エアにとって、C4-621ことレイヴンは声も姿も知らぬ友人である。
初めて会った時から、対立して殺し合ったその時まで彼女は彼の姿を知らなければ声も聴いた事がない。
同時に彼女は覚えている。依頼内容に応じて変わる彼の機体を。
あの場所で恩人の意思を、選択を貫き通す為に立ち塞がった友人が駆る
(武装が違う…)
背中と左腕の装備が違う。
あの時は、二連装のグレネードとパルスブレードを装備していた。
この世界でどうやってACの装備を得たのかは知らないが、それでもエアは覚えている。
武装が一部違えど、立ち上る炎を前に佇む灰色のACに乗っているのは間違いなく"彼"であると。
「レイヴン…?」
だからこそ、彼女は尋ねる様に"彼"の名を口にしていた。
彼である筈なのに、間違いない筈なのに、それでも確かめるかのように。
小さく呟いた声。装甲に覆われた兵器の中にいる彼には届くはずの無い声。
しかし、Re:LOADER4はエアの声に反応するかのようにゆっくりと振り向き、彼女の前でそっと立膝をついた。
「…」
橙色に輝く隻眼がエアを見つめ、赤い瞳がRe:LOADER4を見つめる。
その間に会話はない。言葉が出ないのか、或いは言葉は不要なのか。
「!」
だが、動きはあった。
右腕に装備していたアサルトライフルを静かに地面に起き、空いたマニュピレーターを広げてエアの前に差し出すRe:LOADER4。
この手に乗れという様な仕草。少し困惑した様子を見せるエアだが、Re:LOADER4は依然とした様子で彼女がその手に乗るのを待っていた。
恐る恐るとその手に乗るエア。それを合図にRe:LOADER4の右腕が上昇。コアの部分に近づけると、そこで停止した。
どうしたのだろうとRe:LOADER4を見つめるエア。
すると橙色に輝く隻眼が光を失い、同時にRe:LOADER4のコクピットに開かれたのを彼女は気付く。
「そこに行けばいいのですか…?」
そう問いかけるも返答はない。
だが手を飛び乗れる距離までコアの部分に近付けて、コクピットハッチを開く様な行いはまるで此処まで来いと言わんばかりである。
確証がある訳ではない。だがきっとそうなのだろうと判断したエアはRe:LOADER4の手からコアの部分にへと飛び移り、装甲の上を伝った後にコクピット内へとゆっくりと入った。
機能停止させている為か、中は真っ暗で狭かった。
元より狭い空間。ACのコクピット内というのはそういうものだ。
だが人形と言う肉体を得たからか、多少程度は中は見通せた。そしてコクピットシートに座る彼の姿も薄っすらと見えた。
「レイ──」
名を口にしようとして、機体の起動音と共にコクピット内が眩い光に包まれる。
咄嗟に目元を腕で隠すも、すぐに慣れたのか腕を下ろしてエアはゆっくりと彼に近づく。
『メインシステム、戦闘モード起動』
聞き慣れたCOMボイス。
一瞬だけ誰かの声に似ている様なと思うも、はて誰だったかと思い出す事もないままエアは彼に寄っていく。
そしてその距離がほぼ至近距離まで近づいた時、エアの目に彼の横顔が映った。
「エア」
あの時から見る事も、声も聞く事も出来なかった。
初めての友人、この声を初めて聴いてくれた友人、そして喧嘩別れをしてしまった友人。
そんな彼が…レイヴンが自身の名を呼んでくれた。
感極まるというのはこういう事なんだろうと胸の内で思いながら、エアはレイヴンの頬に手を当てていた。
暖かい。人形という体を得たエアがレイヴンに触れて一番に感じた感想。
(…言葉が思いつかない。でも、今は──)
これだけで十分。言葉はいらない。
再会して、声を聞いて、そして触れるだけで十分過ぎるのだから。
「行こうか、エア」
「ええ。行きましょう、レイヴン」
もっとこの感動に浸っていたい。
だが、それをこの現実が許さないのも事実。加えてこのままでは機動戦闘を行うACに体が振り回されてしまう。
操縦の邪魔をしてしまうと思いつつも、操縦桿を握り締めるレイヴンの膝の上に乗るエア。
とは言え、こんな態勢になってしまうに関してはエアも少しばかり恥じらいを感じていた。
だがレイヴンは気にする様子はなく、操縦桿を動かしてACを移動させる。
「どこでもいい。しっかり捕まっていろ。…戦闘は俺が何とかする」
「!、はい…!」
彼女を気にかけながら高機動戦闘を行える程、レイヴンは器用じゃない。
現時点で戦う手段を持たないエアを守る為には、自身の操縦技術とACが必須。
せめてもの安心を。最後に言った台詞にはそう言った意味が含まれており、エアはその意味を理解していた。
(今度こそ──)
ブースターに火が灯り、やがてそれは推進力となって灰色の巨人を押し出す。
操縦桿を軽く握り直すレイヴンの目は、いつの間にか、あの時のC4-621の目へと切り替わる。
一度手放してしまったもの。それが奇跡とも言えるレベルで、自身の傍にある。
だからこそ、彼は決意する。
(エアを手放さない)
もう失わない、と。
握ったその手を手放さない、と。
(今度こそ──)
揺れるコクピット内で、もう会うことはないと思われた恩人に体を預けながらパイロットスーツの一部を握り締めるエア。
その暖かさを感じながらも、彼女の胸の内は決意に溢れていた。
(私が──)
あの時と同じように。
例え一度、喧嘩別れをしてしまったとしても。
彼女の決意は揺るがない。
(あなたを支えます、レイヴン)
今度こそ、共に行くのだと。
「…この感じは」
「どうした、エア」
「二区画先、人形の反応があります。数は…二人?」
鉄血の要塞でその反応が確認された人形の反応。
どう考えてもそれは、内部に侵入し孤立してしまった戦術人形だろうとレイヴンは判断した。
とは言え、見捨てるつもりは毛頭ない。
ペダルをべた踏みにして、アサルトブーストを起動。
狭い通路をRe:LOADER4が駆け抜けていく中、レイヴンはエアへと声をかける。
「エア、大丈夫か!」
「問題ありません、レイヴン!この程度の負荷は大丈夫です!」
アサルトブーストによる高速移動は優に300キロを超える。
当然ながら身体に掛かる負荷も凄まじい。
強化人間ではあればまだしも、戦術人形と言えど負荷は掛かる。
無理をさせてしまっているのではと心配する様に叫んだレイヴンにエアは問題ないと返す。
無理をしている様には見えない。
だがそれでも…と感じたのか、アサルトブーストを解除すべきか悩むレイヴン。
「待ってください、人形に近づく反応が…。これは四脚MT!?」
「内部に配備されたのが動いたか…!」
サイレントライン城塞内部にはレーザーブレードにショットガン、そしてスナイパーキャノンを装備した重四脚MTが配備されているのを事前に聞いている。
それが孤立した人形に向かっている。
エアへの負担を考慮してアサルトブーストを解除するべきかと思ったレイヴンも重四脚MTの接近に聞けばアサルトブーストを解除する訳にはいかなかった。
ブースターから青い炎が激しく吹き出し、Re:LOADER4はサイレントライン城塞内部を駆け抜けていく。
そして立ち塞がる様にして閉ざされた扉をブーストキックによる蹴りで破壊してその先に飛び出した時、レイヴンの目にとある光景が映る。
(孤立した戦術人形じゃないだと…?)
別の通路からその姿を晒した重四脚MT。
そしてRe:LOADER4の突然の登場に目を丸くするヴァルキリー小隊のレイシアとアヤメの姿が。
何故ヴァルキリー小隊の人形がたった二人で行動しているのか。
その理由は分からない。それよりもやらなくてならない事がある。
「…!」
重四脚MTをロックオンサイトに捉え、左腕のグレネードを構える。
ヴァルキリー小隊の二人を守る為、鴉が動き出す。
という訳で再会です。
さぁて…ちょいと援護に入りますかね。
ではではノシ