吾輩は魔族である。
引き続き戦場という名のパーティー会場からお送りする。
内容は魔族のエクストリーム人間踊り食いパーティーから、ゼーリエのパーフェクト魔族駆除パーティーに変わったがね。
いやぁ、まさか上半身をぶっとい熱線で焼き尽くされるとは。
やっぱり西洋ファンタジー世界に来て良かったなあ。前世じゃこんな経験できないぞ。
ちょっと得した気分。この経験は何かしらの魔法開発に活かせそうだ。
さて、そろそろ死んだふりは止めよう。
『完璧な偽死の魔法』、解除。
未だに変わらず、他の砦の魔族たちは動けないでいる。つまりは俺だけ狙い撃ちだったのか。
ヨシ! デルフィンの魔力が消えた! 流石だ、ゼーリエちゃん!
「そ、そんな……あのデルフィンまであっさりと……」
「やったぜ」
「ひゃっ! 生きてたんですか! トラオム様!」
「この程度では死ねんなあ」
格上なのに呼び捨てなあたりに、奴の嫌われっぷりが窺えますね。
だが、もう居なくなった!
所詮はブレイズの面汚しよ。ゼーリエちゃんに1145141919DKP(デルフィンキルポイント)。
……チッ、ゾートは追い詰められてるが、アンセスターの奴は逃げ切ったか。
逆なら良かったのに。
「あの、頭から何か出てますよ!」
「心配いらん。これは俺の魔法だから」
頭をバリバリ引き裂いて黒焦げの藁人形が出て来るが、痛くは無い。
ダメージはコイツを媒介に他所へ押し付けたからな。
隠れ家で分身の一体がパパスのような悲鳴をあげて燃え尽きたよ。
ミクさんに指で上手くネギを回す方法を教えていた個体だったから、ミクさんがビックリしてひっくり返ってしまった。
畜生、ゲマの野郎、絶対に許さねぇ! (ビアンカ派)
え? ミルドラース? そんな奴、5に居たっけ?
しかし、ゼーリエちゃんとやり合うとなると、今の身代わりストックでは心許ない。
全部潰される前に、『致命的な気分』になれるかも微妙な所だ。
まあ、死んだふりをするためでもなきゃ、ちゃんと回避もするけどね。
実は身体能力には結構自信があるし、『神威の魔法』で実体を異空間に逃がすなりもできるし。
……だが、俺もまだまだだなあ。もっと強くて面白い魔法を作らないと。
南で完成させたメテオはロマンがあって強力だけど、使いどころがね。
首都に落として、女神様の『うみみゃあ!』……もとい天罰は怖い。使い易い手札を増やさないと。
ともかく、俺の素晴らしい采配によって人類側の大勝利である。
さあ、撤収しようか。藁人形はもちろん焼却。『痕跡を消す魔法』も念入りに。
「あの、私たちはどうすれば……」
「逃げて良いぞ」
「……動けないんですが」
「ああ、そうだったな。でも、この重圧の魔法陣を破ると、またアレ、戻ってくるしな」
そんなに絶望した顔をするな。俺はお前を見捨てるほど薄情じゃない。
既に脱出プランは完成している。
砦の動けない魔族たち。彼らを救うのは君だ! アル社長っぽいの!
「ちゃんとお前たちも逃がしてやる。俺に任せろ。──『傀儡の魔法』」
「へっ?」
間抜けな声をあげる女魔族。
勝手に体が動いたのだから当然だろう。
「これから君は英雄になる」
「え?」
「秘めた力が覚醒。あの大魔法使いを単身で撃退して、みんなを救う」
「え?」
「さあ、行け。ちなみにこの会話は自動的に忘却される。達者でな」
「ええええええ!!??!!??」
音の壁を突き破る勢いで彼女は戦場へとすっ飛んで行く。
俺が操作する以上、もはや彼女はただの魔族では無い。伝説のスーパー大魔族だ。
さて、来てくれた事に感謝はしているが────それはそれ、これはこれ。
一発は一発だ。
どれ……手合わせ願おうか。ゼーリエちゃん。
圧倒的なスピードで戦場に突入するアルちゃん。白目剥いてるけど。
ゼーリエちゃんは今まさにゾートに止めを刺した所か。鉄砕牙を回収しようとしてる。
彼女、何か俺の武器を集めてるみたいなんだよね。嬉しいぜ。
あっ、流石に驚いてる。でも対応が早い。流石だ、何て美しい流麗な魔力操作……
興奮させてくれるじゃない。では、参ります!
消滅しようとしてるデルフィンを踏み台に、一足でゼーリエちゃんに接近。
100m以上の距離を瞬く間に詰める。だが、もちろん迎撃が来る。
多種多様な魔法の弾幕。うわあ、綺麗だなあ。突破しがいがある!
おおっと! (ポチッ、ここでゾートの遺骸が爆発四散!
ゼーリエちゃんの不意を突く!
死してなお恐ろしい、流石の大魔族ですわ。
そして案の定、至近距離の大爆発でも無傷だが、僅かに緩んだ魔力探知の隙があれば充分!
遠隔発動、『百式観音の魔法』。
突如としてアルちゃんが金色の千手観音を背負い、ゼーリエちゃんの迎撃魔法を悉く撃ち落とす!
上澄みの戦士でも辛うじて反応できるかという速度の攻撃が無数に放たれたのだ。
ゼーリエちゃんは驚き目を丸くするも……僅かに微笑を浮かべてるな。
まあ……いい。これでお返しとする。
『壱乃掌・突』
巨大な手刀による突きの直撃を受けて吹っ飛んで行くゼーリエちゃん。
……うん、自分から背後へ飛んだな。予想外の戦力に一時撤退を決断した模様。
慎重だなあ。だが、俺でもそうする。ゼーリエちゃんがクレバーで嬉しいよ。
しかし、やはり……全力じゃないな、大魔法使いゼーリエ。
まったく底を見せてくれないじゃあないか。
当然か。俺よりも長く生き、俺とは違って戦い続けている魔法使いだ。
流石は俺がこの世界で最も苦手とし、同時に最も尊敬する相手。
正直、ガチンコになったらまだ絶対に勝てないだろう。
短い逢瀬だったが、背筋が凍るほどに魅力的な時間だったよ。
幕引きのために、アルちゃんで『戸惑いの霧の魔法』を発動。
濃い霧が立ち込め。人間たちが戦意を失い、フラフラと帰って行く。
さあ、ゼーリエちゃんが帰ってくる前に、こっちも撤収完了させないと。
しかし、次に出会った時はどうしよう? 聖闘士と同じで二度は通じないよな。
「お帰りなさい! マスター!」
「やあ、ミク。今帰ったよ」
家に帰ると、お帰りを言ってくれる相手が居るって良いものだと思います。
せっかくだから、彼女にお土産を持ってきた。
「はい、陸上のサカバンバスピスっぽい魔物」
「わあ、変な顔ですね。何だか可愛い」
「ちなみに爆発する」
「えっ」
戦闘モードだと鉄球並の硬さになり、地中を泳いで剛速球で体当たりする。
仕留められるとかなり派手に弾け飛ぶ。そして基本的に100程の群れで狩りをする。
そんな生態。魔物って無駄に殺意高いよな。
まあ、『使い魔契約の魔法』で従えてるから大丈夫でしょ。
いつかはイルルも手懐けたいなあ。
ちなみにサカバンバスピスの名前は、オカマニちゃんです。地面すり抜けてるから多分ゴーストタイプ。
ミクにスワヒリ語で文化勝利したくなる曲を歌ってもらいながら、今回の経験を本にする。
この曲なら徹夜も余裕だぜ。
ニコニコ顔でマラカスをシャカシャカするミクさん可愛い。
……作業妨害されてる?
よく考えたら、同じ部屋で美少女が歌って踊りながらこっち見てたら集中できねえわ。
それでも止めるように言うと、ツインテールが悲し気に垂れ下がるので言えない。
何とか集中してさっさと終わらせよう。
紙製作は魔法で、文章も思考で直接入力だ。文字消去や誤字検査も魔法だよ。
魔法って、本当に良い物ですね。
とっても便利だし、無限に遊べる。
あっという間に本が出来上がる。ふむ、また図書室を増築する時期かな?
俺は些細な事でも記録に取っている。大和民族ソウルがそうさせるのだろうか。
図書室には、日記や魔導書、前世の知識や物語がどっさりだ。
しかし、この世界の記録も、もっと集めた方が良いかもしれない。
これまでは魔導書くらいしか集めて来なかったが、各地の歴史・文化・風俗も集めよう。
時が流れればあっけなく消え去ってしまうものも多いしな。
今回の件だって、俺とゼーリエちゃんの活躍が無ければ大国の首都が消えていた。
……俺は居なくても良かったとか考えない。
ともかく、そうなればどれ程の記録が散逸したことやら。
規模を小さくすれば世界中で似たような事は起きているだろうし、情報収集がてらに吟遊詩人に扮した分身を各地に派遣して記録を集めてみるか。
時の流れに抗う数少ない手段が記録だ。
……それにこれは、女神様のご機嫌を取れるかもしれない。
でも、自分で全部やるのは大変だな。ミクさんの同類を増やし終わったら、それ用のゴーレムも作るか。
◆
勇者ヒンメルの旅立ちの数年前。
大陸最南端、とある辺境の小さな村にて。
巡業団の興行は、都市離れた田舎町や村であっても同じ様に行われる。
そして巡業団は興行と言っても料金は取らない。
いつの時代も、どこの地方でも、誰が相手でも同じだ。
巡業団の維持は主に寄付と、魔物退治などの副業によって成されていると言われるが、正確な所は分からない。
優しい日差しと春風が雪解けをもたらすこの日も、森の中の小さな村で興行が行われていた。
一番人気の演目は、歌姫姉妹たちの指定席。
だが、それ以外の芸が無い訳では無い。例えば、物語の読み聞かせなんて事もやっている。
担当しているのは巡業団の土くれの司書たち。
世界中の歴史や物語を掻き集め続け、またそれを本にまとめては配布もしている。
『薬草大図鑑』『英雄大全』『民間魔法遍歴』『魔族目録』
いずれも無い町や村の方が圧倒的に少ないと言われる書籍だ。
土くれの司書たちも歌姫たちに並んで大きな知名度を持っていると言えよう。
そんな司書たちのまとめ役であり、歌姫ミクに次ぐ、巡業団のナンバースリーである女性。
蒼月草の花の色の髪をした彼女は、いつもの様に村の子供たちに物語の読み聞かせを行っていた。
「そうして、拳聖クラフトの放った必殺の一撃を受け、遂に古の大魔族は打ち破られました。ここに、ダーケスト迷宮に巣食い、一つの地方を異形の溢れる地獄へ変えた元凶、狂賢のアンセスターは滅んだのです。──めでたし、めでたし」
美しい容姿と、聞き取り易く臨場感に溢れた声を持つ語り部である彼女は人気者だ。
この日も次の物語をせがむ声に囲まれたが、歌姫の姉妹の一人に緊急で呼び出され、他の司書に代わる。
「悪いなー、館長。また、招かれざるお客様が来とるみたいでな。しかも、こんな時に限って護衛班の連中の半分は団長とお出かけ中でな。『角折り』は残ってくれとるんやけども」
「……何のための護衛なのかしらね。『氷華』と『霹靂』は?」
「そいつらも団長が連れてってもうたで。ホンマにかなわんよな。一番強いの団長やのに」
「戻って来ないなら、残った戦力で何とかできるって事なんでしょう。相手は魔物か魔族? それとも人間?」
「魔族が不幸な遭遇以外でウチらに仕掛けては来んやろ。『角折り』がおるし。今回のお客様は人間やな。ちょっと北部戦線が小康状態やからって、すぐに平和ボケするのやめて欲しいわ」
「人間ってそういうものでしょう」
美しい容貌を軽く歪めてため息をつく二人。
「分かったわ。私と司書たちで対応するから、あなた達は村人をそれとなく誘導しておいて」
「いつもすまんな。でも、ちょっとくらいなら手伝うで?」
「後ろから『パンジャンドラムの魔法』は許さないわよ? というか、あんな産廃、もう使うのやめなさい」
「なんでや! なんでみんな産廃呼ばわりするんや! ウチがマスターからもらった特別な魔法やで!」
「はいはい、もういいから座ってなさい。そもそも歌姫が戦うものじゃ無いわ」
館長と呼ばれた女性は、赤髪の子を適当にあしらって迎撃に向かう。
彼女は素朴な装丁の本を虚空から取り出し、片手で持つ。
その本は彼女の特別な魔法だけでなく、巡業団がこれまで収集してきた全ての魔法を使う媒介となる。
「本なら望むがままに与えるのだけれどもね。それ以上を欲するなら、それなりのエゴを示してもらいましょうか」
人の歴史において事を成すのは強いエゴを持つ者たちだ。
『その行いが正しいか? 間違いか? そんなものは一片たりとも魔法に、エゴに関係無し!』
図書館の蔵書にある、そんな一節が彼女の脳裏に浮かぶ。
彼女は歩きながら、見事なフィンガースナップをする。
すると不思議な事に、彼女の周りに魔法の武器で武装した司書たちが現れる。
「それでは、接待を始めましょうか」
巡業団の図書館長は、今日も微笑みを浮かべる。
彼女の創造主が魅力的だと言ってくれた、不敵な笑みを。