通りすがりの『先生』   作:muryoku

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日常パートは作者が苦手なのものあって結構ポンポン拍子で行きます。
ギャグ書くのって難しい……。

後早くシリアスが書きたい()


アリスは 武器を 入手した!!

 手遅れ。そうとしか言えない現状が、今士の目の前に広がっている。

 

 どれだけ悔やんでももう取り返しのつかない事だ。

 

 あの時こうしていれば。ガラにもなくそんなIFの可能性を追い求めてしまっている程に、士は自身の軽率な判断を悔いていた。

 

 人生という旅において、選択のミスは切っても切り離せないものだ。油断、慢心、怠惰。人間ならば誰しもが少なからずは持つ、エビルな部分。

 

 そこに今回、士は付け込まれてしまったのだ。もはや恥とまで言っていいだろう。

 

 朝9時に届いたゲーム開発部からのメールによって部室に呼び出された士が、そこで目にしたモノとは――。

 

「パンパカパーン、先生がパーティーに加わりました!力を合わせ、共に魔王を倒しましょう!」

 

 最初に出会った時の印象からは全く想像のつかないキャラクターになってしまった少女、AL-1Sもとい、ゲーム開発部の部員となったアリスだった。

 

「……で?どういう教育をしたらこうなったんだ、お前ら?」

 

 問い詰める様な強い口調と冷たい眼をもって、自身のせいで士が悩まされているという事を何もわかっていなさそうな黒髪の少女から、首を90度右に曲げる。

 その先に居るのは、無鉄砲なアホのモモイと常識人のフリをしているだけのミドリ。そしてゲーム開発部部長、ユズの三名。

 

 三人が横一列に並び全く同じ姿勢のまま正座をし、恐怖のためか青い顔をしている。あまりにも士が放つ怒気が強いせいだろうか、軽く斜め下を向いたまま一向に視線を合わせようとして来ない。もはやユズに関してはこのまま土下座しそうな程に畳を震えながら見つめていた。

 

 恐らく、こんな事になってしまった主な原因はモモイにあるのだろう。しかし、その暴走を止められなかったのなら、他二人にも当然責任という物がある訳で。

 間の悪い沈黙に耐えかねたのか。モモイがゆっくりと右手を上げてから口を開き、己の罪状を告白し始める。

 

「え、えとー。さ、最初はちゃんと学習プログラムをやらせようと思ったんだよ?でもアリスちゃんとゲームしてたら、楽しくなってきちゃって……それでずっと一緒にやってたら……こんな、事に……」

 

 終わりに行くに従って語気がしぼんでいくモモイの見苦しい言い訳が終わると共に、士は立ち上がる。その行動を見た瞬間に逃げようとしたモモイの肩を鷲掴みにし、退路を強制的に断つ。

 あ、これはマズい奴だ。そんな感想をモモイは抱く。引きつった笑みを浮かべる事しかできない彼女の体を士は強引に持ち上げ、自身の足の上に置き四つん這いの姿勢にさせた。

 

 自身のしているポーズから、モモイはこれから自身に行われるであろう罰がなんなのかを理解する。というよりも、嫌でも理解させられてしまった。

 いやいやまさか。仮に先生が血も涙も容赦もない男の人だったとして、こちらは可愛い可愛い育ち盛りな女子高生なのだ。まさかそんな事はしないだろう。……しないよね。

 

「い、一応聞くんだけどさ先生……今から、何をするおつもりで?」

「昔っから言うこと聞けないガキにはな」

 

 限りなく薄い一途の望みにかけたモモイの問いは、高く高く振り上げられた右手によって砕かれる事になる。

 待って。と、そうモモイが言い終わる前に――彼女の尻に士の手の平が振り落とされた。

 

「ぎぃやあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「こうするのがお決まりなんだよ!」

 

 スパァンと乾いた音とモモイの絶叫が、部室中に響く。容赦のない一撃だ。恐らくスカートとパンツの向こうにある肌は、今頃真っ赤に染まっているのだろう。が、士の手は止まらない。もう一度手を上げ、叩く。もう一度手を上げ、叩く。

 

 同じ学校の友人と自分の妹の目の前で、女子高校生が成人男性に尻を叩かれる。これほどまでに恥ずかしさと恐ろしさと事案の匂いがする罰はそうそうないだろう。モモイが断罪されているその光景にミドリとユズは互いに抱き合い、ガタガタと体を震わせていた。

 そんな中黒髪の少女、AL-1Sもといアリスだけが興味津々に、士に尻をぶっ叩かれているモモイを見ていた。

 

「アリス知ってます!これは辱めという奴ですね!捕まったお姫様がやられているのを見た事があります!」

「何を教えこんでんだ、お前は!」

「ひゃああああああああ!」

 

 視界の端に映ったゲームソフトの山。レース、シューティング、RPG、アクション、パズル、ローグライク。そんな様々な種類があるパッケージの一つに、女性が下着姿で描かれた物があるのを目撃。どうやらかなり際どいゲームもモモイはやらせていたらしい。余計な事をするなとあれ程言ったというのに、逆に余計な事しかしていないのか、コイツ。

 怒りと呆れが増加し、士の手に籠る力が一段階上の物へと変わった。それと一緒に、モモイのあげる悲鳴も一回り大きい物になった。

 

「いたあい!先生、痛い!手心、手心おおおおお!」

「つべこべ言ってないで反省しろ、アホモモイ!」

「いやあああああああ!私だけじゃないからぁ!!ミドリとユズも楽しそうにやってましたぁ!!だから許してえぇぇぇぇ!!」

「なっ!お、お姉ちゃん!」

「あ、あばばばばばば」

 

 味方の突然の裏切り。自身たちもこの状況に加担していましたとあっさり姉にバラされたミドリは、これ以上は言わせてなるものかと慌ててモモイの口を塞ぎ、ユズは白目をむいて泡を口から吹き出し始める。

 モモイの行動を二人が止められなかったのだと士は考えていたが、しっかりと彼女たちもこのアリスの状況に関与していたらしい。

 モモイへの罰を中断し、次はお前だと言わんばかりの視線を二人に向ける。

 

「あ、あのその先生。そ、それはお姉ちゃんの嘘だよ、嘘!私がそんな事する訳ないって、先生ならわかってくれるよ、ね?」

「あばばばばばばばば」

 

 一切を諦め泡を吐き続けるユズとは違い、両手を左右に振りながら醜い自己保身をミドリが始める。が、もうそんな事をしても遅い。矛の先は既に、二人に突き付けられているのだから。

 

「ミドリ、ユズーー!」

「きゃああああああああ!」

「ひゃああああああああ!」

「先生がハーレムルートに突入しました!これで皆幸せです!」

 

 天真爛漫に笑うアリスの場違いすぎる感想と、他三人の悲鳴が部室内に響き渡る。

 

 廃墟探索から実に、三日後の出来事であった。

 

 

 

 

 

 

 

 結論から言うと、士たちはあの時G.Bibleを見つける事は出来なかった。というよりも、アリスを発見したあの段階で探索を打ち切ったというのが正しい。

 

 彼女、アリスは発見された直後は一切の記憶を失い、初期化された様な状態だった。自身が何者なのか、どういった目的で創られ、この場所に安置されていたのか。

 様々な問いを投げるも、データが無いの一点張り。情報を聞き出す事は叶わない。

 

 一体どうしたものか。流石にこんな所に放っておくわけにもいかないだろう。かと言ってこのまま彼女を探索に連れて行くのも危険だろう。

 

 ミレニアムに一度帰ろう。そう言ったのは士ではなく、意外にもモモイだ。

 

 G.Bibleを諦めるのかと聞いた所、どうやらモモイはアリスをミレニアムの生徒として偽装し、ゲーム開発部に入部させ、定員規定を満たすつもりらしい。

 

 なるほど、確かにそれならば廃部の危機は避けられる。だが記憶喪失なのを良い事に自分の部に入部させるとは、いかがなものなのか。

 ボロが出たらどうする気なのとミドリが少々ベクトルの違う方向で憤っていたが、今は恐らくモモイの案が最適解だろう。士は彼女の案を取る事にした。

 

 その後、地上へとつながる階段を見つけアロナの案内の下で安全なルートを通り、彼らは四人とも無事にミレニアムに到着した。

 

 士的にはアリスという不確定要素の塊を詳しく調べ、しっかりとした日常生活の知識を教え込むためにもシャーレで身元を預かりたかったのだが――モモイがそれを断固として拒否。

 アリスちゃんはもう私たちゲーム開発部の部員だからミレニアムで預かる、などとふざけた事を喚き散らし始め、子供対子供の様な大人の醜い口論が勃発。

 ミドリはまたかという視線で、アリスは首を傾げ頭に疑問符を浮かべながらその喧嘩を見守っていた。

 

 最終的に、士はモモイたちにアリスを預ける事に決めた。ぶっちゃけると、これ以上モモイと喧嘩するのがめんどくさくなっただけである。

 

 こうして彼女たちにアリスを託し、自分の代わりにしっかり監視と教育するように伝えた――はずなのだが。

 

「見た感じ多分だけど……これまでにあまり戦闘経験は無いはず……」

「その言葉を否定します。アリスはこれまでに人類を27回救い魔王軍との46回に渡る戦闘を行い、三桁を超えるダンジョン探索を行ってきました。経験値はそれなりに豊富です」

「……それは、凄いね……」

 

 結果はこのザマである。

 

 こうして時間は戻って現在、ユズを除いたゲーム開発部の面々と士はミレニアムの校舎内部にあるエンジニア部の部室を訪問していた。

 

 キヴォトスは完全銃社会である。今、士たちがこうしている間にも、絶えずどこかしらで銃撃戦が起きているような、治安がほとんど世紀末に近いような社会なのだ。

 そんな中で武器を持たずに生活するというのは、もはや自ら襲ってくださいと自己申告してるような物らしく。

 しかしアリスは一文無し。新作ゲームは反射的に購入し、ソシャゲに重度の課金をしてしまうゲーム開発部の面々に、彼女に銃を買ってあげる余裕などあるはずはなく。エンジニア部の余り物をいただきに来たというわけである。

 

「悪いな白石、急に押しかけて」

「いや、全然大丈夫だよ、先生。特に用も無かったのでね」

 

 スパナを右手に持つ紫のロングヘア―の女性。エンジニア部部長、白石ウタハに対し軽い謝辞を言う。

 

「新しい仲間に、より良い武器をプレゼントしたいんだろう?そういう事であれば、エンジニア部に来たのはいい選択だよ。ここミレニアムにおける勝敗というのは、イコール技術力の差でもあるからね」

 

 ご機嫌そうに語るウタハ。その視線の先ではモモイ、ミドリ、アリスの三人が、奇麗に並べられた大量の武器を楽しそうに物色していて、隣にはその武器の説明役となっているエンジニア部部員、猫塚ヒビキと豊見コトリの姿がある。

 

 エンジニア部、モモイたちゲーム開発部とは違い、多数の実績を残しミレニアムの発展に大きく貢献している部活。

 

『マイスター』と呼ばれる飛び抜けた技術力を持つ天才たちが集まり、日夜数々の発明品を作り、設備の修理や点検も行っているという極めて優れた集団――という訳でも無く。

 

「何とこの拳銃はキヴォトス史上初、Bluetoothが搭載されている武器だ。音楽鑑賞、ファイル転送、さらにはNFCも搭載していて決済サービスにも対応、コンビニで支払いも楽々。マルチでオンリーワンな一品だよ」

「銃なんてコンビニで出したら、お店の人に勘違いされちゃうでしょ!」

「ところで先生。先生用のカメラを作ってみたんだが、いかがかな。このボタンを押した後に強い衝撃が本体に加わると、半径30mが吹き飛ぶ爆弾としても使える優れものなんだが」

「どうしてお前らはそう余計な機能を付け足すんだ」

 

 彼女たちは皆、変な方向に思いきりがいい。率直に言えば、頭のネジが3本ほどぶっ飛んでいる。天才が故の行き過ぎた想像力がそうさせるのだろうか、エンジニア部の発明品はたまに、というか7割方は何かしらの加工が加えられている。

 

 初対面の際に無理やり体験させられた『マッハリュックサック』。それに搭載されたジェットエンジンの暴走によって、士の体が上に吹き飛ばされ頭部が天井にめり込むという事件は、ミレニアム内で当分の間話題になっていたらしい。

 

 その際のお詫びとして貰った、書類に氏名を記入し、自動で印鑑を押してくれるコーヒーメーカーには大分助けられているため、その一件は水に流してやる事にしたが。

 

 このように彼女たちは高い技術力を評価されつつも、どこもかしこもから警戒されているという、なんとも残念な部活なのだ。

 

 ヒビキがお勧めした拳銃は、どうやらアリスのお眼鏡にかなわなかったようで。自信作だったのに……と目に見えて落ち込むヒビキの横を無慈悲に通り過ぎ、アリスは物色を再開する。

 

 ショットガンを持つ。しかしどうにも末尾の部分が邪魔そうだ。銃身をまじまじと見つめた後、元の位置に戻す。

 続いて小型のロケットランチャーを持ってみる。だがこれもしっくりこないのか、微妙な表情をしてから戻す。

 隣にあるスナイパーライフルを持つ。スコープ部分が上手く覗けないようだ。これも戻す。

 

 そうやって何度も何度も手にとっては戻しを繰り返すが、どうやらどれもお気に召さないようだ。仕方が無いと言えば仕方が無いだろう。彼女の今の状態は、赤子と言っても何ら変わりない。どれが自分に適し、どれが合わないのか判断する能力など、持ち合わせている訳が無い。

 

 このまま黙って見ていても、アリスは無意味に悩み続けるだけだろう。

 アドバイスくらいはしてやった方がいいか。

 武器を見るのには邪魔だからと預けられたモモイのいつも持ち歩いているゲーム機飲んでいた水をテーブルに置き、ソファーに腰掛けていた士が立ち上がる。

 

 おいアリス、と声をかけようと彼女に近づいて行ったちょうどその時。

 

 ある一つの物の前で、アリスの足がピタリと止まった。どうやら、ようやく気になる武器を見つける事が出来たようだ。

 

 一体どんなのを選んだのか。そう思い彼女の目線の先と同じ方を士が向き、そこに置いてあったのは。

 

 それは、銃と呼ぶにはあまりにも大きすぎた。大きく、分厚く、重く、そして大きすぎた。

 

 同じことを二度三度繰り返してしまう程の迫力を持つ、士より少し低いくらいの全長を持つ物体。

 人が使う事を想定して作られていないのは明らかな、銃というよりもはや大砲と呼んだ方が近い兵器を、アリスはじっと見つめていた。

 

「お客さんお目が高いですね!これはエンジニア部の過半期の予算70%を投入し作成された我らの野心作……『宇宙戦艦搭載用レールガン』です!」

 

 コトリからの補足が入るが、彼女が何を言っているのかアリスと士は理解できていない。

 宇宙戦艦搭載用レールガン。名前通りならば、これは本来その宇宙戦艦とやらに取り付け運用する事を前提に作られた代物なのだろう。

 空飛ぶ電車は経験あれど、宇宙戦艦なるモノは流石の士でも見た事が無い。そもそも宇宙戦艦とは何なのか、そんな物を作ってエンジニア部は一体何がしたいのか。

 

「エンジニア部は今、ヘリコプターや汎用作業ロボットに続いて、宇宙戦艦の開発を目的としているのです!これはその第一段階です。大気圏外での戦闘を目的とし開発された実弾兵器!これはミレニアム史上、明らかに類を見ない初の試みです!」

 

 コトリがビシッ指を指しながら説明するたびにアリスがこくこくと頷く。が、実際は話のスケールに着いていけずただ頷くことしかできないだけだろう。彼女と同じようにコトリの話に置いてけぼりにされている士には、アリスの今の心境が理解できた。

 戦艦というからには全体に大量の兵装を取り付けた船を彼女たちは作る気なのだろう。その内のたかが一つの武装に70%の予算を費やすなど、正直バカとしか言いようがない。

 全てを建造するのにいくらかかるのだろうか。ゴールまでにかかる詳しい費用はさっぱり分からないが、一生完成しないという事だけは確信できる。

 バカと天才は紙一重と昔から言うが、どうやら彼女たちは世にも珍しいバカの天才のようだ。

 

「魂、情熱、技術、そしてお金!エンジニア部の全てが注ぎ込まれたこの武器には、私たちの付けた立派な名前があります!その名も――光の剣!スーパーノヴァッッッ!!」

「……!?光の……剣……!!」

「うわっ!アリスの眼が輝いてる!」

「アリスちゃんがこんなに興奮してるの、始めて見るかも」

 

 それはまるで、子供がクリスマスの朝早くに起き、サンタからのプレゼントを視界に収めた時の様な、子供しか見せる事の出来ない無邪気な、キラキラとした眩い光を放っている笑顔。

 ぴょこぴょこ嬉しそうに軽く跳ねながらレールガンに触れ、感嘆の声を漏らす。じっくり、じっくりと隅から隅までを確認した後。

 

「これ、欲しいです……!」

「え」

 

 アリスの反応が予想外だったのか、エンジニア部三人の声が重なる。彼女はそれを、自身の声がよく聞こえなかったのだと判断し、

 

「偉大なる鋼鉄の職人よ。あの龍の息吹が欲しいのだ」

 

 しっかりとした声でよく分からない事を言う。意味は分からなくとも、言葉に込められた光の剣と称されたレールガンへの熱い思いが伝えていた。私は本当にこれが欲しいのだ、と。

 

「うーん、そう言ってくれるのは嬉しいんだが……すまないね、これは渡せないんだ」

「え、何で!?ここにあるものは何でも持って行っていいって言ってたじゃん!」

 

 やんわりとアリスの要求を退けたウタハに、モモイが即座に噛みつく。

 

 なんでもウタハが言うには、この銃は見た目通りの重さを誇っており基本重量のみで140kg以上。さらに補助機構である光学照準器、バッテリーを足した状態で射撃を行えば、瞬間的にかかる反動は200kgを優に超えるらしく。

 

 当然と言えば当然だ。本当に宇宙戦艦に搭載するつもりで、彼女たちはこれを作ったのだから。アリスが今求めているのは宇宙人と闘うような武器ではなく、人間と闘うための武器だ。戦場に携行するにはあまりにも取り回しが悪く、オーバースペックが過ぎる。

 

 ウタハの判断は至極当然な物だった。

 

「アリスちゃんが欲しいと言ってくれただけで、私たちは嬉しいよ。ありがとう。持っていけるのなら、本当にあげたいところなのだけど……」

「……汝、その言葉に一点の曇りは無いと言えるか?」

 

 申し訳なさそうな表情を浮かべるウタハに、アリスは変わらない元気な声色で彼女に問いを投げる。

 唐突にしゃべり方が変わったことを疑問に思うウタハに、ミドリが本当か?って聞いてるんだと思います、と注釈を入れる。

 

「嘘は言っていないが……まさか、アレを持ち上げる気かい?」

 

 ウタハの質問に頷き、その疑問を肯定。そして、スーパーノヴァへと近寄り――。

 

「この剣を抜きし者……闇を切り裂き、光をもたらさんっ……!」

 

 持ち手部分を握りこみ両足に力を込め、思いっきり上へと引っ張り始めた。

 

「ふーーーーーーっ!」

 

 想像通り、スーパーノヴァはピクリとも動かない。それはそうだろう、たかが一介の少女がクレーンでも使わなければ運べそうもない物を持ち上げる事などできる訳が無いのだから。

 

 モモイとアリスはアリスを心配してか、手が痛くなったらちゃんと離してねと、優しい声色で言葉を投げかけている。エンジニア部の三人も、二人と同じような視線をアリスに向け、そのささやかな頑張りを見守っていた。

 

「無理は、しない方がいい。そろそろ離し――」

「その必要はないぜ」

 

 士が止めようとしたヒビキの言葉を遮る、それとほとんど同時に。

 鉄が、軋む音がした。

 

「……まさか」

「えーーーっ!?」

「嘘……信じられない……」

 

 エンジニア部三人と、双子の表情が驚愕の色に染まり、対照的に士は微笑んでいる。

 アリスはスーパーノヴァをその細腕で持ち上げ、掲げてみせたのだ。

 

「……も、持ち上がりました!」

 

 そう、宣言する。剣を抜きし者、勇者は我であるのだと。そう高らかに、見せつけるように、宣言したのだ。

 

「これでこの剣は、アリスの物です!」

 

 誇らしげにスーパーノヴァを振り回すアリスに対し、皆がそれぞれのリアクションを取る中、ウタハ部長は嬉しそうに拍手を送る。

 

「ああ、約束だとも。持って行ってくれたまえ」

「ウタハ先輩……本当にいいんですか?」

「ああ、どちらにせよ、この子以外には使えないだろうからね。それに、実践データも取れるようになったのは、こちらとしてもありがたい」

「うわ、何だか凄い武器を貰っちゃったね!ありがとう!」

「あ、ありがとうございます!」

 

 アリスがぎこちない動作で、それでもしっかりとウタハにお礼を言う。モモイがその背中を軽く叩き、ミドリはアリスによかったねと喋りかけ、アリスと共に喜びあっていた。

 

 微笑ましい少女たちその様子を見て、士の頬が自然と緩む。

 

 アリスはアンドロイドだ。どれだけ人に姿が似ていたとしても、念入りに探せば人と違う箇所はいくつもあるだろう。

 故に士は少しだけ、アリスの身を案じていた。その認識のすり合わせを失敗してしまえば、人との生活に溶け込めない可能性や、万が一にも無いとは思うが、モモイたちが彼女を拒絶してしまうかもしれない、と。

 

 どうやらそれは完全に杞憂だったらしい。

 

 士は『先生』として短い期間と付き合いではあるが、たくさんの生徒たちと彼は出会ってきた。どいつもこいつも一癖や二癖もある連中ばかりで、中には難のある生徒も当然居る。

 

 しかしその根底は皆、善性に溢れている事を、士は理解し彼女たちを信頼している。

 

 アリスをゲーム開発部に預けたのも、ひとえに彼女たちを信頼しているからなのだ。口論が面倒くさくなったというのは、結局のところほんの少しの割合にしか過ぎない。

 

 そんな捻くれた優しさを持つ男が、帰宅を促しエンジニア部の面々に礼を言おうとしたところで。

 

「いやなに、礼を言うにはまだ早いさ。……というわけで、ヒビキ、前に処分要請を受けたドローン全機、出してくれるかい?」

「え」

 

 ウタハのそんな一言が聞こえてきて、思わず動きを止めた。

 

 何がというわけで、なのだろうか。無事に大団円で終わりそうだったところに差し込まれたウタハの一言に、モモイとミドリが困惑気味に反応する。

 アリスは言われた通りレールガンを持ち上げた。そしてウタハはこれを持ち出す事を承認した。ちゃんちゃん、でお終いだった話のはずなのだが。

 

「えっと……ウタハ先輩、何だか展開がおかしいような……」

「これってもしかして、『そう簡単に武器は持って行かせない!』みたいなパターンじゃない!?」

「ご名答。その通りさ」

 

 えーっ、と寸分たがわぬタイミングで放たれた二人の高い叫び声が、士の耳を直撃する。どうやら、大分話が歪みだしているようだ。まだまだ話の終わりには、時間がかかりそうらしい。士はもう一度、ソファーに腰掛ける事にした。

 

「その武器を扱う上で、資格があるかどうか試したくてね。先生は危ないから、そこで待っていてくれよ。じゃあヒビキ、コトリ、準備はOK?」

「うん、おっけー」

「こっちも万端です!」

「では、早速行こうか」

 

 慌てふためいているゲーム開発部サイドと、トントン拍子で話を進めていくエンジニア部サイド。両者のいきなりすぎる闘いの幕が、ウタハのなんてことないような一声で開かれる。

 

「前方にドローン及びロボットを検知、敵正反応を確認!来ます!」

「え、ええー!」

「あーもうしょうがないな!やるよ二人とも!先生、指揮よろしく頼むね!」

 

 アリスの声と共に、部室の奥の方から大量のドローンとロボットが姿を現す。

 未だこの状況についていけてないミドリを奮い立たせるべく雄々しくモモイが二人に呼びかけ、戦闘の意志を固める。

 そして先生から送られてくる指示を待ち――指示を待ち――指示を、待ち……。

 

「って先生!なんで私のゲーム機で遊んでるの!」

 

 一向に指示が飛んで来ないことに痺れを切らしたモモイが、バッと後ろを振り向いて見れば。そこには彼女がテーブルの上に一旦置いておいたゲームガールズアドバンスSPを、だらしなく寝っ転がりながらプレイしている先生の姿があった。

 

「白石が離れろって言うから、それに従ってるだけだ」

「いや離れててもいいけど!指揮してよ!指揮!」

「俺は生徒の自主性に任せるタイプの先生なんでな。お前らの成長のためだ、自分で考えて行動しろ」

「ぜっっったい適当な事言ってますよね、先生!」

 

 ミドリの悲痛な叫びはあえなくスルーされ、ガキ向けかと思ったら、意外と難しいな。という士のマイペース過ぎる呟きが、彼女の鼓膜を震わせる。

 こうなったら今手に持っている銃を突き付けて、無理やり前線に出させようか。混乱している影響も相まっているのか、ミドリの黒い部分が出かかってきたところで、ドローンがすぐ間近まで迫っている事に気が付く。

 

 あの数のドローンたちにどう対応するか。戦闘経験の少ないミドリとモモイは、咄嗟に判断を下す事が出来ない。

 

 どうすれば、どうすればいい。考え、思考し、思案して――そしてミドリは唐突に、何の前触れも無く、考える事を放棄した。

 

「アリス!何も気にしなくていいから、それロボットたちに撃っちゃって!」

「ちょっ、ミドリ!?」

「はい!アリス、魔力を解放します!」

 

 先生への、もしくは戦闘をいきなりおっぱじめたエンジニア部に対する不満からか。これをぶっ放した時に起こるであろう被害などを何一つ思案する事なく、ミドリは発砲許可を出す。

 

 その許可に素早く、そして元気よく返事をし、アリスはレールガンを真横に向け照準をロボット群へと合わせる。

 モモイが慌てて制止しようとするが、彼女にそれは届かない。なぜならアリスは、これを見た瞬間からずっと待ち続けていたのだから。

 

 自身の手の中で奔流する魔力の塊を、放出する事を。

 

 ポチっと、勢いよくボタンが一つ押し込まれ。音が、破壊の音色が起動する。

 

 白い外装に覆われた内側部分の青いクリアパーツが怪しく発光を始め、超効率ジェネレーターが内部バッテリーから伝わる電力を最大出力まで引き上げる。周囲の蛍光灯が暗く見えるほどの強烈な光が、銃口に圧縮していく。

 

 肌を刺すような緊張感。そして極度の興奮。

 

 アリスは、今か今かと、自身の解放の瞬間を待ちわびる。収縮する電気が、赤、紫、青の順番で色を付け始め――限界はすぐそこだ。

 

「――っ、光よ!」

 

 臨界点直前で、喉元で抑えていた魂からの声を、叫びを上げる。瞬間、それに呼応するかの如く、アリスの眼が発光し、モーター駆動音がピタリと止まり。

 

 天をも焦がす一筋の光が、一直線に放たれる。

 

 銃口の大きさを遥かに上回る、赤青紫の三色で構成されたカオスな光。その射線上に居たドローンたちが、一体二体四体八体とその中へと消えていく。

 

 続く照射。容赦のない殲滅。圧倒的な力。

 

 爆心地となるアリスの立つ場所からは暴風が吹き荒れ、工具やコップなどのこまごまとした物があちらこちらへ吹き飛ばされて行く。耳を貫く轟音は、まるで世界の終わりのようだ。

 

 永遠に続くと思われたそれらの現象は、一度に射出可能なエネルギーをスーパーノヴァが出し切った事で、ようやく終わりを告げた。

 

 光の放出が止まり、元の明るさを世界が取り戻す。

 

 そうして、強すぎる光によって一時的に潰されていた皆の視界が修復されきり、眼を開いてみたところ――光が放たれる前とは異なる景色が、飛び込んできた。

 

 あれほどまでにいたロボットたちは最初からそうだったかのように姿を消していて、一機残らず全てがあの光を受け止める事が出来ず、この世から消滅していた。

 

 つまりそれは光がロボットたちの群れを容赦なく貫いていったと言う訳で。

 

 彼らが立っていたはずの向こう側のエンジニア部の壁。そこには、ポッカリと大きな穴が空いていた。

 あまりの出力で放出されたビームはエンジニア部の部室の半分を、跡形も無く消し飛ばしたのだ。

 

「ってあああああああ!私たちの部室があああああああ!」

「……凄い、想像以上……」

「これは、素晴らしい……」

 

 コトリがこの惨状を慟哭し嘆いている中、彼女以外の二人は自身の発明品のあまりの完成度の高さに、感嘆の声を漏らす。

 自分たちの部室が半壊したというのに、ウタハとヒビキはそれでいいのだろうか。

 

「……す、凄いじゃん、アリス!これさえあればどんなボスでもワンパンだよ、ワンパン!」

「わぁっ、わぁっ……!アリス、やりました!」

 

 ぴょんぴょんとまるでウサギのように跳ねて、圧倒的勝利をモモイとアリスの二人が喜んでいる。一方その頃、まさかこんな事になるとは思いもしていなかったミドリ。軽率にアリスに許可を与えてしまった事を、あわわわと口に手を当て一人で慌てていた。

 

「い、いやいや。私悪くないし。襲ってきたの向こうだし。うん、大丈夫大丈夫」

 

 どうやら彼女は、自己保身に走る癖があるらしい。本人は自覚していないようであるが。

 

 と、彼女が心の中で自己正当化をしていると、誰かが歩いてくる音が後方から聞こえてきた。こちらに来たのは、先生だ。

 

「モモイの奴に渡しとけ」

 

 それだけを伝えると遊んでいたゲームガールアドバンスSPをミドリへとポイっと投げ、スタスタと横を通り過ぎ歩き続ける。そうして、部室の出入り口である銀色のドアに手をかけた。

 

「先生、どこに行くんですか?」

「出かけてくる。生塩か早瀬が探しに来たら、適当に理由つけといてくれ」

 

 いつも通りの先生の声。そのはずなのに、どうしてだかミドリは不安を覚えてしまう。何だか、切羽詰まっている様な、急いで確かめなくてはいけない何かがあるような、そんな印象を彼女は士の言葉から感じ取っていた。

 

「……そうか、先生も」

「……ウタハ先輩?どうかしたんですか?」

 

 明らかに先ほどと様子が違うウタハの様子をミドリが不審がる。いや、何でもないよ。ミドリの声に驚いたようにウタハは慌ててそう言って、すぐに元の顔に戻った。

 

 ミドリが右を向く。その先にあるのは、外に繋がる扉。先生が先ほどくぐって消えていった、扉。

 

 理由は不明だ。根拠もない。きっと心配のし過ぎなのだろう。

 

 それでもミドリの、彼女の胸の中には、一つのしこりができていく。

 

 その答え合わせは、もっと先での事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 彼女がワケ有りな事を、士は重々承知していた。承知した上で、彼はアリスをミレニアムへと連れて来た。

 しかしその『ワケ』が士の推測した物と同じならば――事態は変わってくる。

 

 まず一つ、巨大なレールガンを持ち上げ運用できる程の力の事。

 

 二つ、あの出力の発射時にすらブレない強靭な体幹の事。

 

 三つ、ビームの余波によって怪我を負っていた手の一部分が瞬きの間に修復されていた事。

 

 その三つの要素が。

 アレは――アリスは並大抵の相手ではない。何かもっと、大きな存在と闘うために作られた、戦闘用マシンなのだと、そう語っていた。

 

「……ったく、本当に面倒な事になりやがって」

 

 感情の乗った独白が、風と共に消えていく。

 

 マシンディケイダ―は、一人荒野を走る。

 

 向かう先は――廃工場だ。




士を速く変身させたい……けど中々できない……


















OPEN YOUR EYES FOR THE NEXT FAIZ.

全体的な文章が

  • そこまで気にならない
  • 描写が下手
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