人形ノ詩 鴉ノ詩   作:白黒モンブラン

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──その翼でもう一度──


chapter 00-04

 

「621。そう呼べばいいのか」

 

「ええ。名乗れる名などこれしかありませんので」

 

妙な巡り合わせもあったものだ。

ウォルターが聞いていたら、どんな反応するだろうかとつい想像してしまうが頭の隅に追いやる。

それよりも聞かなくてはならない事があったからだ。

 

「鉄血工造……ここに転がっているアンドロイドやMTモドキは、その鉄血工造で製造されたものか?」

 

「MTが何かは知りませんが…ええ、ここに転がる残骸は鉄血工造で製造されたものです。それとアンドロイドではなく、戦術人形ですよ」

 

アンドロイドではなく、戦術人形。

それは理解できるが…MTを知らないのは何故だ。

地球ではMTが用いられていないのか?

 

「鉄血工造ではMTを使っていないのか?」

 

「そもそもMTとは?初めて聞いたのですが」

 

「…何?」

 

まるで初めて聞いたと言わんばかりの反応だ。

何やら妙な事になってきた。

ルビコンに居た筈が地球にいるという時点で最早言葉では説明できない事が起きている。

流石MTの存在は知っているであろうと思えば、目の前に立つ戦術人形は知らないと来た。

こう食い違いが起きているのは何故だ。

 

「いや…まさか、な」

 

ルビコンから地球への謎の転移。認識の食い違い。

まるでそのものが違う様な感覚。

俄かに信じられないが…確かめてみる必要がある。

 

「幾らか質問を…」

 

そう言いかけた所で戦術人形の女は手を上げて此方を制してきた。

……成る程。悠長に質問をしている状況ではなくなったそうだ。

基地に併設された格納庫から聞こえてくる地鳴り。

中にあるものをなぎ倒す音を響かせながら、それは下ろされた隔壁を突き破って現れた。

あの四脚MTモドキとは比べ物にならない程のガタイを誇る大型機動兵器。

タンク足にブースター…加えて大型連装砲と連装ロケットランチャー。

まるであのジャガーノートを小型化したような兵器だ。

例えるならBAWS製の重四脚MTと同じ位のサイズか。対人はもちろん、防衛用としての役目も兼ね備えているのだろう。

 

「自由を選択した程度で、この様なものを差し向けるとは」

 

「確か元鉄血工造だったか。何をした?」

 

「縛られるのは嫌だっただけです。命令に背き、自由を選んだ…それだけの事です」

 

縛られるのを嫌い、自由を選んだ。

この戦術人形が所属していたという鉄血工造の内部事情は知らんが、一枚岩ではないという事だろうか。

ともあれ命令に背いたという事実は組織からすれば粛清の対象になったのだろう。

つい先程まで動く気配すら感じさせなかった大型機動兵器を差し向けてきた辺り、そういう事なのだろう。

 

「…人間。名前は?」

 

ジャガーノート擬きを前にし、静かに見つめていた戦術人形がそう尋ねてきた。

名前、か。素直にレイヴンと名乗るべきなのだろうが…今は伏せて昔の名を使うとしよう。

 

「C4-621」

 

「!……ふふっ、これはまた妙な縁というものがあったというものです」

 

笑みを零して戦術人形621はこちらの前に立った。

その行動が何を意味しているのか、言わずとも分かった。

 

「アレの狙いは私。こちらが引き付けている内にここから去りなさい」

 

「…」

 

「あれを人の身でどうこう出来る筈がない事は分かっている筈。…生きていれば、また会いましょう」

 

最後にもう一度笑みを見せて戦術人形621は駆け出して行った。

止める理由などない。自ら選択した代償がこれなのだ。そのツケを払うのは当然本人だろう。

選ぶと言う事はそういう事なのだ。いつだって必ず代償が存在する。

 

「…」

 

巻き込まれる訳にはいかない。

自ら選択したツケを払うべく、戦いを開始した戦術人形621をその場に置いて走り出した。

響き渡る戦いの音。何故か後ろ髪を引かれる様な思いに駆られる。

だがそれでもと振り払い、待機させたACまでたどり着いた。

後はコックピットに乗り込み、離れるだけの事。

だが胸の中のざわめきが収まる気配がない。

 

「…迷っていると言うのか」

 

まるで、意思を継ぐか、可能性を信じるか。

あの時と同じようで、そのどちらかの道を選ぶかを迫られている気がしてならない。

…何を迷う必要がある。情報など、アイツからではなくとも得る事が出来る。

だから迷う必要はない。そう、迷う必要などない筈だ。なのに何故決断できない…?

 

──お前の自身の感覚に従え──

 

「…!」

 

…ああ、そうだな。そうだったな、ウォルター。

幾ら言葉で取り繕ってもこの感情まで取り繕う事は出来ない。

俺は彼女を助けたいと思ってしまっているんだろう。

選択してしまった事で大事な何かを失ってしまう事を恐れているんだろう。

 

──レイヴンとは意志の表象。相応しいのは選び戦う者だけです──

 

──戦う理由を自ら選び、その為に強く羽ばたく事──

 

──それが「レイヴン」の証明だというのであれば──

 

ルビコンの何処か、そしていつの日か聞いた言葉に体が動く。

胸の中のざわめきも、迷いもない。

コックピットに乗り込み、ACの待機状態を解除。そしてゆっくりと機体との同調を開始する。

機体と人との一体化。第四世代の強化人間だった時から繰り返してきた同調。

今でこそは再手術した事で第四世代ではなくなったが、強化人間である事は変わりない。

 

「…行こうか。借り物ではない、その翼でもう一度飛んでみようか」

 

機体との同調が完了する。

そして、聞き慣れたあの声がコックピット内で響き渡る。

 

『メインシステム、戦闘モード起動』




という訳でメインシステム、戦闘モード起動です。

次回は戦闘描写かな。

では次回ノシ
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