酒を飲み始めて、しばらくは経っただろうか。
幾らか飲んではいるが、酔いもそこそこと言った所であり今の所、酒盛りが終わる気配はなかった。
今回初めて飲んだハイボールに舌鼓ながら、この雰囲気を楽しんでいると対面に座っていたヴォルタが何かを思い出したかのように話しかけてきた。
「そういや…てめぇに聞かなきゃならねぇことがあったのを思い出したぜ」
「そう言えばそうだったな」
元よりこの飲み会に呼ばれたのはヴォルタが聞きたい事があるという理由で訪れている。
彼の口からどの様な質問が飛んでくるのか。
ハイボールを一口飲もうと手にしたジョッキを持ち上げようとして──
「…ミシガンの野郎を殺ったんだってな」
彼の口から出たセリフによってその動作は途中で止まった。
G1ミシガン。
ベイラム専属部隊『レッドガン』をまとめ上げる人物であり、コールサインはG1。
乗機は四脚型AC『ライガーテイル』。
鬼軍曹とも言うべき性格の持ち主。声は無駄にデカく、そして部下の事を役立たず共と叱咤。
ガリア多重ダムでは自分もその役立たず共と呼ばれたのは今でも覚えている。
最もあの時のブリーフィングでは『役立たずに付けられた安いオマケ』と言われたがな。
部下の事をそんな風に呼んだりする彼だが敵を一切侮らず、口調はアレだが部下の事を諌めたり、励ましたりしている辺りは部隊を統べる指揮官として非常に優秀。
部隊内で『総長』と呼ばれていた辺り、彼の人望の厚さが良く分かるだろう。
そんな彼とはガリア多重ダム、アイスワーム撃破で共に戦場に駆ける事はなかったが彼の指揮の下で戦った事があり…そして、アーキバスからの依頼で受けたレッドガン部隊の迎撃作戦で自分は──
「ああ、そうだ…」
彼をこの手で殺した。
「そうかよ……はぁ、本当にミシガンをやっちまうとはな…」
「…恨むか?」
何を思ったのか、気づけばそんな事を口にしていた。
口ではミシガンの野郎などと言っているが、自分は知っている。
壁越えの時、大破したキャノンヘッドから抜き取った通信ログ。
悪友であるG5イグアスに向けられたものであり、ミシガンの言う事は聞いておけと伝えていた。
クソ親父だが自分たちを切り捨てる事はない、と。
今際の時まで悪友を心配していた彼がミシガンを頼れと言っていた。
その言葉がミシガンという人物をどういう風に見ていたのかが分かる。
「誰が恨むか。傭兵として雇われた奴が別の日に敵として出てくんのが当たり前だ。あの場所じゃそれが普通みてぇなもんだ。そんなもんはハナから割り切ってるし、恨みとかそんな感情を抱けねぇよ」
「…」
「テメェが何を思ってんのかは知らねぇが…まぁ良い、一つ聞かせろや。それさえ答えてくれりゃ何も言わねぇよ」
「…何が聞きたい」
ハイボールを一気に呷り、何が聞かれるのかを待つ。
ヴォルタもまたビールを一気に呷ってから口を開いた。
「あのクソ親父…いや、G1ミシガンの最期はどんなのだった?」
「それは…」
──聞こえるか、役立たず共──
迫りくるライガーテイルに向けて放ったリニアライフルのチャージ射撃。
その一撃に貫かれたライガーテイルが火花を散らしながら落下していく。
そんな最中で彼の声が聞こえた。
自分に向けてか、あるいは破壊されたMTから脱出したレッドガン隊員に向けてか。
それとも両方か。彼の声は確かに自分とレッドガン隊員の通信には聞こえていた。
──ミシガンは転んで死んだ。伝記にはそう書いておけ!──
「ミシガンは転んで死んだ。伝記にはそう書いておけ、だそうだ」
それが彼…ベイラム専属部隊『レッドガン』総長、G1ミシガンの最期の言葉だ。
「っ…ははっ…なんじゃそりゃ…あのクソ親父め、相変わらずだ」
彼の最期の言葉を聞き、ヴォルタは笑っていた。
正直、ミシガンが残した言葉の意味を今になっても尚、分かってはいない。
何らかの意味があった筈だ。だがその答えに自分は到達出来ていない。
「事故で死んだから、敵討ちとか考えんなってか?ったく、あのクソ親父め、不器用か」
「…!」
…ああ、そうか。そうかも知れない。
あの言葉は残されたレッドガン隊員へと向けられた言葉なのだろう。
では何故…わざわざ自分にまで通信を飛ばした?
その行為に何の意味があった…?
「…戦友、大丈夫か?」
「…問題ない。折角の酒の場だ、暗い雰囲気は此処までとしよう」
此方を心配してくるラスティに問題ないと返しながら、新たに酒を注文する。
そして運ばれてきた酒を口を付け、暗くなっていた感情を排除する。
今はこの場を暗い雰囲気にはしたくはない。下らない会話をして、楽しく飲む場にしていた。
ただそれだけの感情だけで、酒を一気に呷ろうとした時だった。
「なぁ、おっさんたち~、ちょっと良いかなぁ?」
ふと聞こえた声。
まるで人を小馬鹿にしたような声。
その方向へと向けば、如何にも若者と言える様な容姿をした者たちの集団の姿がそこにあった。
少々派手な格好をしているが…それは大して気にならない。
一番気になったのは、今声をかけてきたリーダー格とも言える男が手にしている鎖。
その鎖が繋がっている先を辿っていけば、やせ細った一人の少女へとたどり着いた。
着ているのはボロボロのワンピースのみ。さらけ出された腕や足には痛々しい傷が嫌でも視界に入る。
そして首に嵌められた首輪が、男が手にしている鎖が繋がっていた。
「…レイヴン」
「…621、何も言うな」
小さな声で声をかけてきた621が気付いたように、ヴォルタもラスティも少女に気付いている。
そして少女が奴隷の様な扱いを受けている事も気付いているのか、その表情は一瞬だが険しくなったのを見逃さなかった。
そしてこちらの表情に気付いていないのか、男は気持ち悪い笑みを浮かべながら口を開く。
「俺達さぁ、ちょっと金なくてさ。若者に恵むっていう優しい大人の気持ちで奢って欲しいんだよねぇ」
よく見れば男の後ろに控える取り巻きはバットやらバールやら、凶器になるものを手にしている。
成る程…そう言ったものをちらつかせて脅して金をむしり取るという訳か。
そして従わなかったら痛い目を見るという事だ。
さて…どうしたものかと思いヴォルタとラスティの方を向く。
ラスティはやれやれと言った表情を浮かべているが、ヴォルタに至っては知った事じゃないと言わんばかりにビールを呷っていた。
そして空になったジョッキをそっと机の上に置いた瞬間、彼は笑った。
「良いぜ。丁度飲み相手が欲しかった所だ。んじゃ…」
…どうやらヴォルタは乱闘をおっぱじめる気らしい。
仕方ない。少女を助ける意味合いを込めて、自分も参加させて貰うとしよう。
「621」
「ええ、分かっていますとも。所謂、バーファイトってやつですね」
「分かっているのであればいい。……潰すぞ」
その言葉と同時にヴォルタが男に飛び掛かり、巨大な拳をその顔面に目掛けてぶち込む。
始まった喧嘩と突然の襲撃に取り巻き達は反応に遅れ、そこを突くように自分と621が乱闘に参加する。
ラスティは参加する気はないらしいが、あの様子だと何かあれば手を出すという方針なのだろう。
生身での殴り合いはそう経験はないが…丁度いい、こいつらには練習相手になってもらおうか。