人形ノ詩 鴉ノ詩   作:白黒モンブラン

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──交渉──


chapter 00-14-01

 

「ここの所在地を教えたぁ!?」

 

未稼働の鉄血基地…第二セーフハウスの広場にて621の声が大きく響き渡った。

無理もない。使い道は後で教えると言っておきながら、早々かつ独断で情報をラスティに送っているのだから。

 

「どういうつもりですか?!貴方が知っている人物が相手とは言え、グリフィン側に付いているのですよ!?」

 

「分かっている。だが、これはお前の立場をどうにかする為でもある」

 

「…どういう意味です?」

 

621は危うい立場に居る。

グリフィンによる鉄血大規模補給拠点『サイレントライン』の攻撃が迫っているこの状況下。

戦う気がないハイエンドモデルであろうとグリフィンは容赦なく破壊してくるであろう。

不安要素など早々に消した方に越したことはないのだから。

当然鉄血から離反した事が原因で粛清対象にもなっている。

両陣営から執拗に狙われる。それは余りにも"自由"が無さすぎる運命だ。

 

「…621、サイレントラインの情報は持っているか?」

 

「え、ええ、まぁ…。……もしかして売るのですか?グリフィンに」

 

「それなりの価格と一緒にお前を撃たせないという条件を付ける。信用できるグリフィンの基地に置いてもらおうという選択肢も考えたが……それはお前が望む自由ではない筈だ」

 

「…!」

 

自由を求めて、離反した。

621の言う"自由"とは何なのか。

もしかすれば曖昧な物かもしれない。だが、ここで終わってしまう様なものではない筈だ。

 

「…どうしてそこまで」

 

「あの時に言ったと思うのだが」

 

忘れているのであれば、もう一度言うまで。

腰を下ろしていた木箱から降り立ち、621の目を見つめながら答える。

今度はコックピット内ではなく、面と向かって。

 

「己の感覚に従ったまで。お前を助けようとした時とそれは変わらん」

 

あの時から、それだけ変わらない。

ウォルターが教えてくれた大事な教えなのだから。

 

「!…来たか」

 

遠くから聞こえる、何かが迫ってくる音。

背を預けていた壁から離れその方向へと向けば、オレンジの炎らしきものが接近してきていた。

目を凝らさなくてもそれが何なのか分かる。そしてつい笑みを浮かべていた。

そんな笑みを浮かべるも束の間、迫ってくるソレ…一機のACがゆっくりと広場に降り立つ。

ザイレムの時はまじまじと見る事は出来なかったが、随分とヒロイックな機体だな。

もしショップで並ぶことがあれば、思わず買っていたかもしれない。

起きなかったであろう事を思っていると、ACのコックピットから一人の人物が現れた。

 

「遅れてすまない。少し道に迷ってしまってね」

 

空を飛んでいたと言うのに、道に迷う筈があるか。

そんな事を思いながら、地上に降り立つ彼を見る。

その視線に気づいたのか、向こうの視線がこちらへ向けられる。

 

「…こうして顔を合わせるのは初めてかな、戦友。そして久しぶりとも言うべきかな」

 

「…ああ」

 

「!…喋れたのか」

 

「再手術を受けた。稼いだ金でな」

 

「…そうか」

 

沈黙が訪れる。

ラスティの表情も僅かに暗い。

当然だ…再手術を受けた時期はルビコンを焼いた後の事だ。

コーラルを焼く為、意思を継ぐ為、恩を返す為に戦った。

その代償に多くの屍を築いてきた。その中には友人…そして彼も含まれている。

 

「あー…えっと、話をしても?」

 

「おっと…すまない、私としたことが。それで──」

 

621が話しかけた瞬間、ラスティの目つきが変わった。

右手が腰のホルスターに収められている銃へと伸ばされる。

その反応は当然予測していた。だからこそ、させる訳にはいかない。

僅かな遅れ。だが問題ない。

彼よりも早く、ホルスターに収めた銃を引き抜き銃口を突きつける。

 

「!」

 

「すまない、ラスティ。だが、こいつは敵ではない」

 

「それを示せるものは?」

 

「こいつを前にして俺が生きている事だ。下級モデルと違い自我があるにしても、抹殺対象の人間を生かす理由などない。違うか?」

 

この世界の事に関しては、来たばかりの自分よりもラスティの方が詳しい。

であれば、下級モデルとハイエンドモデルの違いは多少は分かっていると信じたい。

 

「…」

 

「…」

 

再び訪れる沈黙。

その様子を固唾を呑んで見守る621。

すると銃へ伸ばされていたラスティの手がゆっくりと下ろされた。

それを見て、こちらも銃をゆっくりと下ろす。

 

「分かった。君がそういうのであれば、信じよう。……良かったら紹介してもらっても?」

 

ラスティが警戒を解くと、身構えていた621も構えを解く。

いつの間にか刀の柄に添えていた手が静かに下ろされると彼女は口を開いた。

 

「…621です。元鉄血所属。今はレイヴンと共に行動しています」

 

「621…それは名前だろうか?」

 

「名前はありません。覚えているのは621という製造番号のみ。それで621と名乗っています」

 

声に棘を感じる。

事情を知らないとはいえ、銃を抜こうとしたのが要因になったか。

仕方ないと言えば仕方ない。だが、フォローしている時間などない。

 

「ラスティ、鉄血の大規模補給拠点『サイレントライン』に関してグリフィンは何処まで知っている」

 

「三割と言った所だ。各基地も攻撃には備えてはいるが如何せん情報が少ない。それに加えて一部の上層部は手柄を得たいのか、早々にでも攻撃し陥落させろとお達しだ。…しかし、サイレントラインの事を知っていたのだな」

 

「上層部の連中はベイラムの上層部か何かか?…それとサイレントラインの事は621から聞いた。そして、その件でグリフィンと交渉したい。呼んだのはそれが理由だ」

 

「交渉?」

 

621へと視線を飛ばす。

それを返してきた621は頷き、ラスティに一台の端末を差し出した。

言うには鉄血製の携帯端末らしい。一応ハッキングや探知等はされないように施しているのだとか。

また彼女が差し出したのは前哨基地から持ち出した予備の一つらしい。

 

「その中にサイレントラインの構造、保有戦力、内部情報…全てでは無いにしろ、幾らかの情報をその端末に収めてある」

 

「!!?」

 

「それなりの額を払ってくれるのであれば提供する」

 

サイレントラインの情報はグリフィンにとっては喉から手が出るほど欲しい情報だ。

与する気は無いにしても利用はする。独立傭兵はいつだってこういうものなのだ。

だが、今回は少し安くいく。いきなり高額で吹っ掛けて得られたとしても、今後の関係にも響く。

 

「が、こちらの条件を一つ飲むのであれば半額で提供するが」

 

「…聞かせてくれ」

 

「グリフィンが621から手を引き、破壊対象から外す。それが条件だ」

 

「それだけかい?」

 

「ああ。それだけだ」

 

最も今の所は、と言った所だが。

が、サイレントラインの一件は関わっていたい。

恐らくだがグリフィンだけでは制圧は出来ない。無駄な犠牲を増やして失敗に終わる。

一部の上層部のせいで、そうなるとしか思えないのだ。

だからこそ金で動く独立傭兵という存在を事前に売り込んでおきたい。

さすればサイレントライン攻略時に呼ばれるかも知れんからな。

 

「…少し考えさせてもらっても?」

 

「構わない。その間はフィーカでも淹れてやろう」

 

手を顎に当て、考える素振りを見せるラスティ。

そんな彼を後にして、フィーカを淹れる準備を始めるとしようか。




尚、交渉に関してはウォルターほど上手くはないレイヴン。
とは言え、何とかしようと頑張っております。

では次回ノシ
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