お祖母ちゃん、VRMMOで余生を謳歌する!   作:LUCIOLE

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第36話 『そして・・・新しい一歩を』

 

 翌朝、私はベッドの上で目が覚めた。

 

 (知らない天井・・・じゃない)

 

 刺さったクナイの後が2箇所見える。

 

 「紫苑ちゃん!」

 

 ぼうっとした思考の中、ゆっくり体を起こした私を抱きしめたのは今の母親である伯母さんだった。

 

 そして、条件反射で躱そうとしたが、体が重く思う様に動かなかった事にも驚いた。

 

 「体は大丈夫か?」

 

 見れば伯父さん、今の父親も居て心配そうに私を見ている。

 

 「あの・・・」

 

 訳が分からなかった、何故2人がここに居るのか。どうして私はここで寝ていたのか。そして、染み込む伯母の暖かさに生きている事を今更ながらに実感している。

 

 「ちゃんと鍛えられてるので大丈夫だと思いますが、一応検査を受けて帰って下さいね」 

 

 「ひゃんっ!?」

 

 その声に私は驚いて変な声を出して、口を押さえた。

 

 驚きの表情のまま振り返るとそこには軟らかく微笑む春香さんが居た。

 

 「あ、う・・・」

 

 私は昨日の事を思い出した。私はこの人を殺しに来た・・・多分殺しに来たんだと思う。

 

 ただ、今明るい部屋で軟らかく微笑む彼女を見て、今はそんな気はすっかり失せてしまっている。

 

 そんな自分に気が付いて、急に怖くなった。自分の事、自分のやろうとした事・・・体が振るえ冷や汗が浮かび上がる。

 

 そんな紫苑を気遣って、大丈夫、大丈夫と伯母さんが強く抱きしめてくれた。

 

 私は簡易ベッドに乗せられたまま、朝一で再検査を受けて異常無しとの確約を貰って病院を出た。

 

 私が検査を受けている間に、伯父さんと春香さんで話がされたらしい。

 

 そして、無罪放免・・・そんな事が有るのだろうか?

 

 私は伯父さん夫婦を置き去りにして、走り出した。

 

 春香さんの部屋の前。覚悟を決め、中に入ると春香さんは窓側の椅子に座って外を見ていた。

 

 「私ね、3年もこの部屋に居たのにここからの景色は余り見た事が無いの・・・」

 

 そう呟く春香さんの顔は凄く穏やかだった。

 

 昨晩、自分を殺そうとした人物がここに居るのに。

 

 「あの・・・」 

 

 「私は殺し屋だった。小さな頃から才能が有って、これまで言われるがままに人を殺してきたの・・・」

 

 見た目通り、初老のお婆さんの独白。

 

 「でもね、ある日あの人に出会った。運命だと思った。殺し屋と殺す対象だったのに」

 

 遠くを見詰める春香さんの表情は、まるで初恋をした年頃の女の子だった。

 

 「私は長に彼を殺さない様にとお願いしたわ」

 

 だが、其れを祖父は良しとしなかったのだろう。

 

 それから約40年。まだ15の紫苑からすれば途方も無い時間だ。

 

 「私は、あの人との幸せな生活を送りながらも心から心休まる日は少なかったわ」  

 

 小さく息を吐く。

 

 「私は貴方の御両親が来た時に、色々里の話を聞いたの」

 

 私を真っ直ぐ見て、優しく見詰める。

 

 「そして、その時に1つの約束をしたの。もし最後の刺客として貴方が来た時に傷付けないでと・・・。」

 

 「私は!?」  

 

 「貴方はあの子達の忘れ形見。私には孫みたいなものだもの、傷付けられる筈がないわ・・・」

 

 春香さんは静かに泣いていた。

 

 まるで、最愛の子供や孫でも見る様なやさしい瞳で。

 

 「でも・・・」

 

 私は何も告げられなかった。

 

 長は、祖父はずっと後悔していた。時代に取り残され消え行く里の存続に囚われた事。春香さんに刺客を送った事。

 

 父と母を春香さんに向かわせた事、私に忍びの技を教え鍛えた事。全て分ってた。

 

 そして、父と母が亡くなった3年前、全てが終った事・・・。

 

 「2年前、長から連絡が有ったの」

 

 「御爺様から!?」

 

 「貴方を忍として育ててしまった事を後悔していたわ。普通の女の子として、孫として接すれば良かったと」

 

 「御爺様・・・」 

 

 「長はね、修行を付けながらも貴方が可愛くて仕方が無かったのよ」

 

 だから私が、春香さんを逆恨みして殺しに来ても、殺さないで欲しい、傷付けないで欲しいと祖父も泣いて懇願したのだそうだ。

 

 春香さんが殺さないで欲しいと懇願し、里を抜けてまで守ろうとした人を殺そうとした祖父が、恥も外聞も全てかなぐり捨ててそんな事を春香さんに泣きながら懇願したのだ。

 

 「だから、貴方は普通に生きて。学校に通って勉強して、友達と遊び恋をして、愛し合う誰かと幸せな家庭を持つ」

 

 優しかった両親や祖父の顔が思い出だされ、涙が溢れてくる。

 

 「貴方を愛した、長や両親、そして今の御両親の思いを受け止めて上げて・・・お願いします」

 

 そう言って頭を下げる春香さんに私は何も言えず、ただただ泣きじゃくるのだった。

 

 

ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

 

 

 ツバメが姿を消して2ヶ月と半月。

 

 突然戻って来たツバメが、メールで全員を誘って『田舎のリゾートホテルでオフ会をしませんか?』と提案してきたのだ。

 

 流石にお祖母ちゃんを田舎に連れて行くのは無理だと思ったのだが、話してみればお祖母ちゃんと、お祖父ちゃんの両方から許可が下りた。

 

 しかも、オズさんとタダカツさんからも参加するとの返事を貰い、空と心音が飛び跳ねて喜んでいるのを見ると何も言う事など無かった。

 

 そして、丁度夏休みの僕達は遂に全員揃ってのオフ会をする事になったのだ。

 

 これまで一度も会った事の無い、オズさんやタダカツさんの参加は勿論。行方を眩ませていたツバメとの再会、そして、リニューアルされた話題のリゾートホテルで2泊3日間の旅行となった。

 

 ツバメがログインしなくなってから、ちょくちょくメールを入れていたが全く反応が無かったので、嫌われている、いや、しつこく付きまとう粘着野朗と思われているかと不安だったが、ちゃんと招待されて良かった。

 

 

 

 そのホテルに向かうバスの中、空と心音がはしゃぎ、お祖母ちゃんも凄く楽しそうにしている。

 

 オズさん、タダカツさん、ツバメの3人は現地集合なので居ない。

 

 「凄いね!コウちゃんあの橋」

 

 道の先、渓谷を渡る高い橋の中央に台が迫り出している。

 

 「本当だ、あれはバンジーかな?」

 

 「きゃ!?」

 

 丁度誰かが飛び降り、それを見た心音が小さな悲鳴を上げた。

 

 「みんなでやってみたいわね~」

 

 まさかの、いや、普通なのか?お祖母ちゃんがそんな事を言い出したが、心音が涙目でふるふると首を振って止めている。

 

 そのまま、バスは山道をくねくねと進むと直ぐに先程チラリと見えた橋から続く車道に出て、そのまま少し坂を下ると開けた山間の盆地に立派なホテルが見えてきた。

 

 「おお~!」

 

 近くの町から車で約20分、こんな山の中に不釣合いな最新のリゾートホテルが立っているのだ。

 

 反対側には昔ながらの集落と田んぼや畑が広がり、古い旅館も建っている。

 

 「向こうの旅館も営業しているんだって」

 

 「農業体験とかも出来るそうですよ」

 

 「森の中でも遊べるそうね」

 

 3人は楽しみで事前に色々調べたそうで、あれもやりたいこれもやりたいと話している。

 

 ホテルでは無く、古い旅館の前にバスが止まるとコンダクターがお祖母ちゃんの車椅子を引いて、車椅子用リフトで降ろしてくれる。

 

 そのまま、旅館まで押してくれると言っていたが、お祖母ちゃんが少し緊張している様に見えたので、僕が代わって旅館に入ると従業員が全員居るのではないかというほどの人数がズラリと並んで出迎えてくれた。

 

 「ようこそお越し下さいました!【春雷】御一行様!」 

 

 ツバメのやつ【春雷】で予約を入れていたのか!?

 

 「そして、お帰りなさいませ、春香様!」

 

 「「「はい!?」」」

 

 僕達は驚きの余りハモってしまった。

 




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