人形ノ詩 鴉ノ詩   作:白黒モンブラン

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chapter 00-20

辺り一帯に静けさが漂う。

無数の弾痕に死体、地に広がる血潮、コクピットを貫かれ機能停止したAC。

残された破壊の名残が如何にこの戦いが激しいものだったかと物語る。

改造兵器を包む炎だけが、辺りを照らす唯一の灯りとなって彼女らを暗闇から遠ざけていた。

 

『そう…ACまで出てきたのね。皆は無事?』

 

戦闘を終えた事をフィオナへと伝えると一緒に敵のリーダー格がACに乗っていた事を報告するグローザ。

流石にそれは予期してなかったものの既に機能停止している事を聞くとフィオナは安堵し、全員の無事を確認していた。

 

「ええ、無事よ」

 

『レイヴンは?』

 

「健在よ。加えて言うなら彼の機体も健在」

 

通信でやり取りしながらレイヴンがいる方へと向くグローザ。

動かなくなった赤いACの傍らで佇む灰色のAC、その足元に彼がいる。

そんな彼は赤いACに装備されていた武装の検分を行っていた。

使えるかどうかを調べる為との事らしく、その付き添いに621とスコーピオン、M82A1が傍にいた。

何度か見たとはいえACが気になるのだろう。

気にならないと言えば嘘にはなるので報告を終え、指示を仰いだ後のついでにあの中に混ざろうとグローザは思う。

検分を行う彼、彼女らを様子を見つめていると、ふと赤いACのコア部分がグローザの視界に映った。

パルスブレードによって装甲は大きく切り裂かれ、その一撃はコクピットにまで達している。

パイロットは死亡。コア部分は見るも無残な姿へと成り果ててしまっていた。

 

「これがルビコンという惑星では当たり前だったのでしょうね」

 

『…AC戦、見てたのね』

 

「映画でも見ている気分だったわ。正直映画の撮影って言われても疑うことなく信じてたかも。それくらい現実味がなかったんだから」

 

『…』

 

「…レイヴン。その名は自由の意思の象徴って"彼女"は言っていたけど、私にはそうは思えない」

 

パルスブレードを相手のACのコアへと目掛けて振り下ろされる瞬間がグローザの脳裏に浮かぶ。

赤色の装甲は切り裂かれ、そして黒く爛れる。

翡翠色の刀身はコクピットに到達し、そしてパイロットを文字通り消した。

指の一本残すことなく、だ。

 

「何もかもを真っ黒に焼き尽くす…黒い鳥。私にはそんな風にしか見えないわ」

 

『そう…かも知れないわね。でも今は彼を信じましょう。想定外にも対処してくれたのだから』

 

「そうね。それで迎えは何時来るのかしら」

 

『その件だけど、少しだけレイヴンに代わってくれる?伝えたい事があるから』

 

「了解よ」

 

まだ何かあるのだろうか。

内心そう思いながらもグローザはレイヴンの元へと歩み寄る。

部隊長である彼女が動いたことに気付いたのか、傍で控えていたX95とネゲヴもその後を追う。

近くまで歩み寄った時、検分を行っているメンバーの会話がその耳に届いた。

 

「ねぇ、これってまだ使えるの?」

 

マシンガン(DF-MG-02 CHANG-CHEN)の状態を調べていたレイヴンの近くでスコーピオンは鎮座する赤いACを見渡しつつ問い掛ける。

つい先ほどまでは綺麗な赤で彩られた装甲も被弾の影響で所々塗装がはがれており、損傷も酷い。

正直言えば使えるかどうかすら怪しく思える程だ。

 

「分からない。少なくともコアは駄目だ」

 

「そりゃ、あんだけボロボロになってたらねぇ…。てかレイヴンのACが左腕に装備しているのレーザーブレードだったんだ」

 

「正確にはパルスブレードだな。レーザーとは違うが、その違いはよく分からん。技術者でもなく科学者でもない。ただの一介の傭兵だからな」

 

「なんか言いたい事を先に言われたのは気のせい?」

 

「気のせいだろう」

 

これ以上の戦闘は無いからか、その会話の雰囲気は柔らかい。

そんな雰囲気に笑みを浮かべながらグローザはレイヴンに声をかける。

 

「お取込み中悪いけど、少し良いかしら?レイヴン」

 

「何だ」

 

「指揮官から通信。出てあげて」

 

差し出された通信端末を受け取るレイヴン。

スピーカーモードへと移行済みなのか、彼が代わったのに気付いたフィオナが労いの声をかける。

 

『依頼を遂行してくれた事、感謝するわ。レイヴン』

 

「そういう仕事だからな。それで何か用か?」

 

『少しね。グローザの報告で聞いたけど、倒したACの損傷具合はどんな感じかしら』

 

「腕部と脚部は使えんことはないが頭部とコアは無理だ。武装はマシンガンとショットガンは問題ないが、肩部の装備は損傷が酷い」

 

何故そのような事を聞いてくるのかと首を傾げるレイヴン。

するとフィオナから予想だにしていない言葉が出た。

 

『ふむ…一つ提案なのだけどその倒したAC一式をある企業に預けてみない?』

 

「想定外を対処したと言うのに、追加報酬を払わず踏み倒す気か」

 

リスクだけを背負わされて、見返りはないという事はよくある。

アーキバスからの依頼でその様な経験をした事がある為、フィオナの台詞にレイヴンは眉をひそめる。

 

『いいえ、ちゃんと払うわ。そのAC一式も貴方にあげる。私が言いたいのはそのAC一式を修理出来る所に一時的に預けてみないかという事』

 

「ACを修理?出来るのか、そんな事」

 

ここの世界にACは存在しない。

当然ながらACパーツを製造している企業も存在してない。

にも関わらずフィオナははっきりと言った。

ACを修理出来る企業に預けてみないかと。

 

『寧ろ修理を請け負って貰う代わりにACの研究をさせてあげたいというのが本音。そういう企業が存在するの』

 

「ACを研究?…その言い方だとACを知っている口ぶりだな」

 

『過去にスティールヘイズ・オルトゥスとキャノンヘッドの修理を請け負った事があるわ。応急手当程度になるかと思ってたけど、そこは技術者としての矜持なのか一切の手抜き無しで修理してみせた。その腕はラスティさんやヴォルタさんも認める程よ』

 

「あの二人が、か…」

 

ラスティにヴォルタ。

その二人に認められる程の手腕を持つ企業。

ACの修理を出来る企業が存在する。レイヴンからすれば願ったり叶ったりの話。

どうせならRe:LOADER4の修理、整備も頼もうと思ったのだろう。

彼はその企業の詳しい情報を知ろうとしていた。

 

「なんていう企業だ、そこは」

 

『キサラギ。戦術人形の装備を開発、製造している傍ら、人型機動兵器の研究を行っている企業よ』

 

キサラギ。

企業に詳しくないレイヴンからすれば初めて聞く企業の名。

だがフィオナに加え、ACの修理技術に長けその手腕はラスティとヴォルタが認めるほど。

心配する要素は少ない。一応信用は出来るだろうと判断したのかレイヴンは問う。

 

「それで?これからどうすればいい。そのキサラギと接触するには」

 

『まずはそのACを一旦基地に持って来てほしいの。コアが死んでいるという事はオートパイロットも使えないのよね?』

 

「ああ。運び出すなら何らかの方法が必要だ」

 

『それなら任せて。…明朝に死体回収班とAC運搬担当としてヴォルタさんを向かわせるから』

 

「了解した。…朝までその場で待機していろという事だな?」

 

『そういう事。…グローザに代わってもらえる?皆にも指示を飛ばしたいから」

 

「分かった」

 

持っていた通信端末をグローザへと返し、レイヴンはACの検分を再開する。

ただの事後処理にオマケがついてきた。だが純粋に喜ぶべきかと彼は悩んでいた。

傭兵という職柄、素直に喜べないのが板に染み付いている。

ルビコンではACに乗って戦うのが主であり、こう言った事はウォルターが務めていた。

この時と同じ状況にあった時、彼は素直に喜んでいたのであろうか。

今はいない彼がどうやっていたかと思うレイヴン。

 

「大丈夫ですよ」

 

「む…?」

 

不安そうな表情を浮かべていたのを気付いたのか、M82A1が優しく告げる。

 

「指揮官が貴方を裏切る事はないと思います。ですから心配する必要はないかと」

 

「…だと良いがな」

 

裏切り、裏切られるのが当たり前の世界で生きてきたのだ。

M82A1の台詞が正しいと思いつつも何処か安心できない自分がいる。

 

(…ウォルター、貴方ならどんな……)

 

そう思いかけた所でレイヴンはその思いを頭の隅に追いやった。

自由になったと言えど、まだ依存している。

手綱を握っていた主人を探し求めているかのような感情。

そんな感情が未だ残り続けていた。

 

(野良犬と言うより駄犬だな…)

 

己の至らなさに苦笑しレイヴンは作業を続ける。

朝までグローザの部隊と待機するようにと言われたのは、この後の事であった。

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