通りすがりの『先生』   作:muryoku

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時計仕掛けの花のパヴァーヌ編
始まりは、いつも唐突!


 少女――早瀬ユウカは激怒した。必ず、かの邪知暴虐の教師を説教せねばならぬと決意した。

 

 彼女は今、自身の手に握られたスマートフォンに視線を向けながら、早歩きでシャーレのビル内を歩いていた。

 一昨日の当番の日にシャーレ内部に設置しておいた監視カメラは無事動作しているようで、彼女のスマホの中にはオフィスにいる先生の姿が映し出されている。

 

 今より三週間ほど前。連邦生徒会が新たな部署、連邦捜査部シャーレが設立。その顧問としてキヴォトス外より招かれた『先生』が就任。

 

 その際に生じた、矯正局から脱獄した生徒のシャーレ襲撃事件鎮圧に助力した功績を買われ、彼女は週に2、3度手伝いとしてシャーレに顔を出すようになっていた。

 

 シャーレの活動内容はキヴォトスで暮らすあらゆる生徒の相談に応じ、介入を行うという業務が主である。一見すればただのお悩み相談クラブの様な仕事に思えるかもしれないが、実際は全く異なっている。

 

 あらゆる規約、法律、罰則、規制をすり抜け調査を行う事が可能であり、先生という個人に全ての権限を授ける事で組織では介入が難しい諸問題すらも難なく関与する事ができ、戦闘すらも許可されているという、とんでもない役職なのだ。

 

 そんなオールラウンドな存在としてキヴォトス中で話題となっているシャーレだが、一番生徒たちの興味を引き付けているのはその顧問である『先生』の存在だ。

 

 キヴォトスには男の性を持つ生徒は公的に確認されている限りは現状居ない。

 街の住人である犬や猫、ロボット等を見渡せば男性的な人物もかなりいるのだが、やはり生徒たちと同じような容姿を持つ男性というのはおらず。

 

 そんな中で連邦生徒会長直々の指名でもあり、超法規的機関を一任されている『男性の大人』という存在は、生徒たちの視線を搔っ攫うのには十分すぎるほどの話題性であった。

 

 まだ就任して日は浅いが世間での彼の評価はかなり高く、既にかなりの生徒からの信頼を勝ち取っている――のだが、ユウカから彼への印象は最悪と言って差し支えない物になっていた。

 

 理由は単純、先生は適当な言い訳を付けフラフラと業務をほったらかして出歩き、ユウカが書類を全て片付けタイミングを見計らったかのように帰って来るという、先生のやる気の無さから来る物だ。

 

 さらにはシャーレの名義を使い高級な飲食店で食事をしたり、身の回りの物を購入したりしている。それを処理するのは会計処理能力の高いユウカ。経費と睨めっこをしてる中、先生より差し出される領収書の金額を見るたびにユウカの胃はキリキリと痛み、増えていく出費と共に彼への憎悪は募っていく。

 

 それだけではない。自身と同じ当番でありユウカの友人でもある生塩ノアに先生の愚痴を吐いた時、信じられない回答が帰って来たのだ。

 

 ノア曰く、『少なくとも私が当番の時は、先生がお休みしたことは一度もありませんよ。食事も最低限のコンビニ弁当ですし』と。さらには『業務内容も適当でなく、きちんとこなしてらっしゃいました』とまで言う。

 

 もしやあの男に何か催眠術でも掛けられ、騙されているのでは無いだろうかとも考えたが、ノアに限ってそんな事は無いだろう。どちらかと言えばノアは騙す側なのだから。

 

 彼女の話を踏まえて考えればつまり、先生はユウカが来る日は意図的に手を抜き、ノアが来る日は本腰を入れて仕事をしているという事だ。

 

 この扱いの差は何なのだ。彼は一体私を何だと思っているのか。今日は絶対に逃がさない。トイレもちょっとした気分転換の散歩もコーヒーを自販機に買いに行くのも、全て私が付きっきりで監視し、定時まで仕事をさせる。そして、真義を問いただしてやる――。

 

 オフィスに突入すると監視カメラで確認したままの映像でそこに居る先生が見えた。

 

 姿を見た瞬間ここに来るまでに貯めてきた鬱憤を抑える事が出来なくなり、ユウカは怒りの説教を開始する事にした。

 

「ちょっとお話いいですか、いいですよね!昨日の内に送ってくださいと言った書類がまだ届いてないとゲヘナから報告がありましたよ!いい加減にしてください!それに、何ですこの大量の領収書!予算は先生が思ってるほど無いんですよ!これから無駄遣いはぜっっったいに止めてくださいってあれ程……先生?ちょっと、聞いてるんですか!?」

 

 そこまでまくし立てて、違和に気が付く。デスクの前に座る先生がいつまで経っても普段のような文句一つすらいう事なく、頷くことすらしてくれない。

 

 不思議に思ったユウカは、今経っている場所からさらに先生に近づき、凝視し、そして理解した。

 

 そこに座っているのは先生ではなく――落書きの様なムカつく顔をした、彼の体形そっくりなただのマネキンなのだと。

 

 ユウカが、静かにマネキンへと近づく。ご丁寧にも先生と寸分たがわぬ服装だけでなく、普段から持ち歩いているマゼンタ色の二眼レフカメラのレプリカも首に提げてある。

 

 マネキンの手に握られていた手紙を奪い取り、乱雑に破いて中を見る。

 

(土産を置いておく。後は頼んだぞ、早瀬)

 

 机の上には、到底自分一人では処理できない量の書類が、山のように積み重なっていた。

 

 瞬間、ユウカの脳の血管が10本ほど切れる音が、一人しかいない静寂なオフィスに響く。

 

「――せんせいいいいいいいいいいい!!!!!」

 

 現在時刻午前9時30分。シャーレビル周辺の地域に震度2弱の地震が確認された――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よくやったワカモ。俺の奢りだ、好きなもん食え」

 

「い、いえそんな。あなた様に奢らせるなど、そんな恐れ多い事……」

 

「そう謙遜すんな。ほら、さっさと頼め」

 

「で、ではお言葉に甘えて……このカップル限定季節のフルーツたっぷり愛の印パフェをお一つ、戴いてもよろしいでしょうか」

 

 信じられない速度で置かれていた全ての書類を片付けたユウカがシャーレビルを飛び出し、修羅の顔で先生の捜索を開始した午前12時頃。怒りの矛先である先生――門矢士は襲撃事件の主犯であるお面を付けた少女と共に楽しくランチを嗜んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とても楽しいひと時を、ありがとうございます。また逃げ出したくなりましたら、何なりとお申し付けください。脱走には一家言ございますので」

 

「ああ。そん時はまたよろしく頼む」

 

「ではあなた様、お気を付けて」

 

 店の前でワカモと別れをすませ、停めておいたマゼンタ、黒、白の三食で構成されている個性的なバイク、マシンディケイダ―に跨る。向かう先はミレニアムサイエンススクール、その内部にある部活――ゲーム開発部だ。

 エンジンをかけ、アロナが表示している座標へと向かってバイクを思いきり飛ばし始める。

 

 ミレニアム、他のどんな学園よりも合理と技術に重きを置き、科学の研究を日夜進めている学園である。

 ゲヘナやトリニティと比べれば歴史は浅い物の、圧倒的な技術力によりその二校と肩を並べたという程、科学の分野では先を走っている……と、アロナが語っていたのを思いだす。

 

 風を切りながら進む最中、士は先日届いた手紙の事を回想していた。

 

『ミレニアムサイエンススクールから、手紙が届いてますよ。先生』

 

 タブレット型端末――シッテムの箱から自己意志を持つこの端末のメインOS、そして自称先生の凄腕秘書であるアロナの声が聞こえてくる。

 

 眼を手元の書類からそちらへ向けてメールアプリをタッチする。差出人の所に書かれていた名前を見て一瞬アプリを閉じそうになるが、ぐっとこらえて本文を読み始める。

 

『【我らゲーム開発部は今、存続の危機に陥っています。生徒会からの廃部命令により破滅が目前に迫っている今、助けを求められる相手は選ばれし貴方だけです。勇者よ、どうか我らを救いになってください!】……か』

 

 どうにも面倒くさそうな雰囲気を、数十文字の手紙に書かれた表現の節々から士は推測する。

 この依頼に関わったが最後、数々の不運に見舞われる事になるだろう。ほとんど確信に近い直感がそう告げているのが分かる。

 数秒の思考を経て、はじき出した返答はNO。断りの文章を送ろうとキーボードを表示させ打ち込もうとしたその時。

 突如、エラーの文字が画面いっぱいに表示されたのだ。

 

『サボりはダメですよ、先生。しっかり行って来てください』

 

 咎めるような口調と半目でこちらを不服そうににらんでいるアロナが大量のエラーの文字を背景に現れる。

 

『シャーレの権限は俺にあるんだ、どんな仕事を選ぼうと俺の自由だろ。さっさと元に戻せ、アロナ』

『ダメです。私は先生の凄腕秘書なので、先生を仕事へ向かわせる義務があります』

『秘書じゃない、お前はサポート役のAIだろ。第一凄腕なんて、俺は一度も言った覚えはない』

『もし行かないのでしたら、先生がここから出ていくとき警報が鳴るようなプログラムを作っても良いんですよ?』

『…………はぁ、分かった。行って来りゃいいんだろ。ちゃちゃっと終わらせてやる』

 

 ただでさえユウカからの監視の眼が強まり始め仕事からの脱出が難しくなっているというのに、これ以上にセキュリティを強化されるのは避けたかった。

 こうして士は交渉の皮を被った脅しに屈し、今ミレニアムに向かっているというのが一連の流れだ。

 

 以前、強引に連れてこられた時の記憶を頼りにバイクを走らせれば、薄汚れた一つの建物、ゲーム開発部の部室が士の目に映る。

 

 一体、何をする気なんだか。双子姉妹の片割れがキャンキャンと騒ぐ姿を思い出し憂鬱な気分になりながら、建物の横にバイクを停めてヘルメットを外し、入口へと向かおうとした瞬間。

 

 ガラスの砕ける音が建物側から発せられ。

 

 余りにも突然の襲撃に対応する事はおろか反応する事も出来ず、飛来した物体は士の頭に直撃し、彼の意識は闇へと沈んでいった。




 と、言う訳で新シリーズです。何で一発ネタを続けた???

 本作はパヴァーヌ→アビドス→エデン条約という何とも不思議なストーリーラインで進む予定です。何でこうなったんだろうね()

 長く書きすぎてダレてしまうのもあれなので、あんまり本筋とは関わらない箇所はカットして進みます。

 それとプロットの類はほぼ考えていません。その為、ストーリーに整合性が取れない箇所が出てくるかもしれません。何卒ご容赦を……。

『先生』のベルトの色は、今のところ白の予定です。

 理由としましては、本編後だったり客演の時の『先生』って本編中にあった可愛さが無くなっちゃってるんですよね。

 仮面ライダーレジェンドでのアフレコ現場を映した動画が先日アップロードされたのですが、その動画の中であったスタッフさんの『まぁ割とぶっきらぼうな人なんだけど。そんな優しさ、あんま無い感じなんだけど』という発言がメチャクチャ引っかかってるんですよ。

 確かに彼はぶっきらぼうではあるんです。けど、その態度の裏にはちょっとやそっとでは隠し切れない優しさというか、ヒーローとしての善性と本人も自覚していない熱血さがあるんです。

 出会って二日三日の人たちに『コイツの笑顔…悪くない』とか『ちっぽけだから、守らなくちゃいけないんだろ!』とか『コイツは!馬鹿だ。けど案外優しい一面もある』とか言えちゃうような人に優しさが無いわけがないでしょ!

 近年は彼自身の特異すぎる能力や立ち位置等も相まって、なんだか神格化されちゃってる気がするんですよね。

 旅を続けていった結果、どんどんと彼自身が『共に成長する』人では無くなってきて『導く役割』にシフトチェンジしていくのはいいと思うんです。その影響でちょっと冷たく見えたりだとか、冷静さが増えて突っかかったりしなくなるとか。

 けどその根底にはニンジンやナマコやレーズンが嫌いだったり、ちょっとしたことですぐムキになる子供らしさだったり、仕事が嫌だったらサボったりとか、悪は許せないといったあくまで普通の人間性があるんです。

 そういうヒーローとはあまり思えない部分があるからこそ、普段の透かした態度とは真逆の熱い説教が、本当に格好良く見えるのだと僕は考えています。

 自分はそんな彼が大好きです。その為、今作では『子供っぽくて困った所もある。けれど暗闇の中では圧倒的な光を放つ、頼れる大人でありヒーロー』という本編中の彼をイメージして書いております。
 そちらの方がブルーアーカイブという作品においても書きやすいのでね()

 と言う訳で、割とコメディタッチな部分が多くなると思う今作な訳ですが、その過程で少しばかり『先生』の言動に違和感を感じる方もいらっしゃるかもしれません。そこのところはご容赦ください。

 次回更新がいつになるかは未定ではありますが、気長にお待ちいただけると嬉しいです。

 それではまた、次回でお会いしましょう!


















 OPEN YOUR EYES FOR THE NEXT FAIZ.

全体的な文章が

  • そこまで気にならない
  • 描写が下手
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