吾輩は魔族である。本日は隠れ家ではなく、パーティー会場よりアイサツする。
久しぶりに本体で出歩いている。まあ、逃げ足には自信があるので偶には問題あるまい。
だが、危険な任務が突発的に発生した次第なので、複数の思考によって油断なく警戒している。
え? 何処でパーティーしてるかって?
大陸中央部の北西あたりかな。
地名って人間のはよく変わるし、魔族は個人主義が行き過ぎて、共通の名詞が少なくてなあ。
300を超える同族が集うのは中々に無い事なので、流石に緊張する。
魔法談義とか恋バナとか色々としたいなあ。無理だろうけど。
魔族に期待してはいけないことなど、もう真理として魂に刻まれたわ。
そもそも魔族でなくても本当に俺はまともにコミュニケーションが取れるのだろうか?
前世からドーテー・オツ=クランのアーチクラスのソウルを持って来てしまったからな。
だって全世界の野郎の憧れであろう歌って踊れる美少女人形を手に入れたのに、未だに清い身なんだぜ?
……あんな造形にしたけど、なんか、そういう目で見れないというか、その、分からん。
ひょっとして俺には仙人になれる素質があったのでは? と一瞬思ったけど、ちゃんと欲望はある。
つまり、純粋に俺はヘタレなのか……?
おっと、話題が逸れた。パーティーについてだ。
種類としてはジェノパである。知ってる? あのジェノパだよ。
マイナーだから知らなくても恥ずかしい事では無いよ。
でも、フリゲーの『Eternal League of Nefia』を知ってる人なら知ってるかも。
ああ、『Elona』の呼び方の方が有名かな。
あの世界の神々くらい創生の女神様がアグレッシブだったら、魔族は俺以外は『うみみやぁ!』されてるな。
ああ、それでジェノパだけど、ジェノサイドパーティーの略だよ。
この地方には約300年は続いている結構な規模の人間の国家がありまーす。
現在地から南西にちょっと行った所にあるのが世界的にも立派な首都でーす。
普段から賑わってるみたいだけど、今日は特に凄いよー。
何かめっちゃ慌てながら兵隊さんが集結してるね。
すげー、西洋ファンタジー軍勢だよ。綺麗に陣を組んでて指輪物語の映画みたい!
どうも、闇の軍勢です。
戦争の時間だ! コラァ!! (ヤケクソ)
シュヴェア悲秋の 風更けて 陣雲暗し 中央平原
零露の文は 繁くして 草枯れ魔物は 肥ゆれども
魔軍の瞳 光無く 鼓角の音も 今しづか
大将トラオム めっちゃやむ
どうしてこんなことになってしまったんだ……
経緯を説明するためにも、イカレたメンバーを紹介するぜ!
魔軍総大将、放漫のトラオム!
今回の集いじゃ、ぶっちぎり最強でナンバーワン! 陣中で1100歳になりました!
人間大都市丸ごと踊り食い隊を率いらされてるけど、俺は誓って人殺しはやってません!
特に理由はないのだが、善行を積んで創生の女神様に媚を売っておこうと思ってウロウロしていたぜ。本当に特に理由はないのだが。
同族が集まっているのを魔力で感じてちょっと覗きに来たら、あれよあれよと軍勢のドンにされちまった。
理由は魔力が多いから。
やっぱりこの魔族の習性問題あるだろ!
何で開戦半日前に来た何も知らない奴が総大将にされるんや!
あと、俺は下っ端でパワハラされるのが嫌とは言ったが、最高責任者になりたいと言った事は無い!
追放はよ。たかだか魔力差トリプルスコア程度でひよってんじゃねえぞ。
俺は早いとこ良い奴アピールして、ライトサイドに行かないとダメなのに……
大魔族、強靭なるゾート!
俺の配下()の三魔将の一人だ。つまりはこの戦争を起こした三人の戦犯の一人だよ!
戦闘力は高い。俺としてもかなり評価の高い『吸収の魔法』の使い手である。
様々な魔物を取り込んで、その強靭な肉体や、固有の呪いを十全に振るう。
性格はクソ。
魔族だからじゃなくて、魔族の中でもクソ。
コイツほど自尊心の高い奴を俺は知らない。今回の集まりでも皆に距離を置かれてた。
ああ、前に渡した鉄砕牙の調子はどう? あの時はちょっと重さに振り回されてたけど。
パワー系の魔物のパーツ増やしたんだね。似合ってるよ!
……身体は人型だが、竜の鱗がびっしりで、両肩に魔法を反射する植物。眼は三対。間違いなく呪い持ちの魔物の魔眼だな。二対目の腕の爪は見たこと無いが、特殊な魔法は無いか? デカい翼は鳥系の怪物のだ。隕鉄鳥ほど固くは無いが、魔法耐性はアレ以上だ。尻尾は家のティファと同じ種族のやつ。高速で射出できる上に瞬時に生えて来るんだよな。やはり、まともにやり合うとめんどいな……
あ、武器は気に入ってると。ありがとうね。今日はよろしく(握手)
大魔族、狂賢のアンセスター!
……三魔将の一人。魔族の中では凄く社交的で、一見、穏やかな人間みたいな奴。
だが、とっても不穏な噂を聞く。コッソリ同族を実験台にしているとか。
コイツの魔法は極めて強力だ。いや、凶悪と言うべきか。
様々な魔法を観察・収集・解析して糧にしている俺が断言するが、コイツの魔法の構成は異常だ。
『生物を異形の魔物に変える魔法』。
この魔法によって生み出された毒々しい肉の林を見たことがある。
魔法はイメージ。得意魔法からそいつの信念、価値観、思想がにじむ。
アンセスターの精神に魔法をかけて触れれば、一体何を見ることになるんだろうな?
人間からネクロモーフがゆるキャラに見えるレベルの怪物を作る奴だ。
一撃直葬レベルのSANチェックは間違いない。
もし、コイツが内面に秘めた世界で現実を塗り替えようとするなら、あらゆる手段で妨害する。
必要なら、ずんだも使う。
やあ、アンセスター。相変わらずナイスミドルだね。
渡したエルデの大剣はどう? そうか、劣等な人間どもを黄金波で薙ぎ払うのは中々面白いと。
……良かったよ。君の魔法の犠牲になるよりはずっとマシだろうからね。
一見、とても仲の良い友人同士の様に、少し談笑して別れる。……握手はしない。
大魔族、葬送のデルフィン。
とっとと死んで、どうぞ(迫真)
三魔将の一人だが、俺とは気が合わない。壊滅的に。
『絶望を与えて殺す魔法』を使うよ。吸魂鬼をより酷くした魔法だ。
犠牲者は濃縮された負の感情に耐えられず、生命活動を自ら停止する。
名前の由来だが、あまりにも無差別に殺しまくってるからだ。
人間だけじゃない。あらゆる動物、魔物、魔族。
アンセスターと違って、同族殺しも隠してねえ。
俺は勤勉な魔法使いは好きだよ。魔法を鍛えるにはとにかく沢山使うことが大事だしね……
だが、コイツはダメだ。
コイツの魔法は対象の精神力によって威力が変わるはずだが、村人だろうが大戦士だろうが、ほぼ同じ時間で殺れるってことは、魔法抜きでも世界一の拷問の達人なのは間違いない。
と言うのも、この手の魔法の威力を高めるためには、感情をよく学ぶ必要もある。
精神系魔法はそういう所があって、術者の感性で適性も分かれる。
俺はどちらかと言えば、正の感情を与える方が得意だ。快楽系とか。
ミクはどの感情を揺さぶるのも得意みたいだが、絶対にこの魔法は教えない。
ところで、武器を渡してはいないんだが、二本も持ってるんだが?
俺の記憶が確かなら、その剛剣マンジカブラはシャミ子っぽいのに渡したし、ライトサーベルは地獄のCEOっぽい子に渡したんだが……
……ああ、聞くまでもねえな。
話はせずに、会釈だけする。
……俺の事も、どうやったら絶望させられるだろうって面で観察してやがったな。
その他はモブども。約300名。プラス、少数の飼い慣らされてる魔物が居る感じ。
まあ、面白い魔法の使い手は居る。どいつもこいつも魔族らしい魔族だけど。
俺以外に例外的な魔族を一人も見たことが無いから落ち込んだりしない。
メンバーは以上だ!
こいつはくせえッー! ゲロ以下のにおいがプンプンするぜッーッ!
魔族でもこんなワル共には出会ったことがねえほどなァ──ッ!
紛れ込んでしまった女神の使徒であるトラオム君が泣いてますよ!
さあ、どうするかな?
実は俺、ちょっと前に南の方で天体観測をしてて、偶然にも隕石の落下を目撃したんだよね。
いやー、やっぱり大自然の脅威を目の当たりにすると、信心深くなるよね。
それで何か女神様のご機嫌が取れないか人間国家を探ってたってわけ。
別にやましい事は何も無いよ。トラオムは『光の戦士』になるよ。
よし、覚悟完了。
泣き言はここまでだ。
これは「試練」だ。 人々を救い、外道どもに打ち勝てという「試練」と俺は受け取った。
だが、難易度は中々に高い。英語で言うと、ミッションインポッシブル。
まず、人間たちも目撃しているので、魔族皆殺しで情報隠蔽はできない。
と言うか、それは流石に良心が痛む。
外道三人衆は良いよ。でも、モブどもはめっちゃ俺のこと尊敬してるもん。
まあ、外道どもの下よりは俺の下が良いわな。保身の為だとは分かっている。
人間の間では俺は接点無しで無名だが、魔族の間では何か武器くれるチョロイおっさんだ。
だが、それでも慕われたら無下にしたく無い。
次の問題だが、戦力差が酷い。
数だけ見れば、こっちがレオニダス率いるスパルタ状態だが、魔族が強いのと人間の平均値が低いせいで、多分原作無視の無双ゲーになる。スパルタ勝っちゃう。
人間には時々規格外がいるが、戦士だけだ。魔法は魔族の悪しき技術なんて言う、クソみたいな価値観のせいで、魔法使いが居ないのがだめだ。だだっ広い戦場だと、接近前に火力差で勝負がつく。
だから俺もこれまでは人間に関わることが無かったんだ。
これ、いい感じに負けて敗走するの無理じゃない?
俺の立場に自由惑星同盟の士官学校首席が居ても勝つだろ。
さあどうしたもんかと悩んでいると、適当に選んだ副官が話しかけてきた。
「トラオム様。よろしいでしょうか」
「んん、どうした? まだ開戦はしないんだが」
副官は見た目性能だけで選んだ。
所詮魔族だからな。この子はどっかの便利屋の社長に似ているけど、愛嬌が無い。
「人間たちが攻め寄せて来てるんですけど……」
「ファッ!?」
嘘でしょ。どうして死に急ぐの!? ヒカセンまだシャキッて無いよ!?
仕方ない、俺の魔法を見せて正気に戻してやろう。
『念動の魔法』。
シンプルかつ初歩的な魔法だが、研鑽を重ねた魔法使いが使うとひと味違う。
あっという間に地形を盛り上げて立派な砦を創り出す。
規模で言えば金獅子とかにはまだ及ばないが、精密動作と造形には自信がある。
人間たちは驚き戸惑い、足を止めた。
「す、凄い。これがトラオム様の魔法……」
「大したことではない」
ありがとうね。社長似の子。カッコつけてるけど、かなり嬉しいよ。
やっぱり俺と友達になる?
「やはり、ロクな魔法も使えない人間など敵ではありませんね!」
前言撤回。いきなり差別かよ。魔族らしいな。
「あっ、お三方が手勢を率いて出撃したみたいですね」
「ザッケンナコラー! 何が総大将じゃ! 勝手に動くなら要らねえだろ! あいつら絶対許さねえ!」
「ヒェッ」
すまんな、でもちょっとこれは無い。ああ、虐殺が始まってしまう……
うん? 何か違和感が……
突如として砦の周囲を光が包む。
これは……巨大な魔法陣だ。皮肉にも、勝手に飛びだした連中だけ効果範囲から逃れたらしい。
半日前に来たんじゃなきゃ、ちゃんと気付けたと思うんだが、言い訳だな。
凄まじい事に、砦の魔族の全てが強烈な重圧で床に押し付けられた。
砦は目一杯頑丈に創ったので無事だが。これは動けんな。
「トラオム様っ! これは一体!」
「落ち着け。これは多分……」
そう、この魔力は知っている……
きた! ゼーリエちゃんきた! メイン大魔法使いきた! これで負ける!
やはり俺には女神様の加護があるようだな。
これで砦の魔族は全員無力化された。だが、前線に出た三バカと好戦的な連中は元気いっぱい。
よって、ゼーリエちゃんは奴らを順次始末して行くだろう。
俺はその間にコッソリ砦の魔族たちを率いて逃げ出せばいい。ミッションコンプリートだ!
いいぞ、ゼーリエ! お前の魔力であの命令無視ゴミカスゲロシャブどもを、この世から消し去ってしまえー!
……あの、何でこっち見てるんですか?
優先順位的に、あっちが上ですよね。どう考えても。
ちょっ、こっちに照準つけないで。あっ、可愛い。好き。
い、いや、アイツらを万が一にも取り逃がすと、後の世にデカい脅威をもたらすぞ!
だから、全くこれっぽっちも動けない俺のことなど放っておけ!
あっあっあっ、魔力チャージ止めて。
待て! ゼーリエ=サン! 俺は魔族にしてはかなり控えめで邪悪ではない方だ!
だから……話し合いしましょ? (リス魔人)
うわ───っ死にたくない!! 逝きたくない───!!
お願いたすけ(ジュワッ
「ト、トラオム様ァ────!!!」
◆
勇者ヒンメルの死より数年後。
北側諸国のグラナト領には、遥か昔より土と岩で造られた砦がある。
異常な強度で現代に残り続ける砦は、代々の近隣の為政者が管理していたが、今現在は魔族の手に戻っていた。
「ふーん。確かに信じられないくらい頑丈にできてるわね。気に入ったわ。しばらくここを拠点にしましょう」
魔王軍の残党。「七崩賢」の一人、断頭台のアウラは、砦を暫しの住処と決めた。
愛剣である魔剣、『月光の大剣』を所在なさげにぶらぶらさせながら話す。
「でも、巡業団の出してる本によると、結局ここの魔族たちって負けたんでしょ。情けないわね」
「しかし、この規模の砦を魔法で作れる魔族が討たれたとなれば、討ち取ったのも並みの英雄では無いでしょう」
アウラ傘下の魔族のリュグナーが砦の壁を調べながらそう述べる。
ちなみに、ドラートは砦の周囲を見回っている。
集め直している最中の軍勢が砦に入ってくるのを眺めながら、アウラは口をとがらせる。
「古い連中がもっとマシなら、私たちはこんな苦労をしなくてすんだのよ。まったく。……終わった連中の話なんかしてても意味無いわ。さっさと戦力を立て直すわよ。ヒンメルはもういないんだから」