うどんげ、とにかくポンポンペイン   作:mazuton

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 うどんげはお腹が痛かった。トイレに行こうが胃が痛いのか腸が痛いのかわからない。ストレスが先か、お腹の痛みが先か。トイレに行っては出るものも出ず、閉所の圧迫感と不安感に耐えきれず外に出て、そのまま横になって休んでみたり。

 

 それでも回復はせず、立ち上がる。 気晴らしに外に出て歩く。ストレスには運動、自然に触れることがいいそうだ。本で読んだ。湖にでも行こう。うどんげは真面目だった。 妖精達が遊んでいる様子を傍目に、プラプラと歩く。ガヤガヤ騒がしい様子で気が散るが、その煩わしさも今は有難い。

 

 ふと、お腹のことを意識外に置くことができていたことに気づき、やはり気の持ちようなのだと気分が上がるのを感じる。 ヨシヨシと手を握りしめて自分のやり方は間違っていないと思い、丁度よく小腹も空いてきたため、人里にてご飯を食べようと決心する。

 

 定食屋に入り、騒がしい様子に緊張を感じる。もし、この環境でお腹が痛くなったらどうしよう。そう思うと、先程までの余裕が嘘かのようにお腹を意識してしまう。忘れよう。気を紛らわせねば。そう思って、周りを見渡す。家族連れが目に入るが、意識はそこには無い。もう外に出たい。ご飯とかいい。そんな気持ちになる。 注文した料理がでてくるが、最悪の事態にならないことを願いながら食べる食事は実に心地よくなかった。

 

 食事が終わったあと、項垂れ、満腹感と敗北感を得てから店を出る。すると、先程の痛みが嘘かのように回復する。なんなんだこれは。うどんげは無表情を装いながら、心の中で地団駄を踏む。 月にいた時代は、もっと辛かったはず。体力的にも精神的にも。今は大したことは何も起きていないはずなのに。

 

 帰宅する途中、竹林でてゐを発見する。どうせ罠でも仕掛けているのだろうと足元を銃で撃ち抜き、罠を破壊する。顔を引き攣らせた様子のてゐを横目にスタスタと永遠亭に向かう。

 

「あら、帰ったの。体調はよくなった?」

 

 師匠である八意永琳が玄関で迎える。うどんげは、はいと答えて頷く。それはよかった、と永琳は頷き振り返って歩いていく。うどんげは、先程よりお腹の調子がいいことに気づいた。首を傾げながら、靴を脱ぐうどんげであった。

 

 朝になり、目が覚めてから布団の外の気温の低さに気が滅入りながら、もそもそと身支度を開始する。文明の利器はゼロではないが、月と比べると、今の永遠亭には色々と足りない。

 

 人里に出て、人間たちに薬を売る。セールストークなどはしない。うどんげにはそんなことは出来ないし、必要なものがあればあちらから欲しがるので、それを提供すれば良い。自分が作ったものではないそれを、感謝しながら買っていく様は、少なくとも不快ではなかった。

 

 歩いていると、怒号が聴こえてきた。老人が何かしら怒っている。それに対応する若者。うどんげはそれがどんな理由であれ、大きな声でわめかれるのが嫌いだった。昔を思い出す。なんとなく、別の通りから帰ることにした。ああいった状況に関わり合いになどなりたくなかった。

 

 隠し持った武器で民間人の命を刈り取ることなど容易いが、うどんげは気に食わないからと人を殺すような思考は当然なかった。いざ必要なときは、自分の心に蓋をしてでも現れる脅威から永遠亭の皆と自らを守る。そうしなければ自分自身に存在意義などないと、そう思っている。

 

 ふと、先程の老人のであろう叫び声が聞こえる。そっと顔を出すと、そこには人がすっぽり入る程度の高さの落とし穴に落ちた老人がヒイヒイ言いながら穴をよじ登ろうとしている姿と、それを見てケラケラ笑う少女であった。

 

 うどんげは知らないが、彼女の名前は鬼人正邪。幻想郷にて絶賛指名手配中の妖怪だ。

 

「けっ。ざまあみろ。年を取ってるだけで偉くなったと勘違いしている老害が。お前のような奴が本当の弱者を価値を貶めているのだ」

 

 そういいながら、げしげしと老人を足蹴にしていた。端からみていてあまり気持ちのいいものではなかった。とはいえ、良くないことだと止める勇気もうどんげにはない。

 

「ほらほらほら。登ってみろ…あっ」

 

 足を何回も踏み下ろす過程で、老人に当たらずバランスを崩して、穴の中に鬼人正邪も落ちてしまう。そこから、形勢逆転した老人が正邪に蹴りを入れ始める。協力すれば穴の外に出られるのに、そんなことはどうでもよく、自分を馬鹿にした相手を懲らしめることに躍起になっている。

 

 うどんげは、流石に哀れに思い、気が立った老人を無理やりとめ、穴の中からヒョイと持ち上げた。老人は怒りをおさめなかったが、無言で軽く睨みをきかすとへこへこして去っていった。まだボケていなくてよかった。うどんげは、続いて穴の中で体を丸めてダメージに備えていた正邪を穴の中から取り出した。

 

 助け出した正邪はへらへらしながら薄っぺらい感謝の言葉を述べていたが、心の底では明らかにうどんげを侮蔑する含みのある発言をしてきた。そういったことに敏感なうどんげは、助けたことを後悔し、少しお腹が痛くなったと感じながら、まだペラペラしゃべっている正邪の言葉を手でストップして、その場を後にしようとした。だが、正邪は引き下がらない。

 

「感謝してるんですよ、私。ぜひ、恩返しさせてくださいよ。うさぎのお姉さん」

 

にんまりと笑う正邪をみて、うどんげはため息をついた。

 

 

 

 

 

 別の日、うどんげはいつも通り人里に向かっていた。永遠亭を出て竹林を抜けようとする。いつもはてゐが穴を掘っては罠をつくり、うどんげへといたずらをしてくる。罠に引っかかることはないものの、面倒ではあるのでやめてほしかった。しかし、今日は周りを見渡してもてゐの姿は見えない。

 

 珍しいことがあるものだと思うが、そんな日もあるかと気にせず歩みを進める。黙々と歩いていると、ふと、昨日の出来事を思い出す。変な人、妖怪?に会ったな、あまり関わり合いになりたくないからもう話しかけないで欲しいな、うどんげはそんな風に考えていた。

 

 自分は一般人なのだ。変に目立つ人に絡まれると落ち着かないのだと。また絡まれる可能性があるのを考えると少し気が滅入るな、と悪い想像をしていたところ、丁度ひと際大きな落とし穴に視線が行く。そして穴の手前で何かを騒いでいる昨日の妖怪。気になって穴を覗き込んだうどんげの目に入ったのは、落とし穴の中で薄汚れていた、てゐだった。

 

「けひゃひゃ!滑稽だねえ。人を呪わば穴二つってね。って意味が違うか」

 

状況を察するに、正邪がてゐを落とし穴に落としたらしい。

 

「丁度いいところにきた。お姉さんが困ってるって言ってたからさ、懲らしめてやったんだよ」

 

それは正邪の曲がった親切心であった。確かに、先日つきまとわれていた時にポロっと、てゐの罠に困っているという話はしていた。いつも悪戯でうどんげを困らせているてゐの存在を知って、うどんげを困らせている元凶を懲らしめてやろうと思い立ってしまったのだ。

 

うどんげは、穴の中でうずくまるてゐの姿を再度みる。うどんげは冷静であった。冷静に、目の前にいる妖怪をいかに処理するかに頭を使い始める。

 

「イテテ、まさか私が落とし穴に落ちるなんて、鈍ったもんだよ。歳かね、こりゃ。おお、鈴仙。こんなところでどうしたん……ヤバ!」

 

 てゐは無事だった。ボロボロに見えたのは、単純に落ちたときに汚れていただけだ。 てゐは穴から出てきて、鈴仙に気づき近づこうとするが、鈴仙の様子を見て瞬間的に近くにいた正邪を思い切り蹴飛ばす。数メートル吹っ飛ばされた正邪は突然の衝撃と痛みに驚きながらてゐに文句を言おうとするが、てゐの恐ろしい剣幕に押し黙る。

 

「あんた、今すぐ逃げな!この場からすぐ!」

 

 正邪は、訳が分からず、動こうとするも反応が鈍い。

 あぁ、じれったいと思ってると、うどんげの方からブツブツと話している声が聴こえてきて、てゐは冷や汗をかく。その場の温度が低くなったような嫌な感覚と共に、望み薄だとは思いながらもうどんげに声をかける。

 

「やあ、鈴仙。元気かい。私は元気さ」

「大丈夫」

「私は大丈夫だよ。どうしたんだい、そんな怖い顔して」

「大丈夫。安心して」

「いやー、出来ないかな。そんな物騒なもん持ってるんだもん」

 

 うどんげは先程まで手に何も持っていなかった。しかし、気づくと手の中にライフル弾のようなものを持っていた。てゐは正邪の方を見て、早く逃げるように必死に指示を出す。

 

「ばん」

 

 うどんげは指を銃の形にして、口で軽く銃声を真似ながら手に持ったライフル弾のようなものを正邪めがけて打ち込む。弾は音速を超えながら、標的へ向かう。てゐは急いで能力を発動、正邪の運気を瞬間的に向上させた。正邪は足元の小石に躓いてバランスを崩して転び、頭の位置があった場所をライフルが通り過ぎる。標的を外したライフル弾はその先にあった竹を数十本消し飛ばした。

 

「えっ」

 

 その惨状を理解できずに声を漏らす正邪。止めようとするてゐをズルズルと引きずるように近づいてくる。その目に感情は感じ取れず、ただただ自分を処分しようとしているのだと理解してしまった。

 

正邪は泡を吹いて倒れた。

 




小心者だけども強い。そんなうどんげを書きたかった。
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