第一片 新しい事には慎重に取り組みましょう
生まれた瞬間を君は何度迎えただろうか。俺は、これで三回目だ。
一回目では短き一生涯を。
二回目では異世界生活を。
そして三回目、今生。俺は再び、異世界へ生まれ落ちた。
全ての物語が終わり、走馬灯と共に邃く永い眠りに就いたはずだった。
だというのに、俺は木々に囲まれて再び目を覚ましていた。
「ここは…あの世?」
深く鬱蒼とした森の中、空は木々に覆い隠され、周囲からは無数の生命を感じられる。しかしそこに人の気配は無く、俺という男が一人寝ているだけだ。まるであの世に来たのではないかと思える。
だが、どういう事か、体の周りに自身のもの以外の魔力が感じられる。
「誰かが俺を造った…?」
まだ釈然としない事ばかりだが、恐らくはこの魔力の持ち主が俺を蘇生したのだろう。
しかし、気になる事がある。どうやって蘇生の魔法を実行したかだ。蘇生の魔法はそう簡単にできる事では無いはずなのである。
「まあ、今考えても仕方が無いか。とりあえず、どこか人のいる所に……」
立ち上がろうとしたとき、体の異変に気付いた。
「……これは、何が起こってる?」
体が全体的に小さい。柔らかい。規模感が違うからこそ、上手く立ち上がれずに尻もちをついてしまった。
「ははは、マジかよ。」
なんとか立ち上がり、自分の体をよく確認してみる。
すると、それは慣れた体ではなく、子供のものとしか思えない体だった。しかも女性だ。俺は男だっていうのに。
「なんだ、普通の転生の次はTS転生か?神は俺で遊んでるのか?」
しかし、産まれた以上はコレが俺なのだ。蘇生の魔法が難しいように、別の体で生きていくことも難しい。そのため、この人生、この体で生きていくしかないだろう。
「とにかく、三度目の人生で一つ目の目標は決まった。俺を蘇生したやつを探そう。そうすれば全部分かるさ。」
目標を決めたところで、自分の
しかし、このステータス画面も様子がおかしかった。
「全ての能力値が変わってない…?」
能力値が、子供の身体だというのに変わっていない。
前回の人生では能力値を上げる事に幼い頃から感けていた俺に言わせてみれば、これはかなり素晴らしい。子供の体というのは成長が早いものだ、俺の実力を素晴らしい高みへ持っていくかもしれない。
「まあ、とりあえず、人を探そう。」
浮遊魔法で宙に浮き、木々の上を移動し始める。
また、こうしている間に、やはりと言うべきか、魔法関連の能力値が飛躍的に上昇している。
この人生、中々楽しめそうだ。
しばらく飛んでいくと、ちょっとした町が見えてきた。立ち並ぶ石造りの建物でできたこの町は遠目から見ても中々賑わっているようで、道行く人々は楽しそうだ。所々に馬車なんかも見える。今行く場所としては少し良い所すぎるが、充分に適当だろう。
因みに、気付けば能力値も順調に上がっており、今まで以上のポテンシャルを自分に感じる。やはり幼い体はよく成長するものだ。
このまま町に入ろう、そう思っていたのだが、何やら壁のようなものに衝突した。何も無いはずの上空なのに。それに、調子に乗って速度をいつもよりも出していたために、かなり痛い。
少しすれば痛みは落ち着いたが、自分は何に触れたのかが判らない。恐らくは保護の魔法による防護壁などだろうが、一般的なものと違って視認できない。何だか気になるので解析の魔法を使って何なのか調べてみよう。
そして分かった事だが、この防護壁、魔物にのみ反応するよう設計されているらしい。加えて、何者かの接触があればそれを知らせる役割もこなすらしい。うむ、非常にまずい事が起きている気がする。それに、この防護壁はどうして俺に反応したのだろうか。どうやら魔力で通すものを選別しているらしいが…
などと考えていると、町内部から何者かが来た。
「これは、やらかしちゃったか?」
紫黒色のローブを纏った集団が俺の前にやってくる。魔導士だろうか。人数は多くはないが、身なりがかなり良いところからして、きっと優秀なのだろう。果たして彼らは何のために来たのだろうか、不安で仕方ない。
こちらが逡巡している間に、彼らの内の一人が喋りだす。
「見た目はただの小娘だが、魔物だ。油断するなよ。」
それは、もしや俺の魔力の所為か?
よく分からないが、少なくとも俺は魔物じゃない。まずは説明をする必要がある。
「待ってくれ、私はただの人間だ!敵意も無い!」
しかし彼らは俺の発言を信じてはくれず、俺を狩らんと動き出す。まあ、そうなっても仕方無い。実際、人間を欺こうとする魔物は確かにいる。正しい判断だ。
こうなってはコチラも已むを得ない。正当防衛、戦わねば。
俺は、まず後手に回る判断をする。相手が俺の知らない手段で行動を起こせるのであれば、その様子を見てから動かなければならない。
しかし先鋒の攻撃手段に関しては杞憂だったようで、一般的な魔法の範疇を出ないものしか使わない。面倒事と言えば、彼らは防護壁を素通りできるのに対して、私だけは移動を阻まれるという点だ。だが、俺はそんな事は関係無いと言うように、攻撃をするために防護壁から出てくる瞬間をついて次々と敵を撃破する。いやしかし、どんどん人が湧いて出てくるね。これじゃあキリがない。
ここは逃げるべきか。
一度、上空へと避難した。能力値はやはり飛躍的に上昇しているため、簡単に退避できて良い。あまりにも速く逃げたためか、あの魔導士達は完全に俺を見失っている。
さて、ここからどう動こうか。再びあそこに現れた所で二の舞となるだろう。かといって他の街に行くのも面倒だ。行っても入れるかどうか分からない。
そして何より、今の俺は莫大な魔力を持っている。ステータス画面に見える能力値は面白い事になっている。そうとなれば、やるべき事は自明の理だ。
練り上げた魔力で槍を模し、防護壁を思い切り刺突した。魔力と壁の衝突によって耳を劈くような音が聞こえたが、しかしそれでも壁は壊せない。音を聞いて敵もこちらに気付いた。しかしこれぐらいで私は諦めない。次の手段だ。
「精巧の実数値が上がった今の私ならできるだろう、魔術の複合。“鋭利”と“加速”と“超重”!これぐらいやれば壊せるでしょ!」
洗練された魔力に加え、強力な魔術も上乗せされ、僅かに槍の周囲が歪んで見える。魔術の複合は成功だ。
───軽率に、この過剰なまでの威力を乗せてしまったことを、私は今に後悔することとなる。
凄まじい破壊力に、防護壁は一瞬にして崩壊した。
その圧倒的なまでの威力は、防護壁に留まらず、町にも及んだ。
「あっ…」
その日、世界から一つ地名が消え、歴史が一つ幕を閉じた。
かくして、一人の転生者の物語は始まった。
「…もう一回転生したい。」
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