「ふーむ…装甲には問題なさそうだが」
ラスティと激闘を繰り広げたHC機体が撤退した後、自分達はまだこのジャンクヤードに残っていた。
普通であれば離脱して基地に戻っているのだが、HC機体の撃退とジャンクのタワーの中に埋もれていたベイラム製のMELANDER C3フレームを使ったAC『TENDERFOOT』の発見をフィオナに伝えたら、回収に向かうからその間に見つけたACの状態を調べてほしいと指示というを受けた。
元より617に渡す土産として考えていた為、断る理由などなくラスティに協力してもらいながらACの状態を調べていた。
「問題は内装だろうか。ブースターは使えそうだが」
「ジェネレーターが良くないな。この機体に積んでいるのMTのと大差ないヤツだぞ」
「まさか
「そのまさかだ」
まるでルビコンに訪れて間もない頃に乗っていたLOADER4みたいだ。
内装の殆どに旧式のものを使っていたからな。
「これを617に渡すのは如何なものかと思うな。内装は変えておくべきかと思うが」
「FCSもブースターもジェネレーターも第一世代や旧型のものばかりだからな。問題は…」
「武装だな。幸い一つ見つけたが…」
ラスティの台詞に答えつつコクピットから頭を出して機体を見つめる
何かしらの武装を装備しているかと思い込んでいたが、あろうことか武装は一切装備していなかった。
が、その代わりと言うべきかこの機体の傍に横たわる様に、とある武装を見つけた。
それが──
「WR-0555 ATTACHE…RaDの作品をここで見つけるとはな」
RaDが開発した重機関銃。
大容量マガジンに大口径の銃身、実に重機関銃らしい外見をしていると言えよう。
ただこの武装は、如何にもRaDの製品らしい『笑える』部分がある。
アタッシュケースの名を冠した武装はベイラムや大豊が開発したマシンガンの様に弾倉を交換するタイプではなく、銃身を交換するという特徴がある。
書類用鞄に見立てたケースには予備の銃身を収めており、銃身が使えなくなったら破棄し新しいものと交換するといった構造はRaDらしい作り方だ。
殺しの兵器にも笑える一面が必要という美学を貫く
──ビジターにしては、アンタは笑えるヤツだったよ──
そんな事を彼女は言っていたな…。
あの時は笑える奴だったかも知れないが、今はどうだろうか。
「…」
この場にはいない人物にそう問いかけたとしても、答えが返ってくる筈がない。
少しばかり寂しさを感じてしまう。
ウォルターの声、エアの声、カーラの声、チャティの声…。
彼ら、彼女らの声が無性に聴きたい。
621と、レイヴンと、ビジターと。
そう呼んでくれる大事な人たちの声が無性に聴きたくなる。
「…分かっているさ」
大事な人たちは此処にはいない。
ラスティの様に二度目の生を与えられ、この世界に居たとしても出会う可能性は低い…いや、ゼロに等しいと言っても過言ではない。
そう分かっているからこそ、その事を考えるのは止めよう、
「こいつがガトリングガンの代わりにはなると良いがな」
ハウンズが成し遂げた最後の仕事。
617の機体は大豊のガトリングガンを装備していた。
連射性能は向こうが上だが、それでも弾幕を張る程度の事は出来るだろう。
「取り敢えずACは動かせる。武装も一つだけだが回収しておこう。…今は回収班が来るまで待つしかないな」
「であれば、私と話をしようじゃないか戦友。君と話をするのを楽しみにしていたんだ」
「口ではそう言っているが…内容はあのHC機体とC兵器の事か?」
謎の誰かが乗るHC機体を戦闘を繰り広げ、その前にはC兵器ともやり合っている。
ここにある筈がない兵器が存在しているという事実。
話を楽しみにしていたとか言っているが、ラスティなりの気遣いだろう。
内容は楽しさなど欠片もないものなのだから。
「ああ、その通りだ」
その事を問えば、ラスティの表情を剣呑なものへと切り替わり頷いていた。
「君はどう思う?この状況を…いや、この現象を」
「…」
現象と表現するか。
確かにそう表現するのが正しいだろう。
「偶然と思う事が出来るだろう。私やヴォルタの様に一度死した存在が二度目の生を受けてこの世界に流れ着いたように、向こうの世界で生きていた筈の君がこちらに流れ着いてしまった様に。だがそれだけで片付けていいとは思えない」
「その根拠は?」
「君がこの世界に現れるよりも前、私とヴォルタのAC以外の兵器…言うなればルビコンにあった兵器の存在が確認される事はなかったからだ。だが今になって確認されるようになった。…戦友、私としてもこの様な事を言いたくはない。だが──」
「俺が来たから、ACやHC機体、C兵器などが発見されるようになった可能性があると言いたいのだろう?」
「…!」
その可能性は否定出来なかった。
寧ろ自分が火種、いや…『火』そのものになっているのではないかと思いつつもあった。
でなければこのような現象がそう何度も起きる筈もない。
「…無論、君が意図してやったとは思えない。世界を跨いで兵器を持ち込む術など、神様でない限りそのような事は出来ないからな」
「…ふっ、神様か。もしそいつがこの現象を起こしている主犯だとして、ルビコンにあったものをこんな世界に持ち込んで何がしたいのやらか」
神というのは人を救いたがる。そして救おうとして手を差し伸べるらしい。
だが、その度に人間の中から邪魔者が生まれるそうだ。秩序とやらを壊してしまう存在が。
そんな事をする奴が何度も現れるのだ。神だって困惑する。
人間というものは救われる事を望んでいないのかって。
何故救われる事を望まないのか。本当に望んでいたのか。
それでも神は救おうとするらしい。だから人間を救う為の障害となる邪魔者を見つけて殺そうするのだと。
そんな話を名も知らない女性から聞いた事がある。青色が良く似合う…そんな女性だった。
「偶然であれ、神の仕業であれ…やるべきことは変わらん。どちらにせよ破壊するに越したことはない」
「…戦友」
「その罪は背負っていくさ。全て燃やした事が原因なら、尚の事な…」
これは自分が犯した罪。
であれば、その罪を誰かに背負わせる事やその片棒を担がせる訳には行かない。
レイヴンの火を起こした大罪人として背負っていかなければならない罪なのだから。
「そろそろ迎えが来る筈だ。手早く運搬できるように準備しておいてやろうじゃないか。きっと向こうも喜ぶ」
そう言えばどんな機体なのか気になるとかで617と621もこっちに来るらしい。
一応動くから戻る際は617の操縦の勘を取り戻すついでに機体の試運転を行うとしよう。
「帰り道は617の補佐だ。ラスティ、家に着くのは少し掛かると思ってくれ」
「ああ、了解した」
先ほどまで頭上にあった灰色に染まっていた雲が遠くに流れていくのに気づく。
雲と雲の間から見える青空。それを背景に一機のヘリが向かってくるのが確認できた。
十分な広さにある所でヘリがジャンクヤードに着陸すると、機内から人形と職員に加えて617と621が下りてくる。
そして617がこちらに気付くと──
「無事で良かった…!」
迷うことなく此方へと駆け寄って腰に抱き着いて来た。
戦闘があった事は事前に伝えたが、どうやらそれが617を不安にさせてしまったらしい。
「…心配したわ」
「済まない。不安にさせたな」
「…暫く甘えさせて」
「…分かった」
ウォルターと居た時もこんな感じだったのだろうか。
俺はウォルターではない。だからこそ彼の様に振舞えない。
せめて出来る事と言えば、彼女の頭を優しく撫でてやるぐらいしか出来なかった。
「621も心配をかけて済まない」
「心配したんですからね?」
617の傍に立っていた621にそう言えば、彼女もまた此方を心配していてくれたらしい。
「あ、それとですが今後は621ではなく、ワタリと呼んで下さいね?」
「いきなりどうした」
「あー…いや、621が二人も居たら617が困惑するかと思いましてね。折角ですし名でも考えた次第です」
「それがワタリだと?」
そう言えば、レイヴンという名は日本という国だとワタリガラスという鳥の事を指すそうだ。
成る程。自分が普段レイヴンだと名乗っているから、その名を調べて名付けたのだろう。
「ええ。私にとってその番号は製造番号に過ぎませんし…鉄血ではないと示すのでは丁度良いかと」
「そうか…。であれば、そう名乗ると良い」
「はい。次からはワタリと呼んで下さいね」
鉄血ではない事を示す為に、自らその名を考える。
これもまたワタリが考える自由と言うのだろうか。
ともあれ、名を持つことはそう悪い事ではないことではないのだろう。
この後、617をTENDERFOOTに搭乗させて基地に帰還。
動きは悪いものではなく、今から戦場に出ても通用するだろう。
ただ動きが良いだけで内装周りの劣化具合と武装の少なさもあって戦場に出すのは非常に危険と言える。
サイレントライン攻略作戦も間近に迫りつつある中、617の為に内装パーツと武装を揃える事とこの作戦に参加、協力してくれる人員確保が急務になりつつあるのは避けようの無い事実であった。
621ちゃん、自らワタリと名乗る事に。
よって621の名は
また617の機体がベイラムのMELANDER C3フレーム一式を用いたものとなりました。
仮名としてTENDERFOOTの名はそのままに。変更するつもりですが…現状良い名前が思いつかない模様。
さて次回はどうしたもんかなぁ…ではではノシ
「どういう事ですか!?何故我々だけサイレントライン攻略作戦の参加が認められないのです!?」
『貴官が独自に得たサイレントラインの情報は此方にとって有り難いものだ。現に得た情報を元に攻略作戦の構築している。ただな…』
「ただ、何です?」
『上層部の阿保共がこの情報を聞きつけたらしくてな。サイレントライン攻略作戦は自分たちが主導で行うと言い張って来た。加えてこの情報を齎した貴官を本作戦に加えるなと指示している』
「っ…!それでこの作戦ですか!?まだ実戦経験の少ない指揮官ら及びその部隊を前線に放り込んで自分たちは高みの見物というのが上の考えだと!?その程度で制圧出来る程、サイレントラインは簡単ではない事ぐらい分かるでしょう?!」
『…』
「何より人命軽視も甚だしい!!そうまでして戦果欲しいというのですか!!それを貴女も社長も容認したというのですか!!どうなんですか、ヘリアントス上級代行官!!」
『こんな無謀な作戦を私や社長が認める筈がないだろうッ!!!!』
「…ッ!? では何故!?」
『…上層の一部がグリフィンに資金援助を行ってくれている富裕層なのだ。今回作戦に参加しているのはその富豪生まれの親族や血縁者なのだ。その戦果を見せつけてやりたいのが本心だ』
「戦場は授業参観の場だと…?そんなもので…ッ!!」
『私とて上の考えに憤りを覚えている。フィオナ指揮官、お前の怒りも最もだ。だが…!』
「…分かりました」
『…フィオナ指揮官?』
「上がそう考えているのであれば、此方にも考えがあります。上の考えが変わらぬ限り、現在協力関係にある独立傭兵への協力申請を指揮官たる私が一切認めない事をここに表明します」
『…ッ!!』
「作戦にはACを当てにしているのでしょう。ですが彼らは独立傭兵。金次第で我々の味方になれば敵にもなるでしょう。ここまでふざけた事をやらかすのです、幾ら独立傭兵と言えどそう簡単に協力してくれる事は無いでしょう」
『フィオナ指揮官!それを本気で言っているのか!!』
「上が本気であれば、こちらもそれ相応の対応を取ります!!上とは別の方法で私はサイレントライン攻略作戦を展開させて頂きます!!…以上、通信をこれにて終了とさせて頂きます!!!」