「ハウンド、作戦領域に侵入。行動を開始するわ」
ベイラム製のMELANDER C3フレームをベースにした機体『TENDERFOOT』が彼女の声と共に飛び出し雪原を駆け抜けると居住区画の右翼から突撃した。
状況からしてグリフィンの部隊とフェンリルの戦術人形部隊は居住区画の中枢までは進行できていない。
一部はどうにか出来ているものの敵の攻撃が激しいのか足止めを喰らっている状態だった。
『V.Ⅳ、作戦領域に侵入した。ハウンド、そちらは味方の援護に回ってくれ。砲台は此方が受け持つ』
「了解。城塞前、正面入り口には四脚MTが一機陣取ってるわ。気を付けて」
『了解した。…さて、少しばかり八つ当たりさせてもらうとしよう…!』
遠くから爆発が上がる。
それに気づいた
出会ってから日は浅いがその人となりを知っているからか、V.Ⅳらしくないと思いつつもハウンドはフッと笑い機体を居住区画へと進める。
『不味いですね…よりにもよってこいつと鉢合わすとは』
飛び込んできた通信。
その声の主がフェンリルのヴァルキリー小隊の一人、シオンだと判断したハウンドは機体をその方向の元へと旋回、アサルトブーストを起動させて突撃。
自身のいる位置からヴァルキリー小隊との距離はそう長くない。ブースターから噴き出すオレンジ色の炎が激しさが増す中、ハウンドはヴァルキリー小隊の進軍を阻む重四脚MTを見つける。
「ハウンドからヴァルキリーへ、援護に入る。此方の攻撃に巻き込まれない様に気を付けて」
『!…了解!』
建物の屋上を足場にしてアサルトブースト解除と同時に跳躍するTENDERFOOT。
ブースターからオレンジ色の炎を吹かしながら、真下に居る重四脚MTへと向かって『WR-0555 ATTACHE』と『SG-026 HALDEMAN』を構える。
重四脚MTのタイプはマシンガン装備しただけの機体。だが脅威である事に変わりない。
ロックオンサイトが相手を捉えた瞬間、重力に体が引かれるのをその身で感じながら617はトリガーを引いた。
一発一発が重めの弾丸が次々と吐き出され、そこに交える様に左腕のショットガンから散弾が飛び出す。
豪雨の様な弾幕。降り注ぐ弾丸の雨に重四脚MTに襲い掛かるが、この時に617は散弾が相手の装甲に弾かれている事に気付いた。
「!」
ダメ押しに一発発射した後、即座に『SG-026 HALDEMAN』をウェポンハンガーに懸架した『DF-MG-02 CHANG-CHEN』と入れ替えて連射。
降り注ぐ弾丸の雨はより一層激しさを増し、遅れて空薬莢が落ちていく。
上からの攻撃に気付いた無人重四脚MTが急降下してくるTENDERFOOTにへと向けてマシンガンを連射。
互いの距離が縮り、互いに放つ弾丸が装甲を直撃し、それにつれて互いのACSに負荷が蓄積していく。
このまま真正面から撃ち合えばACS負荷限界が発生する。
だが617の表情には焦りはない。両腕に装備したマシンガンを連射し続けながら、右肩部に装備した小型四連装ミサイル『BML-G1/P20MLT-04』を展開。
軽量機向けの小型モデル。大火力を誇るという訳ではないが、ACS負荷を蓄積させる分だけの火力はある。
弾丸の中をすり抜けていく様に四発のミサイルが重四脚MTへと突撃、着弾。
同時にACSが負荷限界値が最大となり重四脚MTの動きが止まった。
四肢から青白い火花が飛び散り、無防備な状態が晒される。
そしてそんな所を見逃す程、617という名の猟犬は甘くはない。
「…」
TENDERFOOTが地面に着地した瞬間の振動がコクピットに伝わる。
軽く揺さぶられる。だがこの程度の振動など彼女にとっては慣れ親しんだもの。
冷たい目が標的を捉え、操縦桿を押し込み、フットペダルを踏む。
コアの背面装甲が展開。ブースターに灯る炎。集まり出す光。
そして次の瞬間、生み出されたエネルギーと共に炎が噴き出し、TENDERFOOTが飛翔した。
弾はまだある。トリガーを引き、再び二丁とミサイルによる連射を開始する617。
アサルトブーストによる突撃。その突撃状態から放たれる弾丸とミサイル。
ACS負荷限界状態に陥っている重四脚MTを襲う攻撃。
直撃する度に装甲がめげ、そして抉れ、ミサイルによって黒く焦げる。
だがまだ生きている。ACS負荷限界から立ち直る重四脚MT。
装備されたマシンガンが突進してくるTENDERFOOTへと向けようとした瞬間、突如として右腕の関節部からスパークを引き起こし、関節部から先の動きが鈍くなった。
それには617も気付き、何事か思った時、ビルの屋上から巨大なライフルを構えた戦術人形を見つける。
桃色の髪にジャケット。何処か儚げな表情。その人形に617は見覚えがあった。
『ハウンド、今です』
「ありがとう、M82A1」
礼を伝えて、機体の推進力を一気に引き上げる617。
相手の攻撃手段は失われている。
しかしその堅牢な装甲を活かした突進攻撃を行ってくる可能性も否定できない。
正面からか、或いは背後からか。ほんの僅かの間、思案する617。
「正面から叩く…!」
選択は済ませた。後は覚悟のみ。
『DF-MG-02 CHANG-CHEN』をウェポンハンガーに懸架した『SG-026 HALDEMAN』と入れ替え、装備。
散弾は既に装填されている。後は─接近するだけ。
「…ッ!」
アサルトブーストを解除。そして慣性に従う様にTENDERFOOTの左足が重四脚MTの胴体を蹴る。
装甲が弾き飛ぶ。だがACS負荷限界から復活している為、敵は後退るだけ。
素朴なカメラアイがTENDERFOOTを捉え、発光する。
まるで今からやり返してやると言わんばかりに。
だが、猟犬はそれを許さない。
TENDERFOOTの目が赤く発行。左腕に持った『SG-026 HALDEMAN』を突き立てる様にして構えた瞬間、重四脚MTの目に向かって無理やり銃身を刺し込んだ。
「終わりよ」
引き金にかかった指が引かれ、銃口から吐き出された散弾が重四脚MTのカメラアイを内側から破壊。
部品が吹き飛び、オイルが血のように銃身に滴り、そして返り血の様にTENDERFOOTの装甲に付着する。
『ヴァルキリーからハウンドへ、援護感謝します』
「問題ないわ。進軍する際は気を付けて、さっきのはまだいる。二脚タイプも居るから」
『了解』
居住区画を駆け抜けていくヴァルキリー小隊。
すると遠くから光の爆発らしきものが起きた事に617は気づく。
「あれはアサルトアーマーかしら?…何故こっちの技術をセラフが?」
疑問に思うも、考えていても意味はない。
機体を旋回させて、次の目標へと飛び立とうとした時、突然として617の頭に頭痛が走った。
「ッ…」
悶えるほどの痛みではないが、ちくりとした痛み。
戦闘に支障をきたす程のものではないが、このタイミングで何故と思いながらも機体を動かす。
その時、それは聞こえた。
──レイヴン…──
「声…?」
綺麗な声。初めて聞いた声にそんな印象を抱く617。
ただその声が口にした名に眉を顰める。
「どうして、彼の名を…?」
──あなたも来ているのですか?レイヴン…──
このサイレントラインに来ているのかと、彼へと問いかける綺麗な声。
そこで617はそっと微笑みながら、納得したように頷く。
「そう…貴女がエアなのね」
この声の主が基地にいたであろう特殊な人形『エア』であろうという事は判断出来る。
そればかりはフィオナから聞いていた617。
そしてそのエアが、自分達がいた世界に居た事をレイヴンから617は聞いていた。
「安心して…。彼は来ているわ」
この声が届くとは限らない。
それでも、彼女の声は心配なそうであった事を617は感じていた。
だから答えた。届かないと分かっていても。
「行きましょ…TENDERFOOT。仕事の時間よ」
操縦桿を押し込み、彼女は機体と共に駆け抜ける。
彼の友人を救うために。猟犬は戦場を駆け抜けていく。
今回は617視点です。
あのトレーラーでも、満身創痍になりながらも戦った617ちゃん。
ウォルターの猟犬は、世界が代わろうとも健在です。
では次回ノシ