これで二杯目となるラーメンを啜る。
何時食べても飽きない味を堪能しながら、ふと人形について思った事があったのでそれを伝わる。
「お前もそうだが、生体素材が多く使われているのは社会に溶け込め易くする為か。ここまで来ると人とそう大差ないな」
「レイヴンの所では私達みたいな人形は存在していたのですか?」
「生体素材を一切使用していない機械の様なタイプが居たのは知っている。聞いた話ではお前たちの様な人と大差ない外見を有していたタイプもいたらしい。最もその手のは高額らしく、そう易々と手が出せる代物ではなかったと聞いている」
見た目は見目麗しく、購入する者の中には
他にも違法製造されたタイプもいた。法に触れてしまっている以上、公の機関は黙っていない。
自分が違法に生み出された存在だと知りながらも追手から逃げ惑っていた奴を見た事がある。
見た目からして十代半ばの少女の姿をした人形だった。
どうなったかは知らないが、あの時聞こえた一発の銃声により泣き叫ぶ声がピタリと止んでいた辺り、その最期がどのような結末だったかは想像せずとも分かる。
「コーラップスと核による汚染、人間の代わりとなって誕生した人形…だが、それだけではないな。まだ何かあったんだろう?」
「ええ、ありました。ただこれに関しては私自身も詳しくないんです…それでも良いです?」
「構わない。聞かせてくれ」
「分かりました。…今から一年前、2061年に鉄血工造で何かがあったらしく、その際に鉄血工造製の全ての人形が暴走。工造内の全従業員が殺害され、現在は人類の敵として見なされています」
「その何かについては分からないのか?」
「はい…。私自身も製造されたのはこの事件が起きた後でしたので。詳しい事情までは」
「ふむ…」
鉄血工造で起きた事件。
何らかの形で、鉄血工造の人形が暴走。
では、あの時に戦っていた人形達は一体…?
「一つ聞きたい。鉄血工造製とは別の人形を見かけた。彼女達は光学兵器ではなく、炸薬を用いた銃を使用していたのだが、心当たりはあるか?」
「ええ、ありますとも。民間軍事会社グリフィン&クルーガーに所属している戦術人形の事ですね」
「民間軍事会社…PMCか。しかし一介のPMCが人形を保持できるとは思えんが」
「確かI.O.Pと呼ばれる自立人形の製造会社と業務提携していると聞いた事があります」
「成る程」
しかし、とんでもない世界に来てしまったものだ。
コーラップス汚染に核汚染、加えて自立人形の暴走。
どんなに策を尽くしても手に負えないレベルにまで達している。
例え暴走する自立人形の全てを破壊出来たとしても、汚染は止まらない。
止めようとしても、コーラップス汚染による被爆に核汚染による被爆がある。
終わりを迎える一方でしかない。殺されるか、或いはゆっくり死んでいくかのどちらかによって。
「大まかですが、私が知る限りの事については話しました。…レイヴン、そちらの世界についても聞いていいですか?細かくでなくても良いので」
「ああ。…さて、何処から話したものか」
既に食べ終えた器を横に置き、思案する。
彼女が説明してくれた程、自分はあの世界での過去については詳しくない。
…自分が知る事、そしてあのルビコンでの戦いについて話すか。
脳を焼かれた存在が、星を焼く主犯に至るその軌跡とやらを。
「…コーラルと呼ばれる物質があった。辺境の開発惑星ルビコンⅢでしか採れないソレは強力なエネルギー源及び情報導体として注目されていた。が…それはある事件を発端に消失した筈だった」
「その事件とは…?」
「アイビスの火。ルビコン3どころか周辺惑星すら巻き込んだ炎の嵐、致命的な汚染を残した事件。…その元凶はコーラルにあるとされ、そしてアイビスの火によってコーラルは消失したに思われた」
「だけど存在していた。しかし…どうやって他の者達がそのコーラルとやらが存在している事を知ったのです?誰かがリークしない限りは…」
「ああ。そうだな」
彼女の言う通りだ。
だが、企業や独立傭兵、そして俺とウォルターはルビコンに訪れたのだ。
どこかた情報が出たのか?
はっきりと断言できる訳ではない。だがあの時、封鎖機構のカタフラクトと戦闘していた時に相手のパイロットは言っていた。
──独立傭兵「レイヴン」…まさか貴様が戻ってこようとはな──
──あれだけの情報をリークしたのだ。そのまま隠れ去るものと思っていたが──
この時、
無理もない。この時より前から
──企業をルビコンに呼び込んで満足か?──
──我々の封鎖による秩序を貴様が崩したのだ…!──
あの男から発せられた声から垣間見えたのは怒り。
「レイヴン」に対する怒りだった。
そして理解した。その怒りの
──お前のライセンス。元の「レイヴン」がやった仕事か──
「レイヴン。そいつがコーラルの情報を企業にリークしたと思われる」
「レイヴンが…?待ってください、その言い方だとまるで、レイヴンが二人──」
そこで戦術人形621はハッとした表情を見せた。
思い出したのだろう、自分が持つ「レイヴン」の名は借り物だと。
そして、もう一つの名『C4-621』の名を。
「貴方ではない…本物のレイヴンがリークした…?」
「確証はない。が、その可能性は高いと見ていい」
バートラム旧宇宙港で対峙した時、本物のレイヴンとそのオペレーターはリークに関する事は何一つ語らなかったが…。
「企業が、独立傭兵がルビコンⅢに訪れる様に…脳を焼かれた存在を拾い、そして意味を与えてくれた人との旅が始まって、友人と戦友、恩人との出会いがあったんだ」
そこからは本当に長い話だった。
ACや強化人間の事、ウォルターの事。
ルビコンで出会った友人、戦友、恩人との出会い、激化する戦い。
ウォルターの真の狙い、コーラルが有する特性……そして、迫られた選択。
その果てに、脳を焼かれた存在は意思を継ぎ、星を焼いた主犯となった。
何かを得る事はなく、大事な人を失い、手放し抜け殻となった。
死んだように生き続ける中で、火を点け、全てを焼いた星に再び訪れて気づけばこの世界に降り立っていた事…そのすべてを語った。
途中までは戦術人形621からの質問があったが、終盤になるにつれて質問はなく只々聞くに徹していた。
「…気付けばここに居た。二度と聞こえなくなった筈の『友人』の声が聞こえた後に」
ガスコンロの火は消え、辺りは暗闇に包まれていた。
今自分たちを照らしているのは星空だけでしかなく、辺りは静寂に包まれていた。
「後悔は…あるんですか?」
その静寂にいたたまれなくなってしまい、別の話題にへと切り替えようとしたタイミングで彼女がそんな事を聞いて来た。
「後悔はしているんだろう。だが…」
「だが…?」
そう促されるもそこから先の言葉が出なかった。
言葉では表現しきれない何かがあった。
喉に引っ掛かる様な違和感。それが中々に出てこない。
そんな自分を見かねたのか、戦術人形621が手を上げて制してきた。
「…無理に答えなくても良いです。多分言葉にするのは難しいでしょうから」
「…すまない」
「いえ。気にしないでください」
再び静けさに包まれる。
今、自分がどんな表情をしているか分からない。
だが戦術人形621が此方を抱き寄せてくれた辺り…多分いまにも泣きそうな表情をしていたんだろう。
人形という事もあって、その体は冷たかったがそれでも何処か安心させてくれるような感覚があった。
しかして残ったのは…恐らく後悔。
その後悔は何時までも彼の中で生き続けています。
…選ぶというのは本当に難しいです。
次回は…どうしたものかな。ではではノシ
「これ…本当?」
「ああ。先程の件に加えて、帰還している際に遠方で鉄血の大軍を見つけた。行先は恐らく…」
「例の新型ハイエンドモデルが居た場所でしょうね」
「…どうする?管轄地域ではない筈だが」
「……準備だけはしておいて。あと、彼も伝えておいて貰っていい?」
「…良いのかい?事が大きくなると思うが」
「けど対処しないといけないのも事実。それに彼も暇を持て余しているでしょうし──」
「所属が違えど、貴方と同じく