大破したACを一時的にであるが、ここS09地区前線基地第9支部に預けると一旦ACから降りる。
グリフィンの職員やヘリのパイロット、フォークリフトなどがこの場で行き交い、その中を縫う様に赤い制服を纏った一人の女性がこちらに歩み寄っていた。
金髪に青い瞳。小柄だが貫禄は指揮官そのもの……成る程、彼女がフィオナか。
「こうして会うのは初めてね、独立傭兵レイヴン」
「ああ。…フィオナ・A・レイナドであっているか?」
「ええ。私がフィオナよ、よろしく」
手を差し出してくるが、あくまでも依頼主と雇われと言う関係。
加えて今回は交流を育む為に来た訳ではないので握手は遠慮しておく。
その姿勢を察してくれたのか、フィオナは手を下ろしてくれた。
「世間話をしに来た訳ではない。交渉の件と依頼の成功報酬について話そうか」
「そうね。まずは…先に端末を渡してもらえるかしら」
傍に控えていた621に視線を飛ばす。
それに反応して彼女は頷き、フィオナに例の端末に差し出した。
「こちらが知る限りのデータが入っています。解析に回せば、そちらが知らない情報があるかと」
「…信じてもいいのね?」
「此方から何かする気はありません。心配でしたら端末自体を調べて貰っても構いませんから」
621の情報は既にラスティから聞いている様だ。
極端ではないが多少の警戒はしているみたいだな。
とはいえ事が進んでいるのであれば気にする必要もないだろう。
「端末は渡した。見返りと依頼の報酬を貰おうか」
「準備してあるわ。…これを」
そう言って渡してきたのは一基の端末。
一見して普通の携帯端末の様だが…何故これを?
「その端末は貴方専用の口座を兼ねているわ。パスワードは初期設定のゼロ四桁ままになっているから、自身で変更するようにね。電子決済やATMで現金引き落としする時はこれが必要になるから無くさない様に」
現金払いではないだけ幾分かマシか。
ルビコンに居た時と変わらないのは此方としても勝手が分かるから良い。
「分かった。…既に振り込んであるのと見ていいか?」
「ええ。抜かりなく、交渉の分と依頼分は振り込んである。ただ追加報酬は待ってくれない?そっちはまだ準備できていないの」
「それについてだが、一つ良いか」
正直な話、そこまで払って貰うつもりはない。
ルビコンだったらきっちりと払って貰うがここはルビコンではない。
ましてやACのパーツすら少ない状況。今後依頼を受ける事もあると考えれば、金よりかはACのパーツが欲しい所。
「なに?」
「追加報酬はあのAC一式だけでいい。…その金は別の依頼で払う用に取っておけ」
修理してもらえる上にAC一式を貰えるだけでも十分の報酬とも言える。
加えてそこまで支払わせたとなればグリフィンという組織は良い顔しないだろう。
今後、フィオナからの依頼を受ける事を考慮すればある程度の譲渡は必要になる。
「そう。なら、そうさせて貰うわ」
「ああ。後、キサラギの件だが…明日また此処に来たらいいのか?」
「そうだけど…もしかして街の方で宿を取る気なの?」
一夜を過ごすと言うのに野宿しろとでも言うのか?
自分一人であればそうしていたかも知れんが、621がいるのだ。
本人は気にしないかも知れないが、それでも休める場所を確保しておくべきだろう。
だがその言い方からして…もしや?
「この基地で一泊してもいいのか?」
「寧ろそうさせるつもりよ。稼いだお金を使う必要もないわ」
何と、一泊してもいいと来たか。
魅力的な提案ではある。だが…
「いや、宿を探して一泊する。…雇い主と雇われがそう仲良くするものでもない。それに621の件もあるからな」
「そっか。…もし宿が取れなかったら連絡して。部屋の準備はしておくから」
「ああ」
交渉の金、そして依頼報酬を受け取る事は出来た。
フィオナの計らいでACを置かせてもらえる手筈になっているのをラスティから聞いている為、問題ない。
さて…後は酒盛りとなっているが、621はどうしたものか。
「宿で一人寂しくお留守番は嫌なので私も付き合いますよ、レイヴン」
「まだ何も言っていないのだがな」
「言わなくても、貴方の顔を見れば分かりますよ」
成る程、それなら納得するとしよう。
ウォルターの様に思った事を顔に出さずにするのはまだまだ特訓が必要みたいだ。
その後フィオナはこちらが提供した『サイレントライン』の情報を収めた端末の解析へと向かい、自分は621と共に片膝を付いたRe:LOADER4の傍で待機しヴォルタとラスティが来るのを待っていた。
しかしあの二人と飲む事となるとはな。
ルビコンにいた時では考えられない面子での飲み会になったものだ。
素直に喜ぶべきか、或いは少しぐらい困惑すべきか。
いや…今は純粋に喜ぶべきなんだろう。
こんな自分にも酒を飲む相手が出来た。あの時の自分からすれば考えられない事だったのだ。
それにだ。ウォルターならきっと…
──飲み相手が出来たのは素直に喜ぶべきだ──
そう言ってくれるに違いない。
何もなかった自分に、何かを有する事が出来た今がある。
であれば、素直に喜ぶべきなのだろうさ。
「待たせたな、戦友」
「ちと遅れたのは文句なしで頼むぜ」
ヴォルタはそう言うが大して待ってはいない。
せいぜい五分程度だが、咎める理由にはならない。
そこまで器量が小さい男ではないと思いたい。
「んじゃ、行くか。この時間帯なら店も開いてるだろうしな」
ヴォルタの言う通り、陽は段々と落ち始めている。
酒を飲み始めるのであれば、頃合いとも言える。
グリフィンから拝借した車に乗り込むとヴォルタの運転の元、町へと繰り出した。
基地からはそれなりの離れた位置に存在する町。
この世界が戦いと汚染で染まっている為、町はそう大したものではないと思っていたが…
「予想外だな、これは…」
町の作りはしっかりしており、人の行き来もある。
時間帯が夕暮れ時と言う事もあって雰囲気は明るく、そして活気に溢れていた。
今来ているのは丁度飲み屋街のようで、幾つもの飲み屋が並んでいる。
「見ものだろう?つい数か月前はそうでもなかったがね」
「そうなのか?」
そう尋ねると助手席に座っていたラスティは頷いた。
「この町は元々鉄血の支配地域にあった場所だったのさ。それをフィオナたちが取り返して、そして復興させた」
「出て行ったきり戻ってこなかった奴もいるが、町が復興し始めたのを聞きつけて戻って来た奴も居る。道を歩ている奴らの殆どが元々ここに居た連中だ」
成る程、と頷きながら辺りを見渡す。
復興する前、未だ鉄血の支配地域下にあった時はどうだったかは知らない。
だがここまで持ってくるのにどれ程の時間と労力が生じ、それがどれほどのものなのかは俺では測り知れない。
「ここだ。着いたぜ」
車を停車するとそこはヴォルタの行きつけの酒場があった。
他の店と比べると外観は何処か粗野な印象を抱かせるが、店内から聞こえる喧騒は何処か心地よい。
この店で楽しんでいる証拠である事が良く分かる。
何よりヴォルタの行きつけという点が安心材料になる。
「それじゃ行こうか」
ラスティがそう言うと彼の後に続いて、店内へと足を踏み入れる。
適当な席につき、ヴォルタが注文。
数分も経たない内にビールが入ったジョッキが四つ、机の上に置かれるとラスティが音頭を取る。
「こうして酒盛りするのも何かの縁だ。今日は思う存分飲もうじゃないか」
四つのジョッキがぶつかる。
久しぶりのビールの味。苦みはあるが、これはこれで悪くない。
もう少し味わいたい所だが、流石に一気に飲み切る訳にはいかないのでジョッキを下ろす。
するとヴォルタが早々にジョッキを空にしている姿が見えた。
「マスター!ビール追加だ!あと適当に酒のあてを頼んだ!」
「おいおい、いきなり飛ばし過ぎじゃないか?G4。酔い潰れても知らないぞ」
「はっ!俺がこの程度で潰れるかよ。おら、てめぇも飲みやがれ、V.Ⅳ」
「まだジョッキ半分しか飲んでないのだ。追加は飲み干したらにするさ」
何気ない会話。
ルビコンではなかった光景。
何より星を焼い、全て失った自分が望んだ光景。
大事な人達が、大事な友人達が、誰一人とて欠ける事無く今の様に下らない会話を広げながら酒盛りをしている光景。
その一欠けらとも言える光景が余りにも眩しいまでに輝いて見えた。
「…眩しいな」
「レイヴン…?」
「何でもない。…621、お前も楽しめ。こういう事は楽しめる内に楽しんでおけ」
全ては叶わなかった願い。
だがそれがこの世界で…僅かにでも叶うのであれば。
高望みし過ぎだと分かっていても、その可能性を──
──人とコーラルの共生──
──私はあなたにその可能性を見たのです…!──
…そうだな。
一つの可能性を否定し、友人を殺し、星を焼いたのだ。
今になって自分が可能性を願うなど許されるはずがないのだ…。
遅れて申し訳ありません。
色々あって遅れました。
次回も飲み会編かな。
ここらでキャラを出そうかと思うも、未定。
では次回ノシ