幾ら世界が違えど訪れる夜は同じ。
何処からか聞こえる虫の音は不思議な心地良さを与えてくれる。
淹れたてのフィーカの香りが心を落ち着かせてくれる。
ラスティが考え込んでしまって数十分。
宣言した通り、淹れたてのフィーカをカップにへと注ぎ、それを座り込んで考え込むラスティにへと差し出す。
「少し一休みしようか。考え込み過ぎは体に毒だ」
交渉を吹っ掛けた自分が言うべき事ではないだろうが、それでも考え込み過ぎるのは良くない。
考え過ぎによる視野の狭小など以ての外。
状況が状況なので無理もないが、流石に一休みさせるべきだ。
それが自分ではなく、ウォルターだったとしてもそうしているに違いない。
「ああ、貰おうか。おや…これは中々に良い香りだな」
「地球のものだ。星外輸出されたのを偶々見つけて購入した」
「成る程。であれば味にも期待できそうだ」
ルビコンでもフィーカはあったが、その味は余り良くないと聞いたことがある。
泥の様な味と言っていたが、流石に今淹れたフィーカはそこまで不味くはない。
実際に飲んだことがあるのだ。問題ない筈だが…。
「…良い味だな。ルビコンで飲んでいたフィーカとは比べ物にならない程に」
「…」
「ああ、すまない。余りこの手の話はするものではないな」
ルビコンでの出来事。
そこで起きた事が今の気まずさに繋がっている。
この世界にルビコンはない。コーラルもない。
だがらといって全て終わった事だと片付けられるほど、簡単ではない。
ラスティはどうかは分からない。だが自分は引きずっている。
それこそ哀れと言える程に。
「レイヴン、私もフィーカ…と言うよりコーヒーを貰っても?」
「ああ。…用意しようか?」
「いえ、これくらいは自分で出来ますので」
こちらの申し出を断り、621はフィーカを取りに行った。
そして残されるは自分とラスティ。
先ほどの気まずさもあって、言葉が出てこない。
それは彼も気付いていたのだろう。
「戦友、その銃は?」
ふと、そんな事を聞いて来た。
「ああ、これか」
ホルスターに差し込んだ銃を引き抜く。
ルビコンでの戦いの後、再手術を受けた後で使う様になった拳銃。
大事な主を守ろうと満足に動けやしない体だったにも関わらず購入した銃だ。
──まずはリハビリをして、再手術を受けないとな──
そんな事を言ってくれたウォルターの表情はどんなものだったかは覚えていない。
ただその声だけは覚えている。
嬉しそうで、悲しそうで…その両方が入り混じっていた気がする。
その意味すら分からず、ウォルターを守る事はおろか、救う事すら叶わなかった。
それでも尚、こうして持っている。
「地球のアメリカという所だったか…そこに存在する銃器メーカーが作ったものだ。銃に関しては詳しくは無いがそこはM1911ガバメントモデルのカスタムガンを製造しているらしい。」
「ふむ…口径は45口径かい?」
「確かそうだったと思う。……満足に体を動かせないと言うのに、稼いだ金で買った銃だ。誰も守る事を出来なかった今の俺には丁度良い戒めだ」
「…戦友」
「……話は終わりだ。それで答えは出たのか」
これ以上気まずい雰囲気にもさせないためにも、答えが出たのかと伝える。
その問いにラスティの表情は変わり、そこから読み取れるように答えが出た事が分かる。
少々冷めたフィーカを一口飲んだ後、ラスティを見る。
「私としては交渉に応じたい。が、私の一存では決められないのも事実だ」
「時間が欲しいと言う事か」
「そうなるな。だが答えは直ぐに出す事を約束する。それだけは信じてほしい」
本当であれば今すぐでも答えが欲しかった。
が、同時に直ぐに答えが出るとも思ってはいなかった。
こうなるのは、ある意味想定通りと言えた。
「であれば端末を返して貰おうか。それをくれてやるのは交渉を終えた後だ」
「分かっているとも。…暫くここには居るつもりかね?」
「そのつもりだ。連絡先を渡しておく。答えが出たら連絡しろ」
連絡先を書いたメモを彼に差し出す。
それを受け取ったラスティは、残ったフィーカを飲み干して去っていった。
さて、此方が思う通りには行かなかったが…ラスティであれば信用出来ると思いたい。
「あれ?彼は去っていったのですか」
「今しがたな」
「そうですか。…では、一緒にコーヒーを飲みませんか、レイヴン。お互いの生き残った身ですし、星でも眺めながら、ね?」
621の言う通り、空を見上げれば星が煌々と煌めていた。
…確かに、そうだな。
「…一杯淹れて貰ってもいいか?」
「喜んで」
こんな星空の下で飲むのも悪くはない。
流石にその場で決める訳にもいかず、日を改めてになりました。
まぁそうだよねぇ…。
またレイヴンの銃に関してはこちらの完全なオリジナルなので、ご了承を。
では次回ノシ