人形ノ詩 鴉ノ詩   作:白黒モンブラン

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chapter 00-59

 

「よく来てくれました、独立傭兵レイヴン」

 

フィオナが、そしてエアが言ったこの地下で待機している戦術人形二人と合流を果たし、その内一人がこちらを迎えてくれた。

纏う衣装はネゲヴやX95と似た衣装を彷彿とさせ、前者の二人にはない如何にもお堅く生真面目な、そして戦術人形にしては珍しく杖をついた戦術人形がそこにいた。

 

「フィオナが言っていた人形であっているか?」

 

「はい、HG型戦術人形ジェリコ。気兼ねなくジェリコと呼んで下さい」

 

「ああ。…杖をついているのか」

 

「ええ。…何か気になる事が?」

 

「いや…」

 

ふと、映る"あの人"の姿。

老齢で、顔に皺が寄っていて、杖を付いていて、只の道具でしかなかった自分を一人の"人間"として扱ってくれたあの人が、優しかった彼(ハンドラー・ウォルター)の姿が脳裏に浮かぶ。

 

──621──

 

あの声が響く。

もう聞くことの無い声が、何度も呼ばれ続けてきた声が流れる。

最後にその名で呼んでくれたのは…あの場所で、再生ログに残された音声だったか。

自分が至らなかったせいで守る事が出来なかった。

何度後悔したか、何度守れた夢を見たか、何度守りたかったと願ったか。

 

「少し珍しいと思っただけだ」

 

「そうですか。私と初めて出会う者は皆、そう言いますから」

 

「…気を悪くしたのであれば済まない」

 

「大丈夫です。気になさらず」

 

杖を突いているとはいえ、このジェリコという戦術人形、相当出来る方だ。

腕が立つというべきだろう。侮っていては此方が狩られる。

戦場では出会いたくないタイプだ。

 

「本題に入ろう。この地下空間が紙媒体による情報管理が行われていたのをチャティの情報収集で知った。これ以外で此処について分かった事があるか?」

 

「一つだけ。こちらを見てください」

 

手に持ったそれを此方に差し出してくるジェリコ。

その手にあったのは一枚の書類。

そこには出資報告書と記載された書面。一部を黒塗りで塗りつぶされている為、細かい事までは分からないが何らかの形でこのサイレントラインの地下空間への資金提供があったみたいだ。

その額も一生遊んでいけるだけの額。…そうするだけの理由が地下空間にあるというのだろうか。

 

「この書類を何処で?」

 

「此処から数分程歩いた所にある管理室で発見しました。ここに関する情報が全てある訳ではないのですが、その一部がこれになります」

 

「成る程。…この書面を見てもそうだが、外部による資金提供がここに行き着いている。この空間に一体何があるというんだ?」

 

再度周囲を見渡す。

一体どこまで続いているのか、何処まで広がっているのか。

それすら想像がつかない程に巨大な空間。

 

「それについては一つだけ分かった事があるのじゃ」

 

通路の奥から響く歩行の音。

薄暗い空間の奥から姿を見せたのは、白の衣装を纏った金髪で小柄の人形。

ホルスターに収められているのはリボルバー。…どうやら彼女がここで待機していたもう一人の人形だろう。

にしては随分と古風というか…年老いた喋り方をする。

 

「ナガン、遅かったですね」

 

「お主がワシ一人に任せたせいじゃろう。目ぼしいものを見つけたと思えば全て黒塗りにされたものが殆ど。ようやく手がかりを見つけてきたのじゃ、労いの言葉があっても良かろうて」

 

「…良くやりました」

 

「やれやれ…生真面目のは良いが、過ぎるというのは瑕というものじゃ。覚えておくが良い」

 

ナガンと呼ばれた戦術人形が此方へと視線を向けてくる。

その手には、ジェリコが先ほど言った管理室で発見されたであろう幾つかの書面。

 

「お主がレイヴンか。ワシの名はナガンM1895、そこのエアから話は聞いておるよ。よろしく頼む」

 

「ああ。それで何か分かったみたいだが…」

 

「おっと、すまぬの。うむ、これを見るが良い」

 

差し出された書面を受け取り、その内容に目を通す。

業務日報とも思われるソレ。一見すれば、何ら違和感のない普通の内容。

しかしその内容は次の書面へと続いていくにつれて、とある単語が複数回使われている事に気付く。

 

「管理者という単語がよく出てくる。この多さ、これではまるで崇拝だな…」

 

この業務日報の内容の所々に『管理者』という単語が使われていた。

一回、二回程度ならさして気にすることではないだろうが、目算しても数十回ほど使われている。

これでは業務日報というよりも怪文書だ。加えてここまで使われているとなれば気になるのは当然。

内容を見て、此方が口にした感想に対してナガンも同意する様に頷いていた。

 

「最初は何らかのカルト教団が富豪を抱き込んで造り上げたものを思っておったが、この近辺でそのような団体が動いていたという話は聞かん」

 

「であれば…誰が一体、何のために?」

 

「それが分かれば苦労はせんが?」

 

確かにその通りだろう。

誰も分からないからそれを今、どうにかして知ろうとしているのだ。

相手も分からないのに疑問をぶつけた所で満足のいく答えが返ってくるはずもない。

 

『ビジター、その手に持っている書類を端末に近付けてくれ。読み取った後にコピーを取っておく』

 

「ああ、分かった。………待て。いつの間に俺の端末に移動していたんだ、チャティ」

 

『お前と再会した時に施しておいた。…所謂バックアップ先という事だ』

 

「…一言欲しかったが?」

 

『聞かれなかったからな』

 

…こいつめ。

全く、カーラも本当に面白いAIを作ったものだ。

ここまで愛嬌を感じさせるAIは早々ないぞ。

 

「これを見て、お前はどう思った?チャティ」

 

『管理者という言葉が引っかかる。今はそれしか言えない』

 

「…そうだろうな」

 

サイレントラインの地下。そこに関連するであろう『管理者』という存在。

謎が多い。分からない事が余りにも多すぎる。

ふとその時、先ほどから一言も発さないエアが気になり顔をそちらへと向ける。

 

「…」

 

何かを感じ取っているのか、目を伏せて立ち尽くしていた。

人形で言う所のスリーブモードに入った訳ではなさそうだが…

 

「…エア、大丈夫か?」

 

思わず心配になって声をかける。

その声に反応するように伏せられた目が開かれ、赤い瞳が此方へと向けられると彼女は微笑んだ。

 

「ええ、大丈夫ですよ。少し此処の事を探っていました」

 

「そうなのか。…何か分かっただろうか」

 

「全てとは言えませんが、一つだけ分かった事があります」

 

エアの発言にナガンとジェリコは目を見開いた。

無理もない。この地下空間に関する情報は紙媒体による情報管理が徹底されているのだ。

にも関わらずエアは情報を引っ張って来たのだ。

つくづく実感する。これがコーラルの…いや、Cパルス変異波形の力の凄まじさを。

 

「此処は只の地下空間ではありません。それどころか、この地下に広がっている空間は最早空間とは言えない程です」

 

「では、何だというんだ…?」

 

「…世界です」

 

「は?」

 

思わず耳を疑った。

この地下に広がっているソレは空間ではなく、世界が広がっている。

俄かに信じられないが、ふと技研都市の風景を思い出す。

地下にあると言うのに、あの場所は一種の世界を生み出していた。

何故なら──

 

「偽りの空によって覆われた地下世界。それが今我々が立っている場所の足元に広がっています」

 

地下とは思えない程に、偽物の空は明るかったからだ。




大分短めでございますが、サイレントラインの地下にあるものを少し触れました。

いい加減ACが動かしたいよぉ…。

では次回ノシ
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