人形ノ詩 鴉ノ詩   作:白黒モンブラン

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─要するに虫取り網確保作戦─


chapter 00-63

巨大兵器の出現に基づき、サイレントラインの調査は一旦打ち切り。

また今後の調査はS09地区前線基地 第9支部指揮官『フィオナ・A・レイナド』に一任され、関係者以外の調査は一切禁ずると言った命令があのクルーガーから出された。

これに関して上層部の一部が騒ぎ出すという事もあったが、何らかの方法でその一部を騙させたらしい。

強面ではあるが、冷静沈着な元軍人。そんな彼でも我慢の限界というのもあるのだろう。

だがおかげでこちらもあの巨大兵器撃破作戦の準備に取り掛かる事が出来る。

現にこの基地とAC乗り全員に彼からのメールが送られており、そこには──

 

『上は我々が抑える。成すべき事を成したまえ』

 

短くとも、激励するような文面が綴られていた。

そこまでされておきながら、何もしない訳にも行かない。

まるで火が灯った様に、基地全体があの巨大兵器攻略作戦の準備へと動き出していた。

誰しもが慌ただしくする中、自分はキサラギ社からのある依頼を受ける為にコクピットの画面をブリーフィングモードへと変更していた。

画面が何時ものから切り替わるとキサラギ社からロゴマークが浮かび上がり、通信とスピーカーが接続される。

その後に聞こえたのは、自身が思っていた依頼主とは別の依頼主の声だった。

 

『初めまして、独立傭兵レイヴン。私はキサラギ社所属武装開発部門主任を務めています、ルルリア・リンジーと言います』

 

「ああ、初めまして。それよりも、リンジーと言ったか?もしや…」

 

『はい。機動兵器研究開発部門主任のフェリア・リンジーは私の姉に当たります。何時も姉がお世話になっております』

 

何処か声が似ていると思ってはいたが、あの女主任の妹とは。

姉妹共々、同じ企業で働き、そして依頼主として依頼してきた。

様々な依頼主と巡り会ってきたが、姉妹から依頼されるというのは珍しい。妙な縁もあったものだ。

 

「それを此方の台詞だ。時間を割いてまでACの整備、換装作業を代行してくれた事には感謝している」

 

『所属している部門が機動兵器の研究及び開発ですからね。ACという現代の技術では再現出来ないものがそこにあるのです。姉にとっても、そして所属している研究員にとって良い刺激になっているかと思います。無論私もACとやらに興味ありますし、運用される武装にも興味があります。以前貴方宛てに送ったグレネード、あれの整備に携わった時はその構造、使用砲弾の炸薬量、炸薬の配合量には感銘を受けました』

 

元々メリニット社は生粋の花火職人集団だ。

火薬の生成、配合などは一から作り上げるほどの職人気質ではあるが、あの企業が作るバズーカやグレネードのフレーバーには所々気になる所があったりした。

最初こそは大して気にする事はなかったが、よくよく思えばの話だ。

あの企業が作る製品の殆どが『手数よりも火力、或いは爆発を重視したもの』が多いのだ。

腕部兵装である『DIZZY』は砲身から構造に至るまで専用設計であることに加えて、着弾時の爆破規模は他のものと比べて一線を画す。

肩部の武装である『EARSHOT』は、その発射音に着弾時の爆破規模は言わずもがな。最早メリニット社の社風を体現している様な武装だ。

ルビコンに居た時はメリニット社の製品は使っていたので余り言いたくはないのだが、この際だからはっきりと言おう。

メリニット社は『ただバカでかい爆発が見たいだけのヤバい連中』なのではないのだろうか。

そしてこのルルリアという依頼主はメリニットの火薬狂に染まりかけているのではないかと心配になってきた。

 

「あまり染まるなよ…。でないと、これからの開発品が一癖二癖のあるものになってしまうぞ」

 

『それについてはご心配なく。過去に戦術人形専用武装として携行型火炎放射器を製造したり、マンティコアの装甲をぶち抜くために作った戦術人形用パイルバンカーを製造した事がありますので』

 

「既に手遅れだったか…」

 

後でフェリアに言っておこう。

妹をどうにかしないと、更に狂ったものを作りかねんぞと。

自走する掘削機(ヘリアンサス)とか作り出したら速攻で破壊しに行ってやる。

企業に対する宣戦布告とか知った事ではない。あんなものを大量生産されたら溜まったもんじゃない。

 

「話が逸れた。それで依頼内容は鉄血が持つ砲台基地の襲撃及び占拠で良いのか?」

 

『はい。ですが、一つだけ破壊しないでほしいものがあるのです。データを送りますので、それをご覧ください』

 

向こうから送られてきたデータを開く。

そこに映るのは一際大きな砲台。鉄血製と思われるが、これが依頼主の言う破壊しないでほしいものだろう。

 

『鉄血工造が保有する大型砲台ジュピターに改良を加えたもので、現在この基地で最終調整が行われています。今回鉄血が出したであろう巨大兵器に対抗する手段として我々が接収及び運用可能にしたいと思っております』

 

「了解した。一応聞いておくが、この件に関してグリフィン側の答えは聞いているか?」

 

『グリフィンからの了承は既に得ています。また基地制圧にフィオナ指揮官の部隊及び、別の基地から部隊を派遣してくれるそうです。その基地の詳細に関しては後ほどすぐにお知らせします。明確な情報を提供出来ずに申し訳ございません』

 

「いや、不備を認めて直ぐに対応してくれるだけでもまだマシな方だ」

 

全ての情報を寄越さず、追加報酬を払わない企業と比べたらまだ可愛い方だ。

…今更だが、ルビコン星外に出た後はアーキバス本社を叩きに行くべきだったかもしれない。

いや、既にレイヴンの名は世界に知れ渡っている。ACに乗って襲撃すれば、自ら姿を晒している様なものだ。

そう思うとあの時のは自分は良く堪えたと褒めてやりたいと言いたいが、あの時の自分はただひたすらに身を隠す事に徹し、誰とも話さず会わず、何もない部屋で死んだように過ごしていた。

そんな気になれない程に、あの時の自分は空っぽだったのだ。何もかもを失くしたが故に、自ら手放したが故に。

後悔と自責の念に、激痛とも言える様な痛みに苛まれながら。

 

『そう言ってくれると此方としても助かります。それとここからは私どもが独自に得た情報なのですが今回の依頼に関わってくるかもしれないので予めお伝えしておきます』

 

そう言ってルルリアは別のデータを此方に送って来た。

そこに映し出されるのは、とある基地で起きた惨状。

周囲は炎に包まれ、崩れたコンテナの山に沈む機動兵器の残骸の姿。

どうやってかは知らないが、独自という事は何らかの伝手があるのだろう。

 

『これは鉄血の巨大兵器が出したと同時に起きた事件であり、正規軍が運用予定である二機の機動兵器が起動試験中に何者かによる襲撃を受け、成す術もなく撃破されたとのことです』

 

「かなり派手にやられたそうだな。腕の吹き飛び具合といい、装甲の切断面といい、そこら辺のものがやったとは思えん」

 

『はい。この状態から鑑みるに私たちはこの襲撃事件の主犯は貴方がたと同じAC乗りによるものではないかと判断しています。そしてその犯人が作戦行動中であるレイヴンを感知し襲撃する可能性をあるかも知れないと予想しています。不安材料を与える様な事は避けるべきなのですが、念のためにと思いお伝えしておきます。どうか留意しておいてください』

 

「情報提供に感謝する。この件に関しては留意しておこう」

 

そう言いつつ、先ほどの正規軍と呼ばれる組織が運用予定していた兵器の残骸を思い出す。

かなりの高火力で至近距離で受けたのだろう。装甲の破損状態が酷いの一言に尽きた。

また周囲から攻撃を受けたのか、四肢の隅々に何らかの攻撃を受けた箇所があった。

ルルリアの言う様にAC乗りによる犯行であれば、そいつはグレネードといった高火力武装に加えてレーザードローンといったオールレンジ攻撃を可能とする兵装を装備している可能性がある。

そこまでとなると、あらかた犯人の目星がつくのだが…

 

(あの赤いACと同じように機体だけが飛ばされた可能性も否定できん)

 

ACだけがこの世界に流れ着いてしまった。そして偶々、似たような構成をしたACが襲撃した。

だとすれば一概にこの襲撃犯が()()()は言い切れないのも事実だ。

とは言え、警戒するに越したことはない。

 

『既にフィオナ指揮官率いる部隊と、先程申した別の基地の部隊の準備は整い、現地へと向かっているようです。独立傭兵レイヴン、そちらも準備を整えた後、現地への急行をお願いします』

 

「了解した。直ぐに依頼の対処へと移行する」

 

そこで相手の通信が終わり、ブリーフィングが終了する。

何時もの様に機体のモニターを通常モードへ移行させながら、コンソールパネルを操作する。

サイレントラインでは肩部の武装にニードルミサイルを装備していたが、今回は状態がマシだった小型連装グレネード『SONGBIRD』を装備させてある。

何だかんだ言いながら、あの企業が作る製品は悪くない。とは言え、大艦巨砲主義みたいなあの企業がこの武装を製造する際は、何も思わなかったのだろうか。

理念に反すると言えるのだが……あれか?囀りと名付けたのは何らかの皮肉を込めたのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは夕暮れ時に差し掛かろうとしている時だった。

そこは独立傭兵レイヴンことC4-621がキサラギ社から受けた襲撃の舞台となる鉄血の砲台基地。

だがどこか慌ただしい様子であり、既に厳戒態勢が敷かれていた。

基地の周囲に展開された砲台全てがある一点へと向けられており、全ての砲口が向けらているにも関わらずソレはオレンジ色の炎を吐き出しながら飛翔していた。

左腕に装備した鋭い杭を備えた武装が重厚な音を立てながら元の姿へと戻ると同時にコアの背部が展開。

後頭部に下げられていたバイザーが目を覆う防盾としてその役割を果たし始めると内蔵された複眼センサーが赤く発光。

それを合図と言わんばかりに、その機体に装備されたブースターからは一段と激しくオレンジ色の炎を吐き出して、ソレを押し出していく。

まるで鳥のように、高らかに飛翔するソレは沈黙を保ったまま砲台基地へと向かって空を駆け抜けていった。





「フィオナ指揮官率いる部隊及び例の傭兵が動き出したみたいです」

「うん、わかった。此方も動こうか、MG4」

「了解しました。しかし良いのですか?幾ら別地区からの依頼、ましてや上からの命令とは言え…」

「それでも、だよ。大々的に動けないけど支援程度はさせてもらわないと。今の今まで派手な作戦をしてきたし、派手な作戦に参加してきた。パーティーとなれば黙っていられないのが…ほら、私達みたいなものだし」

「…ふふっ、確かにそうですね───」














「シーナ指揮官」
















と言う訳で、次回は愉快な襲撃作戦?でございます。
また、ゲスト出演という事で、とある基地の指揮官も登場します。
世界線は違うとはいえ、まぁ…こういうのもありでしょうさ。

では次回ノシ
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