足を一歩前へと出せば、その駆動音と振動が伝わる。
人の形をしていると言えど、数倍はある躰を持つACが一歩歩くだけでもそれなりの速度が出る。
敵の拠点の真ん中でこんな風に悠々と歩いていていいのかと言った心配はあるが、問題ない。
ここ『サイレントライン』は陥落した。
城塞内部に残る残存敵勢力も存在しない。あるのは敵の亡骸だけが残っているのみ。
そして歩行による移動で外部へと目指すRe:LOADER4とスティールヘイズ・オルトゥスの掌の上にはワタリ、レイシアとアヤメが乗っている。
アヤメとレイシアがRe:LOADER4に、ワタリがスティールヘイズ・オルトゥスに乗っている状況だった。
『取り敢えず状況は理解しました。ゆっくりでいいのでこちらまで戻ってきて下さい。私たちは残存敵勢力の捜索及び排除、また今回救出した人形らと新人指揮官の治療等を行いますので』
「了解した。では私たちはのんびりと戻らせて貰おう。それとフェンリル・リーダーにはそちらの人形二名保護したと伝えてほしい」
『了解です、V.Ⅳ。それでは後ほど』
「ああ、後ほど」
フィオナと通信を切り、自機とRe:LOADER4の掌の上に座り込む人形らを見やるラスティ。
戦いが完全に終わったとは言い切れる状況じゃないと思っているのか、レイシアとアヤメの表情は少々険しい。
対するはワタリの方は何処か気楽な様子だった。
「戦友、フィオナからゆっくりで構わないから戻ってこいとの事だ。暫くはこのままだ」
『見物客も居ない場所でパレードか。雰囲気に飲まれて
「そういう縁起の悪い事は言わない方が良いと思うが?」
『ミシガン総長に言ってくれ。あの人のせいでこうなったんだ』
そうか、と小さく笑いながら答えるラスティ。
愉快な遠足と称しているがその実は襲撃作戦だったり、氷原の化け物退治といった意味を有するG1ミシガンのお決まりの台詞。
ラスティは兎も角、レイヴンはこの愉快な遠足という台詞を割かし気に入っている。
それでこそ、ガリア多重ダムでの襲撃作戦のブリーフィングで聞いた時から気に入っている。
『あのー…V.Ⅳ?少し聞いても良いですか?』
「構わないとも。確か君は…」
『あ、ヴァルキリー小隊のレイシアと言います。その、ご助力に感謝します』
「私は大した事はしてないさ。それで聞きたい事とは?」
全体通信で会話していたのをレイシアも聞いていたのだろうと判断するラスティ。
『…貴方たちは何処から来て、そして何者なんですか…?』
「…」
約10mの巨大兵器。それらを操る傭兵達。
もしそんな連中が活動していたのであれば、情報が幾らでも上がってくる。
だがレイシアも含めてフェンリルの面々はこのサイレントライン攻略作戦で合流して、やっと出会った。
まるで何もない所から突然現れたように、ACという兵器を操る独立傭兵達と出会ったのだ。
『此処から遥か遠い所から来た"ただの傭兵"だ』
ラスティが答える前にレイヴンが答える。
自分達が地球の外側から、それも別世界から来たと言った所で突拍子過ぎて混乱するのが目に見えている。
遥か遠い所から来たとレイヴンが濁したのは、あのルビコンに居た者達だけが理解できたであろう。
『ただの傭兵、か…』
自らをただの傭兵だと明かしたのが理由か、移動を始めてから一度も口を開かなかったアヤメが静かに口を開く。
『そんな風に生きられる時代じゃない…』
『それを決めるのは他人でもない。生き死にと同じだ』
『…』
レイヴンから返って来た答えにアヤメは再び沈黙する。
あれだけ沈黙を貫いていたアヤメが珍しいな、と少々驚いた表情を見せるレイシア。
そしてそっと振り向いて灰色のAC、Re:LOADER4を見つめる。
(何だろう…。この機体、何かが違う)
形が、という訳ではない。
強いて言えば、この機体が纏う雰囲気が違うと言うべきか。
言葉には出来ないナニカを幾つも纏っている気がしてならなかった。
(でも…)
一つ。一つだけ。
彼女にはこのRe:LOADER4が纏っている一つが何となく見えていた。
(…綺麗な"赤"を纏っているのは何でだろう)
赤く輝く無数の光。
それらはまるで粒子のようで、Re:LOADER4に寄り添う様に静かに浮遊していた。
暫く内部を移動している内に二機はサイレントライン城塞外部へと出る事が出来た。
彼らが無事戻って来た事を喜ぶ人形達がいれば、当たり前だと言いつつも笑みを零す人形達もいた。
それはACを駆る彼ら、彼女も同じだった。
『ハッ…ちと苦戦して帰ってきてほしいもんだな。涼しい顔で戻って来やがって』
『その割には声が嬉しそうだが、G4』
『そう言うもお前もそうだろうが、
『そうだな。…フッ』
ヴォルタにそう指摘され、何時もの様に答えるチャティだが静かに笑みを零す。
AIである筈のチャティが笑ったのを聞き逃さなかったヴォルタではあったが、そこは敢えて聞かなかった事ににして向こうから向かってくる二機を見つめる。
『G13…。アンラッキーナンバーである筈のG13を今でも使ってるとはな』
『621、レイヴン…G13の名は彼にとって大事なものらしいわ。何もなかった自分にくれた新しい名前だからって…』
『…そうか。不吉な数字と言えど、奴には大きな意味を齎したか』
与えられた名。
それが不吉であろうと、何もなかった男には特別な意味を齎した。
617にその事実を告げられ、ナイルは静かに笑みを零す。
(独立傭兵にしておくには…惜しかったな)
居れば何かが変わったかもしれない。
過ぎた事と言えばそうかもしれないが、そう思わずには入れなかった。
『G13…あれが、レイヴン…』
戦いの最中で聞こえた謎の声。
苦しみながらも聞こえた声は、レイヴンの名を口にしていた。
『お前は…一体…』
通信も切った単なる独り言。だからこの問いは届かない。
届かないと分かっていながらも──
『何者なんだ…?』
そう問わずにはいられなかった。
次回でコラボ作戦も終わりかねぇ。
では次回ノシ