通りすがりの『先生』   作:muryoku

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ディケイド本編を見返してるんですけど、クウガ編いいですよね。

真っ二つになったヘリポートを一歩も動かず士が避ける所とか、ディケイドのカッコよさが集約された話な気がします。


少女たちの戦い。そしてBlack suit

「ほ、本当に上手くいくのかな……」

「大丈夫よ、私の計算を信じなさい」

 

 士がエンジニア部を出ていってからおよそ一時間後。

 部員を増やすだけでは来学期廃部になってしまう事をユウカから聞かされたモモイたちゲーム開発部はG.Bibleを入手すべく、廃墟に再び来ていた。何故か彼女たちに付いてきた、早瀬ユウカと共に。

 

 最初は順調だった。アリスにある程度のロボットの排除を任せ、残った兵士を四人が倒す。このローテーションを繰り返す事で、サクサクと彼女たちは廃墟の中を通る事ができていた。

 しかし、ある時を境に均衡が崩れる。

 

 その理由は、敵の数が余りにも多いという事。

 双子以外の三人には分からない事だが、確実に前回忍び込んだ時よりも配置されたロボットの数が増えているのだ。

 数とは単純にして最強なりえる要素である。一台の機関銃と、万の歩兵。戦えばどちらが勝利するか。結果は明らかであろう。

 質は圧倒的に違えども、最終的には量で押される。それと同じ現象が、彼女たちにも起きていた。

 

 その状況に陥ってしまった主な原因として挙げられるのは、アリスの持つ大量破壊兵器のクールタイムの長さ。

 当然、連射を目的に彼女の武装は作られていない。一撃で敵を消滅させる。その事に特化している武装なのだ。故に一度フルパワーで放ってしまうと、オーバーヒートを防ぐために数分は射撃が不可能になる。

 当然、その時間を敵が待ってくれる理由など無く。その隙に付け込まれ、陣形を崩されてしまった。

 

 そして、レールガンの一発で消費するバッテリーの量。これが一番の問題点だ。

 このレールガンは出力を絞り小さな光弾で攻撃する事も可能である。現にアリスはバッテリーメーターに危険信号が走ってからは、その方法で戦っていた。

 

 しかしそれは、処理できる敵の数が大幅に減少するという事に他ならない。

 

 彼女たちが順調に進めたのは、彼女の大規模射撃による敵の一斉殲滅が可能だったからだ。それをあまり理解しないまま、五人は進軍を続けてしまった。

 マラソン選手がペース配分を大幅に間違えてしまったと言えば、事態の深刻さが伝わるだろうか。

 

 正に、今の彼女たちはスタミナ不足。全体の弾薬はすり減っていく一方、処理できるロボットの量は優に超え、完全に囲まれてしまった。

 このままではやられてしまう。弾を前方にばら撒きながら、早瀬ユウカは思案していた。

 どうにかして、この状況を打破せねば、と。

 

 そうして思いついた一つの作戦を決行する為に、今は瓦礫に身を隠し作戦を五人に話している最中と言う訳だ。

 

「よし、じゃあさっき言った通り。ミドリはこの三つのポイントを渡りつつ狙撃、モモイはミドリが集中放火されないようにできるだけ前に出て。そうして手薄になった所で私とユズが飛び込んで、あの大型を倒すわ。アリスちゃんはあっち側にレールガンを向けて、ここで待機。そしてロボットらの注意を惹き終わったら、2分後にこの座標で集合よ、分かった?」

「うん、おっけー!」

「いつでも行けるよ」

「が、頑張ります……」

「ユズ、そんなに怖がらなくて大丈夫です。アリスが全て蹴散らしますから!」

 

 それぞれの個性に応じた返事をした後、モモイ、ミドリ、ユズ、ユウカの四人が瓦礫の内側から飛び出していき、アリスはレールガンを所定の位置で構える。

 

 姿をくらましていたネズミたちが出てきたことに気が付いたのだろう。

 装甲の分厚い四脚のロボットとアサルトライフルを携えたドローン、そして前回しつこく追い掛け回されたヒト型のロボットの大群がこちらに向かって一目散に突撃してくる。

 

 サポート役であるミドリは後方へ、他三人は前方へと走る。倒れた鉄骨を飛び越え雑草の生えたアスファルトを蹴り、個々に指定されたポイントへと向かって行く。

 そんな中、いち早く辿り着いたのは、狙撃手の役割を担うミドリだ。

 

「ドットを撃つように正確に……!」

 

 そう自身に言い聞かせながら、スコープを覗き込む。十字の印に敵の姿を重ね、レンズの向こう側に居る比較的重装甲な敵をミドリが一人一人撃ち抜いていく。

 パン、パンと銃声が鳴るたびに、ロボット兵も同じ数が機能を停止させていく。がしかし、スナイパーライフルという武器の性質上、今回の戦闘のように多数を相手にする場合は有効打になりえない。

 事実、ミドリが撃墜する数よりも迫ってくるロボットたちの方が圧倒的に多いのだ。

 

「えーーーい!!」

 

 その取りこぼしを倒すのは、姉の仕事。ユウカとユズよりも三歩先を行くモモイがアサルトライフルをところかまわずぶっ放す。

 お世辞にも狙いがいいとは言えないが、そこはアサルトライフルの手数の多さでカバーし、ひたすら敵に向けて乱射、乱射。

 下手な鉄砲も数を撃てば当たる、その言葉の通り、放たれた大量の弾のうち数発はロボットの頭部やドローンのコア部分を見事に打ち抜き、迫りくる2割ほどの敵兵を破壊する事に成功した。

 

 幸いにも廃墟の中は崩れたコンクリートがいくつもある。そこに隠れ、時には前に出て注意を引き付け、そして移動しできるだけロボットたちを攪乱できるようにモモイは動く。

 

「■■■■」

 

 面倒なのは狙撃手の方。内蔵されている思考回路がそう判断を下したのか、数体のロボットたちがミドリの方を狙い掃射を開始した。

 

「くっ……!」

 

 構えを一度崩し、ユウカの指定した次の狙撃ポイントへとミドリが駆ける。その間、当然発砲する事はできない。無防備となったミドリの横腹をロボットたちが見逃す訳も無く。

 

「やらせないよ!」

 

 ミドリの方に注意が行くという事は、モモイにとっては隙が生まれるという事だ。先ほどの連射とは違い、できるだけ標準を定めながらロボットたちに発砲。ミドリを狙っていたドローンと人型ロボットを撃墜する事に成功した。

 双子の息の合ったコンビネーションに翻弄され、ロボットたちが徐々にその数を減らしていく。しかし、敵もただやられてるわけではない。

 

「あうっ!?」

 

 物陰に潜んでいた二体のロボットが、モモイにショットガンを中距離から発砲。ミドリの方角からも発見する事ができなかったのか対処が遅れ、モモイがまともに弾を喰らってしまった。

 人間なれば即死であるが、そこは流石のキヴォトス人。

 

「いったいなぁ!もう怒ったんだからー!」

 

 その程度の反応でショットガンの直撃をすませ、すぐさま発砲してきた二体のロボットの脳天を貫いた。

 そのまま向かってくる兵士たちへの対処をし続け、ほとんどのロボットの注意が双子姉妹に向いた直後。奥に居る四脚のデカブツが、本格的に行動を開始する。

 

「私が囮になるから、ユズはその間にそれを撃っちゃって!」

「りょ、了解……!」

 

 それと同時に、セミナーの白いジャケットをたなびかせながら、早瀬ユウカが勇猛果敢に四脚の前へと飛び出していく。

 

「悲しみも怒りも、全て因数分解してやるわ!」

 

 よく分からない事を叫びながら手元の電卓型デバイスを高速で入力し、一つの方程式を導き出す。瞬間、半透明の青色のドームがユウカの全身を覆う。

 そのまま四脚の間近へと迫り、両手に握るサブマシンガンを連射。予想通りに効き目は無い。しかし、目論見通りには行ってくれたようで、四脚の意識がユウカの側に向いてくれた。

 側面に取り付けられた二組の三連機関銃が、ユウカに向けて勢いよく放たれる。

 

 凄まじい密度の弾幕だ。もし今ユウカの場所に立っているのが他のメンバーだったならば、死にはせずとも間違いなく骨折や大量出血などの重傷を負っていた。それほどまでの攻撃。

 しかし、それらは彼女の体に辿り着く前に、張られた青色のバリアに弾かれ地面へと力なく落下していくだけだ。

 

「そんな豆鉄砲、数式の前では無力なんだから!」

 

 どうやら戦場の興奮によってアドレナリンが出てきたらしい。

 自分たちの言葉の通じない四脚に向けてユウカが挑発をしだす。それが通じてしまったのか、目の前の敵性生物に攻撃が通ってない事を認識したのか。

 内部に折りたたまれていた主砲を展開し、その先がユウカへと向けられる。

 

「って、そんなの聞いてないわよ!」

「ユウカ、離れてっ!」

 

 遮蔽物から身を乗り出したユズの声と共に、レインボーなキャットの描かれた彼女の愛銃から一つの弾丸が射出される。

 花岡ユズは対人恐怖症である。大抵の場合はゲーム開発部の部室内のロッカーに籠っていて、ゲーム開発部の面々以外の人前に姿を出す事は、ほとんどない。外出など一週間に一度すればいい方だ。

 そんな内気な彼女の使う武器とは何だろうか。サブマシンガン?アサルトライフル?それとも、本人の性格と合っている陰から撃てるスナイパーライフル?。

 

 全て否。答えは――性格とは真逆の性質を持つ目立ちまくりの武装、グレネードランチャーである。

 

 放物線を描きながら飛んでいく弾丸が、今まさにユウカを撃たんとしていた主砲部分に着弾し、爆音が鳴り響く。砂埃が収まり、姿を現した四脚ロボットは外装を黒く焦がされ電線やパーツが外に飛び出し完全に沈黙していた。

 

「大丈夫だった……?」

「ええ、何とかね。ありがとう、ユズ」

「っ、うん。どういたしまして……!」

 

 嬉しそうに頬を赤らめ、ユウカからのお礼を受け取るユズ。火薬の匂いが充満する戦場の中、微笑ましい青春の一ページが広がるが、そんなのはロボットたちには全然関係の無い事で。

 

「ユウカ、ユズ!伏せて―!」

 

 どこからか飛んできたモモイの指示にユウカが素早く反応し、ユズの体を引っ張ってすぐさま身を地面につける。

 直後、空中で破裂音が響き渡る。どうやら敵が投げてきたグレネードが宙で爆発したようだ。かなり近くで爆発したのだろう、粉塵が勢いよく舞い散り二人の顔を直撃する。どこも負傷しなかったのは、不幸中の幸いだ。

 

「きゃあああああ!」

「ユズ、行くわよ!」

 

 バリアの有効機能時間は既に過ぎてしまっている。この場に留まっていれば数秒後には重傷を負う事になるだろう。

 かなりオーバーサイズなユズのパーカーの襟をユウカが掴み、急いでその場から逃走を図る。いつの間にか到着していた敵兵の援軍に背後から容赦のない銃撃が浴びせられる。死にはしないでしょ!そうやって多少の被弾を割り切り一目散に指定した座標まで駆け抜ける。

 

 砂まみれになりながらも何とかコンクリート壁の裏側に滑り込んでみれば、モモイとミドリが既に到着していた。

 

「ああもう、髪がグシャグシャ……皆、大丈夫?」

「うんっ、何とか」

「うー。痛い……」

「大丈夫、です」

 

 ユウカがパーティーの容態を確認する。

 狙撃場所を転々としていたせいかミドリの息はかなり荒く、モモイはミドリほど疲れこそ見られないものの、額からは鮮血が流れていた。そしてユズの腕には、先ほどの爆発の際に負った切り傷がかなりの数、刻まれている。

 それは三人が作戦の成功のために負った、いわゆる必要経費だ。あの数のロボットを殲滅するためには、少なくとユウカ達にはこの案しか残されていなかった。つまり、これでも被害は減らせた方で。

 しかし少女は、早瀬ユウカは思う。もっと三人の負担を減らせたのではないか、と。

 

 パターンは無限にある。数式を証明する手段がいくらでもあるように。故に選択は難しい。最良と思われたそれがベストでない事など、ざらにある。

 早瀬ユウカは優しい人間だ。だからこそ今の三人の容態を、完全に割り切る事が出来ない。彼女は立案者としての罪悪感を、責任感を感じていた。

 

 同時に思い出す。シャーレ就任直後で彼の行った指揮の事を。

 

 完璧の文字が相応しかった。銃で撃ちあうような荒事の無い外の世界から来たはずなのに。人的、建造物への被害をどちらも最小限に抑え、完全に敵勢力を鎮圧しきったあの手腕。

 

 今更ながらに、それを羨ましいと思った。私にも先生ほどの実力があれば、こうはならなかったのかもしれない、と。モモイの頬に伝う赤い雫を見て、人よりも責任感の強いユウカは、己の至らなさを実感していた。

 

「ごめんなさい、三人とも。もう少しいい案を考えてれば……」

「わ、私はほんとに、全然大丈夫だよ」

「そうそう。全然平気だし、ユウカが気にする事じゃないよ」

「それにそういう事言うんだったら、作戦が終わった後で言ってよね!」

 

 三人のそれぞれの声が聞こえてきて、下げていた頭を上げてみる。両手を横に振りながら申し訳なさそうにしているユズ。本当に何でも無さそうに飄々とした表情で返すミドリ、そしていつも通りの笑顔でユウカを励ますモモイの姿が、そこにはあった。

 

「……そうよね。まだ、終わってないもの!」

 

 そう、まだ終わっていない。お礼も謝罪もその後でだ。自らを奮い立たせ、ほんの少しだけ潤んだ瞳を擦りユウカが目視で敵の位置を確認する。

 作戦の最終ステップを実行に移すには、まだロボットたちの距離が遠い。もっと、もっと引き付けなければならない。

 緊張が駆け巡る。レールガンをマックスパワーで撃てるのは、後一度だけ。つまりチャンスは一回、外せば終わりだ。後は無く、失敗は許されない。

 

 そんな最終局面の中、一つの誤算が生じる。

 

 ロボットたちが、ある一定の境界、すなわちアリスの射線上まで動かないのだ。

 

 まさか、バレているのか。冷や汗がユウカの頬を伝う。

 

 ユウカの見立て通り、あのロボットたちは決して賢い訳ではない。しかし、愚かと言う訳でも無いのだ。

 彼らはユウカ達を『強敵』として認識していた。それはひとえに、五人全員がロボットの予想以上に善戦してしまった事が原因だった。

 

 故に彼らはこう思考する。『この場で確実に殲滅しなくてはならない』と。そのための慎重な行動が、今彼女たちの計画を僅かではあるが、確かに狂わせていた。

 

 そして――一機のロボットが、ロケットランチャーを構えたのが視界に映る。

 

 あんなものが直撃しては、ただでは済まない。モモイたちに退避を要請するには、あまりにも時間が足りなすぎる。

 瞬間での判断。早瀬ユウカは覚悟を決め、壁の裏側から身を投げ出した。

 

「ユウカ!?」

「あ、危ない!」

 

 この行動に計算などは一切無い。あるのは、あの一撃を耐えられるかどうか。いわゆる、賭けという行為を、早瀬ユウカは行う。

 まさか突撃してくるとは思わなかったのか、ロボットの動きが一瞬止まる。が、所詮は一瞬に過ぎないわけで。

 

 ユウカに向けてロケットの弾頭が放たれた。

 

 すんでの所で貼る事に成功したバリアが、音を立てて砕けちる。爆発の勢いを殺しきれなかったのが災いし、ユウカの体が後方へと吹き飛んだ。そうして地面に倒れ込んだまま、彼女の体が動かなくなる。

 

 一人の敵が倒れた今、攻め入る絶好のチャンスだ。そう判断したロボットたちが、一目散に横たわるユウカの下へと殺到する。

 

 モモイとミドリが急いで彼女を助けようと瓦礫から身を出した、その時。

 

「ユズッ!撃って!」

「はいッ!」

 

 ユウカの掛け声と共に、ユズが物陰から一発、グレネード弾を宙へと打ち込む。

 彼女を助ける為に放たれたその一撃。しかしそれは、見当外れの方向、ロボットたちの遥か頭上へと飛んでいくだけだ。あれでは、着弾する前に敵に撃たれ宙で爆破させられてしまう。

 

 無情にも、一体のロボットが救済の一発を処理する為に銃口を向ける。

 

 最高到達点で、それは無慈悲にも打ち抜かれーー。

 

 瞬間、ユウカは勝利を確信した。

 

「■■■■!?」

 

 眩い音とが走る。そう、ユズの放ったあの弾の正体は榴弾ではなく、事前に入れ替えておいた見た目がソックリの閃光弾だったのだ。

 そんな事を知る訳もないロボットたちは、咄嗟に反応できるわけも無く、センサーと視界を一時的に潰された。

 

 その逆転の光は、一人の少女の下へと届く。

 

「合図を確認。アリス、前方のモンスターを殲滅します!」

 

 微弱に発光していたレールガンに、莫大なエネルギーが収縮してく。もう止まらない。その一撃は、障壁を打破し全てを撃ち貫く。

 

 アリスの眼が怪しく蒼に光り。

 

「チャージ120%!――光よっ!」

 

 全てを一閃の光が、飲み込んでいく。射線上に立っていたロボットの中で、それに耐えられた者は居ない。

 

 光が薄れて消えた時、この戦いは終わりを告げる。彼女たちの勝利という結末で。

 

「いやったー!流石は、冷酷な算術使いのユウカだね!」

「勇者と魔王、夢の共闘で見事勝利です!」

「人をモンスターみたいに言わないでって何度も言ってるでしょ……はぁ、よかった……」

 

 跳ねて喜ぶモモイと発射地点からこちらに走って来たアリスの頭に軽くチョップを入れた途端、安堵の息が一気に肺から押し出される。

 ギリギリでの戦闘だった。皆の手持ちの弾薬は既に9割ほどを使い切り、体力もかなり消耗している。怪我もだいぶ負った。完勝とは、到底言い難い状況。

 それでも、彼女たちは勝利した。それだけは揺ぎ無い事実として、今この場に存在している。

 

「は、早く工場に行こうよ。またロボットたちが来る前に」

「それもそうだね。よーし!それじゃあレッツゴー!」

「探索を再開します!

「ちょっとお姉ちゃん、アリス!勝手に行かないでよー!」

 

 いつもと変わらない笑顔と元気で走り出すゲーム開発部の皆が、なぜだかとても眩しく感じられて。

 早瀬ユウカは一歩遅れてから、四人の背中を追い始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「またか……面倒くさいな!」

 

 門矢士は現在の状況に悪態をついていた。

 

 彼が進んでいるのは、アリスを保護する為に行くことが叶わなかった場所。彼女が置かれていたフロアの奥にあった通路だ。

 前回行った見回りで地上階に何もない事は分かっていた。そのため今回は、まだ未知なる階層である地下の探索をする事にした、のだが。

 

「ハァッ!」

「■■■■」

 

 既に工場内に侵入してから、何体のロボットを薙ぎ払ったか分からない。少なくとも両手の指では数が足りない事は確かだろう。

 そう、地上のまっさらな警備体制と異なり、地下のフロアにはロボット兵が所狭しと並べられていたのだ。

 胸元を切り裂かれたロボットが切断面から電気を流し、そのまま機能を停止させる。すぐさまライドブッカーを銃の形へと変え、向こう側でこちらを狙っていた狙撃兵の頭部を一発で打ち抜く。

 しかし、彼らは一息つく暇を与えない。新たに投入されたロボットたちが、通路の奥側からこちら目掛けて突入してきた。

 

 イラつきを覚えながらも、弾丸をすんでの所で回避しながら一体の兵士に近づいて行き、腹部に蹴りを突っ込む。そのまま頭部を鷲掴みにし自身の前方にロボットを持ってくることで、降り注ぐ銃弾からの防御壁として使えば、あっという間に全身に穴が開き、手の中のロボットが静かになった。

 そして今しがた作った遮蔽物を利用しながら、残ったロボット一人一人の頭をしっかりとライドブッカーで狙い撃ち、最低限の労力で的確に敵を処理していく。

 迫って来た三体の兵士が爆発した所で、ようやく波状攻撃は一旦の終わりを迎えた。

 

「雑魚もこう束になられると、厄介なもんだな」

 

 愚痴をこぼしてから壁として使ったロボットを乱雑に投げ、士は中断させられていた探索を再開する。

 

 薄暗く不気味な通路を歩き、歩き、歩く。周囲に注意を配りながら、新しい発見が無いかどうかを確かめながら、歩いてゆく。

 そうして歩き続け数分が経ったところで――先ほど倒した三体のロボットの亡骸が置いてある通路に、また戻ってきてしまった。

 

「クソっ、どうなってやがる……」

 

 ロボット兵以上の問題はこれだ。少なく見積もっても、この地下通路は地上階の数倍の広さがある。その上、通路が必要以上に細分化されており、まるで迷宮のように複雑に入り組んでいるのだ。

 どれだけ違う道を選んでも、いつの間にか来たことのある道に戻ってきてしまう。そして士が迷い、もたついている内に。

 

「チッ!」

 

 新しいロボットたちが、姿を現すのだ。

 

 咄嗟に角を曲がって、銃弾を交わす。

 

 終わりの見えないこの攻防。いつまで進展する事の無い調査。それら全てに嫌気が差してきた士は、ピリオドを打つためにスーツの内側に手を突っ込んだ。

 

「……ちょうどいい。いい加減、退屈してきたとこだ」

 

 そう呟いて、白いバックルが取り出される。

 

 手慣れた動きで腰にそれを当てれば、その端からガンメタ色のベルトが射出され、一瞬にして士の胴に装着される。横に提げられたライドブッカー。その側面を開き、一枚のカードが士の手に握られた。

 

 それは世界を渡り続ける旅人が、破壊者の仮面を纏い、違う自分自身に変わる時。

 世界を渡り、障壁となるモノを破壊し、人々を救い続ける、ヒーローになる為の一連の動作。

 後は、あの言葉を叫ぶだけ。

 

「変し――」

 

 角から飛び出してロボットたちの前に姿を出し。

 

 

 掲げられたカードが、バックルへと垂直に降ろされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いけませんよ。奥の手とは、最良の時まで保持してこそ、奥の手なりうるのですから」

 

 その直前。正にカードを装填しようとしたその時。

 

 士の右手首が何者かに掴まれた。

 同時に聞こえてきたのは、異常なまでの冷たさを持つ男の声。

 してはいけない事をしようとする者を冷静に淡々と追い詰めるような、咎める声に、士の体が思わず硬直する。

 何だ、誰だ。その思考が思考になる前に、ふいに士の手首から感触が無くなった。

 

 そして、黒い風が吹く。

 

 発砲体制となっていたロボットたちとの距離を一瞬で0にし、いつの間にか手に持っていた拳銃を彼らの脳天へと突き当て、反応する暇も与えずに発砲する。

 続けざまに隣のロボットの足を軽く払い、バランスを崩し倒れ込んだところに二発、無慈悲な弾丸が打ち込まれた。

 接近戦に持ち込もうとスタンガンを持ち突進してきたロボットを、腕を掴みそのまま反対方向へと投げ飛ばす。鈍く嫌な音が通路に鳴り響き、もうロボットは動かない。

 

 彼らは死を恐れない。故に、仲間が瞬殺されても彼らは逃げる事をせず、ターゲットに攻撃を続ける。

 

 しかし、彼らの放つ銃弾は一発も当たらない。いや、当たってはいるのだ。ただ、その正体不明の存在に効いていないというだけで。

 必死の抵抗虚しく、またもや男の手の中から冷徹な銃声が響いた。

 狙いを定めていたロボットたちが、瞬きをする間に殺される。

 数十秒後、二度と動かない鉄屑たちの山が、そこには形成されていた。

 

「お久しぶりです。先生」

 

 飛び散ったロボットたちの部品を踏み潰しながら、その存在は士へと近づき、気さくな挨拶をした。

 

 黒い男だ。そう表現する他ない。スーツもズボンもベルトも手袋も拳銃も靴も顔も中身も、全てが黒いその男。

 

 黒服。到底名前とは言い難い名を以前に名乗った男が、士の前に立っていた。

 

 空間に緊張と言う名の線が張り詰める。普通の人間であれば眼前の存在の異質さ潰され、腰を抜かすか震えて逃げ出すか。このどちらかを選択していた事だろう。

 

 しかし士は、ただ男を見つめるのみ。何かしらのアクションを起こそうともせずに、ポケットに手を突っ込み男を見据えるだけだ。

 

 数十秒の膠着状態の後、突然くるりと黒服に背を向け、彼は歩き出した。

 

「どちらへ行かれるのですか?」

「生憎、俺は今忙しくてな。お前に構ってる暇はない」

 

 面倒事をあしらう時の口調で、士は一瞥もせずに黒服の問いに答える。あの男は警戒するだけ無駄だ。無視して進んでしまおう。

 

「その用件とは――AL-1Sの事ではありませんか?先生」

 

 そんな士の考えが、その一言で砕かれた。身を翻し、ライドブッカーの銃口を向ける。凶器を向けられているというのに、黒服は一切動じない。貴方は私を害せる術が無いのだと、そう示すような立ち方でただ士の方を向いている。

 

 腹の立つ口ぶりから察するに、黒服は既に知っているのだろう。士がどうしてここに来たのか、その訳を。

 問題は、どうやってそれを知ったかだ。その方法によっては、この場での戦闘も辞さない。思いつくパターンはおおよそ二つ。どこかから士たちの様子を観測して知ったか――アリスやモモイたちの様な自身の関係者を襲い、情報を吐かせたか。

 

 前者ならば大した問題ではない。士の旅はこういった監視の目と常に隣り合わせだ。そして大抵、こういう奴らは自分たちの都合のいい時に現れ、すぐさま蜃気楼のように消えてしまう。

 士は、この類の輩は関わろうとするだけ無駄だという事を分かっていた。故に、初めて出会った時もこちら側に害となるアクションを起こさなかった為、今までこの男を放置する事にしていた。

 

 だが、仮に黒服が後者の選択を行ったならば、話は別だ。

 この男は、何故だか士に対して強い信頼を置いている。しかしそれとは反対に、生徒たちの事を利用価値のある道具程度にしか思っていない。

 それはつまり、生徒たちに手を出す事には躊躇が無いという事で。

 

 士は至って冷静であった。それと同時に、冷静であるが故の怒りも、彼の中には存在していた。

 

「安心してください。彼女たちに危害は加えていませんよ」

 

 声色は変わらない。表情も変わらない。が、士のその反応を見て、黒服は確実に彼を嘲り笑っていた。

 腹の立つ奴だ。信用しているわけでは無いが、黒服がつまらない嘘を吐かない事を、士は前回の会合の時に知っている。

 黒服を見つめる眼差しの鋭さは変えずに、士は右手を降ろす事にした。

 

「気分を害してしまい申し訳ありません。お詫びと言ってはなんですが、私がお目当ての物の場所まで案内いたしましょう」

 

 こちらへ。そう呟き、わざとらしい挙動で黒服が向こう側の通路を指さす。そして士に背中を向け、カツンと乾いた音を立て黒服が歩き始めた。

 

 どうしたもんか。余りにも怪しく都合が良すぎる黒服の勧誘に、士は迷う。本来ならば、ノーと答えるのが正解の選択肢なのだろう。こんなにホイホイ着いて行けば、それこそ何をされるか分からない。罠の可能性が99.9%ならば、黒服の親切心から来る善行という可能性は0.01%だ。

 しかしここに着いてから、迷いに迷い既に小一時間ほど経過しているのも事実。このままむやみやたらに探索を続けても、得られる成果は少ない物になるだろう。

 アリスの正体は今、士がどんな情報よりも最優先で知らなければならない事項だ。今はリスクが高いとしても、少しでも情報を得られる方を優先すべき。そう判断した士は嫌そうな顔をしながら渋々、黒服の後を追い始めた。

 

「結局のところ、お前の目的は何だ?」

「前にも申した通りです。貴方との協力ですよ、先生」

 

 言葉通りにそれを受け取るならば、目の前に居る男は自分と共に手を取り助け合っていきたいという事だろうか。想像しただけで寒気がする。こんな気味が悪く得体の知れない人間と、仲良くできるはずがない。

 そもそも、士は黒服の事を全く知らない。本人が明かそうとしないのもそうだが、コイツは色々と胡散臭すぎる。信用に値せず、且つ自身の知り合いに危害を加える可能性のある者と協力を結ぶ価値を計算した時、士の脳は圧倒的マイナスの数値を叩き出した。

 

「協力がしたいなら、なんでさっき俺の邪魔をした」

 

 そう。もし仮にあのまま黒服に手を押さえつけられていたら、士はロボットから送られてくる銃弾を胸に受け、死んでいたのだ。未遂で済んだとはいえ自分を殺しかけた奴と協力しようと言われてハイいいですよ、という人間は世界数多と言えど一人として居ないだろう。

 協力がしたいと言いながら士に先ほど行ってきた妨害の理由を、黒服に尋ねる。

 

「貴方の力が、この世界に滅びをもたらす可能性があるからですよ。この透き通る世界に貴方の存在は、少々劇毒過ぎるのです。無闇に力を使用すれば、やり直しが効かないほどにこの世界は捻じ曲がってしまう。しかしてあなたの力が無ければ、このまま世界は終焉を迎える事になるでしょう。今はその見極めをする最中なのです」

 

 滅び、終焉。数々の世界を渡る中で幾度ものそれを目撃し、その運命から世界を救ってきた士とは切っても切れないその単語を彼は口に出した。

 

「またそういう話か。こっちは滅びだのなんだのは、耳にタコができるほど聞いてる」

「そう落胆しないでください。いずれ貴方は、選択をする事になるのですから。『先生』として生きるか、『破壊者』として生きるのかをね」

「あいにく、俺は両手に花が似合うデキる男なんでな。どっちの面倒も見てやるさ」

「いいえ、運命は貴方を離してはくれませんよ。これは選択の物語なのですから。一方を選べば一方が消えるように、貴方は一つしか掴めない」

 

 腹の探り合い。付かず離れずの距離を物理的にも心理的にも取りながら、黒服は士の質問を無駄に遠回りな回答でぼやかし、黒服の確信を突くような発言を敢えて士は軽く受け流し続ける。

 

「まどろっこしい言い方しかできないのか?その調子じゃ、友達居ないだろ、お前」

「ふむ、確かに。ゲマトリアの面々は、友人とも仲間とも言い難い。強いて言うならば、同胞が正しいでしょうか。遠回りな言い方に関しては、申し訳ないと思っていますよ。時が熟せば貴方にも理解できるようお伝えします。今しばらくお待ちいただけると幸いです」

「どうだかな。お前みたいなペテン師を何人も見てきたが、そいつらは全員ロクな奴じゃなかったぜ」

「手厳しい評価ですね。既に信頼していただけていると思っていたのですが」

 

 どの口が言うのやら、聞いて呆れる。この世界に来てからすっかり癖になってしまったため息を、士がもう一度吐いた。

 

 それ以降会話は打ち切られ、両者は黙って砂を踏みながら廊下を歩く。相容れない二人の奇妙な探索は、黒服がとあるドアの前で足を止めた事で幕を下ろす事になる。

 

「この奥にあるデバイスに、貴方の知りたいワードを入力してください。そうすれば、お探しの物は見つかるはずです。では、私はこれで」

 

 どうやら、案内はここまでのようだ。黒服が腰と腹に手を当てうわべだけの礼儀を整え、士に一礼をしてくる。反応してやる価値も無い。士は黙って、ドアノブへと手を掛けた。

 

「ああ、一つ聞き忘れていました」

 

 ドアを開け士の半身が部屋の中に入った所で、何かを思い出したかのように唐突に黒服が口を開く。

 

「先生。貴方は――自身の大切な物を、壊す事ができますか?」

 

 深淵の様な、黒く冷徹な声。何か大切な事項を確認するよう、誰かとの約束を確認する時のように、黒服は士に尋ねる。

 

 が、士は全く動じる様子もロクに取り合う気も見せずに、

 

「つまらない質問だな。そんなもんはその時の俺が決める事だ。今答えても意味が無い」

 

 決して黒服の方を振り向く事は無くきっぱりとそう言い切って、士は暗い部屋の中へと一人入っていった。

 

「そうですか。でしたら、未来の貴方は、一体どんな決断を下すのか。見守らせていただきますよ。クク、クックック――」

 

 閉じたドアを見つめながら、黒服は笑う。満足そうに、楽しそうに、愉快な声で、表情は依然として変わらないままで、彼は笑っていた。

 

 そして暗闇へと溶けるように、黒服は音を一切立てる事なく、静かに姿を消していった。




戦闘シーンあんまり納得いってないから、どこかで書き直すかも。後黒服の会話もあんまりうまく書けてない気がする……

次回、アリスの秘密がちょこっと明かされます。お待ちください。




















OPEN YOUR EYES FOR THE NEXT FAIZ.

全体的な文章が

  • そこまで気にならない
  • 描写が下手
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