人を殺す魔法の恐ろしさ   作:ソフトピーチ味

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書いてるときはリヒターくらいの年代のイメージだったけど、レンゲちゃんみたいな外見のロリBBAだと考えるとギャップ萌えがある、気がする。


本論:クヴァールと「人を殺す魔法(ゾルトラーク)

 先述のように、魔族はそれぞれの魔法を共有することはしない。中には人類の魔法を学び使う魔族もいるかもしれないが、魔族同士がその生涯の成果を他者と共有することなど、魔族の歴史の中でも(私が知る限り)存在していない。

 

 彼らの魔法は彼らだけのものであり、その死と共に失伝するのが普通だ。

 

 しかし傾向というものは見られる。例えば同じ七崩賢でもマハトとアウラでは、その結末が全く異なる。

 

 アウラの魔法は「服従させる魔法(アゼリューゼ)」。故に命令させるアウラが死んだ場合、その魔法は意味を失う。

 

 だがマハトのそれは「万物を黄金に変える魔法(ディーアゴルゼ)」。マハトが死したあと、黄金と化した万物はそのまま。

 

 ここに、極めた魔法の特色がよく出ていると思う。

 

 例えば、他者の動きを模倣する魔族がいたとして、その当人が死に、体が魔力の塵と化せば「模倣」など出来ない。

 

 強靭な糸を操る魔族、自らの血液を操る魔族がいたとして、やはり当人が死ねば、その魔法も同時に意味を無くす。

 

 そうした意味では、マハトは魔族の中でも変わり者であったのかもしれない。なにしろ「死後に残るもの」を生み出した魔族なのだから。

 

 

 …………そう、魔族は死ねば塵となって消える。だから「自分の死後に残る」という発想自体が珍しい。

 

 だからこそ、恐ろしい魔法がある。そしてそれを開発した魔族もまた何よりも恐ろしい。

 

 私にとっては「服従させる魔法(アゼリューゼ)」よりも「万物を黄金に変える魔法(ディーアゴルゼ)」よりも、他のどの魔法よりも恐ろしいのが、かの腐敗の賢老クヴァールが生涯をかけて編み出した最悪の魔法、「人を殺す魔法(ゾルトラーク)」だ。

 

 

 「人を殺す魔法(ゾルトラーク)

 

 

 かつてこれほど直裁的で、用途が断定された魔法があっただろうか。

 

 その恐ろしさから人類が総がかりで解析し、今では「一般攻撃魔法」と呼ばれているが、果たして名称を変えたくらいで、その本質的な恐ろしさを抜け出せるものだろうか。

 

 現状を鑑みるに、私はそれが出来ていないと思っている。

 

 もっとも恐ろしいことは、その恐ろしさの本質を、人類が忘れかけているということである。

 

 「人を殺す魔法(ゾルトラーク)」の何よりも恐ろしいところは、あまりもあっけなく人を殺せることである。直線的に放たれ、当たれば終わり。この魔法以前のどの魔法も、ここまで単純に人を殺せた魔法はない。

 

 さらには考えられないほど燃費がいい。クヴァールは「賢老」と呼ばれるくらいの、私などでは想像も出来ない長い時間を生きた魔族だったが、その生きた年月の割には魔力自体はそこまで高いものではなかったらしい(それでも私などでは足元にも及ばないだろうが)。その逆に、前述のアウラなどはその魔法の特性も合わさり、年齢に比べて魔力が高いタイプの魔族であったそうだ。

 

 そう考えると、クヴァールは魔法理論の構築を極める、人類的に言えば学者肌の魔族だったのだろう。クヴァールの外見は魔物と見紛うほどに人間離れしたものであったと伝わっているので、その差異には中々面白いものを感じさせる。

 

 外見が魔物の頃により近い故に、どの魔族よりも人類に攻撃的な魔法を編み出したのだろうか。今主流の魔族の外見は見目麗しいものがほとんどだ。これはやはり人類を騙すよう進化した結果なのだろう。女性型魔族などはそれが顕著で、長い時間を生きた魔族にも関わらず、少女の風貌の者も多い。若い女性、それも美しい少女ともなると、老若男女問わずに庇護欲や哀れみを持つものだから、魔族の特性は無駄のなさはいっそ見事である。魔族の外見は実際の年齢とは関わりがなさそうだ。

 

 だがクヴァールの外見は、そうした現代の魔族とはかけ離れた、言ってしまえば怪物の外見だ。そしてその外見に相応しい獰猛な魔法を編み出し、人類を殺し回った。

 

 魔法の燃費が良いから連射も可能であり、軌道を自在に操ることも容易で、さりとて一気に魔力を収束して大威力の一撃を放つことも可能だった。同時に多方向へ発射させることで広域殲滅すら可能としており、とことんまでに「人を殺す」ことに特化、洗練された魔法、それこそが「人を殺す魔法」。

 

 しかし、人類はそれを解析し、対処方法を構築し、遂には自らの魔法体系に組み込むことに成功した。今を生きる魔法使いは言う『我々は「人を殺す魔法(ゾルトラーク)」に打ち勝ったのだ。今やその魔法すら自分たちのものに出来たのだから』と。

 

 …………果たして本当にそうだろうか、私はこの意見にひどく懐疑的になってしまうのだ。

 

 ここで先ほどの論に戻るが、魔族の魔法は、その術者が死亡したと同時に失伝するのがほとんどだ。そしてクヴァールもまた、マハトやアウラ同様に、すでに斃された身である。

 

 ならば彼の死と共に「人を殺す魔法(ゾルトラーク)」は失伝したか? いや、そうではない。他ならぬ人類自身が「自分たちのものにした」と誇ってしまっている。

 

 クヴァールが死した今でも尚、「人を殺す魔法(ゾルトラーク)」は「一般攻撃魔法」と名を変え使い続けられている。

 

 では、名前を変えられた通りに、安全な練習用の魔法になっているだろうか? もう「人を殺す魔法(ゾルトラーク)」は人を殺してないだろうか?

 

 ………答えは否だ。残念ながら、「人を殺す魔法(ゾルトラーク)」は今なお人を殺し続けている。

 

 十数年前に起こった南部諸国での戦争。これは人類同士の恥ずべき争いであったが、その戦乱においてもっとも多くの命を奪ったのが、なにあろう「人を殺す魔法(ゾルトラーク)」だったのだ。

 

 開発者であり術者であった魔族のクヴァール自身が滅びても、その魔法は未だに人を殺し続けている。

 

 この魔法には、抗いがたい魅力がある。簡単に使えて、簡単に他者を害することができるその特性。それこそが何よりもこの魔法が恐ろしい点。

 

 見習い魔法使いですら思ってしまうのだ。「これでほんとうに相手を倒せるのか」「防御を貫いて相手に届くだろうか」と。そしてそれが可能になるよう研鑽してしまう。そこに悪意がなくても「人を殺す方法」を磨いてしまう。

 

 「一般攻撃魔法」に改良された今の魔法には、かつてのような人体貫通性はない。だが、使おうとすればすぐ使えるのだ。なにしろ人類は徹底的にこの魔法の解析に取り組んだのだから。南部諸国の戦乱でも、多くの命を奪ったのは、安全に改良された「一般攻撃魔法」ではなく元々の「人を殺す魔法」だった。

 

 ある魔法使いは言った。「クヴァールは優れた魔族の魔法使いだったが、人を殺す効率を重視したがために、術式が洗練され人類でも解析可能になった。それこそがこの魔法の欠点だったのだ」と、だがそれは本当にそうだろうか。

 

 私にはそうは思えない。この「人類でも扱える」という特性が、忌まわしいことにクヴァールの封印後、そして死後も、こうして人を殺し続けているのだ。

 

 ならば果たしてこれは欠点だろうか? もしやかの賢老はこれをも見越していたのでは?

 

 簡単に他者を殺せる「武器」を人類に与え、それを魔族ではなく同じ人に向けるよう、人類の精神をまるで遅効性の毒が染み込むように、徐々に腐敗していくよう誘導されたのではと思うのは、考えすぎだろうか?

 

 現に、我々人類は勇者ヒンメルのおかげで訪れた平和に、自らの手で泥を塗ってしまった。「人を殺す魔法(ゾルトラーク)」を使い、互を傷つけ合う事によって。

 

 「一般攻撃魔法」は便利なものだ。だが、我々は、人類は、魔法使いは、忘れてはならない。その本質はあくまで「人を殺す魔法」であるということを。

 

 我々は、クヴァールの手の平の上で、お互いを殺し合うことは、してはいけないのだということを。

 

 もし、このクヴァールの人を殺すという「呪い」から脱却できることがあるとすれば、それはこの魔法のさらなる改良だろう。

 

 クヴァールは、人体を容易に貫通する特性をこの魔法に載せた。ならばその呪いに打ち勝つには、その特性を逆転させる他ない。

 

 即ち、「人を殺す魔法」を「魔族を殺す魔法」に変えてしまうということ。人体ではなく、魔族の体に対して特効の貫通力を発揮できるものにするということ。

 

 それが出来た時こそ、人類は本当に「人を殺す魔法(ゾルトラーク)」を克服できることになり、腐敗の賢老クヴァールを、真の意味で倒せたことになるだろう。

 

 私は望む、情けないことに他力本願も甚だしいが、恥を承知で望む。

 

 人類の魔法使いの中に、「人を殺す魔法」を「魔族を殺す魔法」に変えてしまう者が現れることを。それによって「人を殺す魔法」が人類の中から忘れられていくことを。

 

 ……いや、私などが思案するまでもなく、もしかしたらもう現れているかもしれないが。

 

 だとしたら、その人物にはもうちょっと普及に努めてほしいものである。もしいたとしたら、相当ズボラな魔法使いに違いない。早起きとか苦手なタイプと見た。

 

 

 

 

 




腐敗の賢老を讃えよ。
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