人形ノ詩 鴉ノ詩   作:白黒モンブラン

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──sneaking mission──


chapter 00-35

これで何度目の夜間飛行になるだろうか。

高速で流れている星空、流れていく木々。

まるで世界を自分で回している様な、そんな感覚に見舞われる景色。

アサルトブーストによる高速移動している際に見える景色。ACに乗っているだけしか味わえない楽しみ。

青空の下も悪くないが、星空の下で見える景色もまた悪いものではない。

 

『ビジター、そろそろサイレントライン近郊に近づく。対空レーダーに引っかかる前に降下し地表での移動を行ってくれ』

 

「分かった」

 

フィオナから頼まれ、その護衛をチャティからの依頼を受け、サイレントライン近郊を目指して機体を飛ばしていた。

その理由はサイレントラインの現地点で確認できる戦力を再度確認する為。

フィオナはワタリから提供された情報が偽造データだと疑っている訳じゃない。ただ彼女がサイレントラインの情報を得た後に、追加の戦力補充されている可能性が大いにあると見ているらしい。

ジャンクヤードでラスティと戦闘となり、こちらを見るや否や逃げる様に撤退したHC機体の件もあったのだ。

グリフィンが持つ装備では対処できない兵器の存在するという懸念を抱くのは当然と言える。

 

「ほえ~…実際に操縦しているACってこんな感じなんですねぇ。何というか機体の反応速度が速いような…」

 

そして今回の隠密作戦にはワタリも同行する事となっており、一緒にコクピットに乗り込んでいる。

愛用している大太刀も持ってきている為、コクピット内は更に狭いが仕方ない。

サイレントラインに忍び込む際は彼女の手が必要になるのだから。

 

「強化人間だからな。神経接続による直感で機体は動く。とは言え、それだけでこれだけのは出せん。神経接続による操縦と操縦桿による操縦の同時並行で、これだけの反応速度が出せる」

 

とは言っても第四世代の強化人間だった時は体が不自由だったのもあって最初の内は神経接続での操縦が多く、戦いの後半でも多少体を動かせるようになっても神経接続を多用していた。

今の状態に持っていけたのは再手術を受けて、素性を隠しながらも独立傭兵をやっていた辺りからだ。

 

「それよりも良いのか?古巣に潜るんだぞ」

 

ワタリが今回同行しているのは、端末に自身のデータを移したチャティと共にサイレントラインに潜り込んでもらう為であり、彼女はチャティが情報の抜き取りをしている際の護衛だ。

どうやらサイレントラインの構造は頭に入れているらしく、その案内も含めている。

てっきり自分とチャティで行うばかりと思っていたが…俺は送迎役という事らしい。

 

「別に思う事なんてありませんからねぇ。貴方と初めて会った時も刺客を差し向けてきた訳ですし。それに…」

 

「それに?」

 

「フィオナ指揮官がやろうとしている事を純粋に応援したいのですよ。…組織と言うのは上の存在があって、例えそれが間違いだとしても下は従わなくてはならないのは普通です。しかし、フィオナ指揮官は従わなかった。間違いと言える事を間違いだと反論し、独自行動を選んだ…組織に生きる人間であれば、珍しいタイプだと思いません?」

 

「確かにな…」

 

珍しいと言えば、珍しいのだろう。

理由が何であれ、組織にいる以上は指示に従わなくてはならない。例えそれが理不尽なものだとしてもだ。

従えないのであれば、組織からつまみ出される。

それが現実。変えようの無い事実となる。

そう思うとフィオナ指揮官はサイレントライン攻略を終えたら、どうするつもりだ?

上層部の連中が黙っているとは思わんが。

 

『ビジター、そしてワタリ。サイレントラインの近くまで来た。機体を止めてくれ』

 

「分かった」

 

踏んでいたフットペダルから足を下ろし、股関節に位置する場所に内蔵したバックブースターを僅かに点火させて機体をゆっくりと停止させた後に片膝をつかせる。

つい先ほどまで見える星空は何処へ消えたのか。気付けば空は暗く染まっており、雪が降っていた。

機体を囲む木々のその先。そこにサイレントラインと思われる大規模補給拠点の姿があった。

廃れた居住区画。背後に並び立つ巨大な城壁。至る所に建造された砲台。

その姿は何処となく、解放戦線の"壁"を彷彿とさせる。

 

『ビジター、俺とワタリはサイレントラインに忍び込む。出来る限り隠密で行動するが、もしもの場合はそこから援護して欲しい』

 

「通信は?」

 

『こっちが情報を抜き終えて合流するまでは通信も極力行わない方が良いだろう。盗聴の恐れもある』

 

「了解した。…フィオナから聞いていると思うが、サイレントラインに忍び込むのは一時間までだ。それを超えてしまいそうになる様であれば、途中で切り上げろ」

 

『了解した。遅刻しないように気を付けよう。…コクピットを開いてくれ』

 

コクピットハッチを開く。

そこから入り込んでくる冷気を感じながら、ワタリが傍に立てかけていた大太刀を腰に携え、チャティというAIを収めた端末を片手に外へと飛び出す。

 

「それでは、レイヴン。行ってきますね」

 

「ああ。無茶はするなよ」

 

「ええ、分かっていますとも。では、また後で」

 

少女らしいウインクを此方に飛ばすとワタリはそのままサイレントラインへと向かっていった。

暫くはここで待機する事になる。ACを待機モードへと移行させて、この10分間を待つとしよう。

 

 

 

 

レイヴンの機体『Re:LOADER4』から降り立ち、鬱蒼と広がる木々を抜けた先に存在する補給拠点を私は遠くから見つめていた。

雪が降っているに加えて、風までも吹き始めている。

此処ら一帯は吹雪に見舞われている様な状態で視界が悪い。そんな中で静かに存在する補給拠点『サイレントライン』は異様な雰囲気を醸し出していた。

まるで入ってくるなと言わんばかりで。ここは犯してはならない領域だと体現しているかのようだった。

が、そんな事は此方からすれば知った事ではない。

フィオナが今回の為に貸してくれた戦術人形用の熱光学迷彩マントを羽織り、起動させる。

少々重いが、移動に支障をきたす程ではないので問題にはならない。

 

「それではチャティ、行きましょうか」

 

『了解した』

 

レイヴンがいた世界で存在していたAIであり、此方の世界に来てしまったAI、チャティ・スティックがそう答えると私は吹雪の中を走り出す。

時間は一時間と限られている。その間にどれだけ情報を持ち帰る事が出来たかによってフィオナが独自に展開しようとしている作戦の成否に大きく関わってくる。

 

「…」

 

着実に近づいていく古巣。今や敵の拠点。

あそこには大した思いではない。だから離反した。

自由が欲しくて、縛られるのが嫌だったから。

だから、あの()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

あんな連中に仕えるだけの首輪付きになるより、レイヴンと共に居る方が断然マシだ。

 

「…居住区画に侵入するにはこの橋を渡らないとならないようですね。周囲は防壁…それ以外の侵入経路は無し。ACなら別方向から侵入は可能かと。何より前に確認した時にはなかった筈の砲台や狙撃兵が配備されている。ACの存在に気付いて戦力を強化したのでしょうか…」

 

『視界共有開始……同期確認。…橋の中央に防盾を装備したガトリング砲装備の移動砲台。防壁にはスナイパーキャノンに、狙撃型と思われる戦術人形を複数配置している様だな』

 

「…チャティ。この戦力を前にして正面から突撃した場合、グリフィンの人形部隊はどうなると思います?」

 

『間違いなく壊滅するだろう。生存率も限りなく低いと見ていい』

 

「でしょうね。…このまま居住区画へと侵入します」

 

熱光学が機能している間は恐らく砲台にも、人形にも気付かれる事はない筈だ。

確証はない。だがそれを信じて、私は居住区画に繋がるたった一本の橋の真ん中を駆け出す。

どうか反応してくれるな。そんな思いを胸に橋の半分を通り過ぎる。

ふと防壁の上に立っていた狙撃兵(イェーガー)の姿が映る。何かに気付いたようなにも見える。

だが攻撃はしてはならない。下手に攻撃して、サイレントラインの警戒レベルを引き上げられるような事をされてしまえば、情報やデータを抜き取る事すらできなくなる。

橋の終わりまで近づく。それでも尚、狙撃兵はその場を離れる様子はない。

 

「…ッ」

 

気付かれているかも知れない。

そんな予感がして、大太刀の柄に手を伸ばそうとした時、ただの巡回だったのか狙撃兵は踵を返してその場から去っていった。

…気付かれずに済んだとは言え、良い気分ではない。

とは言え、暫くはこんな状況が度々発生するのだろう。

隠密作戦を主にしている者達は常にこんな緊張感を抱いていると言うのか…立派なものだ。

 

「ダンボールでも用意した方が良かったですかねぇ…」

 

軽口を叩きながら、橋を通り過ぎ居住区画らしき場所へと足を踏み入れる。

らしき場所と表現した理由は、最早人が住む事が到底叶わない位に廃れていたからだ。

が、鉄血の人形部隊が姿を隠すには十分と言えるだろう。

 

『ワタリ、何処か高い所を目指して欲しい。この居住区画の全貌を知りたい』

 

「了解です」

 

チャティにそう言われ、周囲を見渡す。

直ぐ近くに辺り一帯見渡せる建物があった為、自慢の脚力で一気に屋上まで飛び上がる。

此処でなら全体が分かる。案の定というべきか、この吹雪の中を変わらぬ表情で巡回しているリッパ―とヴェスピドの混成部隊がこれでもかと言えるくらいに配備されている。

加えてマンティコアも数十機配備されており、これらに関してはフィオナに提供した際の情報通りだ。

だが、そこに混じるかのように初めて見る兵器の姿もあった。

 

「あれは…AC?にしては随分と小さいような」

 

ACの半分程度のサイズだろうか。

両手にはマシンガンの様なものを握っており、動きはACと比べると遅い。

あれは一体…?

 

「それに…あの四脚タイプ。マンティコアとは違うタイプでしょうか?随分と大型ですが…」

 

小さな機体の傍に立つ大型の四脚タイプ。

右手に持っているのは何なのかは分からないが、左手には水平二連装ショットガンを模ったもの、頭頂部には折り畳み式と思われるキャノン砲を装備している。

鉄血の新しい兵器かと思うも…何か違う。そんな気がしてならない。

 

『…成る程、ビジターとフィオナ・A・レイナドが懸念した通りになったな』

 

「チャティ?」

 

『詳しい事は後で話すが、これだけは言っておこう。…このサイレントラインには俺やビジターがいた世界に存在していた兵器が配備されている』

 

「は…?」

 

チャティが告げたセリフに、思わずそんな声を上げてしまう。

レイヴンやチャティが居た世界に存在していた兵器。

この世界には本来存在していないものであり、そしてレイヴンらが居た世界には存在していた兵器がこの世界に流れ着き、鉄血の戦力として扱われている。

 

「じゃあ…つまり…」

 

グリフィンが保有する戦力では太刀打ちできない程に、このサイレントラインの戦力は強化されているという事であった…。




さぁて…サイレントライン、どうやら戦力が増強してるみたいですねぇ…

次回もワタリ&チャティです。ではではノシ
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