人形ノ詩 鴉ノ詩   作:白黒モンブラン

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──仕事の時間だ──


chapter 00-11

 

「まず状況から」

 

鉄血工造、グリフィン。

その双方の部隊がこの前哨基地に向かって来ていると言う知らせを受け、自分は基地内にあったブリーフィングルームとやらに来ていた。

前哨基地だけにあって、設備はしっかりしており備え付けのモニターには基地周辺の地形情報、観測データが映し出されていた。

そしてその周囲からゆっくりと挟み込むようにして進軍してくる赤い点…南方面からは鉄血工廠、東方面からはグリフィンの部隊。レーダーを見る限り、部隊の規模もそれなりに大きいようだ。

 

「双方の部隊は別々の方角から進軍。南と南東から鉄血、東からグリフィン。進軍先はこの前哨基地と予想。グリフィン側の進行速度は比較的とゆっくりですが、対する鉄血の進行速度は速く、二部隊による同時襲撃を仕掛けてくると予想。また数刻もしない内にここに到達すると考えられます」

 

「此処を狙う理由は?」

 

「憶測でしかありませんが…恐らく私でしょう」

 

「それは鉄血側の狙いだろう。グリフィンが狙う理由にはならないと思うが」

 

組織を抜け、差し向けられた刺客を撃退した。

裏切り者が生きていると判断したからこそ、鉄血は部隊を差し向けた。

それなら納得が出来る。だが、グリフィンが此処を狙う理由が分からない。

 

「いえ、狙う理由は二つあります。その一つは私が新型のハイエンドモデルである事。組織を抜けたとは知らない向こうが動き出した私を見れば、どう思いますか?」

 

成る程…。そうであれば破壊対象になるし、狙う理由にはあるだろう。

だが、それに対する疑問は浮かぶ。

 

「では何故あの戦いでグリフィンはお前を破壊しなかった?この基地にハイエンドモデルがいると向こうは知っていて攻撃を仕掛けたとなれば、随分と詰めが甘いと思うが」

 

自分が戦術人形621と出会う前に、静観を決め込んでいたあの前哨基地での戦い。

グリフィンが再び此処を狙ったのであれば、当然彼女の存在もあの戦いの時点で知れ渡っていた筈だ。

だと言うのにしなかった。そこに対する疑問が尽きない。

 

「そこなんですよね。あの時に私を見つけて破壊すれば良かった筈なのにしなかったが今でも不思議で」

 

「わざと破壊しなかった、或いは知らなかったという点は?」

 

「それはないでしょう。起動されたら向こうにとっては厄介である事ぐらい知っている筈ですし、知らなかった程度では済むとは思えませんが」

 

「だろうな…」

 

今になって、その失態を取り返しに来たと言うのだろうか。

何だかきな臭い感じがしてきたな…。

 

「それでもう一つの理由は?」

 

「此方を見てください」

 

コンソールパネルを操作して、モニターに映し出される地形情報。

無数に広がるは廃れた市街地、奥に見えるは巨大な城塞。

前哨基地より後方…北側に存在するらしいが。

 

「鉄血工廠にとって超重要拠点かつ補給においても最も重要な要衝、通称『サイレントライン』。その前哨基地が此処であり、その管理を任されているのが私です」

 

「管理者の破壊と同時にサイレントラインへの攻略の手掛かりにしたいという事か」

 

「ええ。前哨基地を掌握し、サイレントラインを攻略出来れば現状を覆す事が出来る。恐らくですが、それが目的。グリフィン側からすれば何としても此処を攻略したいと考えている筈です」

 

「ふむ…」

 

双方の狙いが一致しているのが、目の前に立つ戦術人形621の破壊。

鉄血からすれば裏切り者の始末、グリフィンからすれば敵の新型ハイエンドモデル。

どちらもが敵。彼女に味方する者はいない。

居たとしても自分は偶々遭遇しただけの身。このまま居るつもりはない。

それを分かっているのだろう。621の表情には僅かに陰りがあった。

 

「元はと言えば、これは私の問題です。レイヴン、貴方は──」

 

だが…

 

「621」

 

「!」

 

「俺を雇え、そして依頼しろ。独立傭兵という金で動く戦力を活用しろ」

 

依頼であれば、それは変わってくる。

それが星系を焼いた主犯であろうと、結局は一介の傭兵に過ぎない。

 

「…双方を敵に回す事になるかも知れませんよ」

 

「既に片方は敵対している様なものだ。グリフィンは上手く相手すれば、味方にもなる」

 

ウォルターの様に上手く立ち回る事は出来ないだろう。

だが、この状況を乗り越えるのであれば慣れない事をやるのも吝かではない。

 

「…貴方の力を貸してください。独立傭兵『レイヴン』…!」

 

その表情は何処か泣きそうで、そして嬉しそうで。

力を乞う彼女に向かって、静かに頷いた。

 

「ではブリーフィングを始めましょう」

 

時間は限られている。

こうしている間にも鉄血は進軍しているのだが、無計画に飛び込むのはただの自殺行為でしかない。

 

「敵は二部隊に分かれて展開。一つは南から下位モデル及び汎用兵器で構成された混成部隊。もう一つ南東から進軍ており、マンティコア、ニーマムといった高い防御力と高い攻撃力を有した兵器群で構成された部隊です」

 

「役割はどうする」

 

「私が先行して混成部隊に攻撃を仕掛け、足止め。その間、兵器部隊が基地へ進軍してくると思いますが、あえておびき寄せて姿を現した所を攻撃、殲滅してください。また戦闘が始まれば、それに気付いたグリフィンが進軍速度を速める可能性があります。三つ巴になる前に鉄血の部隊を殲滅してください」

 

「この基地はどうする?」

 

「必要なものを揃えたらそれらを持って放棄します。思い入れがある場所ではありませんから。またここから少し離れた場所に未稼働状態の基地がありますので、そこを第二セーフハウスとして使うつもりです」

 

グリフィンがここに突撃する前に鉄血工廠の部隊を殲滅、そして基地から脱出しなくてはならない。

それが分かれば簡単だ。後は迎撃、殲滅すれば良いだけの事なのだから。

 

「先に行ってACへ乗り込んでください。私は装備を整えてから行きます」

 

その言葉に頷き、ブリーフィングルームを出ていく。

駆け足で外へと飛び出し、高く積み上がった残骸をよじ登ってACのコックピットへと滑り込むとメインシステムを起動させ、体と機体との同調を始めた。

操縦桿に手を添えて、軽く握る。軽く息を吐くと同時に握り直すと機体との同調が完了し、脳波による指示によって目に映る光景が、あの光景へと切り替わった。

そして何時もの様にあの声が響き渡った。

 

『メインシステム、戦闘モード起動』

 

AC『Re:LOADER4』をゆっくりと立ち上がらせ、鉄血が進軍してきているであろう方向へと向ける。

無駄に生えた木々。その中を掻い潜って迫ってくる鉄血の部隊。その時だけに発生する静けさ。

何でも経験したことのある静けさ。ルビコンに居た時と変わらない慣れ親しんだ静けさだった。

 

『レイヴン、聞こえますか』

 

そこに621から通信が入った。

 

 

 

 

 

 

装備を整え、前哨基地正面入口前…南方面から向かってくる鉄血の部隊を迎撃する態勢を整えた戦術人形621は後方で待機しているRe:LOADER4のコックピットに居るレイヴン(C4-621)へと通信と飛ばしていた。

 

「レイヴン、聞こえますか」

 

『ああ、聞こえている。調子はどうだ』

 

「まだ始まってもいないのに調子も何もないのでは?」

 

『…そうか?』

 

そんな様子の彼に戦術人形621は小さく笑った。

だが、それがほんの僅かに緊張を解す要因になったのも彼女は気づいていた。

そしてその笑みも一瞬で引っ込められ、彼女の表情は切り替わり、その目は鋭いものへと変わった。

背で浮かぶ砲塔らしきものが静かに唸りを上げ、腰に携えた大太刀の柄に手を添えられる。

 

(近い…)

 

ハイエンドモデルだからか、彼女は敵がすぐそこまで迫ってきているのを検知していた。

そしてそれら全ての銃口が自分に差し向けられる。

大軍を一人で相手取るなど自殺行為でしかない。それでも退く理由にはならなかった。

 

(自由を望んだ身。ここで躓く訳にもいかないのです)

 

「ふぅ…」

 

軽く息を吐き、彼女はその先を静かに見据える。

いつ始まっても可笑しくない状況に、その体は強張る事無く自然体であった。

一歩、更に一歩と歩みだす戦術人形621。やがて見え始めた敵の姿を前に大太刀の柄を握った瞬間だった。

 

『621、仕事の時間だ』

 

戦いに告げる合図が鳴ったのを彼女は聞き逃さなかった。




嵐がやってくる一歩前。
自由を求める人形、自由意志の表象たる鴉が動き出す。

では次回ノシ

















「良いのかよ、こんなにのんびりで。遠足じゃねぇんだが」

「…私としても不本意だがね。戦術人形と歩幅を合わせて進軍しろと上からお達しだ」

「ちっ…手前の尻拭いさせられる上にコレか。上の連中をぶちのめしてやりてぇ」

「気持ちは分からないでもないが、抑えたまえ」

「言われるまでもねぇよ。……んで?どう見る」

「消極的と言わざるを得んな。寧ろ本命の為に戦力を出し惜しみしている様にしか見えない」

「雑務は下っ端の仕事ってか。……おい、何か爆破が起きてねぇか」

「!…すまない、G4!先に行くぞ!」

「あ!おい!!待ちやがれ、V.Ⅳ!…わりぃ、俺も先に行くぞ!」
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