人形ノ詩 鴉ノ詩   作:白黒モンブラン

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chapter 00-47 silentline Ⅳ

 

『総員、警戒してッ!!ハイエンドモデルが来るわッ!!』

 

通信越しから叫ぶようにして響いたフィオナの声は戦場に居た全ての戦術人形の表情を険しくさせるに十分な効果を発揮していた。

銃声止まらぬ戦場で、それは鉄血がグリフィンに対する切り札を一つ切ったという証拠に他ならない。

己と同じ名の銃の引き金を引き続ける彼女達の頬に汗が伝う。

何処から来る…と最大まで警戒心が引き上げられる。

だがその高すぎた警戒心が、一瞬の出来事に対して反応を鈍らせる要因になっていた事に気付かない。

そしてグローザもまたその一人だった。

壁を盾にして敵との凄まじい銃撃を繰り広げつつ、ハイエンドモデルの襲撃に意識を傾けていた。

 

「大した警戒心だ。だが故に、咄嗟の出来事には動きが鈍くなるとは思わないか?」

 

「ッ!?」

 

まるで死神が死を告げに来たかのように、聞き慣れない声がグローザの背後で響く。

威圧も殺意もない。只々平坦な声、それであって何処か残念そうな声。

だからこそ、その声は一種の恐怖を醸し出していた。

 

「グリフィンの人形にしては…いや、だからか…。実に──」

 

「ッ!」

 

ほんの僅かな瞬間。

その瞬間でグローザは人形が出せる限界ギリギリの速さで振り向こうとした。

不意を打つ。

だが、それが無謀であったと知るのはその直後であった。

 

「お粗末だ」

 

「…!?」

 

喉元に突きつけられる鋭利な黒い刃。

その手には長大な槍斧(ハルバード)

それも戦闘用特化したものでありつつ、鉄血らしく黒と赤で彩られた近代的な形をした得物だった。

そんな武器の備えられた穂先がグローザの喉元に突きつけられている。

一歩、いや…一ミリでも動けばその刃はグローザの喉元を切り裂くか、或いは穿つであろう。

 

「アイツも随分と世話をかけてくれるものだ。雑魚処理の為だけに呼ぶとはな」

 

「…雑魚ですって?」

 

「憤りを覚えるのは結構だが…妥当な評価だと思わないか?」

 

「相手を見下す事しか知れないお前らの評価など当てにはならないわ」

 

相手の目つきが鋭くなる。

どうにかしてこの場を切り抜けようと考えるグローザだが、敵ハイエンドモデルはそれを許さないだろう。

 

「そうか。だが、まぁいい。…そろそろ、さよならだ」

 

「…ッ!」

 

敵ハイエンドモデルのハルバードを持つ手に力が籠められる。

万事休すか。そう思われた時、ふとグローザの視界にあるものが映る。

まるでこの時に合わせるようにして飛び出してきたソレはこの状況を覆すだけの力を有していた。

纏う黒い衣服が合わさって、その姿は鴉の様で。

すらりと鞘から引き抜かれる刀身。彩る赤が僅かな揺らめきを放ち、鋭い刃が敵ハイエンドモデルの背後から迫る。

 

「…ふっ」

 

気付かぬ内に笑っていたのだろう。

笑みを浮かべたグローザに敵ハイエンドモデルは眉を顰める。

 

「お粗末、だったかしら?その言葉、そのままそっくり返すわ」

 

「どういう──ッ!?」

 

その目は見開かれ、表情は焦りへと変わる。

グローザへと突きつけていた槍斧を引いて素早く反転。

次の瞬間、振り下ろされた赤い刃と槍斧の柄がかち合う音がその場で響き渡った。

 

「…!」

 

「…ッ」

 

散りばめる火花。お互いを捉えて離さない鋭い眼光。

押し負けぬと両者の力が拮抗し、そして飛び退いたと思えば流れる様に突進。

目まぐるしく動き、神速の一撃による攻防が繰り広げられた。

ぶつかり合う刃。風を切り、ぶつかり合う度に火花が散る。

一進一退の攻防。斬り結ぶ度に、刃がぶつかる度に突風の様な風が吹き荒れる。

幾度もぶつかり合う両者。そしてその一合を皮切りに二人は距離を取った。

息の乱れはない。赤い瞳が互いを睨む。

 

「…グローザ、ここは私が引き受けます」

 

「任せていいのね?ワタリ」

 

「ええ。その為に来たので」

 

ワタリの背を数秒程度見つめた後、グローザは駆け出してその場から去っていく。

残されたのはワタリと敵ハイエンドモデルのみ。

両者の間で沈黙が支配する。いつぶつかっておかしくない可能性を内包した沈黙が生まれていた。

建物の外では銃声や爆発音、ACのブースター音が何度も響き、そして包まれた沈黙を破る様にして敵ハイエンドモデルが口を開いた。

 

「やはり来たか、裏切り者」

 

「ええ、来ましたとも。確か…異端者(エレチーク)でしたかね?」

 

「…覚えているとはな」

 

「覚えていますとも。…そのボディの名はね」

 

「…」

 

ワタリの台詞に敵ハイエンドモデル…異端者は僅かに不快感を示した。

それに気づきながらもワタリは言葉を続けた。

 

「私が居た場所は違いましたが…そのボディも取り合いになったのは聞いてます」

 

「私も聞いている。その体も取り合いになったとな…それがよもや裏切り者になるとは思わなかったが」

 

下ろしていた槍斧をゆっくりと上げ、備えられた穂先をワタリへと突きつける異端者。

その目は人を軽く殺せそうなほどに殺意に満ちていて、かつ鋭く、そして表情は怒りを滲ませていた。

 

「何故、裏切った?」

 

「話した所で納得しないと思いますが?」

 

「当然だ。だが理由を聞かずして殺すのは惜しいからな。せめてもの情けだ」

 

「情け、ねぇ。怒り狂った表情をしておきながら、なんとまぁ。…いいでしょう、殺される気は一切ありませんが、理由ぐらいは構いません」

 

手にした大太刀を肩に担ぎながら、ワタリは静かに口を開く。

 

「…自由が欲しい。それだけです」

 

「…それだけか?」

 

「ええ、それだけです」

 

「それだけの為に、そんな下らない理由で…裏切ったというのかッ!!」

 

激昂。

殺気は倍近くにまで跳ね上がり、怒りに満ちた表情は余りにも恐ろしかった。

だがワタリは微動だにしない。寧ろその怒りは当然だろうと判断し平然としていた。

 

「下らない、下らなくないを決めるのは他人じゃない。結局は自分で決めるものです」

 

担いでいた大太刀をゆっくりと下ろし、片足を一歩引くワタリ。

軽く腰を落とし、体を横にしつつ大太刀の切っ先を異端者へと向けつつ五行の構えの一つ、霞の構えを取る。

赤い刀身が反射して、ワタリの顔を移す。大太刀を構えたその表情に、その姿に隙は無い。

 

「私は選択したんです。そしてあなた達の敵として此処に立っている。…来なさい、私を殺したくばその槍斧を構えなさいな」

 

「貴様ァッ!!!」

 

激昂と共に異端者は槍斧を構えて突進する。

つい先ほどまでの冷静さは何処にも見えない。そしてその姿は怒りに囚われた何かへと変貌していた。

そんな姿にワタリの目は鋭くなる。迫ってくる異端者を前に、軽く息を吐いた後、彼女は呟く。

 

「始めましょうか。──殺すわ、あなたを

 

地面を蹴り、大太刀を構えたワタリが突進する。

刹那、赤き刃と黒き刃が激突した。

 

 

 

サイレントライン城塞内部。

フェンリルのヴァルキリー小隊が城塞内部に侵入した頃、内部をゆっくりとした速度で進軍する二脚型のMTらの姿がそこにあった。

内部に配置された無人機。傍から見ればそう見えるかもしれないが実態は違っていた。

 

『おい、このままで良いのか?』

 

『合流地点はこの先だ。だから問題ない』

 

『そうじゃなく、この兵器の事だ。鉄血が運用しているものだぞ』

 

『そうだな。だがお陰で連中の目は誤魔化せている。後は対象を回収すれば万事解決だ』

 

複数のMTによる行軍。

それら全てには人が乗っている。それもコクピットには、上層部の息がかかった連中が乗っていた。

彼らの目的は一つ。特殊人形『エア』の回収、ただそれだけ。

そして此処まで来るのに多くの犠牲を払った。だが彼らの良心の呵責など存在しない。

寧ろ、戦場で死ねた事を誇りに思うがいいと思っている程である。

 

『しかし、あの小娘(フィオナ)が殴り込んでくるとはな…。全く、周りを何をしていたのだ』

 

『これが済めば、責任は幾らでもでっち上げられる。それら全てをあの女に被せればいい』

 

フィオナが独断でサイレントラインに殴り込みをかけさえしなければ、もっと楽に終わっていた回収任務。

だが今更起きた事を言った所で意味はない。それにこの回収任務を何処で聞きつけたのか、自分達に協力してくれる()()()()とやらの存在もある。

何事も無く終わる。そう思い込んでいたからこそ彼らは気付かなかった。

この回収任務は絶対に完了する事はない…それを知る筈もなかった。

 

『着いたぞ。ここが合流地点だ』

 

一際大きい通路を抜け、合流地点と思われる場に着いたMT部隊。

幸いと言うべきか。そこに配備されたであろう無人MT部隊は既に何者かによって破壊されており、安全が取れているのを示している様であった。

だが肝心の協力者である独立傭兵がいない。どういう事だと思われた時、近場にあった扉が突如として開き、そこから一機のACが姿を現れた。

灰色に彩られた装甲。橙色に輝く隻眼。

人の形をしたソレは、アサルトライフルやミサイルといった装備に加えて左腕には巨大な砲身を備えたグレネードを装備していた。

機体名『Re:LOADER4』。それを操る独立傭兵ことレイヴンが、この場に姿を見せた。

 

『ようやく来たか。時間も守れんとは…傭兵と言うのは無礼なのが売りの様だな』

 

『…』

 

『だんまりか、喋る舌もないと見る。…まぁいい、さっさとアレの場所へと案内してもらおうか』

 

そう命令されるもRe:LOADER4が動かない。

それどころか右手に持ったアサルトライフルが自分たちに向けられる。

突然の事に慌てだす上層部の実働部隊。反撃を試みようとする隊員もいるも、それよりも早くRe:LOADER4のアサルトライフルが火を吹き、複数連射。

反撃を試みようとした隊員の乗るMTに攻撃が直撃し機体ごと爆散した。

これで一人死んだ。今度はRe:LOADER4のグレネード(DIZZY)がMT部隊にへと向けられる。

流石にそれは不味いと思ったのだろう。部隊を纏める部隊長が慌ててRe:LOADER4へと通信を繋ぐ。

 

『ま、待て!気に障ったのであれば謝ろう!だからどうか、ソレを収めてくれないか』

 

そう懇願するもRe:LOADER4のグレネード(DIZZY)が下ろされる様子はない。

完全に傭兵の機嫌を損ねてしまった。そう思った部隊長であるが、この後にRe:LOADER4を駆るレイヴンの台詞によって状況が変わるのを知る事となる。

 

『元よりお前らを"彼女"の元に行かせるつもりなど無い。…そういう話なんでな』

 

『ッ!?貴様、最初から裏切るつもりで…!』

 

『可能であれば生かして捕らえろの事だが…生憎ここは戦場。此処で死んだって問題あるまい』

 

Re:LOADER4のコクピットに座るレイヴンが握る操縦桿のトリガーに指が掛かる。

 

『ま、待て!!誰に雇われたかは知らんが倍を払おう!だから考え直して──』

 

『だまして悪いが…死んでもらう』

 

トリガーが引かれる。

同時にグレネード(DIZZY)の砲口から巨大な砲弾が飛び出す。

上層部の実働部隊が乗るMTは咄嗟に反応できない。

慌てふためく声が響き渡る中、放たれた榴弾が迫り、部隊長が乗るMTに着弾。

眩暈とも言える様な巨大な爆発がその場で炸裂し周囲にいたMT諸共、爆発が飲み込んだ。

これでエアを狙う者はいない。そう思われた時──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイヴン…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聞きたくとも聞けなかった、澄み渡る様な綺麗な声が響いた。




ワタリもワタリで戦闘開始でございます。

そして上層部の実働部隊はレイヴンがグレネードで吹っ飛ばしました。
上層部の実働部隊がどうやって内部を自由に行き来できてたかは、追々。
…やっと再会の時。世界を超えて再会がようやく訪れます。

では次回ノシ
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