転生したら神様になった男の日記 作:じゃがありこ
〇月×日
目を開けたら転生し、神様になっていたことをここに記す。ふざけているわけではない。事の始まりは1年前。
現代の日本で普通の大学生をしていた俺は夢の中で奇妙な触手の化物に出会い、ちょっと私の遊びに付き合ってよというわけのわからないことを囁き、自由自在に性別を変えられる力、人に向けられた感情をエネルギーに変える力、不老の身体をあげるね。よろしくと言われ気が付けば転生していた。周囲にはボロボロの神社があり、今はそこで過ごしている。
現実感がなく夢の中にいるような感覚だが、あまりにも感覚がリアルで信じてみるしかなかった。
触手が言ったことは、本当の様で性別を変えることができた。男は割と普通の顔だが、女の方は人形のような完璧で不気味な顔立ちをしていた。
具体的に書くと、肩まである黒髪は常に濡れそぼっているかの様に艶やかだ。蒼眼は妖艶に輝いており色香を感じさせる。身体は細く四肢の先までスラリと伸びている。道を歩けば間違いなく、百人が百人振り返る美少女だ。
正直、女の方でいようかと思ったが男としての自意識が勝った。
話を戻そう。俺はボロボロの廃神社で数日間を過ごしてわかったことがある。それは神社は山の中にあり、下には集落があること。おそらく昔の日本語が使われていることだ。
生活レベルを見る限り平安に近い気がしている。ひとまず、この世界を知るために旅をすることにした。
右も左もわからないのだが、食べなくても生きている、いける身体を持っているので死にはしないと思っていた。
旅をして三ヶ月ほどで、俺が初めにどこにいたのかわかった。京都の中心から少し離れた大きな山だった。
そして、俺は当てもなくふらふら旅をして言葉を覚えつつ、魔法のような力が使えることに気が付いた。物を浮かせる、炎を出す、凍らせるなど色々とできたがやりすぎると気絶する、最悪死にかねないだろう。
誰かを助けたり傷つけたりすると力が漲るので、他人と関わり続けた。旅を初めて7ヶ月。
俺はこの時代の正確な年数を知った。奥州から熊野詣に来た修行僧に、真砂庄司の娘、清姫が一目惚れしたという話を聞いたのだ。清姫の情熱を断りきれない安珍は、熊野からの帰りに再び立ち寄ることを約束したそうだ。
清姫伝説の年号は確か929年。ざっくりと平安時代だろうか。まあ、清姫には関わるつもりはなかったのだが、好奇心に負け噂を聞くうちに、本人とばったり遭遇。
色々あって少し話したが、何というか12歳の癖にませてるなっと思った。ただ、その場で詠んでもらった歌は美しく、教養を感じさせた。覚えているうちに書いておこうと思う。
『さきの世の 契りのほどを 三熊野の 神のしるべも などなかるべき』
とりあえず、恋と愛は別だぞと忠告して旅を続けた。
事件は1年後、拠点に帰って来た時に起こった。山の麓にある集落が燃えていたのだ。どうやら野盗か何かに襲われているらしい。助けようか見捨てようか考えた。結果的に、助けることにした。
現実感がないまま、雷を降らせ風を起こし賊から掠めた刀で惨殺した。現実感が希薄で相変わらず、夢を見ているような感覚で人を殺した。
数日後、何故か俺の拠点である神社が整備されておりお供え物なのか米俵が置かれていた。
〇月▲日
あの日、集落を救った俺を神の使いだと思ったようだ。定期的に祈りをささげる人とお供え物が来る。驚くほど力が満ちていき、数日で今までの数倍のエネルギーを手に入れたように思う。
これ、俺を神として布教すればめちゃめちゃ強くなれるのでは?
ついでに人に感情を向けられるのは心地よいので積極的にやろう。とりあえず、集落付近で気候がおかしくなったら、俺が調節をすることにした。賊の排除も同様に俺がやった。神社から離れなくても、集落に雷や炎の鳥を部つけられるようになったからだ。
〇月×日
30年以上が経ったころ、冷泉天皇の使いと名乗る怪しげな集団が集落を訪れた。何でも、この集落だけ収穫量が多く、干ばつや大雨に襲われないことを不審に思い、調査をしに来たようだ。
神社の中を荒らされると俺が見つかるので、女に変わってから大鎌と氷の矢で威嚇し追い払った。何故大鎌かと言えば、まあロマンだ。
それはそれとして、また旅に出たくなってきたし少しここを離れることにする。
今年齢20になる男は後悔していた。天皇の命令で都近郊の村を調査しに来たのはいいものの、神社に刀を持ったまま入るべきではなかった。
前に広がっていたのは銀世界だ。曇っていた空から雪が降り始め、周囲は氷で覆われている。
本殿の屋根の上には一人の少女がいた。青と白を基調とした巫女服に身を包み、侵入者を睥睨している。
「雪花の情、冬見て凍れ、雪見て眠れ、氷結せよ」
少女から零れ落ちる美しい詩が空気を揺らし、現実を書き換える。
鳥居の内側は完全に凍り付き、空には星の代わりに無数の氷の矢が浮かんでいた。
少女はその瞳に冷たい炎を宿し笑みと共に男たちを見つめ逆らうことを許さない絶対的な魔力を向ける。ドクンと抑えきれない音を上げて男たちの胸が震える。
「去ね」
少女は、冬の木枯らしのような声で淡々と警告した。
「………ッ」
男が口を開こうとした次の瞬間、大鎌の刃先が男の首に僅かに刺さっていた。村人と部下たちは顔を蒼白にして、震えている。
「もう一度言おう。去ね」
この日、偶然にも都に雷が落ち大規模な火災が発生。天皇は後に神社の修繕と定期的な参拝を臣下に義務付けた。