古魔族、放漫のトラオムの羽ばたき   作:リッチ

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巻物を作る魔法

 

 

 

 吾輩は魔族である。名は放漫のトラオム。

 

 だが、最近は本名での活動は自重している。

 

 ……なんかね、ゼーリエちゃんに探されてるみたいなんだよね。

 

 おかしいなあ、放漫のトラオムはどっかの戦場で戦死したんだけどなあ。

 

 と言うか、殺ったのゼーリエちゃんだよね。なぜ? 俺の偽装は完璧だったはず。

 

 予定ではゼーリエちゃんは、「殺してやるぞ陸八魔アル」ってなってるはずなのに。

 

 

 ああ、アル社長っぽい魔族娘はやたらと名をあげてたよ。

 

 あの大魔法使いを撤退に追い込んだんだから、当然だな。

 

 俺もコネ作りのために改めて仲良くなろうと思ったんだ。魔族の中では比較的マシだし。

 

 でもね、遠方からよく観察すると、何かマーカーみたいな魔法つけられてるんだよね。

 

 

 ……超怖いんですけど。

 

 

 よく見ないで迂闊に近寄ったらどうなってたんだろう。寒気がしたわ。

 

 どう考えてもトラップにされて泳がされてます。

 

 ……強く生きろ、アル社長っぽいの。

 

 

 正面からぶつかるならまだ逃げられる可能性はある。

 

 だが、魔族スレイヤー=サンにアンブッシュされたら、多分助からない。

 

 魔法戦は先手絶対優位。

 

 俺は青単フルパーミッション好きだから、対魔法のキャンセル魔法は作ってるけど、この世界の法則は覆せない。

 

 ゼーリエちゃん程の相手に念入りな準備でハメられたら、脱出できるかは怪しいのだ。

 

 死なない自信はあるが、同時に俺は魔法には無限の可能性があると信じている。

 

 ……無敵なんて物は存在しない。あらゆる魔法は別の魔法で打ち破ることができる。

 

 しぶとい相手には封印か追放という、古来からの鉄板的な対策もある。

 

 俺はカーズ様の後を追いたくないので、そこら辺の対策をもっと念入りにしないとな。

 

 

 

 

 

 そんなこんなで色々と魔法開発していたら、遂にミクさんの妹たちが完成したぞ! 

 

 いやー、長かった。と言うか、ミクさんと饅頭を系譜の頂点に置く連中がこんなに居たとは。

 

 ……全部いるよね? ごめん、自信無いわ。めっちゃ多いもん。

 

 あと、男は作ってません。モチベがどうしてもね……ノンケだからしょうがないね。

 

 細部の造形とか色々と怪しい気もするが、幸いにも彼女たちはマスターによって無限の個性を持つから大丈夫だよね。

 

 いや、正確な身長とか覚えてるわけ無いだろ。

 

 意見を違えた分身同士の魔法禁止ステゴロバトルでそこら辺を決めたわ。

 

 

 

 ああ、……俺の心の中の邪悪な害獣、盛るペコは駆除されたよ。

 

 これもゼーリエちゃんのおかげだな。その美しい魔力操作技術と平坦に感謝。

 

 

 魔法も趣味も、色んなジャンルを楽しめる者が得なのだ。偏食ばかりではいけない。

 

 新しい事に挑戦する事で苦手意識はある程度の改善が可能なので、勇気を出すことが大事。

 

 まあ、限界はある。俺も箱化とかは適応不能だった。

 

 

 それで、ミクさんは一緒にいる内にもう違和感無くなったのでそのままだが、一部怪しかった新しい子たちは完成前に修正された。良かった良かった。

 

 

 ……何だこの、ヘソが見えないレベルの盛られ方したあかりちゃんの設計図。燃やしとこ。

 

 

 でも、ゆかりさんは修正の必要は無かった。流石に俺もそこまで盛るペコに侵食されては無かったらしい。

 

 何事もやりすぎは良くないという学びもあったな。

 

 これからは、あらゆる魔法と属性に寛容になり、ほどほどに全てを愛して行こう。

 

 

「なあ、本体よ。ちょっと相談なんだが……千冬ちゃんのメガネは無くても良くない……うわぁあああ!? 体がずんだ餅になっていくぅううう!?!?」

 

 

 異端者が一人減ったぞ! やはり今日はめでたい日だ! 

 

 ヨシ、新しい魔法作るか。

 

 

 

 

 

 人間の魔法使いがどうして希少なのか? 俺はずっと不満だった。

 

 俺が生まれるよりもっと古い時代には優れた魔法使いがもっといたはずなのだ。

 

 しかし、何らかの理由で現在はほとんど見かけない。

 

 そして現代では魔族が与える悪印象のせいで、人間たちの魔法への印象はすこぶる悪い。

 

 このままでは俺が魔法談義や共同研究をできる相手は現れないだろう。

 

 

 何とかテコ入れできないものか。

 

 

 確かに、人間の魔法への適性は魔族に比べて低い。

 

 だが、皆無という訳では無いのだから、もっと魔法へ触れる機会を増やして、心理的、技術的なハードルを下げられないだろうか? 

 

 どうせ大魔法使いと呼べる域に達せる者など僅かだろうが、それでもいい。

 

 俺はもっと魔法が溢れている世界を見てみたい。

 

 それに、もしこれで生まれた魔法使いが偉大な業績を残せば、それは俺がこの世界に残した爪痕と言えるだろう。……言えないかな? 

 

 我ながら何てせせこましい……1000年以上を生きた魔族といえども、まだまだだな。精進せねば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 という訳で、作ってみました! 

 

 こちらが『巻物を作る魔法』です。

 

 ローグライクゲームをやったことがあるなら、読めば魔法が発動する巻物と言えばきっと分かるだろう。

 

 これも同じ物だ。一回使い切り。

 

 大した物じゃ無い? 

 

 まあ、そうだな。一人前の魔法使いには必要あるまい。

 

 ただ、俺が作ったこの巻物には、大きな特徴があるのだ。

 

 

 この巻物は、『魔法的能力が全く無い者でも使える』マジックアイテムなのだ。

 

 

 流石に巻物に書かれた文字を読む能力は必要だが……

 

 ああ、最初に見た者の知ってる文字になるようにしておこう。文字読めん奴は流石に知らん。

 

 

 

 今からこの魔法で巻物に色んな魔法を込めて、世界中のダンジョンにばら撒いて行きます! 

 

 

 

 もちろん、危険な魔法は込めないよ。ホントだよ。

 

 これはあくまでも魔法という深淵の入り口みたいなものだからね。

 

 込めるのはちょっとした民間魔法だ。大半は俺が作った魔法ですらない。

 

 でも、当たりとして俺の魔法も混ぜる。

 

『猫が寄ってくる魔法』、『蚊が寄って来なくなる魔法』、『下町のナポレオンを出す魔法』

 

 素晴らしいだろう? 最後の魔法なんて作りたてだぜ。

 

 分身がセイカさんに例のCMの歌を歌わせていたから思いついた。

 

 ああ、俺が作った魔法については、時々化けて使う人間の名義『大賢者フェイスレス』の名前を入れておく。

 

 魔族のトラオムでは、第一印象最悪だからね。

 

 いや、魔族が作った魔導書の類とか魔法使いには人気が出るかもしれない。希少だろうし。

 

 でも、これは既に魔法使いである奴に向けた物じゃないからな。

 

 最後に全ての巻物に、込められた魔法のコピーができないように、そして巻物そのものの術式を隠すために、俺が生まれたての頃から鍛えまくってる偽装の魔法を複数かけておく。

 

 

『巻物を作る魔法』そのものを簡単にパクられたら悔しいじゃないですか。

 

 

 込めてある魔法については、自分で使った感覚を思い出しながら編み出してくれ。

 

 それが魔法使いへの道の、第一歩になる。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 勇者ヒンメルの旅立ちから3年後。

 

 勇者一行は依頼を受けて、魔族の潜伏する迷宮へ侵入。

 

 紆余曲折あったが、無事に魔族を討伐する事に成功した。

 

 

「ちょっとひやりとさせられたな」

 

「いや、視界を奪われたのに、よく全く問題無く戦えるものですね、ヒンメル」

 

「相手が武芸に長けた魔族の将軍なら危なかったかもしれないな」

 

 

 迷宮の魔族は魔法の武器である黒壇のメイスを持っていて、その能力で勇者一行の視界を封じたのだが、あっさりとヒンメルに切り伏せられてしまっていた。

 

 僧侶ハイターとしては頼もしいやら呆れるやらで笑うしかない。

 

 

「それより、このメイスは『魔法武器目録』に載っているやつだぞ。もう五度ほど人類と魔族の間を行き来している」

 

「詳しいな、アイゼン」

 

「むしろヒンメルは何で知らんのだ。戦士なら文章も挿絵も穴が空くほど読んでいるものだろう」

 

「ああ、アイゼン。ヒンメルは『英雄大全』の別冊ばかり読んでいたんです。お気に入りでしたね。あの『エルフ英雄列伝』」

 

「おい、ハイター。あまり大きな声で言わないでくれ」

 

「どうせ聞こえてませんよ。……あの通り、宝箱まっしぐらですから」

 

 

 僧侶ハイターの言った通り、勇者一行の魔法使いは宝箱の判別に夢中だった。

 

 しばらくして、彼女は勢い良く立ち上がり、少し興奮した風に話し出す。

 

 

「やったよ。この宝箱は当たりだ。特別なミミックだよ」

 

 

 流石に勇者たちも耳を疑う。

 

 

「ミミックが当たり?」

 

「いよいよおかしくなったか。このエルフ」

 

「実は本の中の人物とは違うのかも知れませんね」

 

 

 しかし、仲間たちの言葉など意に介さず、彼女はむふーっと機嫌よく解説する。

 

 

「迷宮では時々、ある種のとても珍しい巻物が手に入るんだ。『フェイスレスの紙切れ』って言われる奴だよ。これはとても珍しい物で、魔力が無くても込められてる魔法が使える物でね……」

 

 

 興奮するままに語る彼女曰く、どんな魔法使いでも全く術式を解析できない古代の不思議な遺物で、実際に人類最高峰の魔法使いの英雄として有名な彼女でも、全く歯が立たないらしい。

 

 宝物としての価値だが、見習いが手っ取り早く魔力を扱う感覚を身につけられるので、貴族などが高く買い取ってくれるというのは、勇者一行には朗報だった。

 

 また、中には大賢者フェイスレスの名が刻まれた規格外の魔法があり、その使用感を覚えて使えるようになれば一財産築けるとも。

 

 そして、これらは普通とは違う特別なミミックに保管されており、ミミック判別の魔法はこのミミックにのみ、特別な反応を示すとのこと。

 

 

「名付きの紙切れの魔法には、とんでもない美食や美酒を出すものや、古代の高性能なゴーレムを召喚して従えられるような凄い物があるんだ。私もお目にかかった事は無いけど、人間の魔法とは思えないほど凄いらしいよ」

 

「なるほど、それは確かに素晴らしいですね!」

 

「いや、酒の魔法は出てこないと思うぞ。どんな確率を引き当てなきゃならないんだよ」

 

「そもそも、そのミミックからどうやって巻物を取り出すんだ?」

 

 

 ハイターは興奮を共有したが、ヒンメルとアイゼンは違うようだった。

 

 一行の魔法使いは、杖を構えながら戦闘準備を促す。

 

 

「軽く攻撃すると、普通のミミックとは違う形態になるから、そこを攻撃すれば巻物を傷つけずにすむよ。でも、ちょっと強いから気を付けてね。特にソバットには」

 

「ミミックがソバット??? どうやって……?」

 

「おい、やっぱりこのエルフおかしいぞ」

 

「まあまあ、やってみれば分かりますよ。きっと」

 

 

 その直後、勇者一行はミミックの真の姿に黄色い悲鳴をあげる事になる。

 

 だが、後に彼らは口を揃えて言い合った。美しいソバットだったと。

 

 エルフの魔法使いは、『マジカルエステの魔法』が込められた、フェイスレスの名付きの巻物を手に入れてご満悦だった。

 

 

 

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