱から流れる『時には昔の話を』が響いていて、その雰囲気に合っていた。

 

 

 宿泊客は今は誰も居ないということで、エントランスにあるテーブルに通される。

 

 フリーレンが年季の入った木の椅子に腰掛けると同時に、かつての相棒は奥から顔を見せた。

 

 

「あらあら。ようやくやって来たのね。とっくに魔王討伐の報は巡業団がやってきて届けてくれたわよ? ──相変わらずのんびりしてるのね、フリーレン」

 

「どっかの一族がせっかちなだけで、私が標準的なエルフだと思うんだけどなあ。──久しぶり、会いたかったよ」

 

 

 気安い声を掛け合って、二人は席に着いて向かい合う。

 

 二人は千年来の親友だった。お互いの実の家族よりも長い時間を共有したし、遠慮など必要とする関係ではない。

 

 久しぶりに会った相棒は、かつての勇ましく狂気的なまでのオーラはすっかり消え失せて、普通の主婦に見えた。

 

 古い友人たちが見れば驚くだろうなとフリーレンは思った。

 

 もっとも、フリーレンの見立てでは鍛錬は欠かしていないようだったが。

 

 

「生き残りのエルフでは家の一族が大多数を占めるんだから、私たちがスタンダードよ」

 

「いや、そうかもしれないけどさ。……何か納得がいかないよ」

 

「あら? もっと強く言い返して来ると思ったけど、貴女も丸くなったかしら? 昔はよく、“勝利の呪文(いけーっ淫○の娘!)”で私を魔族にけしかけてたくせに」

 

「流石にもうやらないよ……。コッコロに凄く叱られたしね……」

 

 

 軽口を叩き合うと、二人は別れていた時間を埋めるように話し出す。

 

 二人にとってはそれほど長く別れていた感覚は無かったが、それでも何十年分と積もる話はある。

 

 糸目のゴーレムが持ってきてくれたお茶とお菓子を頂きながら、二人は日が暮れても話し続けた。

 

 二人とも楽しそうに、家族同然の相手との久しぶりの交流を深めていた。

 

 

「今回のパーティの無軌道さも大概だったけどね。昔に二人で魔族狩りをやっていた時ほど無軌道じゃなかったよ。というか、やっぱり私たちは無茶をやり過ぎてたみたい」

 

「魔王を討伐したパーティにそう言われるとは思わなかったわね。……ところでフリーレン。その仲間たちはどうしたの? さっきから旅の話を聞いてると、随分と仲を深めたみたいだけど……」

 

「王都シュトラールで別れたよ。まあ、またその内に会う事もあるだろうね」

 

「……その、旅の話を聞く限り、勇者ヒンメルは随分とあなたに良くしてくれたみたいに聞こえたけど…………良かったの?」

 

「うん? 何が? 確かにヒンメルは良い奴だったけど、それがどうかした?」

 

「おお、もう……」

 

 

 何故か昔の相棒が頭を押さえて黙り込んでしまったので、フリーレンは首を傾げる。

 

 ふと見れば、近くに控えて話を聞いていた糸目のゴーレムもなぜか頭を抱えていた。

 

 フリーレンの古い友人たちのほとんどが共有することになる悩みが二人を襲っていた。

 

 

 

 不思議に思いながらもフリーレンは受付台に置いてある家族の魔法写真を見て言った。

 

 

「そういえば、息子は旅に出たって聞いたけど、大丈夫なの?」

 

「あの子は私がちゃんと鍛えたからね。ちょっとやそっとじゃ死にやしないわよ。母さんやお婆様、それに兄弟の皆にも頼んであるしね。……まあ、いざという時の覚悟はしてるわ。でも、貴女が魔王を討伐してくれたおかげでちょっとは安心できるようになったかしら」

 

「まあ、今まで生き残ってるなら大丈夫か。……ハーフエルフも既に珍しくないし」

 

 

 話題として家族の話を振ると、元相棒は優しさと厳しさの両方を持って言い切った。

 

 

 彼女たちとて、魔王軍との戦争の最中に自分で選んで隠れ里を出て生き抜いてきたのである。

 

 みんながみんな生き残れたわけもなく、兄弟姉妹を何人も失っている。

 

 それでも、優しさと甘さをはき違えない強さが彼女にはあった。

 

 

「私はフリーレンの方が心配だったわよ。良い人たちに巡り合えたみたいで良かったわ。まさか、魔王を討伐しちゃうとは思わなかったけど」

 

「ふふん。隠居しなけりゃ、そっちも魔王討伐に立ち会えたかもよ?」

 

「それはちょっと残念ね。……でも、私はこの選択を後悔はしていないのよ。流石に貴女には悪いとは思っていたけれどね。……ねえ、フリーレン──」

 

 

 元相棒は切なそうに手を弄びながら、しかしフリーレンをしっかりと見つめて言った。

 

 

「いつか、貴女も家族を作りなさい。……きっと、貴女にとって掛け替えのない存在になってくれるわ」

 

「……そんなこと急に言われても……。私にはよく分からないんだよね」

 

「……そうね。今はまだそうかもしれないわ。でも、ちゃんと覚えておいて頂戴。お願いよ」

 

 

 子供っぽく言うフリーレンに、すっかり女性になった元相棒は苦笑した。

 

 その後も二人は夜も遅くまで話し続けると、久しぶりに一緒に眠った。

 

 

 フリーレンは数週間ほど滞在してほどほどに満足すると、再び旅立つ。

 

 

 

「ねえ、また一緒に旅をしない?」

 

 

「そうね、それも良いかもしれないわね。でも、まだ家の子が帰って来るかもだから、またの機会にするわ。嫁を連れてくるかもしれないから。────それまで元気でね、フリーレン」

 

 

「……そっか。じゃあ、私もその時を待ってるよ。────またね、ルシフィナ」

 

 

 

 二人は再会を約束して別れた。

 

 エルフである二人にはまだまだ時間があるから、そこに悲壮感はなかった。

 

 もっとも、エルフでない者たちにとってはそうではない。

 

 だからこそ、かつてのフリーレンの相棒は自分がその時間の邪魔をするまいと、同行を断ったのだ。

 

 ……この時のフリーレンは、まだその時間の大切さに気が付いていなかったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 なお、何十年と先の話だが……旅立ったハーフエルフの息子は、よりにもよって母親とフリーレンの宿敵(桃色のお姫様)をパートナーとして連れてきて修羅場を超えた修羅場になる模様。

 

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