私の言葉を聞いて、ライネは静かに、しかし確かに怒った。
「ああ、そう。でも残念、貴女はここで死ぬの。私に勝つのは永久の彼方でのみよ。」
言葉の裏の表情は乱れるが、行動は冷静であった。私の命を狩るための魔力の雨は私の進路を塞ぐように降る。魔法が一瞬で消される状況で地を走る私には中々辛い。攻撃に繋げようとしても、こうもギリギリでは効果的なダメージを与えられる魔法を出せない。
できるだけ人里に近付かぬ内に倒したいと思って方向転換をしながら、ヤツとの距離を保っている内に、一つの妙案が浮かんだ。近くに見える崖に目を付け、そちらに向かって跳躍し、駆け始めた。
そして遂に私の進行方向は岩肌の剥き出しな崖だけとなった。ライネは勝ち誇った気持ちを口元に表した。
私のいる場所に魔術が放たれる。大きく、禍々しい、空気をも侵食するような気色の悪い魔術が。
もし当たれば骨も残さず私を食い尽くす恐ろしい攻撃だったが、それでも私は気に留めず、崖に向かい合い、巨大な攻撃魔法でやつにこちらが見えていない隙に、自身に魔力を篭め、足を動かした。
身体能力強化、加速、硬化、超重。
次の瞬間、攻撃魔法が崖にぶつかり、轟音を立て、崖はその一部を、大きな音を立てて崩した。崩れた場所には何者の影もなく、ライネはその光景を見て、姿の見えない彼の者を思って嘲笑った。お前は終に手も足も出ず死んだのだ、と。
だが事態は急変する。「レヴェト・ハッシュ・ドミナ」声が聞こえたその瞬間、嘲りに満ちたその顔に、一筋の光線が放たれた。それによって、その表情は貫かれる。
「っ……!」
「神聖属性、光の魔法。お前ら魔力生命体にはよく効くよ。」
顔が無くなったことで声も出せず、視力も聴力も失った事で一瞬のうちに不利になった事を確信し、後退するも、次に放たれた火炎の渦に、全身を喰われ、その身を失っていった。
やがて、崩れた崖の岩がどかされ、中から一人の少女が現れる。
「あんなので死んだ訳がないだろう?まあ、今の私はこんな
私は死なず、勝利は今、手にしてみせた。
攻撃の届く寸前、私は強化した肉体で岩壁に突進し、岩の中に入り、力技で魔術から逃れた。しかしそれは賭けなどではなく、自分の魔法を信じた末の決断だった。
魔法滅などという小細工の使い手に、私が負けることなど、やはり無かったのだ。
勝利の余韻に浸るのも程々に、私は土埃を手で払い除け、またどこかへ飛んでいく。
まだ、嵐は止んでいない。
さっきのような魔力はとっくに感じなくなったが、まだ何かがある予感があった。
先ほどイチョウという名の者が死んだあの場所に戻ると、その死体を抱えた一つの人影がそこに見えた。
見て、私は言葉を漏らした。
「そういうのもいるんだ。」
目線の先、それは初老の男だった。何の変哲もないシャツを着て。この世界の基準としては、いつ死んでも可怪しくはない程の老体だ。しかし、目が離せない。ステータスを開ける私には、彼の正体は見え透いていた。
彼はこちらを向いた。さて、どうしたものか。とにかく、挨拶でもしてみようか。
「こんにちは?」
「ああ、こんにちは。どちら様でしょうか?」
帰ってきた返事は、嗄れているのに、妙な活力があった。その柔らかな物腰に、なんだか言葉がうまく流れて来なくなる。
「いや、ああ、すみません。まずは先に名乗るべきでした。私はパックと言う者です。」
彼は、パック──少なくとも前世では、無邪気な悪逆の者。知られた妖精の名──そう名乗った。
「その顔は偽物かい?」
私がそう訊ねても、彼はニヤついて、はて、と言うようなゼスチャーをとってくる。可笑しいほど怪しい。コイツにはまともに取り合わなくていいだろう。
こちらの様子にさすがに彼も察しがつき、ニヤケ面を深くして、「君は色々聞きたいかもしれないが、私は忙しいのでね。もう行くよ。」と言い残してその場を去っていく。
「その死体で遊びたいのか?」
去り際にまた問いかけるも、今度こそ反応は返ってこない。彼は最寄りの街への道を辿り始めるだけだった。
彼の姿が木々に隠れて見えなくなった頃に、私は踵を返して、彼の向かった方とは反対の方にある廃屋へと帰り始めた。
区切りがいいから短いです。というのは建前で、そろそろまだこのアカウントの息が続いている事をハーメルンに教えなくてはいけないと思い、短めでも投稿しました。でも区切りがいいのも本当です。