人形ノ詩 鴉ノ詩   作:白黒モンブラン

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──ハウンズ──


chapter 00-25

ウォルター。

彼女は呟く様な口調で、その名を口にしていた。

ただ名前が同じだっただけ。偶然という事も当然有り得るだろう。

だが彼女の目は自分と"その人物"を重ね合わせており、口から出た名は間違いなく此方が知っている"彼"の事を表していた。

確証があったとは言えない。だがそう断言できるだけの確証が何故か自分の中に存在していた。

今なんて言ったのかと確かめたい気持ちに駆られ、気づけば少女に尋ねていた。

 

「今、ウォルターと言ったか?」

 

「あ…それは……」

 

普通であれば、ここで父親の名前かとそんな質問をしていたであろう。

が、遠回りして本題に入る気など無い。単刀直入に問う必要があった。

 

「それは…ハンドラー・ウォルターのことか?」

 

「ッ!?」

 

少女の顔が驚愕に変わる。

そしてこの会話を聞いていたヴォルタ達もまさか、と言った顔をしていた。

驚きと困惑。その双方が混ざっているというべきか。

言葉にするならそれが正しく感じられた。

 

「…もう一度聞く。名前、何て言う?」

 

「…617」

 

「…!」

 

まさかとは思っていたが、意外と驚きはしなかった。

寧ろ猟犬たち(ハウンズ)の一人だろうと予測はしていた。

でなければ飼い主の名前が出てくる筈がないだろう。

…それにしても617か。顔も性別も知らなかった人物に出会うとはな。

そう、こうして会うのは初めてだ。だが知っている…それも一方的に。

残された記録。ハウンズの戦いを残した最後の記録を…その仕事を俺は知っている。

 

──ハウンズ、作戦領域到達──

 

──フェーズ2移行──

 

場所は知らない。だがそこには封鎖機構の基地が存在していた。

狙いは基地制圧及び大型レーザー砲台の破壊。

弾丸が、巨大な光が駆け抜ける中、617、619、620の三人がこの作戦に当たった。

その喉笛を噛み千切らんと戦場に駆け抜ける姿は正しく猟犬の様で。

機体フレームはRad製の探査用フレーム一式であるものの武装構成はそれぞれ異なっていた。

 

──619、生体反応ロスト──

 

空から降り注いだ計24発のミサイル攻撃。

それは基地に対する防衛ラインの破壊を成し遂げ、同時に砲台へと突撃する為の道を作り上げた。

しかしその代わりに619の機体にレーザーが直撃。

機体の半身と619の命は消し飛ばされ、機体は無残な姿へと成り果て地面に転げ落ちた。

その事実を淡々とCOMが619の生体反応が消えた事を伝えるも、残された二匹の猟犬たちは止まらなかった。

襲い掛かる弾幕によりパルスシールドと左腕を損失した617機と五体満足の620機。

激しくなる攻撃。それでも、二機は決して止まらなかった。

 

──突入ルート再計算開始──

 

防衛ラインを超え、破壊目標のレーザー砲台にへと迫る。

そして砲台に近付きつつあった617の前に、『それ』は地面の中から617を踏みつぶさんと飛び出した。

機体名『カタフラクト』。強固な装甲と凄まじいまでの重火力、人型MTをコアにする事で汎用性までも保有した封鎖機構の兵器であり、地上最強とも言える兵器。

それが、レーザー砲台へと迫る二機の前に立ち塞がったのだ。

飛び出してきたカタフラクトにより右肩部の拡散バズーカを損失した617機。

立ち塞がったカタフラクトに対して残された武装であるガトリングガンで応戦、そこに620が割って入りカタフラクトの注意を引き付け始めた。

右へと旋回しつつ両手に持ったハンドガンを連射しカタフラクトを引き付ける620機。

だがカタフラクトの強固な装甲はACの攻撃を通さない。そして装備されたレーザーキャノンが拡散モードで発射され620機の右腕を吹き飛ばした。

右腕の損失。だが機体はまだ動く。

ブースターを吹かし左腕のハンドガンを構えるも、降り注いだレーザーの雨が620機を木端微塵に破壊した。

 

──620、反応ロスト──

 

またしてもCOMが淡々と仲間の死を告げる。

同時にそれは残されたのが617しかいないという事実でもあった。

だが、それでも…猟犬は決して止まらない。いや、止まらなかった。

連射されるグレネードを躱し、カタフラクトへと迫る617機。

そして弱点とも言える人型MTが存在する正面に飛び出ると機体はその巨体に向かって真っ正面から体当たりを敢行した。

轢き潰そうとするカタフラクトを前に装備したブースターをこれでもかと吹かし、617機はガトリングガンを構え、そしてコアMTへと突き刺したと思われる。

目にした訳ではない。記録が残っていたと言えど、両機の間で何が起きたかまでは分からない。

だが装備されていたガトリングガンがオーバーヒートを無視してまで連射され続けていたのがログに残されており、恐らく617が行ったのはガトリングガンによる接射だろう。

記録からでは何も聞こえない。だが…どういう訳かその音は聞こえた。

戦場の中で響き渡った零距離射撃の音(声なき咆哮)が。

ガトリングガンの劈く音の中、猟犬は咆えたのだ。ただひたすらに。

 

──ターゲット情報更新──

 

そして残ったのは何だったのだろう。

カタフラクトの残骸か?熱で爛れ砲身が折れ曲がったガトリングガンだろうか?

それとも咽る様な黒煙と炎の中、瀕死にも関わらず立ち上がる617の機体だろうか?

 

──フェーズ3 パターンE──

 

ただ分かる事と言えば。

猟犬達(ハウンズ)の戦いが、猟犬(617)が見せたアサルトアーマー(最期の祈り)がウォルターと自分をルビコンに導いた事であろう。

その導き手の一人が、ルビコンもコーラルも存在しないこの世界で今、自分の目の前にいる。

 

「…貴方の名前は…?」

 

「C4-621。今はレイヴンと名乗っている」

 

「…ぁ…あぁ…そうか、貴方が…」

 

痩せ細り、傷付いた少女がゆらりゆらりと歩み寄ってくる。

周囲の困惑を置き去りにして、彼女は自分の前に立った。

まだ小柄な少女。此方から片膝をつき、目線の位置を合わせる。

 

「初めまして、と言うべきか。挨拶が遅れて済まない、先輩」

 

遅れてしまった挨拶。

すると617の細い腕が首に回され、気付けばそっと抱きしめられていた。

傍から見れば随分と犯罪すれすれの光景かも知れないが、今だけは許してほしいものだ。

あの世界で出会う事でなく、しかし間違いなく自分たちを導いてくれた人物がそこにいるのだから。

 

「…あー、感動の再会になってるところ、わりぃが良いか?」

 

「構わない。何か用か、ヴォルタ」

 

流石に声をかけるべきと思ったのか、何とも言えない空気を振り払う様にしてヴォルタが話しかけてきた。

大人数の前でこんなことをしている事に気付き、恥ずかしくなったのか慌てた様子で離れる617。

こちらもゆっくりと立ち上がり、ヴォルタの方へと向く。

 

「取り敢えずトンズラするぞ。金はさっき払ったし、後はサツの仕事だしな」

 

「ああ。一度基地に寄る。彼女を預けたい」

 

「そりゃ構わねぇが…なぁ、マジであのウォルターの猟犬なのか…?」

 

小声でそう尋ねてくるヴォルタに対して、頷いて肯定を示す。

間違いなくこの少女はハウンズの一人、617だ。

 

「兎も角、急いで基地に戻ろう。…見る限り、容態も万全とは思えん」

 

「ああ。…それとだ、ラスティ。基地に戻るついでにフィオナに頼んでほしい事がある。至急でだ」

 

「分かった。移動しながら聞こうか」

 

酒盛りが終われば宿を取るつもりだったが、そうは行かなくなった。

急いで基地に戻って、617を診てもらう必要がある。

赤い瞳を見て思ったが、彼女の体内にコーラルが残っている可能性を否定できない。

あの時の自分と同じ第四世代であるのであれば、尚の事。

しかし…もしコーラルが残っていたとして、もし脳深部コーラル管理デバイスが残っていたとしたら。

正直どうすればいいのか分からない。

再手術を受けさせると言っても、それはあっちに居たからこそ出来た事であり、この世界でそんな危険な施術を行ってくれる医者がいるとは到底思えない。

消えない不安をその胸の内に抱えながらも、自分は店を出て一度基地へと戻る事にした。

 

 

 

あの後、基地を戻るとラスティを通じてフィオナが医務室のベッドを空けておいてくれたらしく、617に出会った経緯も話しつつ、一旦彼女を基地の医務室に預けた。

また簡易ながらも診察と点滴も行ってくれるらしく、意外にも大きな病院でしか見掛けることのないCTスキャンを用いた検査も行ってくれるらしい。

掛かった費用は払うと伝えたのだが、フィオナは決して受け取ろうとはしなかった。

曰く、あの時の追加報酬代わりとして受け取っておいてとの事。

そう言われた以上、こちらも引き下がるしかないので甘えておくことにした。

一度休めと言われたが、自分が思った以上に617の事が心配だったのか、夜遅くにも関わらず職員で行き交う医療室前に置かれたベンチに座って検査結果を言われるのを静かに待っていた。

 

「少し休め、621」

 

「そんな事言わないでください。彼女の事が心配なのは貴方だけではないのですから」

 

そう言って621は軽く背伸びしていた。

彼女もまた自分と同じようにずっと此処に居た。

わざわざ付き合う理由などない筈だ。今のも含めて何度か休めと言ったが頑なに従おうとはしなかった。

何度言ってもこれであれば、もう言うつもりはない。

 

「レイヴンこそ、休むべきでは?明日にはキサラギに機体と鹵獲したACを持っていくのでしょう?」

 

「…617の検査結果を聞いたら休む」

 

「その台詞、これで五度目ですよ?」

 

「…」

 

621が言った通り、このやり取りも五度目になる。

そこを指摘され、言葉の一つすら返せなかった。

 

「あの子を心配しているのですから、お互いに待ちましょうか」

 

「ああ、そうだな…」

 

ベンチの背凭れに体を預ける。

つい先ほどまで激しかった職員の行き交いも、気付けば大人しくなっており通り過ぎていく職員の姿も少なくなっていた。

近くにあった自販機でコーヒーでも買おうと思って立ち上がった時だった。

 

「…あの子の事、どうするのですか?」

 

「どう、とは?」

 

「…戦う存在にするのか、という意味です。向こうの世界ではレイヴンと同じく強化人間だったのでしょう?」

 

617が強化人間だったという事はお見通しだったのだろう。

あんな会話をしていたのを近くで聞いていたのだから、そんな事は誰だって感づける。

確かに617はACに乗っていた事がある。サイレントラインの件も考えたら戦える存在は欲しい所だろう。

だが──

 

「…彼女には普通の人生を歩ませる。また猟犬に戻る必要など無い筈だ」

 

あれだけの仕事をやってのけたのだ。

また戦場に出る必要などない。

歩むべき人生を、普通の人生を歩ませなくてはならないのだ。

 

「あ、まだ起きていたのね」

 

そこにファイルを手にしたフィオナが廊下の奥から現れる。

どうしたのかと思うと、彼女の口から眠気を覚まさせるような言葉が出た。

 

「彼女の検査結果、出たわ」

 

何より一番に聞きたかった言葉でもあった。




はい、という訳で…
あのトレーラーで活躍を見せた617の登場です。
またハウンズ美少女概念(621は男でございますが)を適応し、617は白髪に赤い瞳の美少女とさせていただきます。
細かな外見に関しては皆様の妄想で決めちゃって下さい。(誰かイラストにして書いてくれても良いのよ?)

中々派手な戦闘を描けていない話が続いていますが、何卒ご理解の程よろしくお願いします。

では次回ノシ
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