人形ノ詩 鴉ノ詩   作:白黒モンブラン

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chapter 00-13

ルビコンすら存在しない世界。

ましてやコーラルすらも存在しない何処かの世界。

そんな世界に呼ばれた者、そして二度目の人生を与えられたかのように流れ着いた者。

レイヴン(C4-621)とラスティ。

あの場所で殺し合った二人。互いにコクピット内にも関わらず、静寂に包まれていた。

 

(…夢ではない)

 

手を掛けた筈の戦友がそこにいる。

その事実だけでもこの日で最大の驚きと言える一方で、レイヴンは胸がざわつくのを感じられずにいた。

 

『聞こえるか、戦友』

 

「…!」

 

その声は紛れもなく、スティールヘイズ・オルトゥスに搭乗するラスティからのもの。

一瞬、答えそうになるもどうにか堪えてレイヴンは沈黙を貫いた。

ルビコンに居た時は声を出す事から儘ならなかった身。

それはザイレムでの戦いでも変わらず、星を焼いて再手術を受けた日までその声を発した事はない。

今、声を発してしまえばレイヴン(C4-621)ではないと疑われる可能性がある。

再手術を経て、取り戻したこの声を聞かせてやりたいという思いを抑え込み、レイヴンは第四世代の強化人間を演じる事にした。

 

『そういえば…君は確か、第四世代だったか。であれば君が私の知る戦友だと、そしてこの世界の事も知っていると思い、聞きたい』

 

スティールヘイズ・オルトゥスの頭部がRe:LOADER4を見つめる。

攻撃を仕掛ける様子はない。

そしてレイヴンもまた攻撃を仕掛けるつもりなどなく、彼からの問いを待った。

 

『…君は敵か?戦友』

 

「…」

 

『この状況からして、鉄血側に付いているとは思いたくない。が、君は独立傭兵だ。鉄血に付いているのを悟られない様にしている、或いはどちらにも付かずに私も知らない第三陣営に雇われて動いていると言う事もあり得る』

 

その台詞にレイヴンは確かになと小さく呟いた。

金さえ払ってくれるのであれば、特定の陣営に与する事はない。

中には特定の陣営に与する独立傭兵も存在はしたが、レイヴンはその例に当てはまらない。

だからこそラスティの台詞には理解を示せるものがあった。

しかしだ。組織を捨て、元鉄血になった戦術人形621の依頼を受けている身。

事情を知らないラスティから見れば、鉄血に与していると思われても仕方ない立場にある。

加えてレイヴンはあの時の自分を演じている為、返答する事は出来ない。

どうしたものかと思った時、621からの通信が飛んでくる。

 

『レイヴン、聞こえますか!』

 

「!」

 

この通信回線では会話内容が知られる。

咄嗟の判断で、個人回線へと切り替えつつレイヴンは621に切り替える様に促す。

 

「回線を切り替えろ。向こうにも聞かれる」

 

『!…これで良し。…そちらは大丈夫ですか、レイヴン』

 

「問題ない。…そっちは終わったか」

 

『はい。今は基地に戻り撤退の準備を整えていますが…ではなく!』

 

「む?…!」

 

様子がおかしい。

レイヴンがそれを感じ取った時とほぼ同時に前哨基地の外壁が吹き飛んだ。

 

『あぁ…一足遅かった。レイヴン、落ち着いて聞いてください。実は──』

 

「いや、言わなくても分かる」

 

舞い上がる土埃。その中で浮かび上がった影。

二脚タイプのACよりもその全高は低い。何よりその脚は、タンク脚だった。

モスグリーンに彩られ、右肩と胴体の一部を赤く染めたAC。

何より左肩のエンブレムが、タンク型のACに搭乗する人物が誰かを指し示していた。

 

「…キャノンヘッド。G4ヴォルタ…」

 

ベイラム専属部隊、レッドガンの四番手。

レイヴンからすれば会った回数こそは僅かに等しいものの、決して忘れる事の出来ない人物でもある。

そんな彼がここに居る。レイヴンにとって思う所が無い訳ではなかった。

 

「漸く追いついたぜ…。で、どういう状況だ、V.Ⅳ?」

 

ブースターを解除し、キャタピラでの移動しつつスティールヘイズ・オルトゥスの隣に並び立つキャノンヘッド。

そのパイロットであるヴォルタは状況の説明をラスティに求めた。

 

『私が来た時には既に鉄血の部隊が壊滅していた。その代わりにあのACがいた』

 

「成る程な。んで、あのACに誰が乗っているのか分かってんのか?」

 

『戦友さ。いや…君の所で言うのであればG13と言うべきかな』

 

「は…?」

 

ラスティから出た言葉に思わず目を見開くヴォルタ。

G13…レッドガンにおけるアンラッキーナンバー。それを貸与された奴を彼は知っている。

ガリア多重ダムにおいて、その動きは彼自らズブの素人ではないと認めた第四世代の強化人間。

独立傭兵『レイヴン』。あのウォルターの猟犬がここに居る事に彼は驚きを覚えていた。

 

(おいおい、マジかよ…。ホントにあのG13なのか)

 

機体の頭部カメラを通して映る灰色のAC『Re:LOADER4』を見つめるヴォルタ。

頭部と一部装備に違いがあれど、その色合いと言い、佇まいと言い、ガリア多重ダムで見た姿を変わりない。

だが、機体から発せられる圧に大きな違いがあるのを彼は感じていた。

 

(あん時はちげぇ…。どんだけ殺り合えばこうなるんだ…)

 

気を抜けば、例え重装甲を誇るキャノンヘッドと言えど狩られる。

ガリア多重ダムで見た時以上に死を感じさせるRe:LOADER4にヴォルタは軽く操縦桿を握る。

トリガーに指をかけ、何時でも撃てる状態を維持する。

 

(…二機相手は無理だな)

 

スティールヘイズ・オルトゥスにキャノンヘッド。

この二機を同時に相手するのはキツイ。

いや、キツイどころか下手すれば瞬殺される可能性もある。

それが分かっているからこそ、レイヴンは攻撃を仕掛けなかった。

とは言え、ここからは退かなくてはならない。

そう思いつつも彼は621へと声をかける。

 

「621、撤退の準備は終わったか」

 

『今終わった所です。後は煙幕を展開して逃げるだけですが』

 

「煙幕の規模はどれ程だ」

 

『基地全体を覆うくらいはあります。…今すぐにでも展開しましょうか?』

 

「頼む。それと…第二セーフハウスの所在地データを送ってくれ。使い道は後で知らせる」

 

『了解しました』

 

数秒も経たぬ内に送られてくる第二セーフハウスの所在地。

コンソールパネルにデータが送られたのを確認するとレイヴンは叫んだ。

 

「煙幕を展開しろ!逃げるぞ!」

 

『了解です!』

 

合図と共に勢いよく展開される煙幕。

その勢いは前哨基地を一瞬で飲み込むほどで、突然の事にラスティもヴォルタも動けなかった。

 

「戦友!」

 

煙の中で立ち去ろうとするRe:LOADER4。

それを見逃さなかったラスティは、その名を叫ぶ。

しかし彼の機体は止まることなく、何処かへと去っていこうとしている。

すぐさま後を追いかけようとするラスティだが、突如としてコンソールパネルに響いた着信音に気付き、その手を止めた。

 

「これは…」

 

送られてきたのは、とあるデータ。

未稼働の鉄血基地の座標が記さており、そこで待っているというメッセージが添えられていた。

 

「…君が送ってきたのか、戦友」

 

煙幕が晴れた時、そこには先程までいたACの姿はなかった。

後方からグリフィンの部隊が突撃してきたのを傍目で捉えながらも、戦友が去っていったであろう方向を見やるラスティ。

わざわざデータを送って来た理由。その意味を模索しながら彼はこの世界に来てから世話になっているグリフィンの指揮官にへと通信を繋げるのであった。




ラスティに加え、G4ヴォルタ登場でございます。
さて…第二セーフハウスの座標をラスティだけに送ったレイヴン。
その狙いは何なのでしょうか。
では次回ノシ











「……独断での行動をしたいと?」

「彼が私だけにこの座標データを送って来た。何か知らせたい事があると見ている」

「…鉄血に与している可能性もあるのよ?」

「だが確定ではない。…どうか認めてもらえないか」

「本当なら止めたい所なんだけど……仕方ない。独断行動を認めます」

「すまない。そしてありがとう」

「礼には及ばないわ。…G4には伝えたの?」

「伝えてはある。が、好きにしろと言われた」

「そう…。……"彼女"にも伝えるべきかしら」

「……今は伏せておくべきだろう。彼が味方になったとは限らないからな」
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