真っ黒な空に彩りを取り戻すかのように陽が昇り始める。
草木は眠り、風一つ吹く事の無い静けさが漂う。
誰しもが寝静まっているそんな時間、そこに遠くから響く音が一つ。
やがて次第に大きくなり、そして複数になっていく。
空と地が陽の光に照らされた時、それらは自らを露わにするかのように姿を見せた。
地上を駆ける無限軌道の音は轟音の様で、回転するローター音とジェットの音もまた幾つにも重なって合唱の様に重なり合う。
夜明けの行軍。陸空の大部隊が向かう先は鉄血の超重要補給拠点『サイレントライン』。
一度きりの作戦。失敗は許されない。
死ぬかもしれない危険な作戦を完遂すべく、S09地区前線基地 第9支部と私設武装組織『フェンリル』の部隊は
『指揮官機から全戦術人形及び全隊員へ。通信は聞こえている?』
『第一部隊、グローザ。通信感度良好。フェンリル、そちらはどうか』
フィオナから部隊を代表してグローザへ、そして彼女からセラフと呼ばれる兵器に搭乗し上空を飛行するヒロへと確認が取られる。
『こちらフェンリル。全隊員及び全戦術人形、通信感度良好。…フィオナ指揮官、どうぞ』
S09地区前線基地 第9支部と私設武装組織『フェンリル』の間での通信は良好。
フェンリルのリーダーであるヒロと呼ばれる人物から会話の主導権を渡されたフィオナは揺れる機内の中で口を開いた。
『これよりS09地区前線基地 第9支部及び私設武装組織フェンリルによる混成部隊でのサイレントラインの制圧を開始します。目標は事前のブリーフィングで話した通り、サイレントラインの攻略。そして上層部の暴走によって前線へと送り込まれてしまった友軍部隊の救出です』
迫り来る戦場。その中で成さなくてはならない事の難しさ。
だが誰一人とて逃げ出す事はない。その顔つきは兵士そのもの。
『敵の戦力もブリーフィングで話した通り、多数の砲台に加え二脚、四脚と言った兵器を多数投入しております。その火力は当然の事、航空戦力の迎撃の為に対空砲火を展開される可能性は大いにあります。航空部隊の皆さんは敵対空砲火にも注意して敵の殲滅をお願いします』
『部隊の流れは把握している。それで…此方はどう動くべきだろうか、フィオナ指揮官』
『戦況は目まぐるしく変化すると予想しています。その為、ヒロさんは機体の機動力と火力を活かした遊撃を行って下さい』
『了解した。それよりも…貴官が言っていた"雇われ"というのはどちらに?』
"雇われ"。
ヒロが口にした台詞はフェンリルの全員が感じていた疑問であった。
事前のブリーフィング…その際にフィオナは個人的に雇った傭兵部隊がいると説明している。
それも普通の傭兵などではない。特殊な兵器を運用する傭兵達であり、このサイレントライン攻略作戦に参加する事になっている。
だが、特殊兵器を操るという傭兵達はこの場には表れていない。
『…もう来ます』
訝しげに問うヒロに対しフィオナは変わらぬ様子で答えた。
それと同時に地上と上空にそれは現れ、フェンリルの戦術人形がそれに気づく。
『な、なに、あれ…?戦車…?』
人間の上半身を模った体。
そしてその脚はこの世界にある戦車よりも遥かに大きく、その外観は競技用車椅子を思わせる。
装甲内にブースターを内蔵しているのか履帯とブースターによる推進力による移動はその見た目にそぐわず速い。
もう一方で、モスグリーン色で彩られた機体もまた同じくタンク脚。
だが、その見た目で分かる通り、重装甲、高火力なのが伺える。
『地上に二機、上空には三機…これがフィオナ指揮官が言っていた…?』
セラフのコクピット内でヒロは、自機の周りを飛行する三機の人型兵器へと視線を向ける。
それぞれ形状が異なっており、ブースターから噴き出す炎も一機だけ違う。
何より巨大兵器を操る傭兵とやらが存在し、そして密かに活動していたという情報を知り得なかったという事実。
そんな傭兵らがグリフィンという民間軍事会社、いや…一人の指揮官に雇われているという事にフェンリルの面々は驚きを隠せない。
『君がフェンリルのヒロか』
セラフの横に寄りつつ並行飛行する一機のACの
一つ目の機体や灰色の機体とは違う雰囲気を醸し出しており、コアの一部に施された狼のエンブレムが目を引く。
『作戦に参加に感謝する。コールサインはV.Ⅳ。そして…』
『コールサイン、ハウンド。よろしく、ヒロさん。最後に…』
ハウンドに促されて、セラフの前方を飛行する灰色のACのパイロットが口を開く。
『コールサイン、G13。よろしく頼む』
それだけを伝えるとG13…もといレイヴンは機体を静かにある方向へと傾ける。
どうしたのかと首を傾げるヒロであったが、彼に与えられた仕事を知っているハウンド…617が通信を繋ぎ、一言声をかける。
『また後でね、G13』
『…ああ』
僅かなやり取りを終えて、Re:LOADER4がサイレントラインとは別の方向へと飛び去っていく。
ブースターから一層激しく噴き出す青い炎。流れる気流が装甲を撫でる中、灰色のACは瞬く間に遠くへと消える。
『彼は一体…?』
『サイレントラインの後方から襲撃を仕掛けるの。後方を片付けたら城塞内部に侵入する手筈になってるわ』
『単機で行うつもりなのか…!?』
サイレントラインに存在する戦力は相当規模と言っても過言ではない。
一つの区画の戦力を相手にするだけでも大部隊で相手しなくてはならない。
それを単機でやろうとするのだから、ヒロが驚きの声を上げるのも無理もない。
『彼なら心配はいらない。そこは保証しよう』
『そうね。こっちはこっちの仕事をするだけ』
スティールヘイズ・オルトゥスとTENDERFOOTのブースターからオレンジ色の炎が激しく吹き出し、二機はそれぞれの位置へと向かう。
飛び去っていく二機を見届けるヒロ。地上でもタンク型AC…サーカスのパイロット『コールサイン RaD』とキャノンヘッドのパイロット『コールサイン G4』との挨拶を済ませている所であった。
これだけの戦力を有していたとしても不安は消えない。だがやるしかない。
本来の目的を成し、上層部の暴走を止め、命を守り、大事な友人を救う。
それが出来るのは他の誰でもない。今ここにいる自分達だけ。
『フィオナ指揮官!サイレントライン近郊に今入った!作戦領域到達予定時刻は三分後!』
『了解です、ナイトホロウ。…皆、聞こえたわね?』
返答はない。
だが、フィオナはそれが返答であると理解している。
指揮官が自ら前線に出るという前代未聞の行動。この直後に死ぬかも知れないという恐怖と背中合わせをしているにも関わらず、フィオナの表情には一切怯えがない。
『敵は大多数、こっちも戦力を揃えているけど向こうが圧倒的に上。それでも私たちは進まないといけない』
強大な敵を前にしても自分たちは進まなくてはならない。
言われなくても、全員その覚悟で来ている。
『相手が泣いて詫びる程の損害を与える!向こうが泣きを入れたらもう一発よ!』
フィオナらしくない台詞が出てくる。
何処か聞いた事のある様な台詞にG4ヴォルタは揺れるコクピット内でニヤリと笑った。
「ハッ!何処でミシガンの野郎の台詞を聞いたんだか…だけど、良いぜ。そうこうねぇとなぁ!」
『行くわよ、命知らず達!愉快な遠足を始めるわ!』
作戦領域に入る。
撃鉄は起こされ、その目は戦う者の目となり、戦場が彼ら、彼女らを盛大に歓迎する。
犯してはならない領域に血と硝煙、銃弾と思惑が今交差し始める。
遅くなって申し訳ありません!仕事で色々遅くなってしまいました。
という訳で今回からコラボ編、サイレントライン攻略作戦でございます。
一話目なので、軽くいかせてもらいます。
天羽々矢様作『Doll's FrontLine -Armored Outsiders-』にて私設武装組織『フェンリル』との共闘でございます。https://syosetu.org/novel/314044/
一応ここらでAC乗りのコールサイン及び搭乗機体名を記載しておきます。
搭乗機体 Re:LOADER4
ラスティ コールサイン:V.Ⅳ
搭乗機体 スティールヘイズ・オルトゥス
617 コールサイン:ハウンド
搭乗機体 TENDERFOOT
ヴォルタ コールサイン:G4
搭乗機体 キャノンヘッド
チャティ・スティック コールサイン:RaD
搭乗機体 サーカス
さぁ、愉快な遠足の始まりだ!
「まさかとは思っていたが…それは通らんというもの。グリフィンの上層部は何故それが分からないものか」
「…だが、此方が出張った所で意味はない。さて、どうしたものか…む?」
「あれは……ACか!?それにあのAC、ヴォルタか!?」
「あいつの真似事をしながら青少年育成所をしながら過ごしていた訳だが……妙な事もあるものだな」
「……ミシガン、如何やらレッドガンはこっちでも生きているらしい」
「…どれ、今の俺が何処まで役に立つか…試さんとな」