人形ノ詩 鴉ノ詩   作:白黒モンブラン

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──本物は機体越しでも匂い立つらしい──


chapter 00-31

 

『あははッ!すごいすごい!』

 

巨大なレーザーブレードによる斬撃がジャンクの山を切り崩す。

轟音と破砕音が響き渡る中、無邪気な子供の様にはしゃぐ女はHC執行機体をまるで自身の手足の様に操り、ラスティが駆るスティールヘイズ・オルトゥスへと襲い掛かっていた。

一見すれば稚拙な動き。しかしそれはただのフェイク。

相手との間合いとレーザーブレードの射程を考慮した動き、そしてHC機体が持つ出力と機動力を熟知しているとも言える様な技量はラスティですら驚きを覚えるほどであった。

だが、彼とてそう簡単にやられる様な男ではない。

スティールヘイズ・オルトゥスの機動力を活かし、相手が繰り出す全ての攻撃を回避していた。

同時に中々攻め入る事が出来ない状況でもあり、その表情は険しかった。

 

(このような敵を単機で倒してしまう…そう思うと戦友の力は恐ろしいものだな)

 

ふと思い出すはバートラム旧宇宙港での共闘。

ラスティがLC高機動型を相手している一方でレイヴンはHC執行機体の相手をしていた。

当然ながらそれらを駆るパイロットも手練れ。苦戦は避けられない。

手早く撃破して、戦友の助けに向かわなくては。その当時の彼が抱いていた感情はそれだった。

だが、それはLC高機動型の背後から迫るレイヴンの機体を見てその感情は一瞬で消え去った。

 

──システムに…報告を…──

 

そして次に聞こえたのが、喋るのもやっとな敵パイロットの声。

 

──コード78…脅威レベルE…──

 

何かを伝えようとしているが、今のラスティからすればどうでも良かった。

そんな事よりも戦闘が始まって数分も立たない内にレイヴンがHC機体を堕とした事が彼からすれば余りにも信じられなかった。

その当時、レイヴンの機体の左腕部に装備されていたのはベイラムが開発したパイルバンカー『PB-033M ASHMEAD』。

至近距離で炸薬の威力を乗せた鉄杭の刺突による物理的な一撃は非常に強力で、それをまともに受ければHC機体でも耐えられるものではない。

だが相手もそう易々と死に至る一撃を喰らうはずがない。にも関わらずレイヴンはそれを喰らわせた。

始まって僅かの間に、だ。まるで赤子の手をひねるかの様にやってのけたのだ。

恐怖にも値する力。死ぬ事も殺す事も厭わない理由なき強さの一端。

だがいつかそれは背景を背負った強さと化した。

だからこそアーキバスが改修したHC機体やV.Ⅰフロイトすらも退けた。

その強さはザイレムの空でレイヴンと戦ったラスティが良く知っている。

 

「戦友がやってのけたのだ…私に出来ない道理などない!」

 

スティールヘイズ・オルトゥスが突撃する。

先ほどまで回避に徹していた動きから攻めに入った動きに女の口角が吊り上がる。

 

『あはっ♪いーじゃん!盛り上がってきたねぇ!!』

 

向かってくるスティールヘイズ・オルトゥスに対して女もまた機体を突進させる。

パルスシールドを前面に展開、レーザーブレードの出力を最大にして展開。

迫り来るHC機体にスティールヘイズ・オルトゥスは止まらない。

そして両機の間合いが寸先となった時、HC機体のレーザーブレードが振り下ろされた。

恐ろしいまでの速さで襲い掛かる斬撃。だがラスティはそれに反応してみせる。

縦に振り下ろされた斬撃。だがそれはスティールヘイズ・オルトゥスが消えたと同時に空を切った。

 

『マジで?!』

 

「生憎と事実さ」

 

頭部のカメラを通して女の目に映った光景。

それは振り下ろした斬撃に対してスティールヘイズ・オルトゥスがその体を真横にして避けたという光景。

 

『やっば…!』

 

ここまで接近されてしまった。

その事実に気付くもパルスシールドの展開もレーザーブレードの再展開も間に合わない。

流石に不味いと感じた女はすかさず操縦桿を手前に引いて機体を離脱させようとするが、それよりも早くスティールヘイズ・オルトゥスのニードルガンがHC機体を捉える。

 

「外しはしない…!」

 

ニードルガンによる接射。

放たれた針状の弾丸がHC機体の頭部を突き刺さり、破壊に至らせる。

小規模な爆発と共にHC機体の頭部が吹き飛ぶ。

メインモニターの破損。その影響によりコクピット内が暗闇に包まれるも女は冷静にサブモニターを起動させた。

映りは悪いが、戦いに支障はない。

相手との距離を取るために女はHC機体を跳躍させ同時に背部のパルスキャノンを展開。

が、それすらも見越していたかのようにラスティはレーザースライサーを起動させた。

変形と同時に高速回転する発生機。発せられた四つの刃が襲い掛かるパルス弾を斬り払いながらHC機体にと迫る。

ダメージは抑えられているが無傷という訳ではなく、向かってくるパルス波の影響はACSに着実に負荷を与えていた。

だが止まらない。流石に不味いと思ったのか女の顔に焦りが生まれる。

 

『ヤバいヤバいって!』

 

ブースターを吹かそうとするも、時すでに遅し。

パルス波を斬り払ったレーザースライサーの強烈な薙ぎ払いがHC機体の左腕部に直撃。

腕の関節部を狙った一撃が左腕部を空へと舞い上げつつHC機体をも吹き飛ばし、ジャンクの山に叩きつけた。

叩きつけられた事により大きくコクピットを揺さぶられる女。コンソールパネルに頭をぶつけ、額からその血を流すが何故か笑みは浮かんだままであった。

コクピット内で響き渡るアラーム音。

警告音が知らせるそれはこれ以上は危険だと告げているかの様で。

パイロットたる女の離脱を促していた。

 

「ははっ…あははっ!」

 

だがそれすらも知った事ではないと言わんばかりに女は喜びに満ち溢れていた。

これがAC乗り。手練れの力。何よりそういう動きもあるという発見を知れた喜び。

このまま死んでしまっては面白みに欠ける。止まらない笑みを浮かべながら女は操縦桿を乱暴に握った。

 

「まだだって!まだ動くでしょ?!んなら動けって!!面白いのは此処からだって!!」

 

火花と黒煙を上げながらもHC機体を立ち上がらせる女。

そのまま操縦桿を前へと叩きつけるかのように押し込もうとして、得体の知れない感覚が女を襲った。

つい先ほどまで体に満ちていた高揚感を振り払う強烈な何か。

なんだこれは?と今まで感じたことの無い何かに疑問に思っていると気付かない内に女の体は震えていた。

誰がこれをと思い、女は周囲を見回す。そして気付く。

切り崩したジャンクの山の上に立つ一機のACの姿に。

灰色の染められた装甲。赤い隻眼がHC機体を見下ろして突っ立っている。

 

「…何なの…アレ…」

 

得体の知れないナニカ。

女はその灰色のAC…Re:LOADER4を一目見て、その自身を襲う正体に気付く。

 

(こいつはガチでヤバい……今もそうだし、仮に万全な状態でやり合った所で…!)

 

──確実に殺される…!──

 

悟ったのは己の死。自身が狩られる存在になったという事実に女は震える体を押さえ付けながら機体のブースターを吹かして跳躍させジャンクヤードから即座に離脱。

これから面白くなるとか、まだ戦えるとか言ったものはとっくに消え失せてしまっている。

アレとやり合うのは無理だ。死の恐怖を少し当てられたのか、体の震えは止まらずにいる。

 

「マジで何なの、アレ…。一体どんだけぶっ殺せばああなるのさ…?!」

 

灰色のACから発せられる濃密な死の気配。

つい先ほどまで戦っていたACもそれなりのものを感じさせていたが、アレは違う。

 

「…死そのものだって…あれは」

 

その機体色が指し示す様に。

あれは何もかも燃やし尽くして真っ黒に染めてしまう。そして灰だけしか残さない。

そんな存在が、グリフィンにいる。

 

「…あんなのがサイレントラインに来るっていうの…?」

 

凄まじいまでの悪寒が女を襲う。

人形だけならまだいい。だがアレは駄目だ。

アレだけはサイレントラインに来させてはならない。でなければ──

 

「冗談じゃないって…!」

 

死ぬのは自分達なのだ。




ラスティとの戦闘では戦いを楽しんでいた女でしたが、レイヴンの駆るRe:LOADER4を前にして撤退を選択。
そりゃ…何かもを代償に星一つ焼いたヤツなんだ。
その死の気配は機体越しでも感じるだろうさ。

そして女の口からサイレントラインの言葉が。
となると…この女の正体は少し分かってくるかと。まぁいずれ明かしますが。



















「逃がしたか」

「だが、十分な程にダメージを負わせることが出来た。暫くは出てこれんだろうさ」

「だと良いが。……ラスティ、少し良いか?」

「なんだろうか?」

「C兵器を倒した時、ジャンクのタワーを一つ崩してしまってな。その中から埋もれているACを一機見つけた」

「本当かい?私が知っている機体だろうか?」

「いや、ラスティは初めて見る機体だろうな。俺は何度か使った事があるが」

「となると戦友の機体か?」

「ああ。…知らぬ前に持っていた機体だ。ベイラムのMELANDER C3フレーム一式を使ったものだ」

「ほう。して、機体名は?」

「TENDERFOOT。…617に良い土産が出来た」
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