『余計な仕事を増やすんじゃねぇ。殺すぞ』
効きすぎていると言っても過言ではない程に、ドスが効いた台詞が辺りを支配した。
静寂が訪れ、その誰もが目を丸くする。
そんな中でモスグリーンと赤で彩られたタンク型AC『キャノンヘッド』の左腕が動き出し、その手に持っていた重ショットガン『SG-027 ZIMMERMAN』のフォアエンドが作動した。
楕円の形をした空薬莢が音を立てて排莢される。それが地面に転げ落ちる中、次に起きるだろうソレに気付いた者達は幾らいたであろうか。
特にショットガンの戦術人形であり、ポンプアクションのショットガンを用いる人形らは薄っすらと気付いていた。
フォアエンドが作動し、排莢が行われた。
つまりそれは、今の『SG-027 ZIMMERMAN』の薬室には散弾が装填されたという事を指している。
ドスの効いた台詞の中に存在した殺害宣言。間違いなく起きるであろう展開が残り数秒程度で発生する。
『G4、よせッ!!』
その中で誰よりも早くこれから起きるであろう展開を察知したナイルがコクピット内で叫ぶ。
だが既に時遅く、キャノンヘッドの左手に装備された重ショットガン『SG-027 ZIMMERMAN』は狼狽え尻餅ついた上層部の男へと差し向けられていた。
「な…な…!」
『驚く必要なんてねぇだろ。ほら、笑えよ…俺らを飼い慣らすんじゃねぇのか』
ジワリとその銃口が、大の大人を一人を容易く肉片に変貌させる事が出来る兵器が近付けられる。
先ほどの様子は何処へ消えたのか。
男は子供のように怯え、呼吸を荒くし、あまつさえは本人ですら気付かない内に失禁していた。
殺される。そんな恐怖が男を支配し、一歩も動けない。
男と同じ上層部の者達もこれから行われるかも知れないソレに恐怖し、只々そこで突っ立っているのみである。
「き、貴様!」
だが、うち一人が声を荒げながら腰のホルスターから拳銃を引き抜いた。
勇敢という名の無謀な行為。AC相手に効く筈もない拳銃をキャノンヘッドへと向けようとした時だった。
『動かないで』
今度は617が駆るAC『TENDERFOOT』が両手に装備した『WR-0555 ATTACHE』と『SG-026 HALDEMAN』を拳銃を引き抜いていた男へと向けていた。
『貴方たちの様な奴等を腐る程、見てきたわ。胡散臭い笑みを浮かべて、はした金しか払わない。都合が悪くなれば逃げ出そうとするし耳障りな言い訳をしてくる。何度殺してやろうかと思った事か』
スピーカーを通して発せられる声色に怒気が微かに混じる。
その怒りを表すかのようにTENDERFOOTのモノアイが赤く光り、突き付けた銃口からは弾の代わりに殺意が滲みだしていた。
『第一、PMCとはいえ貴方たちも企業の人間。面倒ごとの全てを外部の人間…傭兵らに丸投げして誇りと言うのは無いのかしら』
それは617にとって純粋な疑問であった。
AC乗りとは言え、617は少女だ。大人の世界という部分を完全に把握している訳ではない。
だからこそ問うたのだが、武器を突き付けられては答えられる筈もなく。
状況は二人によって収拾がつかなくなる程に悪化していた。
『さて…どうする、G2。このままでは面倒な事になるが』
『わざわざ答えなければならんか?V.Ⅳ。ったく…ややこしい事になってきた』
流石は元ヴェスパー第四隊長であるからか、ラスティは冷静にこの状況を見ておりレッドガンの参謀であるナイルにそう尋ねていた。
対するナイルは既に面倒な事になっているというのを理解しており、どうしたものかと頭を悩ませた時だった。
『G4、ハウンド、武器を下ろして。全部隊に通達、貴女達も動かないで。此処は私が受け持つわ』
上層部とAC部隊の間に立ちながら全員へと指示を飛ばすフィオナの声が響いた。
突然の命令に617は素直に従うもヴォルタは不満を漏らす。
『…本気で言ってんのか、フィオナ』
『本気じゃなかったらこんな事は言わないわ、G4』
『ちっ…了解だ』
雇い主の命令だからか、舌打ちしながらもヴォルタは機体の武器を下ろし、そのまま後方へと下がらせた。
多少危険が去ったとは言えACの射程内。緊迫した状態が今も尚、続いていた。
「見ての通り、あの者達は傭兵です。金次第、或いは私たちの態度次第で味方にもなり敵にも成り得ます。その事がお分かり頂けたかと思います」
「何が傭兵だ…!あ、あれでは只の狂犬ではないか…!」
「そう思うのは勝手かと。それで…この様な場所まで何用でしょうか。我々も暇ではありませんので手短にお願い申し上げます」
エアの件といい、今回のサイレントラインの件も含めてフィオナは苛立っていた。
そもそもにして、この様な連中がいなければ死傷者の数を減らす事が出来たであろう攻略作戦が展開出来たのだ。
加えてグリフィン上層部は大した援軍を送らず、それどころか新人指揮官らを死にに行かせるような作戦を展開。
印象は最悪の一言に尽きるのみであり、フィオナの目は鋭く、言葉の節々には棘が介在していた。
「何だ、その口の利き方は…!私は上官だぞ…!!」
先ほどまで醜態をさらしていたと言うのに、フィオナが対応し始めたのを機に上層部の男の威勢が微かに戻り始める。
小娘だと下に見ている。それを感じられたフィオナの苛立ちは爆増、そしてそれは怒りへと変貌した。
「だとしても、私は貴方たちの様な連中を断じて上官とは認めません!金と名声にしか頭になく、無駄な犠牲ばかりを増やしていく貴方たちを決して認めない!」
「き、さまぁ…!!!」
「今、此処で殺されなかっただけでも有難く思いなさい!それでも尚、突っかかってくるのであれば──」
ホルスターに収められた銃に手が掛けられる。
それを見た誰しもが不味いと思い、止めようと飛び出す。
が、それよりも先に動いていた者がいた。
『その手を下ろしておけ、フィオナ』
後方から聞こえた声に反応して振り返るフィオナ。
そこにいたのは地下から地上へと戻って来た『Re:LOADER4』と『サーカス』。
そして先ほどの声はRe:LOADER4を駆るレイヴンによるものであった。
『少し感情的に成り過ぎだ。気持ちは分からんでもないが、少し落ち着け』
今起きているこの状況を見透かしているかのように、灰色の彩られたACが歩み寄ってくる。
一歩踏み出す度に響く音。やがてそれは上層部の者達の前で止まり、隻眼が彼らを見下ろす。
『此処に来た理由は聞くつもりはない。その腹に抱えた物も含めてな。…だから』
Re:LOADER4の右腕がゆっくりと動く。
その手に握られたアサルトライフルの銃口が上層部の連中へと向けられた時。
『失せろ。次は──殺す』
静かで、そして酷いまでに冷たい声が周囲を駆け抜けた。
下手をすれば気を失い兼ねない程に冷たい。
それがたった一人の傭兵の口から発せられたという現実。
腰を抜かしてしまう程の効力があったのは誰の目からしても明らかと言えた。
「ひ、退くぞ…」
それもあってか上層部の連中はサイレントラインからの撤退を決定。
目的も、その腹に抱えた物も分からぬまま上層部はそそくさと去っていく。
これで問題が片付いたと思いたくなるものの、そんな事はなく。
『得た情報…聞かせてもらおうか、フィオナ』
舞い込んできた問題への対処へと迫られるのは、変えようの無い事実でもあった。
今回は余りに進まないです…申し訳ねぇ。
さぁて、お次はどうするかなぁ…
ではノシ