『メインシステム、戦闘モード起動』
久しぶりに聞いたCOMの声と同時に操縦桿を思い切り前へと押し込み、ペダルをべた踏みにする。
コアが拡張の駆動音と共に露出される内部機構とブースターの駆動音。浮かび上がる機体。
生み出された莫大なエネルギーが推力となって生まれ変わり、通常推力とは比較にならない程の速さでRE:LOADER4が前哨基地へと向かって飛翔する。
「…っ」
アサルトブーストによる強烈なGが襲い掛かる。
だがこの程度はさして問題にはならない。ルビコンにいた時から何度も味わってきた負荷なのだから。
戦闘の光が見える。燃え盛る炎の中、どうやらまだあの戦術人形621は生きているようだ。
「…あれか」
機体が前哨基地に近づくにつれて、状況が明らかになってくる。
ジャガーノートモドキを相手に立ち回る戦術人形621。
だが、相手の火力とガタイに似合わない機動力を前に防戦を強いられているようだ。
…この距離で
「残る択は…
トリガーに指をかけ、照準をジャガーノートモドキに合わせる。
組織を離反した戦術人形621を潰す事によっぽど夢中になっているのか、此方に狙われている事にすら反応していない。
それなら都合がいい。積んでいるFCSの性能もあってミサイルロックも早い方だ。
「!」
ジャガーノートモドキの連装砲から放たれた一発が近くで着弾し、戦術人形621が吹き飛ばされる姿が映る。
それと同時にミサイルを発射。
双対の名に如く、左右から挟み込む様な軌道を描いて突進するミサイルに続く様に機体をジャガーノートモドキへと突撃させた。
「がっ…!」
連装砲から放たれた榴弾が近くに着弾し、爆発と爆風に吹き飛ばされ体が地面に叩きつけられる。
痛覚を切っている為、痛みそのものは感じないが体は受けたダメージを示すかのようにボロボロで、額から流れる人工血液が肌を伝って地に落ちる。
「ぐっ…うぅ…」
身体が重い。立つ事すら精一杯だ。
視界機能も上手く機能していない。ノイズが走る中、私を阻む壁を睨む。
向こうには傷一つ付いていない。パージした武装を回収して最大出力で放っても、その装甲は焦げ目がつく程度に終わっている。
たかが離反者一人に、こんなものを寄越すとは…贅沢にも程がある。
下っ端を寄越せばいいものを…。
「そういえば…彼は無事逃げる事が出来たのでしょうか…」
自分と番号を持つ彼…確かC4-621という名前だったか。
生体反応と同時に金属反応まであった。生身と義体、双方の持ち主なのだろうか。
「変わった人でしたね…」
戦術人形の事をアンドロイドと呼んだり、マンティコアの事をMTと呼んでいた。
世間知らずというのだろうか。まるで別世界から来た様な…そんな風に思わせる人だった。
「何故でしょうか…。会ったばかりだと言うのに、生きていたらまた会おうといったばかりなのに」
何故かすぐ会えるような気がしてならない。
そう思っていた直後、刺客に装備された連装砲が動き出した。
ああ、不味い。体がこの状態では回避する事も儘ならない。
動かなければ死ぬ。まだ私は自由を得ていないと言うのに…!
無理矢理でも体を動かす。あの連装砲が撃たれる前に、一秒でも早く!
内部骨格が不気味な音を立てる。もう無理だと叫んでいるように。
それでも構わない…!動け…動け!
「! あれは…」
ふと映った光景。夜空の中を駆け抜ける様に何処からか複数のミサイルが飛んできていた。
それら全てが刺客の背後から襲い掛かり着弾。爆発の連鎖を披露した。
突然の奇襲に刺客の動きが止まり一時停止する。見る限り姿勢制御が限界値を超えたのだろう。
まるで人みたいに体を震わせ、向けられていた連装砲を明後日の方向へと向いている。
「今のは一体…」
辛うじて助かった事による安堵も束の間、突然の事につい呆ける。
そして気付く。ミサイルが飛んできた方向から、青い光が此方へと向かってきている事に。
視界が上手く機能していない影響で、此方へと向かってくる何かの正体が掴めない。
「…戦闘機?しかしこの付近に飛行場などある筈が…」
段々と近づいてくる青い光。
そしてその正体が明らかになった時、言葉が出なくなる。
煌々と燃え盛る炎の上を超え、やがてそれは私の前にゆっくりと降り立つ。
灰色に彩られた装甲。隻眼なのだろうか、その頭部は片側だけに三つのモノアイが存在している。
右手に持ったライフルと左腕には何かしらの発生装置。
そして背中のミサイルポッドらしきもの。あれがさっきのミサイルを放ったものなのだろうか。
目算して十メートルぐらいはある。そんな大きさを持つ人の形を模った機動兵器がそこに立っており、満身創痍の私を見つめていた。
鉄血でもこの様なものは製造していない筈。一体どこがこのような物を。
何より誰がこれに乗っている…?
『良く耐えた、621』
外部スピーカーから発せられた聞き覚えのある声。
間違いない。この機体に乗っているパイロットは…!
「C4-621…貴方なのですか?」
『ああ。遅れて済まない』
「遅れたって……その様なものがあるのなら最初から出して欲しかったのですが」
であれば、こんなにもボロボロになる必要などなかった筈だ。
ボロボロになった事に対する嫌味をぶつけてみると彼からこんな言葉が返って来た。
『最初は助けるつもりなどなかったからな』
「…」
助けるつもりなどなかった。
確かに助ける理由など無いだろう。お互いに初対面であり、こちらの問題など彼には関係ないのだから。
だからこそ気になる。
「では、何故助けようと?」
どのような理由で心変わりしたのかを。
『…』
正直こんな事を聞いている暇などないのだろう。
だがこのまま共闘する事になったとしても、蟠りは残る。
そんな心境で戦えるとは思えない。故に聞きたかった。
『理由などない。ただ…』
「ただ?」
『己の感覚に従っただけだ』
…ハハッ、何だそれは。
でもそうか。そうなのか…理由がないのはそういう事なのだな。
世間知らずに加えて、彼…C4-621はお人好しなのか。
今を生きる人以上に『人間』らしい気がする。
『まだ理由が必要か?』
「いえ…十分納得しましたとも。さて、お喋りは此処までにしましょうか」
『ああ。そうだな』
さっきより幾分か動きが良くなった体を引きずり、彼が乗る機体の隣に並び立つ。
それに合わせて、彼の機体もゆっくりと後ろへと振り返った。
周囲を炎で包まれた中、ミサイルによる攻撃で一時的に態勢が崩れていた刺客も動きを取り戻している。
そして彼を敵を認識したのか、備え付けられた小さなカメラアイが赤く光っていた。
連装砲と連装ロケットランチャーに弾を送り込む音が響き、こちらを睨んでくる。
「自由を選び、組織を捨てた私を阻む"壁"…いい加減終わりにしたいものです」
『壁、か…』
刺客の事を『壁』と表現すると彼がオウム返しの様にその言葉を口にした。
はて、何か思う事があったのだろうか。
「壁、か…」
戦術人形621はあのジャガーノートモドキを壁を表現した。
確かに自ら自由を選んだ彼女にとっては最大の壁であろう。
──君がレイヴンか──
ふと、思い出すあの光景と彼の台詞。
──あのハンドラー・ウォルターの子飼いらしいな──
雪が降るあの場所で、彼との初めての共闘したんだったな。
今は状況と舞台は違えど、何処か似ている感がある。
「621」
『何でしょうか』
…
「同じ
──これも巡り合わせだ──
あの時の…彼の声が響く。確かに本当にこれは巡り合わせだ。
感情もなかった自分がまさか彼の立場になるとは思わなかったな。
さて…久しぶりの壁。あの時と同じように再び阻むのであれば…
「共に壁越えといこうか」
──共に壁越えといこうじゃないか──
もう一度、その壁を越えてみるとしよう。
すまぬ…戦闘描写は次回です。
と言う訳で次回は元鉄血工廠の戦術人形『621』にとって初の壁越えとC4-621にとっては二回目の壁越えへと突入します。
ホント壁越えの時のラスティのイケメンっぷりは天元突破してるわ。(他の場面でもそのイケメンっぷりは天元突破しているが)
またACのサイズは10メートルくらいと表記していますが、これは公式設定ではなく、あくまでも10メートルくらいじゃないか?という考察を参考しています。
公式設定が出たら未来の私が修正すると思います。
前述の通り、次回は壁越えの時の話。
また次回で確定ではないですが…戦術人形621の容姿を分かりやすいように、また彼女の名前を考えようかなと思ってたりします。
誰か戦術人形621のイメージイラストを描いてくれたら嬉しいなぁと思っていたりする…(描いてくれる人など居ない筈なのにそんな事を願う実にTAWAKEな作者)
ともあれ次回ノシ