転生したら神様になった男の日記 作:じゃがありこ
〇月×日
現在は970年だそうだ。今更だけど、この世界史実と少し異なっている気がする。まあ、そもそも妖怪とか魔法が実在する世界だしな。
〇月×日
結局清姫は、自身の炎に焼かれたようだった。彼女は人間に見えた。特別な術があったわけでもない。あるのはただ、恋焦がれた人間へのあくなき妄執だけだった。それはつまり思い込みだけで竜に変身してしまったという彼女の執念の現れと言える。恋は盲目とは言うが、世界の認識さえ誤認させるのだから恐ろしいものだ。
恋などという感情を俺は一生理解できない気がする。
〇月▲日
未来で考古学者が頭を抱えるように、様々な所に石碑を掘ったり魔法の痕跡を残したりしている。
英語を掘ったり、拳銃の製図 (適当に) をしたり、預言書として未来のことを書いて山に埋めたりなんかもした。
〇月×日
あまり気が付きなくなかったが、俺は他者から憎まれた時と惜しまれた時などいわゆるクソデカ感情を向けられると、脳汁が出て達するし100倍くらい力が湧き出ることに気が付いた。
〇月△日
平安時代の神話として俺が創作した物語をまとめ、数十ページづつ様々な場所に埋めていった。考古学者が混乱する顔が目に浮かぶぜ。
□月×日
旅をしている時は男の姿で基本的には刀で戦うようにしている。というかマジで平安時代、治安が悪い。山賊もいるし、妖怪だっている。
大江山に城を構えた鬼がいるという噂を聞き、周辺まで散歩したのだがそこで血まみれの青年に遭遇。弟が攫われたから助けて欲しいとのこと。
何でも山の中には人食いの化物が住み着いており、京から来た兵たちもボコボコにされたらしい。京からも多数の行方不明者が出ており問題になっているらしい。
俺はこれを了承し、生きて帰ってきたら俺を信仰するように説得し山に入った。あーでも、目の前で弟を殺した方が俺にとってはいいんだよな。憎まれるとすごい力が湧き出るし。
俺、もはや邪神では?
大江山に入りしばらくして目に飛び込んできたのは、二人の人間である。縄で手足を拘束され、動くことができないようだ。二人とも息があり、片方は少年、片方は妙齢の女だった。
「なるほど、人間を誘き出すための罠ってところか」
「かかったのは人間やない、初モノやけどね」
声がした。振り返るとそこには恐ろしいほど蠱惑的で整った顔の鬼がいた。紫色の髪と青い瞳が夜闇に燦然と輝いている。周囲にはそれに従う様子の鬼たち。
「鬼か?」
「うちは酒呑童子。名前を聞いてもええ?」
「………紫音だ」
「紫音、先に聞いておくけどうちに食われる気はあるやろか?」
「ねえよ」
「優しくしたるから、怖がらなくてもええよ?」
「お断りだな。攫われた奴の回収が目的なんでな。すぐ終わらせる」
「残念やわぁ」
二人の間で交錯していた意識が切れる。
瞬間、紫音の紅い刀と鬼の大刀がぶつかり合った。瞬く間に響き渡る剣戟の音に周囲の鬼が瞠目する。一進一退の攻防は泊まらない。
突如として始まった鬼と神の決闘に鬼たちが言葉を失う中、紫音は顔を顰め、酒呑童子は愉しそうに口角を上げた。
刃が交錯し両者が鍔競り合う。なんとか押し返そうとする酒呑童子の大刀に少年は眦を引き裂き吠えた。
「吹っ飛べ!」
「えらい力持ちやねぇ?」
しかし、酒呑童子の有り得ない膂力に押し負けて、後方に紫音が吹き飛ばされた。彼は、両足と左手で地面を激しく削りながら静止した。
「うちの方が上みたいやけど。どうないするん?」
「『風牙』」
巨大な風の槍が生成され、大地を削りながら酒呑童子を殺さんと迫るが、酒呑童子は軽々とそれを躱して紫音の背後に降り立った。
「助けに来た人間が邪魔で本気出せないんやろ?」
耳元で囁かれた呟きで身体が、ゾクゾクと震えた。
完全に図星だった。酒呑童子は人質を常に自分の近くにおいて戦っていた。先ほどの攻撃で、観戦していた鬼は残らず一掃できたが状況は変わっていない。以前、紫音は高火力、広範囲魔法を使用できない。
衝撃が胴体を貫いた。視線を下げれば、紫音の腹部から酒呑の腕が生えていた。
「ゴフッ!」
紫音の口から血が零れ落ちる。酒呑は愉悦で笑みを浮かべながら、紫音の血を飲み込んだ。
「神様でも血は赤いんやねぇ」
耳を甘噛みして、うなじに唇を落とし、首筋を舐めながら吐息を絡めて熱く囁く。紫音はされるがままだった。
「我慢なんてしぃひんでもええんよ?泣きたいなら抱きしめてあげるさかい」
膝をつく紫音の身体を、酒呑は後ろから抱きしめて笑みを浮かべる。返り血で濡れた顔は正しく鬼であり同時にあまりにも魔性だった。
「俺が………何の意味もなく、攻撃食らったと思ってんのか?」
息も絶え絶えの状態でもなお、彼の闘志は消えていなかった。
「ッ!」
「遅せぇ」
酒吞童子の身体に、少年の指先が接する。瞬間――――
「『紅蓮爆迅』!」
零距離から放たれた紅蓮の爆砕に少女の体は吹き飛んだ。抗えない慣性に捕まれ瓦礫と化した大木の山に背中から叩きつけられる。
爆音は山中に響き渡り二人の意識は、それと同時に途切れたのだった。