ある日、スマホに1件の通知が来た。
「ル、ルーナが...?なんの用なんだよ...」
メールを開くと
「今日、話したいことがあるのら」
ルーナのメッセージと飴の絵文字があった。
「嫌な予感しかしねぇ...」
そうつぶやきながらもルーナの所まで行く準備をした。一応この前にこよりに調整してもらったナノテクスーツもリアクターに装備しておく。
◇◇◇
家から姫森財閥の所までは地下鉄を使って何個か駅を超えた先にあった。来るのは何年ぶりだろうと思いながら歩く。カメラで監視されてることも知らずに。
執事『ルーナ様、しっかりと篠崎悠斗様は来ておられます。』
ルーナ「んなっ、そのまま監視して欲しいのら。」
執事『了解しました。』
◇◇◇
「いつ来てもでけぇ家だな...」
The金持ちみたいな家な上に家の隣には俺の親父の会社とほぼ同じバトルフィールドがふたつも存在してる。総資産で言ったら姫森財閥の方が倍上な気がする。
執事「お待ちしておりました。」
「……ああ。」
重々しい門が音もなく開かれる。中へと案内されながら、どこかで見たような顔ぶれのメイドや執事が次々とすれ違う。皆、どこか目を逸らすような視線を寄越すのが気になった。
執事「ルーナ様は中庭のフィールドにてお待ちです。」
「マジかよ、こんな立派な家で"中庭でバトル"なんて展開になるとは思わなかったな……。」
そんな皮肉を口にしながらも、足取りは自然と早くなる。正直、ルーナと面と向かうのは数年ぶりだ。
──互いに口も聞きたくなかった、あの日以来。
◇◇◇
中庭には、まるで遊園地の一角のようなフィールドが広がっていた。だが、その装飾の甘さに騙されるべきではなかった。
巨大なマカロンのオブジェ、虹色の噴水、ぬいぐるみたちが整列するように並んでいる。
中央に、彼女は立っていた。
姫森ルーナ。
かつての“幼馴染み”だった少女は、ピンクのドレスに身を包み、魔法仕掛けの杖を片手に微笑んでいた。
ルーナ「来てくれたのらね、ゆーと。」
「んで、用は?」
ルーナ「ヴィシャンティの剣を返して欲しいのら?」
「呼んだ上にその話か?まぁ...返して欲しいが、大事なのはその剣に付いてた大魔法使いの魔石が俺は欲しいがな。」
ルーナ「奇遇なのらね、ルーナ達は今その魔石の研究をしたいと思ってるのら。」
「いや、それは個人的にさせたくないな。」
ルーナ「やっぱりなにかあるのらね?」
「んで、なんでわざわざ戦う必要がある?」
ルーナ「簡単なのら、ルーナが勝てば剣と魔石一緒に返すのら。でも悠斗が負けたら今まで作ったスーツは全部ルーナに渡すのら。」
「は...?」
ルーナの宣言に、俺は思わずまばたきを忘れた。
「今まで作ったスーツ、全部って……お前、それがどんな意味か分かって言ってんのか?」
ルーナ「もちろんわかってるのら。だって、それくらいじゃないと勝負にならないのら。」
ルーナはにこりと笑った。けれどその瞳の奥には、かつて見せたことのない色があった。幼い頃の“遊び”とは明らかに違う、計算された意志のようなもの。
俺は静かに呼吸を整える。ナノテクスーツのリアクターが脊椎に沿って軽く振動し、意識と同期する。
「……なあ、ルーナ」
ルーナ「ん?」
「お前、本気なんだな」
ルーナ「……ん、そうなのら。もう“子ども”のままじゃいられないのら。」
一瞬、胸の奥に妙なざわめきが走った。あの頃、まだルーナが“お姫様ごっこ”に夢中だった頃、俺はただの幼なじみだった。なのに──どうして今、この中庭で、こんな取引じみた戦いを前にしてるんだ?
「その剣と魔石……どっちも重要だ。けどスーツは、俺の全部だ。お前、それ本当にわかってるか?」
ルーナ「うん。だからこそ、それを賭けてほしいのら。」
ふわりと、杖の先に光が集まる。飴色の魔力が風に乗って舞い、虹のような光彩がフィールド全体を包み始めた。見た目こそメルヘンだけど、魔力の密度は異常だ。甘い香りに混じって、焼きつくような緊張感が漂っている。
「お前……その力、誰に教わった?」
ルーナ「秘密なのら。でも……悠斗にだけは全部ぶつけてみたかったのら。」
この一言が、なぜか胸に刺さる。戦う理由なんて単純じゃない。だけど、だからこそ──
「……そうかよ。なら、受けて立つ。」
ナノスーツのリアクターが青白い光を発し、全身にフィットしていく。視界が一気にシャープになり、身体の重さが消える感覚。かつて何度も試した起動シークエンスは、今や俺の肉体と一体だ。
「ラヴリカ、全システム──フル稼働ま」
ルーナ「魔力供給──最大展開なのら♪」
飴色と青白の光が、同時にフィールドの空気を裂いた。
決戦の鐘は、今──鳴ろうとしていた。
ルーナ「準備はいいのら、ゆーと?」
ルーナが中庭の中心に立ち、杖を軽く掲げる。その先から、甘やかな魔力がじわりと溢れ出した。地面がピンク色に染まり、虹色の噴水がゆっくりと回転を始める。まるで夢の国のような、甘美で非現実的な戦場。
悠斗は無言で、背中のリアクターから放射されるナノブースターを調整した。ナノテクスーツはこよりによるチューニングを経て、従来よりも魔力に対する適応率が飛躍的に上昇している。けれど、油断はできない。
なぜなら目の前に立つのは、姫にして――幼馴染であり、天才・姫森ルーナだからだ。
「行くぞ。」
ブースト起動。
悠斗が低空を滑るように突進した。視認すら困難な速度だ。だがルーナは涼しい顔で小さく呟く。
ルーナ「《ドリーミィ・ラビリンス》」
パァン、と空気が弾ける。
突如、中庭が歪んだ。視界が反転し、足元の重力すら狂う。幻覚、幻音、錯覚の連打――悠斗の感覚器を魔法が狂わせていく。
「くっ……!」
だが悠斗は、ナノAIにより補正されたフィードバックで空間構造の異常を即座に分析。補助視覚センサーを展開し、敵影を捕捉。
「いたっ!」
右腕のバスターキャノンが展開され、チャージ無しの高速弾を放つ。魔法陣を貫き、爆発音が響いた。
が――
ルーナ「フェイントなのらっ♪」
霧の向こうから、キャンディの嵐。
「っ!?」
バシバシバシバシッ!!
小型弾だと思ったその一発一発が、魔力結晶だった。高圧縮の魔力がスーツの表面装甲に打ち込まれ、エネルギーフィールドが削れていく。
(やるな……マジで全力か!)
「こっちも、やらせてもらうぞ」
悠斗のスーツ背面から複数のドローン型ナノユニットが分離、空中に展開された。
《シグマ・フレアシステム、起動》
全方位の照準がルーナに向けられ、赤く点灯する。
ルーナ「これは……包囲射撃!? でも――」
彼女は杖を掲げ、瞬時に展開。
ルーナ「《キャンディ・シールド・リンク》!」
マカロン型の魔法障壁が幾重にも重なり、ドローンのビームを受け止めていく。数発は貫通するが、致命打にはならない。
悠斗は舌打ちし、重心を沈めた。
「なら、正面からぶち抜くまでだ」
両足のリアクターが再チャージを終え、エネルギーが迸る。
スーツの両肩が展開され、プラズマブレードが形成される。
突撃――!
「ハァアアアッ!!」
斬撃が魔法障壁を砕く。ルーナの杖がギリギリでそれを受け止め、衝撃波がフィールド全体を揺らす。
ルーナ「近接戦、する気なのらね……甘く見たら、痛いのらよ?」
彼女は空中に飛び、足元に魔法陣を展開。
「《ドリーム・チャリオット》!」
巨大なキャンディの馬車が召喚され、その上にルーナが乗る。空中戦モードだ。
馬車が突進してくる。悠斗は背部ブースターで回避しながら、空中で反転――
「逃がさねぇ!!」
斜め上からの跳躍突撃!
だが、ルーナは口元で笑う。
ルーナ「《ミラージュ・キャンディ》!」
空間が反射し、悠斗の姿が複数に分裂したように見える。反射ではなく分身幻影魔法。
(まずい……どれが本物か、分からない!)
と、その瞬間。
ルーナ「今なのらっ!!」
ルーナの杖が赤く光り、悠斗の足元の空間に爆裂魔法が炸裂。
ドカァン!!
悠斗は吹き飛ばされ、スーツの装甲が部分的に剥がれる。
「っ……チィ……やるな……!」
空中でバランスを取りながら、胸元の緊急修復ナノを起動。スーツの裂けた部分が自己修復されていく。
「でも……まだ終わらせねぇよ!」
《リアクター・オーバーチャージ》
背面ブースターが赤く光る。機体全体が過熱し、内部温度が上昇するが、ナノ冷却機構がギリギリそれを支えていた。
ルーナ「無理するのは体によくないのらよ?」
悠斗「無理してでも、負けられねぇ理由がある」
悠斗が右拳を構えた。
「この一撃で終わりだ!!」
《コア・ナックル:ヴァリアントモード》
スーツの腕部から光が溢れ出す。ナノ粒子が腕全体を包み、巨大な光の拳が形成される。コアエネルギーを一点集中した、最大出力打撃。
ルーナの目が見開かれる。
ルーナ「……来るのらね」
彼女も同時に魔力を集中。杖を前方に突き出し、魔法陣を三重に展開した。
ルーナ「《キャンディ・ウォール・エクスプロージョン》!!」
全魔力を一点に集束し、直線に魔力砲を放つ。
二人の一撃が、交差する。
光と風が爆ぜる。 フィールドが歪む。 ぬいぐるみたちが吹き飛び、虹色の噴水が止まる。
◇◇◇
数秒後。
風が止んだ。
立っていたのは――
悠斗だった。
ルーナは崩れたマカロンの山に座り込んで、肩で息をしている。
ルーナ「ま……負けたのら……ぐぬぬぬ……悔しいのら……!」
悠斗も同じく膝をつき、肩で呼吸をしていた。スーツは半壊寸前。だが、まだ起動している。
「……約束、だろ?」
ルーナはふいっと目を逸らした後、杖を地面に突き、意地を張ったような顔で言った。
ルーナ「剣と魔石、返すのら。でも……」
「でも?」
「また、戦いたいのら……次は絶対に勝つのら……」
悠斗は一瞬黙り込んだ後、口の端を少しだけ上げて応じた。
「そのときは手加減しねぇからな、ルーナ」
ルーナ「1つ教えて欲しいのら......」
「ん?なんだ?」
ルーナ「仲直りは出来たってことでいいのら?」
「どうだろうな。でも俺はスッキリしたぞ。」
ルーナ「奇遇なのらね。」
こういう仲直りもありなのかもしれない。