人形ノ詩 鴉ノ詩   作:白黒モンブラン

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──情報収集──


chapter 00-09-1

 

「異なる世界からの来訪者という事だ。そう言いたいのだろう?」

 

遮るようにして言った台詞に戦術人形621は驚く事はなかった。

予想通りの反応だ。こちらも大して驚かなかったからな。

 

「気づいていましたか」

 

「ああ。まさかとは思ったがな」

 

「では…こちらの世界の事をお話しましょう。事細かくとは行きませんがそれでもよろしいです?」

 

「構わない。だがその前に…」

 

「その前に?」

 

外を見れば、辺りは既に暗くなっていた。

戦術人形621は首を傾げ、不思議そうにこちらを見ている。

 

「食事にするぞ」

 

「はい?」

 

呆気ない返事をする戦術人形621。

別段可笑しい事を言った訳ではないと思いたい。

だが、流石にその反応は困惑を覚える。

 

「何だ、戦術人形は食事を取らないのか?」

 

「いえ、そういう訳ではありませんが……さっきの話、聞いていましたか?」

 

「聞いていた。だがその話は食事を取ってからでも、取っている最中でも出来るとも思うのだが」

 

「それはそうですが…」

 

納得がいかないと言った顔を見せる戦術人形621。

ともあれ、止められている訳ではないのだ。

早速食事の準備を始めよう。コックピットから荷物を下ろしていて正解だったな。

 

 

 

香辛料の香りに食欲が増す。

一人分の器にスープと麺を移し、それを隣に座る戦術人形621にへと差し出す。

 

「即席ラーメンだ。多少辛いが味は悪くない筈だ」

 

「いただきます」

 

受け取り、食事を始めた彼女の隣で自分も食事を始める。

…うん、旨い。

どこが作ったものかは知らないが、企業が作ったものにしては味は悪くない。

舌に肥えた奴が企業にいるんだろう。でなければ此処まで美味しい筈だ。

アーキバスやベイラムもこういったものは出していたが…無駄に高い上に味もよろしくない。

強いて言えば大豊が出していた冷凍食品は旨かった。

が、パッケージにあの非公式マスコットキャラクター(大豊娘娘)を出すのは如何なものかと思った。

今思えばアレは非公式ではなかったのか?SNS上でその手の事でやけに盛り上がっていたから、架空の存在だとずっと思っていたんだが…いつの間に公式キャラクターと化したのやらか。

 

「さて…どこから話しましょうか」

 

そんな事を思いながら麺を啜っていると、戦術人形621が本題にへと入り始めた。

 

「何でもいい。この世界の過去とか、人形の事とかでもな」

 

「でしたら、この世界の過去について話しましょうか」

 

既に食べ終えたのか、器を傍に置き彼女は話し始める。

 

「まず知っていてほしいのはこの世界における居住可能地域は2030年から2062年にかけて激減。その原因となったのが2045年に起きた第三次世界大戦に大量使用された核兵器による地上の核汚染、そしてコーラップス液、またの名を崩壊液と呼ばれる物質による汚染によるものです」

 

「そのコーラップス液と言うのは?」

 

「1900年代にロシアで発見された以降、世界各地でも発見された『遺跡』と呼ばれる建造物内に保管されていた物質です。気流に乗って空気中に散布できるほど軽く、そして触れた物質を分解、崩壊させるといった特性を持っています。名前からして液体の様なものを想像させますが、実際は素粒子が集合し流動しているものらしいです。実際に目にした訳ではありませんが、基地内にあった古い端末から情報を引っこ抜いたらそのように記載されていました」

 

素粒子が集合し流動している、か…。

そう思うとコーラルが頭に浮かぶ。あの赤い空は今でも忘れる事は出来ない。

だが今はその事を思い出している場合ではない。

 

「また既存の技術を凌駕する可能性があるとされていたらしいです。そうなると…」

 

「企業…いや、国同士での遺跡とやらの争奪戦はあっただろうな。……どこに行っても同じだな」

 

「…そちらでもあったんですか?」

 

「ああ」

 

あの火で消えた筈だった。だが、それは生きていた。

企業は求め、奪い合い、レジスタンスはその地を守る為に立ち…そして俺と『彼』も訪れた。

一度生まれたものは、死ななかった。だからこそ、訪れたのだ。

燃え残った全てに、『火』を点ける為に。友人の意思を継ぐために。

その役目を…あの時に自分は引き継いだのだ。

 

「話を続けますね。…2030年に中国にある北蘭島の遺跡で大規模なコーラップス流失事件が発生。これをきっかけにコーラップスによる汚染は全世界に及びました」

 

「流失事件が起きた原因は?」

 

「情報によると、地元の中学生らが遺跡に侵入したのがきっかけだったそうです」

 

「下手に装置とかを弄って、流失させたのか?」

 

「そうではなく、遺跡内部でE.L.I.Dと遭遇し襲われたのがきっかけです」

 

「E.L.I.D…?」

 

生命体とは言っていたが…遺跡とやらに住んでいた先住民だろうか。

いや、もしそうならわざわざ生命体などと表現するか?

 

「広域性低放射感染症。コーラップスに被爆した者に起きる疾病の事を示し、同時に被爆し発症した者の事もE.L.I.Dと言います」

 

「成る程。…しかし、そのE.L.I.Dがその年に突如として現れたとは思えんな。公にはされていないが、少なからず存在、或いは発症者が出ていたのではないか?」

 

「そこまでは分かりませんが…この大規模流出事件の発端の地となった北蘭島遺跡は発見から10年後位に封鎖、埋め立てられています。この後に都市開発が行われたみたいです」

 

「その都市開発の最中に事故か、或いは何らかの形でコーラップスが流出したと見るべきだろう」

 

とは言っても想像の域に過ぎない。

が、いきなりという事は無い。何らかの原因はある筈なのだ。

その点を踏まえれば、このような答えに至るのも不思議ではないと思いたいが…。

 

「それで?遭遇してからはどうなった?」

 

「通報を受け、少年らを救出する為に部隊が派遣されたそうです。恐らく戦闘の際に…」

 

「それが"火種"になったか」

 

「…ええ、恐らくですがそれが原因で全世界に汚染が広がった。それから5年後には北蘭島とは違う別の場所で大規模コーラップス爆発事件が発生。二度目のそれは汚染を益々拡大させ、世界情勢は不安定な状態に…その後の10年後、2045年に第三次世界大戦が勃発。終結したのは2051年…6年の間、人類は殺し合いしていました」

 

「…」

 

「また北蘭島での事件を発端に、コーラップス汚染は地球の大半にまで及び、死者数も膨大な数に。それは各国で労働力不足の問題に直面させる事となりました」

 

大量使用された核兵器は更に世界を汚染。

ただでさえ狭かった居住可能地域は、更に狭くなったのだろう。

そして大戦は始まる前に──

 

「人形は生まれた。減ってしまった人間の代わりを担う存在としてな」

 

「…」

 

「恐らく最初は労働者の代わりだったんだろう。加えて軍用に転用できると見れば、戦術人形とやら誕生したのも頷ける。恐らく第三次世界大戦でも使われたんだろう。戦闘の代行人として、多くの軍が採用した筈だ。なんせ人間が少ないのだからな」

 

「よくお分かりで」

 

「少し考えただけだ。それにヒントになる箇所は幾らかあったからな…」

 

そう言い切った辺りで、既に冷え切ったラーメンを一気に食べきる。

だが、話は完全に終わっていない。

そう分かると荷物の中から即席ラーメンを二つ取り出す。

 

「…まだ食べますか?」

 

「お互いの話が終わるまでの間、食べながらの方が良さそうと思ったのでな。……食べるか?」

 

「…ええ。もう一食、貰えますか。話さなくてはいけない事はまだまだあるので」

 

「ああ、分かった」

 

簡易コンロに火を点け、鍋に水を注ぐ。

この夕食は、まだまだ終わりそうになさそうだ。




お久しぶりです
情報収集に時間が掛かってしまいました…間違いがあったら申し訳ない。
その際は修正しますので。

次回も情報収集編です。

あと、AIイラストを用いて、戦術人形621のイメージイラストを生成しました。
あくまでもイメージですので、「あ、こんな感じなのね」程度に思って頂けると幸いです。


【挿絵表示】


では次回ノシ
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